第19話 魔術師と超常
まあ確かに、超常と言う物の定義によるんだろうな。
机を元の位置に戻しながらエリザの言葉を思い返す。
超常とは常日頃を超える事だ。不思議に遭遇する事が日常のエリザにとって動く人体模型など既に日常なのだ。それはもう超常現象ではない。
日常を超える現象も、起きてしまえばもう超常ではない。それが日常なんだ。
だから超常というのは「起きない事」だから超常だ。
じゃあ超常現象という物はないのか? というとそうでもないと続けていた。
今まで生きていたものが死んでしまうように、今まであった物が壊れてしまうように、それまでの安定が消えてなくなってしまう事は確かにありうる。
魔術師はそうならいようにしなくてはならない。
だがそれは科学者も同じ。
発展と追及を試みながら同時に世界を、日常を壊す事のないよう気を配らなければならない。
神の怒りに触れて世界を滅ぼすのも、核の使い方を間違えて滅ぼすのも同じ事なんだと言っていた。
勉強嫌いの僕でさえ、エリザの講義に思わず聞き入ってしまった。
皆は先に帰り、僕とエリザは教室を片付けていた。机を動かしてるのは僕だけなんだけど……。
「人体模型がまた動き出していた。魔術式方陣から出しただけでは動いたりはしない。また力を使った者がいるという事だ」
「でも一体誰が、何の目的で学校の七不思議の再現なんかを?」
「我はその学校の七不思議なるものはよく知らぬのだが。有名なものなのか?」
「まあ、有名と言えば有名だね。むしろ今時、古臭くて小学校でも話題にならないよ」
ましてや高校生がネタにするような話ではない。
「むう。魂と引き替えにしてでも見たい物とは思えぬな」
有り得ないね、と僕も同意する。
カリユガの分析力を借りるか、と端末を取り出す。
コール音の後にピピと電子音。
「今回は本当に悪魔が絡んでいるかもしれぬ案件だ」
『本当かい? 是非聞かせてもらいたいね』
エリザは探索の間録音していたデータを転送する。カリユガなら微小な音を増幅して校内の出来事を全て確認できると言う。
そして僕とエリザは各々見た物も説明する。エリザは玲と美術室で目の動く絵画を封印した。玲には光の加減で距離によって視線が変わって見えるんだと説明したという事だけど、信じたかどうかは分からない。
『だいたい分かったよ。この七不思議が本物なら、君達は日常ならざる物に遭遇したと言っていいって事だね』
僕にとってはエリザもカリユガも日常とは離れてるけどね。
『まず確かな事から言っておくと電気仕掛けの類ではないね』
端末のセンサー、音の解析からその可能性はないと言う。
『過去の都市伝説と照合してみたけど、誰かが学校の七不思議の実現を願ったのだとしたら、決定的に足りない物があるね』
足りない物?
定番の物がないって事かな? 階段の数が違うやつだろうか。確かに定番だけど恐さで言えばワーストに入ると思うし。
『トイレの花子さんだよ』
考えを巡らせる僕に構わずカリユガは答えを言う。
「え? だって、花子さんはいたんじゃ……」
「あれはマリウスだ。マリウスが関係しているはずはない。マリウスは我が悪魔が関係していると言ったから見に来たのだ」
そうか。女子達が騒いでいたから勘違いしていた。
『七不思議を見せて驚かそうという者がトイレの花子さんを外すとはあまり考えられないね。もちろんたまたまか、その前にマリウスに邪魔されただけの可能性もあるけどね』
そういうもんかな。単に好みのような気もするけど。
『でもそう考えると、一つの共通点が見えてくる』
ん? と僕とエリザはカリユガの言葉を待つ。
『絵画、模型、像など、人を模した物が動き出している事だ』
ああ、言われてみれば。ピアノも骨格標本が弾いてただけだし。
「つまり今回の騒動は、人の姿をしたものが動き出しているという事か」
そういう力を手に入れて、それを使っているという事?
「でも何のために?」
『それは僕には分からないよ』
エリザが参考になったと礼を言うと、カリユガは悪魔が現れたら必ず教えてねと言って交信を終える。
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