バードガーデン
両親が同じ電車の脱線事故でそろって息を引き取った後、僕は続柄がよくわからない親戚の家に預けられることになった。
低層マンションの一階だった。母子家庭で、三歳ほど年上の女の子がいた。後に養父母となる夫婦に引き取られるまでの数か月間、その子にはよく遊んでもらった。
秋から冬にかけてのことだった。食料に困った鳥たちが、庭に植わった低木の果実や、餌台のヒエやヒマワリの種を当てにしてよく訪れた。僕とその子は、ベランダでかわるがわる双眼鏡を覗きながらその様子を観察したものだった。
その子はよく、父親が遺した野鳥の観察ノートを見せてくれた。この国には、渡り鳥や旅鳥も含めておよそ六〇〇種の鳥が生息するという。いつかその全てを見て回るという夢を叶えることなく、ノートの持ち主は帰らぬ人となった。
「だから、わたしがこのノートを完成させるの」
養父母に引き取られてからも、ときおり彼女のことを思い出した。きっと、活動的な少女になっただろう。バイトでお小遣いを稼いで、週末は双眼鏡を首から下げて山や渓流を目指す。もちろん、鞄の中には父親譲りのノートが入っている。彼女は鳥を見ながら、そのノートにスケッチを描き、鳥を目撃した日にちや場所、羽数、どういう行動をとっていたかを丹念に記録する。写真を撮って、ブログやSNSに投稿するかもしれない。そんな想像をよくした。しかし、実際にはそんな少女はどこにも存在しなかったのだ。僕が引き取られて行ってから数年後、彼女は小児がんで命を落としていた。僕がそれを知ったのは大人になってからのことだ。それまでずっと、彼女の未来を信じて疑わなかった。
「鳥はね、あなたが好きな恐竜の子孫なのよ」いつだったか、彼女が言っていた。「恐竜は絶滅しちゃったけど、命がずっとつながって、いまも地球のいたるところで息づいてる。そこらの道路や庭にも、こうしてやってくる。そう考えるとなんだかロマンティックじゃない」
休日になると、僕は公園やその近くの道路を散策する。スズメやメジロの死体を見つけては持ち帰り、解剖する。魚やフライドチキンの骨と針金を組み合わせて、恐竜の骨格模型を作る。庭はおろかベランダさえないアパートの一室で、彼らに囲まれて眠る。ときおり、夢に出てくる少女と近況を報告し合う。彼女のノートは完成に近づいている。「次は世界ね」彼女の夢は果てしない。僕も恐竜を作り続けるだろう。二人の未来は螺旋のようだ。決して交わることなくどこまでも続いていく。いつか、僕の命が誰かの命に取って代わるまでずっと。
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