第24話 温故知新~たまには過去を振り返るのもいいものだ~
愛海の両親とかな姉が何の気を遣ったのかわからないがオレと愛海、そしてその友達の理奈を残してホテルへと戻ってしまった。
それぞれがそれぞれを見やり、どうしたものかと悩んでいると理奈が突然こんなことを言い出した。
「そういえば、こんな感じで玖墨と話すの初めてじゃんね?」
「……そういえばそうだな」
確かにこうして話すのは谷原の言う通り初めてだ。
……一年以上たって初めて話す奴が同じクラスにいるってのはどうかと思うが。
「初めてついでにさ、色々聞かせてよ。さっき奏さんから面白い話も聞けたことだし」
語尾に音符がついたのかもしれない感じで楽し気に言う谷原に一抹の不安を覚える。
(一体何言ったんだよ、かな姉……)
「ね、ねえ……」
「ん?」
そんなやりとりをしているとおずおずと愛海が切り出してくる。
「とりあえず、座らない?」
どうやらパラソルとビーチシートは残していっていたようでさっきの状態のまま残っている。
それに夏の強い日差しにも参っていたところだしちょうどいい。
「そうだな。まあ、詳しい話は日陰でするか」
「賛成~。も~暑くて暑くて仕方ないや~」
愛海の言葉に賛同し、日陰に入り座り込む3人。
「それであれ、ホントにそうなの~!?」
日陰に入って座るなり、身を乗り出すくらいの勢いで迫ってくる谷原。
「落ち着け、それと近い」
「ああ~、ごめんごめん」
「全く……」
悪態の一つもつきたくなるな……、とため息をついていると愛海が頬を膨らましてオレを見ている気がする。まあ気のせいだろう。
「……アレって?」
愛海がそう疑問に思うのも無理はない。
「いったい何聞いたんだ、あの人から?」
「ふふふ~、それはね~。すごくびっくりするよ~」
何かすごくためているが、言うならさっさと言ってくれないだろうか。
「何でそんなにもったいぶるの?」
「え~、だって……」
そう言ってオレを見る谷原。
「玖墨があの人を守ったって話だもん。意外すぎてびっくりしちゃうよ~」
「……意外で悪かったな」
(ってことはかな姉、あの話をしたのか……)
嬉々として喋る谷原とは真逆に顔をうなだれるしかできないオレに愛海も興味をもったようで……
「えっ、どういうことなの?」
「……話すと長くなるけど、いいか?」
それを聞いた二人はこくんとうなづき、今か今かと期待して待っていた……ように思える。
(オレ個人としてはあまり話したくないのだが、変に勘ぐられるのも嫌だから話すか……)
「あれはまだオレがあの人に出会う前のことだ……」
*
それはオレがテキトーに街に買い出しに行っていた時のことだ。
とある女性がナンパ師にしつこくまとわりつかれていたようでとてもウザそうにしていた。
『ちょっと!離して!!』
『まあまあ、いいじゃん。俺らとお茶しようぜ~』
……わかりやすいくらい、チャラそうな見た目してたなそういえば。
周囲の人間はそれを遠巻きに見つつ関わり合いになりたくないと言いたげに通り過ぎていく。
それを見たオレは……
『何してんだよ、姉ちゃん。はよ行くぞ』
そう言ってその時のかな姉の腕を強引に引っ張ってそのナンパ師からどうにかして撒いたんだっけ。
後ろからなんだよ連れがいんのかよ、とか聞こえてきたがそんなのは知ったこっちゃない。
『……ここまでくれば大丈夫だろ』
そう言ってある程度そいつらから離れたところまで来たところで、連れてきたその女性の手を離す。
その女性は敵対心をあらわにして睨みつけてくる。
そこでオレは両手をあげて敵じゃないというアピールをする。
だが相手の女性は警戒を解こうとしなかった。
……そりゃそうか。急に言ったんだもんな、しょうがないか
『……何のつもり?』
『……困ってたやつがいたら助けるのは当たり前だろ?』
それを言ったところで彼女の警戒心は解かれない。
急に見知らぬ人から言われたこんな言葉なんぞあてにもできんか。
『……別にアンタが特別な人だから助けたわけじゃない。困っているから助けただけだ』
そう言うと、彼女はとても驚いた顔でこちらを見ていた。
『それじゃあな』
そう言ってオレはその場から離れようとする。
『ちょっと待って!あなたは……』
それに応じることもなくオレはその場からさっさと立ち去った。
*
「……これがその話の真相だ」
それを聞いた二人は唖然としている。
……まあしょうがないよな、なんも言いようがないもんな。
陽射しが強い空の下、オレ以外の時が止まってしまった。
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