水の沙漠




水だけでできた沙漠では

うるおうばかりで肌が爛れてしまう

そうと知っていて旅人は

足音の立たない靴を選んだ


あなた様これは水ですよと

差し出される手はひとつ残らず鱗を纏って

欠片の悪意もないままに

旅人の髪を濡らしてゆく


水でできた沙漠は透明で

歩くことの意味を忘れさせる

そうと分かっていたのに彼は

足音の立たない靴を選んだ


  水に溶けることをおおよそ

  怪我とはいうことがあるのでしょうか

  旅人の掌は

  頬は

  膝は

  水に溶ける

  そのとおりのものであるのです

  またはその歩き自体も

  始めから決まっていた波の一部であると

  岸壁に打ち付けた水のパシャンと跳ねるそれと

  まったく同じですといえないなどと

  決まっていたことはないのです


水の沙漠は旅人を

荒れ果てたその旅人を

足音の立たない歩みで肯定する

そうしたものであろうとしている



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