第28話 人を見かけで判断してはいけない

「あーちくしょー、結局こうなんのかよ……」

 屋台が立ち並ぶ通りの真ん中で天を仰ぐオレ。

 周囲にはさっきまでいた葵も翠もいない。

(結局離れ離れになっちまったじゃねえか……)

 茜を探す道中で翠が先行して行ってしまい、葵もそれを追いかける形になった。

 当然オレも追いかけようとしたが人ごみのせいで追えず、見失ってしまった。

 どこへ行ったのか見当もつかないのでむやみやたらに動くこともままならない。

 完全なる八方ふさがりという状態に陥ってしまったようだ。

(どうすんだよ、これ……!?)

 人ごみの中で呆然と立ち尽くしていると会いたくない奴に最悪の状況で出くわしてしまった。

「やあやあ、困りごとかい?」

 この前の時の憎たらしい顔そのままに玄斗が現れた。

 ただ取り巻きがいないようだが。

「……別に困ってなんかねえよ」

(今はこんな奴の相手をしている場合じゃない)

「おやおや、そんなことを言ってもいいのかな?」

 そっけなく返し、迷子探しを再開しようとしたオレを挑発するように威圧してくる。

(無視だ無視)

「……ふふふ、置かれている状況が全く分かっていないというのも愚かだね」

 そう言うと、自身のスマホを取り出しオレに見せつけてくる。

「なっ……!?」



 *


「もう、どこに行ったのよあか姉……」

 辺りを見回してもどこにもあの特徴的な赤髪の少女がいない状況に翠は苛立ちを隠せないでいた。

 射的の店でのはしゃぎようから嫌な予感はしていたがまさかその通りになるなんて、という落胆に似たような感情もその顔色から感じられる。

「全く、こんなことになるならあか姉にリードでもつけようか……」

「やっと追いついたよ……」

「びっくりした~……なんだあお姉か」

 肩で息をしながら辺りを見回している翠に声をかける葵。

「茜も翠ももう少し落ち着いてほしいね」

 苦言を呈する葵だったが翠は申し訳なさそうにしつつも不満げな様子だ。

「アタシも悪いところはあったけど、そもそもの原因はあか姉なんだからね!」

「わかっているよ。しかしいったいどこに行ったのやら……!?」

「どうしたのあお姉……!?」

 翠と同様に辺りを見回していた葵が何かに驚いた様子なのを不思議に思った翠がその視線を辿るとそこには……見知らぬ男たちに囲まれて身動きが取れなくなっていた茜がいた。

 その中の一人の男がスマホで自撮りをしながら何か言っている。

「やぁ~見てるかぁ~モブ男く~ん。今からこの子で色々遊んでやりたいと思いま~す」

 明らかな下衆い声で誰かを挑発した後、そのスマホをしまう男。その中にいる茜は完全におびえ切っており体が震えている。

「……絶対許さないんだから!!」


 *


「な、何をする気だお前?」

 一方的なビデオ通話を見せられたオレは絞り出すように聞くので精いっぱいだった。

「何って……見ての通りさ。今から茜で遊ぶんだよ、色々と、ね」

「だから何をする気だって聞いてんだろうが!!」

 感情そのままに胸倉をつかみ威嚇するが全く応えていない。それどころかさらに挑発的な下衆い笑みを浮かべる。

「ふん……お前みたいな奴に言うと思っているのか?つくづく愚かだねえ」

 そう言ってオレを押しのけ、とんでもないことをのたまいやがった。

「まあ教えてやってもいいよ。……今ここで土下座でもしてくれればね」

「はぁ!?」

「教えてほしいんだろ?なら相応の態度を取ってもらわないと割に合わないじゃないか」

 ヒヒヒとこれまた下衆い笑いをする玄斗。

「さあ、どうするんだい忠晴~?」

(この状況下で取るべき答えは一つ……か)


 *


「アンタ達!一体何して……」

 そう言いかけたその時、さっきまで下衆い声で喋っていた男がこちらに気づくとぱぁ~っと顔が明るくなった。

「良かった~!やっと見つかったなお姉さんたち!」

「な~、はぐれて迷子になったって聞いちまった時は参ったぜ~」

 一緒にいた男たちも安どした様子でつぶやき茜に優しく語り掛ける。まるでさっきまでのが劇場だったみたいに。

「あお姉~、翠~」

 安心したのか涙交じりになった声で二人に駆け寄る。

「もう~、ホントに心配したんだからね!」

「浮かれるのもわかるけれどもう少し落ち着いてくれるかしら?」

「うっ……気を付けます」

 図星をつかれたのか言葉に詰まる茜。

「それはそうと……アンタたち誰よ?」

 翠がそう問いかけるのも無理はない。さっきまで何か自撮りをしていて怪しく誰かに喋っていたのだから。

 すると男たちはあっけらかんとした様子で打ち明ける。

「ああ、俺達玄斗の友達だったんだよ」

「忠晴って奴を見つけたら速攻で教えろって言われたんだけどよ~、もうあいつとは付き合ってらんね~っていうかさ」

 それを聞いた葵たちはどういうこと!?とでも言いたげに驚いていた。

「なんかさ、忠晴?って奴に復讐したいってずっと言ってたんだけどさ……何かあいつワガママ過ぎてさ~」

「俺達お前のパシリじゃねえぞってさ~キレたんだよね~」

「そしたら~『そんなの知るか!僕の言う通りに動きやがれポンコツどもが!』って逆ギレされてさ~」

「もう付き合ってられるか~!って絶縁したとこでその子に会ったのよ」

 そして茜を指さす。

「じゃあ、さっきのは……?」

 葵が疑問を口にする。

「ああ、あれね。暇だったからお遊びでやっただけ。特に意味はないよ」

「いや~まさか、この子ノリノリでやるとは思わんくてさ~」

 困ったようにしゃべる二人に対して、てへへと照れ臭そうに笑う茜。

「……紛らわしいことしてんじゃないわよーーーー!!」

 茜の頭をはたく乾いた音が通りに響き渡った。

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