所信表明演説‐三

 私は、最大の汚染源である「摩耗」の死体処理について、そのロードマップを速やかに策定し、可及的速やかに処理することを目指します。(「日限にちげん切って約束しろ」と呼ぶ者あり)

 これによって除染活動を飛躍的に進展させ、復興を大きく前進させることを国民の皆様方にお約束いたします。

 またその過程において、ICRPの示す事故収束時における放射線被曝限度を準用し、年間被曝線量に換算して空間線量において二〇ミリシーベルトまで低下した地域から順次、住民の帰還を積極的に推進します。(「やめろ」「無責任」「あんた住めよ」と呼ぶ者あり。議長「静粛に願います」)

 国民の皆様方の健康問題に留意しつつ、避難区域を解除し、蚕食的に帰還事業を進めていくことにより、より力強い復興を成し遂げることが出来ると信じます。

 また、懸念される国民の皆様方の健康被害につきましては、本件摩耗核惨事に伴う被曝者、避難者、帰還者問わず綿密な追跡調査を実施して、積算被曝線量と、将来的に発生する恐れがある晩発性障害との因果関係を明らかにして、継続したきめ細かい治療を受けることが出来る体制を構築することが急務であります。そのために、現在関係各機関の意見をとりまとめており、本国会会期中に法案としてお示しできるように努力いたします。


 先ほど申し上げたとおり、国際社会が我が国に向ける視線は日に日にその厳しさを増しております。汚染水の流出問題は独り我が国の問題にとどまらず、今や世界各国に共通する問題として国際的に認識されております。

 このために、国連において我が国固有の領土である甲信越地方以東の汚染区域から我が国の主権を排し、これを国際機関の管理区域と指定し、国連の責任において汚染水対策を実施すべきであるという、我が国にとっては国辱的ともいえる議論があったことは記憶に新しいところであります。

 幸いにして外交努力が奏功し、そのような事態を当面回避することは出来ました。しかしながらこのまま汚染水問題が解決されることなく、海洋流出が続くようであれば、依然としてくすぶっている汚染区域の国際管理問題が再燃し、一旦そうなってしまえば、もはや我が国領土の国際管理を回避する方法はないでしょう。

 私は、我が国が国際社会の中でおかれているこのような厳しい現状認識を国民の皆様方と共有し、失われた我が国の信用を取り戻すことが出来るよう、汚染水の流出問題に取り組んでいく決意であります。(拍手)


 いうまでもなく、摩耗核惨事が我が国経済へ与えた打撃は計り知れません。甲信越地方以東は強制避難区域と指定して、一部を除き無人であります。

 首都圏に経営の基盤をおいていた多くの企業がこれによって本社機能の移転を余儀なくされ、或いは倒産し、無用の損害を蒙ることになりました。これに伴う事業者による人員削減や失業の波は大企業にも容赦なく降りかかり、日本経済の牽引役を担ってきた企業の活力と、我が国経済の国際競争力は今や全く失われました。

 大企業のみならず、町工場や個人商店などの中小規模事業者、農林畜産、漁業従事者に至っては、職業のみならずまさに根こそぎ生活の基盤を奪われてしまったと言っても過言ではありません。

 この災害によって、一二〇〇万人の失業者が新たに発生し、被災を免れた西日本地域に避難した住民が職を巡って旧来の住民と軋轢を生じている現状も、政府として早急に対応を要する問題と考えます。

 復興の前に立ちはだかる諸問題の根本的解決は、我が国経済の復調にこそあるとの信念に基づき、経済政策に関する所信を申し上げます。

 まず失業対策につきましては、従来のエネルギー政策を更に推進し、西日本に所在し、現在休眠状態にある諸施設の活用を目指します。これによりそれら休眠施設周辺における雇用を創出すると共に、我が国が潜在的に有している国力を極限まで引き出し、持てる力の全てを被災地復興に注ぎます。

 また、さきほど自衛隊装備の補充、拡充について申し上げましたが、これら耐放射線装備の技術は、今後被災地復興のために、必要とされるさまざまな民生品に転用可能な技術であることを鑑みますと、防衛予算の拡充が経済復興に直結するものであると確信します。

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