心臓にいばら。




心臓にいばら、

が巻き付いている午後四時三十分。

太陽の名残がビルの向こうがわから、

赤以外の色を知らないみたいに、照らす。

夏の色だ、と思いながら

冬の迫り来る方を、

ただ視線で追っている。

空は春と冬を繰り返していて、

合間に差し込まれる秋と、

春冬を別つあの夏が、

いつだって遠い場所を思い起こさせる。

鈍色のまな板で愛されていたひとが、

尊く染まっていった、秋。

生え狂う若草に耐えきれなくて、

なんども手首を染めた、夏。

心臓にいばら、

が巻き付いている。

にんげんの中には夏が、

夏が詰まっているのだから

それでぼくらは夕暮れを、

こんなに高く思うのだろう。

その下にあるはずの秋は、

死ぬまで忘れたままにして。

忘れたままにいさせて。

心臓に荊、

午後四時三十分。



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