第29話 後の祭り
「……お前、落ちるとこまで落ちたな」
「何とでも言えばいいさ。目的のためには手段を選ばないのが僕のやり方さ」
不気味に笑いながらスマホをポケットにしまう玄斗。
見るからにゲスい男が二人茜を囲っており、顔をうつむかせ暗い顔をしていた茜が頭の中に強く焼き付いている。
「お前……茜をどうする気だ?」
「どうって……さっきの映像を見ただろう?」
そう言って卑しく笑う。
「茜で遊ぶのさ……たっぷりと、ね」
「やめろ!茜に手出すな!」
「……ならやることは一つだよね?」
クククと不気味な笑みを浮かべる玄斗が何やら問いかけてくる。
「……何をやれって言うんだよ?」
そして返ってきた答えはとんでもないものだった。
「今すぐここで土下座してよ、土下座」
地面を指さし、土下座を強要してきた。
「僕から色々なものを奪ったんだ。これくらいはやって当たり前……」
玄斗がそう言うや否やオレは指さされた地面に綺麗に決めてやった。
完璧すぎるほどの土下座を。
「え、ちょ……」
やれと言っていた玄斗の方が焦っているが知ったこっちゃない。
これで茜を無事に戻してくれるならオレのプライドなぞ安いものだ。
「ふん、まあいいさ。これでようやく復讐が……」
「ちょっと、何してるのよ!!」
オレが土下座しているちょうどのタイミングで翠の声がした。
「その足をどけなさいよ!!」
土下座したままで見えなかったがどうやら玄斗はオレの頭を踏みつけるつもりだったらしい。
即座に土下座をやめ、立ち上がると早速翠から罵声を浴びせられた。
「アンタも何で土下座してるのよ!!」
「オレの土下座くらいで丸く収まるならそれでいいだろ?」
「良くないからそう言ってるんだ」
オレが軽々しくそう言うと、翠だけでなくその後をついてきていた葵が怒りをにじませた声色で返してきた。
「全く、君は私たちにとって大事な人なんだから自分の価値をわかってもらいたいものだよ。……下げる必要性のない輩だっているのだから、ね」
そう言って玄斗を睨みつける葵。
「随分な挨拶だね、あ……」
「おや、私は名前を呼ぶ許可を与えた覚えはないのだがね」
玄斗が呼ぼうとするや否や、即座に否定し威圧する葵。
「おやおや、これは手厳しいねえ」
それでも不気味な笑みを崩さない玄斗。
だがその後に来た奴らに対しては流石に顔をゆがませていた。
「ハルくーん!!大丈夫!?ひどいことされてない!?」
茜が涙交じりの声でオレに抱き着いてくる。
それにずず~って音が聞こえてくる……ってお前!オレの服で鼻すすってるじゃねえか!やめろ!!
「おいお~い、ヒドイことするじゃ~ん、玄斗っち」
「ホント男の風上にも置けないって感じじゃんね」
何か見るからに怪しい男二人組がいて流石に身構えたがオレの目の前に立ちふさがってくれた。
……というかどちら様なんですか?この二人組は?
「大丈夫よ、悪い人ではないわ。茜を保護してくれていたんだもの」
そんなオレの疑問が顔に出ていたのか葵が説明してくれた。
「ふん、誰かと思えばポンコツどもじゃないか。お前らに用はないんだよ!!」
さっきまでの不遜な顔はどこへやら、オレの前に立ちふさがった二人組を見て憎たらしいという顔をしていた。
「いやいや、俺らもお前に用はないのよ」
「ただね~、こんな往来でアホなことしてる奴に何か言うのは普通っしょ~」
玄斗の威圧に屈することもなく飄々としている二人組。
「それにさ~、周り見てみなよ~?」
「ふん、何が言いたい……!?」
……そうだよな、こんな往来だもんな。注目されないわけがない。
何か遠くの方で警察呼んだ方が良くない?とか言ってる声が聞こえてくる。
「……今回はこれくらいにしてやる、運が良かったな!!」
悪役が言いがちな捨て台詞を吐き去っていった玄斗。
野次馬達もそれを見て去っていく。
「まぁ~これで大丈夫っしょ」
「わがままなのはどっちなんだって話だよな~」
そんなことを言い合いながら笑っているオレを守ってくれた二人組。
「じゃ、そういうことで~」
「今度はちゃんと守ってあげなよな、アニキ~」
何かかっこいいセリフを言い残して去っていった。
……って誰がアニキだ、誰が!!
「……何か嵐みたいな奴らだったな」
「……そうね」
力なく吐いた言葉に同意する翠。
「というかあいつら何でオレの事アニキなんて言ってるんだ!?」
そういえばという疑問が残ったままなのだが。
「ああ、それはね。彼らに君の事を話したんだ。そうしたら何か感銘を受けたようでね」
葵が答えてくれたが、一体何を喋ったらああなるんだ!?
「それはね……秘密だ」
語尾に音符がつきそうな感じで葵が楽しげに言うから逆にめちゃくちゃ不安になってしまう。
(一体何言ったんだよ……)
「大丈夫!悪いようには言ってないから!」
満面の笑みで茜が言うから余計に嫌な感じがするが……もう気にしてもしょうがないか。
まあそんなことがあったがその後は普通に遊び、そして……
「じゃあ、そろそろ帰ろうか」
葵が腕時計を見ながらつぶやく。
確かに周囲を見回してみると人が少なくなっている。
「え~、もっと遊びたいよ~」
「あか姉は十分遊んでたでしょ?」
「それはそうだけどさ~」
名残惜しそうに振り向き出店があった通りを見る。
オレもそれにつられて振り向く。
(しかし、玄斗の奴があそこまでやるなんてな……これ以上のことをやらないでほしいもんだが)
そんな考え事をしていたからオレの周りを三姉妹が囲っていたのに気づくのに時間がかかった。
「それにしても、だ。君は自分の価値をわかっているのかい?」
問い詰めるような瞳でオレを見つめてくる葵。
「そうよ。あんな奴にあんなことまでしなくていいんだから」
ぷんぷんという擬音が聞こえてきそうな怒り顔をしている翠。
「でも、何ともなくて良かったよ。……ただ許せないけどね」
明るい声で言いつつもどこか黒い茜。
「許せないって……何がだよ?」
「それは……」
ビシッとオレを指さし、告げる。
「キミが簡単にあいつに土下座してたことだよ!」
「……はい?」
首を傾げるしかない。
どういうことだ?
「そう茜の言う通りだよ」
葵がそれに同調する。
「君は自分の思う以上に私たちに想われていることを理解してほしいということだよ。だから……」
そう言ってオレの顔を両手で優しく包み、目を見ながら告げる。
「もっと自分を大切にしてほしい、かな」
それを聞いた茜も翠も首を縦に振っている。
「悪かった……」
そう言おうとすると口を止められた。葵の人差し指によって。
「それよりも言ってほしい言葉があるね。わかるかい?」
おそらく、これか?
「……ありがとう、か?」
恐る恐る口にすると三人ともがうなづいた。
(そうか……そうなのか?)
この時のオレはそこまでこの言葉を理解していなかった。
それが故にこの後大きな過ちを犯すことになってしまうとは夢にも思わなかった。
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