第27話 射的の出店で倒したキャラメルはいつもより旨い

(まさかここまで大変だとは思わないだろ……)

 出店が立ち並ぶ通りの真ん中で三姉妹に抱き着かれ立ち尽くしてしまっている現状に戻ったが、何も変えられずにいる。

(どうしたもんか……)

「あっ、あれ何かな?」

 茜が不意にオレから離れ、気になった出店に一目散に駆けだす。

「だから、はしゃぎすぎだってば、あか姉!」

 それを追いかけて翠もオレから離れる。

「ふふ、全く茜は落ち着きがないね」

 一連の流れを見ていた葵はまだオレに抱き着いたまま笑みを浮かべる。

「おい!余裕こいてる場合か!さっさと追いかけないとまた迷子になるって!」

 それもそうだね、と言いつつもオレから一向に離れようとしない葵に少しの抵抗をしようとするも結局どうすることもできずに一緒に歩いていいるオレ。

(ああ、非力なオレが恨めしい……)

 結局葵を振りほどけないという情けない状態になりながらも二人を追いかける。

「やっと追いついたか、二人とも何してんだって……ん?」

 すると、とある出店の前でキラキラした目をしながら商品を眺める茜と呆れたようにそれを見つめる翠がいた。

 どうやら射的が珍しいらしく的になっているものを

「わぁ~、当てられるかなこれ?」

 目の前に置かれた銃を持ち、今か今かと打ちたそうにしているのが一目瞭然なくらいにそわそわしている茜。

「やったら、いいんじゃないか?」

「やっていいの!?」

 まるで買いたいものを買ってもらえるのが信じられないとでも言うかのごときリアクションを取りオレに顔を近づけてくる茜。

「だから近いっつーの!いくらでもやっていいから!」

「わーい!」

 ……もう完全に動きが小学生のそれであるがまあ祭りなのだ。少々浮かれるくらいはいいだろう。

「よぉーし、全部倒すぞーー!」

 そんな無茶な、と内心思いながらも楽しそうにしている姿を見て何となくほほえましくなってきてしまった。

「全くもう……こっちの身にもなってよね」

 そうぶつくさ文句をたれつつもどこか嬉しそうな声色がにじみ出ている翠がこっちにやってきて……そしてオレの右隣りに落ち着いた。

「なんか茜の奴……楽しそうだな」

「ずっと部活動で忙しくてこういう祭りに出る暇もなかったからね、しょうがないよ」

 そう言って葵がまた微笑む。

(そういえば去年は優勝して全国大会に出るからって言って忙しそうにしてたもんなあ)

 それで玄斗にボクから目を離さないでね!って念押しまでしていたのを何となく覚えている。

 今年は決勝で惜しくも負けたが、だからこそこうして夏祭りに参加できている。ただ思うのは……

(それから一年足らずでこれだもんなあ……)

 今オレの両隣を占拠している二人を何の気なしに見る。

「……何か文句でもある?」

「何か言いたいことがあるなら口に出さないとわからないよ?」

「……何もねえよ」

 あの時玄斗に夢中だった三姉妹がオレを好きになり、なおかつこうして夏祭りに興じているなんてあの時のオレに言ったところで絶対に信じないだろう。

(人生ってのはわからねえもんだなあ)

「やったぁーーー!」

 そんな風にぼぉ~としていたから茜が的を倒していたのを見逃していた。

 そうして出店のおっちゃんから倒した景品をもらってこっちに駆け寄ってきた。

 それは、ミルクキャラメルと書かれていた小さな箱だった。

「倒せるものなんだねえ」

 語尾に音符でもつきそうなくらいご機嫌になっているのが丸わかりだ。

 それから一つ取り出して口に運ぶ。

「ん~、おいし~」

 自分が手に入れたキャラメルを心行くまで堪能した茜は不意に三個ほどを取り出してこっちに渡してきた。

「良いのかよ?お前が取ったものなんだろ?」

 そう投げかけると満面の笑みを向けて返事をする。

「だって、こういうのは皆で分け合った方が楽しいでしょ?」

 提灯の灯りに照らされたその笑顔に見惚れてしまった。

「ちょっと、アタシ達がいるの忘れてないでしょうね!?」

「おやおや、これは一歩リードされちゃったかな」

 翠は耳元で大声で叫ぶし、葵に至っては抱き着く力がさっきより強くなった気がする。というか痛ぇーーー!!

「忘れてないっつーの!わかったから力緩めろ!痛てぇーんだよ!」

 わかったよ、と言いつつもオレから離れようとしない葵。

 翠は翠でぷいっと顔を反らすし、散々な目にあっている。

「食べないの?」

「……もらうから、そんな顔すんな。後ありがとな」

 一人だけ構われなかったからなのか少ししょんぼりしている茜からキャラメルを受け取り礼を言う。

「い、いいよ!さっきも言ったけどこういうのは皆で分け合った方が楽しいし!そ、それに玖墨が喜んでくれるなら嬉しいし……」

 顔を赤くしてオレから顔を背ける茜が何かボソボソ言ってる気がするが何言ってんだ?

「どうした?」

「な、何でもないよ!?」

 オレの声にビクッとして反応したかと思ったら、キャラメルの箱を持ったままどこかへと走って行ってしまった。って……

「ちょっと、どこいくのあか姉―――!」

「おい待てって!また迷子になんだろがーーーー!!」

 そう叫んでしまう夏祭り、出店が立ち並ぶ通りで起きた出来事だった。


 *


「ククク……やっぱり来ていたんだね、忠晴」

 その楽しい光景を遠くから眺める影があった。

「今に見てろ……滅茶苦茶にしてやる……!!」

 その影は邪悪な笑みを浮かべ佇んでいた。

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