そうだ、東京に行こう
ピロン
家に帰った直後、携帯から通知音が聞こえた。
「…ご主人?」
「いや、気にするな」
ホーム画面のロックを解くと、『通知が一件あります』という表示が目に入る。
「なんだ?」
それをタップして会話アプリを開くと、誰かの個人のチャットルームがダイレクトに表示された。それは、つい先程まで一緒にいた夜桜美月の個人チャットルームであった。
電話番号を教えたので、自動的に友達として追加されたようである。
『やっほー』
『今日は突然ごめんね』
文字だと少しテンションが上がったような感じになるらしい。兎亜は刹那のそんな一面を垣間見ながら、久方ぶりのスマホで文字を打った。
『いや、別にあやまらんでもいいだろ』
『それよりちゃんと帰れたのか?』
『うん。大丈夫』
『心配してくれてありがと』
『どういたしまして』
『また明日ね』
『あと、クラスのグループの方で呼ばれてるよ?』
『なんかしたの?』
「なんだって?」
あわててクラスのグループの方を覗くと、『聖女』から呼び出されていた。
『八神さん』
『話したいことがあります』
わざわざグループで話しかけることはないだろうに、と思う。現に、グループで呼び掛けてしまったことで、俺と『聖女』の関係性を邪推してるやつが沸いてしまった。
兎亜はそれらを無視して、『聖女』宛にメンションをつけてグループでチャットを送る。
『場所は?』
『スカイツリーでどうでしょうか』
「………東京?」
何故に東京なのか問いただしたかったが、別にそれは会ってからでもいい話である。
『わかった。すぐいく』
『私はもう居ますので、なるべく早くしてください』
『衛星には注意してくださいね』
『おk』
「おい、アイ。お前も行くぞ」
「…どうしたんです?」
「『聖女』に会いに行く」
「わかりました」
帰ってからずっとモンスターをハントしていたアイは、『聖女』という言葉を聞いたとたん、すぐに外に出られるようゲームを閉じた。
「ほんとおまえ『聖女』が好きなのな……」
「…お姉ちゃんは大好きですので」
このお姉ちゃんというのは別に血の繋がりがあるとかそういうわけではない。ただ単にお姉ちゃん的存在、という意味で使っている。
「んじゃ、お姉ちゃんに会いに行くか」
「はい」
鍵を閉めて外に出る。現在時刻は9時24分。風はあまり吹いていないようだ。
「アイは消えといてくれ」
「わかりました」
アイが光粒子のようになりながら一瞬で消える。
兎亜は肩を入れながら自身を強化していく。
重ねがけされていく強化。
カメラや衛星には認識阻害は効かない。光学系統………いや、風だな。体にまとう空気を使って屈折度を変える。高度が上がると気温も下がるので防寒対策も忘れずに、だ。全ての魔法をかけ終わるまでにかかった時間はほんの数秒。
「さて、と」
改めて周りを見渡して辺りに人はいないことを確認。家の鍵も閉めた。あとは目的地に行くだけである。
兎亜は地面がひび割れない程度の力で蹴上がり、満月の浮かぶ夜の空へと飛び立った。
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