手首

 カナの手首はいつもじゃらじゃらしている。


 何重にも巻かれたミサンガに、パワーストーンや羽飾りがついたブレスレット。夏服になると、その賑やかさが特に目立つ。おおらかな校風でなかったら、きっと外すように言われていただろう。


「ミサンガの色にはそれぞれ意味があるんだ」彼女は言った。「赤は情熱、運動、勇気、青は仕事、さわやかさ、行動、学問って具合にな」


 カナは五人兄弟の長子だ。毎年、誕生日プレゼントで誰かしらがミサンガをくれる。だいたい二年もすれば切れるものの、絶え間なく供給されるので手首が自由になることはない。


「ブレスレットはともかく、ミサンガは自然と切れるまで外しちゃダメなんだ。じゃないと、願いが叶わないって言われてる。夏場はかゆくなるけどな」


 プールに行ったときも、カナはミサンガを外さなかったのを思い出す。水を吸ったミサンガはとても重たそうに見えた。自分なら、と知佳は考える。五分だってつけていられない。おばさんからもらった腕時計もすぐに外してしまうくらいなのだ。拘束されるような感覚は好きではない。


「それって、刑務所帰りの人がよくそうなるっていうよな。手錠を連想させるからって」カナが冗談とも本気ともつかない口調で言う。「なんか知佳らしい気がする」


 どういう意味なのだろう。これでも品行方正なつもりなのだけれど。


「褒めてるんだよ。自由人だってこと」


 それはやっぱり褒めていない気がする。


 カナの手を取るとき、手首にミサンガやブレスレットがぶつかることがある。そんなとき、知佳はそれらを全てむしりとりたくなるのだ。カナはきっと抵抗するだろう。もしかしたら、裸の手首を見られてひどく恥ずかしがるかもしれない。そんなことを想像しながら、知佳はカナと歩いていく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る