【千波叶羽・七井光也の章 (中学生同士。不登校女子VS快活少年)】
無邪気という名の…煌めき持つのは、キミと、私。‐1
「
放課後の教室でまったりトークをしてる中、友達の一人が何気無しにそう言ってきて、
中学一年生。――光也の中では義務教育なのだから平日には学校に来て当たり前なのにと、そういう思いが前提として有る。
「不登校なんだから、滅茶苦茶不良なんじゃねーの?」
別の友達が適当な事を口にして、ちょっとした笑いは起きた。
「家でゲームばっかりしてるとかもあり得るんじゃないか? 光也みたいに」
突然自分に会話のバトンが渡されて、その浮ついた言い方にはムッとする。
「俺は学校にはちゃんと来てるっての」
ジト目で言い返すと、周りは軽く苦笑いをして見せた。
「冗談だろー。でもゲームばっかりって所には別に突っ込まないのな」
「だってあの狩りゲーやり込み要素多いから、ついダラダラやっちゃうんだよ」
光也が言った狩りゲーとは、端的に言えば『気軽に何度も繰り返し遊べるのが売りのアクションゲーム』の事だ。彼にとってはゲームの楽しさが友達の嫌味に勝るのだろう、だからそんな答え方になる。
「光也って本当にゲーム好きだよね」
今度上がった声は、他に比べて華やかだ。
「そういえばお前、同じ女子なら千波の事何か知らないの?」
男子ばかりの中に在って貴重な女子友達――。声を上げた彼女に対しても、光也は特別態度を変える事も無くそう尋ねた。
「叶羽の事は、放っておこうよ」
女子友達は何処か歯切れの悪い感じを出した。
「えー、なんだよ気になるじゃん」
無邪気な男子達が皆して
「去年小学生の時に△△小だったヤツは知ってると思うけど、学校内で苛めがあってさ……。叶羽ってその被害者だったのよね」
彼女の言葉に、男子達は一気に押し黙った。
女子友達はそれみろと言わんばかりの顔で彼らを睨み付けていく。
「ああ、それか」
重くなった空気の中で最初に言葉を発したのは光也だった。
誰も取りたがらない宙に浮いた会話のバトンを、仕方無いなという風に、すっと取るように。
女友達が光也に視線を向ける。
「光也も△△小だっけ?」
「うん。イジメがあったクラスとは違うけど……。でも、あれって確か、全校集会で校長が言ってた被害者の名前は別のヤツじゃなかったか?」
自主的には決して思い返したいとはならない、そんな痛ましい出来事の記憶を手繰り寄せながら出た疑問――。
「被害者は二人居たんだけどさ、集会で言ってたのはより目立つ方だけだったの。叶羽はそっちの子に比べれば、少なくともその時はまだマシって感じだったから。でも既に様子はおかしくなってて、今じゃ不登校にまでなってるって訳」
女友達は光也にそう語った。
彼女もまた痛ましい思いから伏せ目がちだったのだが、それが良くなかったのか、他の友達からあらぬ疑いを掛けられてしまう。
「なんか詳しいな。もしかして、お前も千波達を苛めてたとか?」
「ふざけんな馬鹿!」
女友達は間髪入れずに、疑いを掛けた相手に平手打ちを浴びせた。
「ふぶぉ!?」
「私は女子友達の情報網で事情を知ったってだけ! 今度変な事言ったらどうなるか分かってるわね!」
「は、はいぃ!」
安易な浮つきを見せる馬鹿者は、馬鹿者としてやってはいけない事の代償をきっちりと払わされる――。それ自体は度を超えなければ健全な友達付き合いの在りようで、それはこの友達グループに所属する皆が分かってもいた。
それを前提とした上で、光也は一人こんな事を考えていた。
――なのに何で俺達とそう遠くない距離に居る、同じ学校内で、苛められたりそれを苦に不登校にまでなるヤツが出てくるんだろう?――
考えていたから、その時の会話の流れを聞いていなかったのである。
「――ならこのゲーム対決で負けたヤツが千波叶羽の家まで行って今の様子を確かめてくるって事で!――光也も参加だからね!」
「ん、んんっ!?」
どうやら収まりが付かなくなった女友達が自分の疑いへの怒りを、光也含む周囲の男子衆に半ば押し付ける形で発案したそのゲーム対決に、いつの間にやら巻き込まれていたらしかったのだ。
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