第23話 袖触れ合えば他生の縁(水着だから袖ないけど)
そこには、三姉妹とはまた別の取り巻きを連れた明らかに人相が悪くなった玄斗がいた。
女の子と見紛うほどの美少年がする悪い顔ってのはこうもドス黒くなるものなのか。
春ごろに見せてた可愛らしかった顔はどこ行ったんだよって言いたくなるほどだ。
「そんなに身構えないでくれよ。今日はただあいさつに来ただけさ」
フフフと不気味に笑うその姿は以前の面影は綺麗さっぱりになくなっていた。
「ねぇ、玄斗~。そんな奴ら放っておいて速く行きましょうよ~」
「おっと、待たせてしまって済まないねえ」
取り巻きの一人がそう急かすとオレ達からさっさと視線を外し立ち去っていく。
「ではまた、ごきげんよう」
*
「……あいつ、変わったな」
「……うん」
玄斗という嵐が過ぎ去った後、オレ達はあいつが去って行った後を眺めるように立ち尽くしていた。
あまりに豹変してしまった玄斗にかけられる言葉もなく、ただ言われるがままだったのが気に食わないところがある。
がそれよりも気になるのは……
(なんであいつ、あんなに変わっちまったんだ……?)
「……みくん、玖墨君!」
「……ッ!?」
「そろそろ戻らない?皆心配しちゃうかもしれないし」
愛海にそう言われるまで呆然とその場に立ち尽くしていたオレ。
その言葉でようやっと我に返りかな姉の元へ戻ろうとする愛海の後ろをついていくのだった。
そうしてかな姉のもとに戻ると、ようやく落ち着いたようで愛海の友達と談笑していた。
「あっ、おかえり~」
戻ってきたオレ達をのんびりとした声で迎えるかな姉。
さすがに疲れたのか、パラソルで影を作ったビーチシートの上にぐでーといった感じで横向きになってだらけている。
……いくら何でも突発的なファンサービスだったからな。しょうがない。
その横には顔がペカーと輝いている愛海の友達がいた。
先ほどまでのオレに突っかかってきた雰囲気は、なりを潜め目がもうかなりキラキラしている。
(……無理もないか)
そりゃ憧れの人が目の前にいたらそうなるよな。
「あっ、愛海じゃない」
トリップ状態からようやく戻った彼女が愛海に気づき、そして次にオレに気づくとさっきよりはマシだと思える態度を示す。
「アンタが玖墨だよね」
「ああ、そうだが。……えっと」
「ああ、そういえばまだ自己紹介してなかったわね」
そう言うとすくっと立ち上がって自身の胸元に手を当てながらこっちを見る。
「アタシは谷原理奈っていうの。アンタの隣にいる橘愛海の友達よ」
そう言ってふふっと笑う。
そして秒とも思える速さですかさず頭を下げる。
どういうことだ?
「ごめん!アタシの勘違いだった!ホントーに申し訳ない!だからこの通り!」
「と、とりあえず頭をあげてくれ。いきなりすぎて何が何だか……」
敵対されたかと思えば今度は平謝りされる事態についていけないオレに横になったまんまだったかな姉がぴょんと跳ね起き腰に両手を当て胸を張る。
「この私が、ハル君の武勇伝を語って見せたからねえ~」
ドヤ顔で言っているが、心当たりが全くと言っていいほどない。
一体何言いやがったんだ……?
と怪しんでいるともぉ~とか言いながら愛海が谷原に突っかかる。
「前にもちゃんと話をしたのに信じてくれないとか、ひどいよ~」
「えぇ~、だって愛海が言うと何かうさんくさく感じるんだもん」
「え~、ひどいよ~」
ぽかぽかとそんな効果音が聞こえそうなたたき方をしている愛海を傍目に見ながらかな姉に耳打ちをする。
「一体何言ったんだよ?」
「……内緒っ」
「さいですか……」
ウィンクしながら言うかな姉に呆れていると愛海の両親がすくっと立ち上がり告げた。
「じゃあそろそろ戻りましょうか」
「うん、そうだね」
そう言って先ほどまで広げていた椅子を畳んでホテルへと戻っていく愛海の両親。
「では後は若い人たちだけで、ね」
そう言ってかな姉も愛海の両親とともにホテルに戻っていった。
ってオレ達だけでどうしろと……?
結局その場に残った(残された)オレ達は互いを見合い立ち尽くすしかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます