波纏う人




私は海を知らないのです

灰色の浜辺と不規則な波

そうとしてなら かろうじて


あの人は海に育ったのです

ゴツゴツの岩場と牡蠣殻に

はだしのままで 息とめて


 コンクリートに塗り込められた

 私の街のかなしい川は

 ささやかに泣き ささやかに沈み

 今宵の月も

 映すことなく


月のない夜に 海想う人

灰色の浜辺は はた遠く

黒い岩場は なお遠く


 私の街のかなしい川は

 コンクリートの暗がりを抜け

 ささやかに流れ ささやかに唄い

 私の街を

 出てゆくでしょう


私は海を知らないのです

海のない街で 波纏う

あの人のうなじだけ かろうじて



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る