第18話 人は下心ないやつのところに集まりがち
『……スマン。もう一回言ってくれるか?』
信じられないことを聞いたオレは何かの間違いであると思っていた。だがそれはまごうことなき現実だった。
『だから、さっきから言ってるじゃない……』
翠が弱弱しくつぶやき下を向く。
『ボク達は、キミのことが……』
『好きになったみたい』
茜と葵が続ける。ってはぁ!?
『お前ら……玄斗が好きなんじゃなかったのか!?』
慌てたオレがそう問いただすと、一気に周囲の空気が氷点下に落ちたくらいに冷たくなったような……気がする。
『玄斗のことはもう……話さないでくれるって言ったの忘れたの?』
『わ、悪かったって!』
慌てて謝り話題を変える。
『それで、茜がオレに話があるって言ってたが、もしかして……』
『そ、そうよ!』
これがそれか?と問いただそうとする前に遮られ先ほどの凍った空気はどこかへと行ってしまった。
翠が腕を組み顔を真っ赤にしたままこっちを睨む。
茜はあははと言いながら頬をかき葵は腰に手を当て柔らかな笑みを浮かべオレを見る。どちらも顔を真っ赤にして。
茜だけ、というより目の前の三姉妹全員の用事がこれだったようで。
オレはつまり三姉妹に好意を持たれ今告白された、ということなのか。
……いやいや、待て。これは現実なのか?
疑ったオレは試しに自分の頬を思いっきりつねってみる。
……めちゃくちゃいてえ。どうやら現実のようだ。
『……いきなりそんなん言われてもな……』
『そ、そうだよね……』
茜がいまだ頬をかきながら顔を反らす。ただそれをやめるとまっすぐにオレを見る。
『ただね、キミのことはあお姉と翠から聞かせてもらったんだ。玄斗と違ってちゃんと向き合ってくれたって』
そう言って後ろ手に両手を組みオレをまっすぐ見つめる。
『別にそういうつもりでお前らに関わったんじゃねえよ。成り行きだ』
玄斗を振り向かせたいから手伝ってくれ、っていう友達からの頼みに応えたり(というより無理やり連れられただけ)困っていた状況を手助けしただけなんだが。
『それでも、私たちのために頑張ってくれたことは確かよ』
そう言って葵が近づき耳元でささやく。
『だから……』
*
(私たちと、付き合わない?ってなあ……)
昨日のことを思い出しながらオレは午前中の授業が終わった直後、窓の外をぼ~っと眺めていた。
……正直授業を受けるどころじゃなかった。
(何言ってんだって突っぱねたんだが……)
三人とも引く気はなく結局納得するまでオレを解放する気はなかった。
そして納得させられたうえで全員に宣言された。
(絶対に振り向かせて見せるから……って言ってたが何をする気だ?)
今朝の騒動からまだ数時間しかたってない昨日の今日でいったい何をしでかす気なのか、全く予想ができなかった。
(なんか、嫌な予感がする……)
そう思った矢先のことだった。
「ねぇ、玖墨君……」
「玖墨ーーーー!!」
愛海が声をかけようとしたのを遮るように別のクラスで授業が終わったのであろう茜が猛ダッシュでオレがいる教室に来た。
「一緒にお昼食べよ?」
「……別に構わねえけどよ」
声の大きさ考えてくれないか?オレを見る、いや睨みつける殺気がこもった視線がさっきより大きくなりやがったからよ……。
「ホントに!?よかった~~。じゃあ行こーー!」
満面の笑みを向けオレを引っ張っていこうとする。
「わ、わかったから手引っ張んな!落ち着け!」
空いた片方の手で何とか弁当を持ち駆けだす。
何であいつばっかり……、という嫉妬を残して。
ふと後ろを見ると、何か言いたげな表情をしてこちらへ手を伸ばそうとした愛海がいた。
(一体どうしたんだ、愛海の奴……)
茜に引っ張られすぐにその場からいなくなってしまったオレはその姿を少ししか確認できなかったが。
*
校舎を出たオレ達はグラウンドの端にでかでかと植えられてある大木に行きつきそこに落ち着く。
「ん~、木陰はいいね。涼しいよ~」
「ええ、そうね」
「あか姉もあお姉も何で平気なの?アタシ暑いの無理……」
「しょうがないじゃない。夏だもの」
「それはそうだけど……」
仲睦まじく和気あいあいとしている三人。端から見れば仲いい姉妹に見えるだろう。……これから挙げる点を除けば。
「……なぁ、お前ら」
三人そろって首を傾げ何か問題でも?な顔してやがる。言うしかないか。
「何か、近くないか?やけに」
木を背に座っているオレの左には葵が、右には翠が座っており真正面には茜が座っている。
ここまではまだいい。いわゆる仲いい男女の友達グループみたいな感じだから。
ただ……葵と翠の距離が異様に近い。少しでも動けば相手の肩が当たるくらいには。
「何よ?不満でもあるってわけ?」
「そんなんじゃねえよ。食いづらいってだけだ」
ぶっきらぼうに言い放つ。
するとそれを見た葵がオレの腕に抱き着く……って何してんだ!?
「ふふ、恥ずかしがっているの?可愛い」
「そ、そんなんじゃねえよ!」
抱き着かれた左腕にそれはそれは豊かなものの感覚が襲ってくる。
(な、なんだこれ……超恥ずかしいんだが!?)
顔が熱くなっているのが自分でもわかり余計に恥ずかしくなってくる。
(それよりもこんなことしてたら……ッハ!?)
すぐ隣にいた翠からのそれはそれは氷よりも冷たい視線がオレに直でぶっ刺さる。
「玖墨……アンタねえ……」
(やべえ、めちゃくちゃ怒ってる……)
「あら、羨ましいならあなたもやればいいじゃない、翠」
お前もそうやって煽るなよ、葵!
するとそれを、真に受けた翠がおぞおぞと空いたオレの右腕……の制服の袖の端をつまんで顔を背ける。
「そ、そんなはしたないことできるわけないじゃない……」
聞こえるかどうか位の小声でぼそぼそ恥ずかしそうにする翠に不覚にもドキッとしてしまった。
するとそれを見ていた茜が真正面からオレに抱き着いてきた、ってお前も何してんだ!?
「も~、あお姉と翠にばかりじゃなくてボクにも構ってよ~」
そう言ってオレを正面にとらえた茜はじっと見つめてくる。その茶色の瞳に吸い込まれそうになる錯覚を覚えそうになりかけた時、左耳に吐息を吹きかけられ背中にぞわっとした感覚がはしる。
「あら、私を忘れられちゃ困るわ」
吹きかけられた方へ顔を向けると葵が悪戯な笑みを浮かべていた。
「もう、デレデレしないでよ!」
オレの右隣りで翠が叫ぶ。
(もう、どうにでもなれ……)
完全に諦めの境地に達したオレは三姉妹のいいようにされるのだった。
(ただ、愛海のあの表情、何だったんだろうな……?)
そんなオレの疑問に答えてくれるものはどこにもなく、ただ夏の爽やかな風が通り抜けていった。
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