第25話 母親の電話に出る時の声は一オクターブ高い

「「……」」

 二人ともオレの話を聞いたのは良いものの黙りこくってしまった。

 オレもどうしたらいいのかわからずただ黙った。

 そしておずおずと理奈が聞いてくる。

「……えっと、それで終わり?」

「終わりだが?」

 そう言うと二人とも面白いくらいにこけた。

 変なことでも言ったか、オレ?

「それで終わりって……何か他にないの?」

「他にって?」

「例えばさ……そのナンパ師共をぶっ飛ばした!とか」

「オレはケンカ強くねえぞ?」

「じゃ、じゃあそのナンパ師共に追いかけられての逃走劇も?」

「そんなドラマみたいなことが現実で起きてたまるか」

「何よ~、つまんな~い」

 聞きたいというから話したというのに、この態度である。

 ふくれっ面しながらこっちを睨みつけてくるが知ったこっちゃない。

 あれでもめちゃくちゃに緊張して手の震えがひどかったんだぞ。

「す、すごいね……」

 そう言ってくれんのはお前だけだよ、愛海……。

「ともかくあの人が言う“武勇伝”なんてこんなもんばっかだよ。オレは大したことしてないし」

「じゃあさ、ほかにもなんかないの?その手の事件」

 よほどさっき話したやつが拍子抜けだったのか他にもないかと掘り下げてくる理奈。

「ねえよ、んなもん。あったら今ここにオレいねえわ」

「何よ、つまんないわね~」

 ふくれっ面してやがるが知るか。ドラマみてえなことは中々起きねえよ。

「まあ、オレにその手の話を期待すんのが間違いだってことだ」

 そう言って何か買ってくるわ~、と言ってその場を離れる。


 *


「何か……期待してソンしたわ~」

 理奈ちゃんはそう言ってわかりやすいくらいしょんぼりしてる。

 ただ私は、玖墨君の人の良さって変わってないんだっていうところに何というか少し好感を抱いた。

(やっぱり玖墨君は優しい人なんだね……)

「おっ、なんかいいことでもあった~?」

 そうやってときめいて周りが見えなくなってしまったから仕方がないのだけれど隣でニヤニヤしてる理奈ちゃんに気づかなかった。

「なっ、何でもないよぅ……」

「い~や、何かあった顔してるね。だって真っ赤だもん」

「えっ……!?」

 今頃気づいた私は必死になって顔を隠した。

「み、見ないで~……」

「い~や、無理だね!見るね!」

「や、やめて~……」

 そんなやり取りをしていたのだけれど……

「あいつ、中々帰ってこないね」

「そうだね。どうしたんだろ……」

 中々帰ってこない玖墨君を心配していた私たち。

(何かあったのかな……)

 そう思うと居ても立っても居られなくなった私は……

「ちょ、ちょっと心配だから探してくるね」

 そう言って恥ずかしさを隠すようにその場を駆けだす私。

「あっ、ちょっと待って愛海!あいつの向かった場所わかってるの~!」

 慌てて理奈ちゃんが追いかけてくるのを知ったのは私がしばらく走った後だった。


 *


「……どうしたらいいんだ?」

 飲み物でも買おうかと思ってホテルに戻ったのはいいがフロント前で小さい子どもが延々と泣いていた。

(なんか……ほっとけねえな)

 そう思ったのは良いのだが、てんで子どもの扱いがわからないオレは終始戸惑ってしまい手が付けられず、結果目の前の子どもが泣き止まない事態に陥ってしまった。

(どうしよう、これ……)

「やっといた……って、どうしたの?」

 どうにもできず立ち尽くしているとオレを必死に探していたような愛海がそこにいた。

「いや、実はな……」

 そう言って視線を落とした先を見て、察してくれたのかその子どもの目線に合わせるようにしゃがみ優しい声で語り掛ける。

「どうしたの、ボク?」

 その優しい声に緊張がほぐれたのかやっと泣き止んだ子どもは涙交じりに愛海に話す。

「マ、ママとはぐれて……」

「そっか……それは寂しかったね。でも……」

 そう言うとオレには見せたことのない天使のような笑みを浮かべてその子の頭を撫でながら優しく語り掛ける。

「もう大丈夫だよ。お姉ちゃんがついているからね」

「……うん」

 そうすると先ほどまでの泣き顔はどこかへと行ったらしくようやく少しはにかんだように笑う子ども。

「あっ、やっといた!」

「あっ、ママ!」

 恐らくこの子の親であろう女性がそこへ駆けつけた時、その子どもはようやく安心しきったのかその女性に駆け寄り抱き着いた。

「もう、心配したんだからね!」

「……ごめんなさい」

「……でも無事でよかったわ」

 そう言って柔和な笑みを浮かべてこちらを見る。

「ありがとうね、優しいお姉さん」

「お姉ちゃん、またね~」

「うん、またね~」

 そう言う愛海の目は今までオレに見せたことのない柔和な笑みを浮かべまるで天使のように見えた。

(オレにはそんな顔見せたことないのに……)

 そんな嫉妬交じりの感想を抱いた時にオレはある疑問を抱いた。

(あれ、なんでオレは愛海にこんな感情を抱いているんだ……?)

「……どうしたの?」

 親子を見送った後、それをぼぉ~っと見送っていたオレを疑問に思った愛海が小首をかしげ、オレを見てくる。

「な、何でもねえよ……」

「?」

 そうやってオレを見てくる愛海の顔を直視できずオレは顔を反らして自分の顔の赤みを隠すことくらいしか出来なかった。

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