第22話 男子三日会わざれば刮目して見よ、と言うけれど……
その時だった。こっちに向かってきている二人組がいる。
それだけならまだいいのだが、何か見覚えがある気がするのが一人いる。
片方は長い黒髪を後ろに団子状にまとめ上下とも白の水着で観光客だらけのこのビーチの中でも際立って綺麗に見える。
もう一方は、青いヘアピンが目立つ茶髪のショートヘアだ。日焼けした肌と赤色のビキニがよく似合う。
その二人は和気あいあいとした様子でこちらに向かってくる。
そして向こうもこっちに気づいたようで何だかあわあわしている。
ってあれはもしかして……
「……橘?」
「……なんで、玖墨君が、ここに……?」
両者ともにここで出会うはずがないだろという疑問が湧いて出ていた。
「それは、こっちのセリフだ。何で橘がここに?」
「そ、それは……」
「ちょっとちょっと、先に言うことがあるんじゃないの?」
隣にいた小麦色の少女が腰に手を当て睨みつけながら言ってくる。
「誰だ、アンタ?」
「あたしは愛海の友達の……!?」
そう言いかけたと思ったらオレの後ろの方を見て言葉を失っている。
「あ、あれってもしかして……!?」
そう言ってオレを睨みつけていた視線を外し、後ろの方で橘の両親と談笑していたかな姉の方へ小走りで駆けて行った。
「すいません!……天羽聖さん、ですよね!?」
そして少し離れているオレ達にも届くくらいの声で叫び散らした。
ってそんな大声出したら……
「えっマジで!?」
周囲にいた観光客達が一斉に騒ぎ出した。
というよりはここに来た時から何となく気づかれてた節はあったけど完全に確信に変わった感じだ。
(ごまかしてくれよ、かなね……)
「ええ、私がそうよ」
堂々と自分の正体をバラした。
(って何やってんのこの人ーーーー!?)
*
結局その後は、どこまで続いているのかわからないほどの長蛇の列ができて握手や写真撮影などのファンサービスを行っている。
当のかな姉はノリノリだし、愛海の友達とやらはかな姉としばし談笑した後は愛海の両親と楽しそうにしている。
その集団から押し出された形となったオレと愛海は少し離れたところにあるホテル近くのベンチに腰掛けていた。木が近くに植わっていてそれが屋根の代わりになっていて日影ができており少し涼しく感じる。
オレと愛海は少し距離を取り、両者ともにお互いを見れず地面を見つめている。
(き、気まずい……どう話しかけたもんか……)
「……ね、ねえ玖墨君」
オレが一人心の中でああでもないこうでもないと悩んでいると愛海がおずおずとこっちに語り掛けてきた。
「な、何だ……?」
「……あの人と、玖墨君ってどういう関係なの?」
「……えっ?」
(まあ、そりゃ気になるか……さて、どう言ったもんか)
ヘタにごまかすと勘ぐられかねないし、かと言ってあまりに喋りすぎると後々が面倒だしと心の中で迷っていると愛海が突拍子もないことを言い出す。
「もしかして……付き合ってたり、する?」
「はあ!?」
心なしか声が弱っているし、先ほどよりうなだれている。
「別に、付き合ってねえから安心しろ」
(流石にこれは否定しておこう。家族みたいなもんだからな)
頭を掻きながらため息交じりにつぶやく。
「え、ほんとに!?」
「うおっ」
一転して明るい声になった愛海に少し驚いてしまった。
「あっ、ごめん……」
「だ、大丈夫だ。気にするな」
が何とかして何事もない風を装う。
何で焦っているかって?
……改まって愛海の水着姿を見てしまったからだ。
上下ともに純白の水着で後頭部に団子状にまとめた黒髪によく似合っている。
そして……出るところは出ていて締まっているところは締まっている、いわゆるスタイルが良いというやつだ。
言わせんな、恥ずかしい。
「そういえば、橘はどうしてここに?」
とにかく話をそらそうと問いかけてみる。
「わ、私?」
「そう。橘がここにいるとは思わなかったから、さ」
これは純粋な疑問でもある。愛海の性格上ここに来るのかと思ったし。
「そ、そんな大したことじゃないよ。私はただ家族旅行で来てるだけだから」
「そうなのか」
そう言ってさっきの集団の方を見やる愛海。
その視線の方へオレも目を向けると今もノリノリでファンサービスに興じているかな姉の姿があった。
「すごいね、あの人。ずっと楽しそうにしてる」
「……まだやってんのか、あの人は」
呆れてものも言えない。
「これからどうしよう……!?」
愛海が何か言いかけてやめた。
「どうしたんだよ……!?」
気になったオレは愛海が視線をやった方へ目を向ける。
「やあ、こんなところで出会うとは奇遇だね二人とも」
そこには、以前より人相が悪くなった玄斗がいた。
取り巻きを連れて。
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