第14話 魔術師と居城

 そして夜。

 僕とエリザはまた学校の教室へと忍び込む。

 前と同じように裸体に軟膏をすり込むエリザに当然の疑問を投げ掛ける。

「人体模型も解決したのに、何しに来たの?」

 七不思議全部解決したわけではないけれど、まさか全部解決するまで続けるつもりなんだろうか。

 僕が付き合う事もないと思うんだけど、一人放っておくのも心配だ。

「今寝泊まりしている屋敷は母の物でな」

 エリザは独り言のように話し始める。

 前にもそんなような事を言ってたっけな。お母さんの家なら、それはエリザの家じゃないのかな。

「魔術師は自分の居城……、拠点を持って一人前なのだ。こればかりはスレイブと同じく買い与えられる物ではない。ここぞ自分のいるべき場所と思える物でなくてはならぬ」

 なんかよく分からないけど、確執とかいうやつなのかな。家庭の事情のような気がしてそれ以上入り込むのは止めておいた。

「魔術師は悪魔と対峙できて一人前とされておる。我がここに入学したのは予言に従っての事なのだ」

「悪魔って、そんなに簡単に呼び出せるものなの?」

 簡単ならそこら中に溢れていそうなものだけど。

「実は呼び出す事自体は、方法さえ知っていれば誰にでもできるのだ」

 悪魔封じの陣の中に呼び出し、駆け引きをもって悪魔を従属させる。そんな話もあるが、悪魔は人間よりも長く生きて場数も踏んでいる。悪魔の上を行く事などそうそうできる事ではない。それに悪魔の力を完全に封じる事も難しい。

 一般的に知れ渡っているのは、十字路に鳥の肝と動物の骨を埋めて悪魔の呼び出しを願うものだ。

 呼び出される悪魔はもとより取引が望みだから、魂さえ渡せば簡単に願いを叶える事が出来る。

「でも、鳥の肝や動物の骨なんて、今は簡単に手に入らないよ」

「何を言う。それならそこら辺のスーパーで売っておる」

 そんなんでいいの? なんか安い悪魔が出てきそうだな。

 雑誌に載っているおマジナイのようにもっと簡単な方法も存在するが、その分呼び出される悪魔も弱い。

 悪魔は人間に取り憑く事でしかこの世に存在できない。

 弱い悪魔は人間を操る事も出来ないが、それこそ取りつかれた事も気が付かないように良からぬ事を囁くものだと言う。

「悪魔の囁きってやつね。そういう悪魔が一番多いってわけだ」

 不意に背後から何かが飛んでくるような気配がして、振り向きざまに受け止める。

 僕は攻撃的でない分、防御に関しては標準よりも上なんだ。

 だけど受け止めた物を見て、悲鳴を上げて放り投げる。

 音を立てて床に落ちるそれは骸骨。人間の頭の骨だ。それは笑うようにカタカタと動いた。

 エリザは端末から骸骨の額に向けて光を放射。焼き印のように紋様が刻まれると、骸骨は動かなくなった。

「ただの骨格標本だ」

 なんだ。人体模型と同じか。いや、十分怪異なんだけど。でもなんでこんな物が飛んで来たんだ?

 ガタっと教室の外で動く気配がしたので、扉まで走り一気に開ける。骨格標本の体か? と思ったが、そこにいたのは子供。

「玲? お前。なんでこんなとこに」

「いや、なんか音がしたから、それを追っかけてきたんだ」

 玲の指す方向に注意を向けると、確かにガチャガチャと何かが走り去るような音がする。

 エリザに弟子入りする為にストーカー紛いの事をしていたら、夜中に学校へ入っていくのを見かけた。

 そこで追って入ったが、暗くて道も分からないので完全に迷っていた所、歩く音を聞き、僕達だと思って後をつけていたのが骨格標本だったらしい。

 もっとも玲にはあれが骸骨だったとは教えていないが。

「勝手に他所の学校に、しかもこんな夜更けに忍び込むのはどうかと思うぞ」

「なんだよ。おねえちゃん達はどうなんだよ」

 玲がもっともな抗議をする。それよりエリザ服を着ようよ。子供とは言え、教育上よくないと思うよ。

「我は、ここを居城にしようと思っておる」

 エリザは教室の真ん中で手を広げる。

 ここはエリザにとって始まりであり、落ち着ける場所だと言う。居城が寝泊まりする場所と違ってもいいの? とか突っ込むと学校ごと買い取るとか言い出しそうなのでそこは置いといた。

「それでにいちゃん、一緒にお願いしてくれるって言ったじゃないか」

 そうか、そうだったな。あの後飛び込み台から落ちそうになった玲は、ショックもあって大人しく帰ってしまったんだった。

 一応約束だから「弟子にしてやったら?」と言ってみる。

 案の定エリザは弟子などをとるような身分ではないと断ったが、代わりに幹部会には出られるように会長に頼んでやると言った。

 黒瓜 有栖の弟なら幹部達も断りはしないのではないか。

 まあ、幹部会に出ていれば、そのうち機会もあるんじゃないか、と僕も形だけの慰めの言葉をかけてやる。

 玲は納得はしていないようだったが、その夜は大人しく引き下がった。

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