第16話 その少女、不名誉につき。~次女の場合~ 後編
(あいつはどこ行った……!?)
心当たりを探し走り回るが姿形が見当たらない茜に徐々に不安と焦りが募る。
(簡単に死ぬなんて言いやがって……!!)
それと同時に怒りも湧き上がってくる中、一人の女子生徒が泣き崩れ周りの女子生徒に慰められている光景が目に入ってきた。
(あれはなんだ……?)
もしかしたら何か知っているかもと思い声をかけようと思ったがあまりに深刻な状況だったためにためらってしまった。
別の場所を探そうと思い踵を返すと地面に転がっていた空き缶を蹴っ飛ばしてしまい乾いた音が響いた。
遠巻きに見ていた後輩であろう人物が物音に気付き音がした方へ尋ねた。
「誰ですか!?」
やっちまった、と思いつつ大人しくその場に出る。
「あなたは一体……?」
「ああ~……。邪魔して悪かった。じゃあ」
「ちょっと待って!もしかして……」
そう言って気まずそうに立ち去ろうとするがとある女子生徒が引き留める。
「あなたも、キャプテンを探しに……?」
「……ああ」
引き留めたやつの必死の形相に観念したように絞り出す。
「よかった!あなたも先輩を止めて!」
(どういうことだ……?)
そう言われて疑問に思いその人を見ると
「どうしよう……!?私のせいでキャプテンが……」
とわかりやすく慌てふためいていた。
(動画の中で茜に暴言吐いちまったってのはおそらくこの人だな……)
オレの目の前で泣きながらその場であたふたしている人が件の人物なのだろう。
声質もあの動画と同じだったから。
「……あなたが茜に死ねばいいと、言った先輩ですね?」
「あ、アンタ誰よ?」
怪訝な顔をして問いただしてくる。そりゃ当然か。
「あいつの友達みてえなもんです」
「そう……」
憮然とした表情でつぶやき視線を地面に落とす。
「……んで、そんな奴が何の用なの?」
「……あいつに謝罪してください。今すぐに」
有無を言わせぬように怒気を含みながら告げる。
「そんなのわかってる!でも、どうやって……」
そう言ってその先輩は顔を落とす。
それを見たオレはますますイラつきが募り始めた。
「……アンタはあいつに言ってしまった言葉の重みをわかってんのか?」
「……えっ?」
泣き顔のままオレを見つめる。
「『死んでしまえ』って言葉は絶対言っちゃいけないんだよ!必死で生きている奴には、絶対に!」
辺りが静まり返り無音だけが耳に付きまとう。
「アンタらの方がオレよりよっぽど見ているだろ!あいつが必死こいて頑張ってる姿を!」
そう言って先輩の方へ向き直る。
「だから……あいつが間違いを起こす前に絶対に見つけて、必死に謝ってください。
たとえあいつが拒絶しようがしまいが、絶対に」
「……」
顔を地面に落としたままだから聞いているのかどうかわからないが、届いてほしいと素直にそう思った。
「それで……あいつの居場所はわかったんすか?」
少し落ち着きを取り戻したオレは目の前の先輩とは別の部員に聞いてみるが首を横に振った。……空振りだったようだ。
「……わかりました。ではオレは別のところを探します」
では、と言って別れを告げその場を後にした。
オレの言葉が響いているのかどうかわからない先輩を置いて。
*
(どうやらオレの杞憂で済んだようだ)
「ごべんなざい!アダジ何てことを……」
涙で顔がぐしょ濡れになっている先輩を困惑した表情でみている茜。
「そんな、先輩顔を上げてください。ボクのせいで……」
「あなたは何も悪くないの!アタシがバカだったの!」
「せ、先輩……」
そうして茜と先輩が二人して泣いていると遠くから声が聞こえてきた。
「キャプテン!先輩!」
他の部員たちがここに気づいて駆けつけたようだ。
(さっき大きな声で茜呼んでたからそりゃ気づくか)
そして茜と先輩を取り囲むように集まった。
(もう、大丈夫だろう)
そう察したオレは静かにその場を去った。
その後何とかバスには乗りこめたものの鋭い視線がオレを突き刺すように飛び、居心地の悪さを感じながら帰ったのはまた別の話だ。
*
翌日、オレは職員室に呼び出され再三の厳重注意を喰らった。
集団行動を乱した協調性のなさを散々とがめられた形だ。
(茜がもし自殺なんてしてたらどう責任取るつもりだったんだよ、あんのクソ教師……)
まあ、とにもかくにも茜が無事でいたことは本当に良かった。
ただ、玄斗があそこまでひどい奴だとは思わなかったが。
「あっ……」
そんな説教も終わり、ようやくの思いで職員室から出ると偶然にも茜と出くわした。
見た感じ、茜もだいぶ怒られたようでシュンとしている。
「お前も怒られた後か?」
「……うん」
見るからにしょんぼりとした顔をしている。
相当応えたようだ。
「でも、先輩と和解できたよ!」
ただ一転してその顔は明るくなった。
……やはりこうでないと調子が狂うってもんだ。
「それでね……放課後、ちょっと時間欲しいんだけどどうかな?」
少し考え、特に何も用事がないことを思い出したオレは快諾する。
「別に構わねえけど」
「ありがとう!それじゃあまた放課後に会おうね!」
そう言ってどこかへ走り去っていく。
「おい、待てよ!どこで待ち合わせるか言ってから行け……って、行っちまった……」
(話って……何だ?)
頭の中が疑問符で埋め尽くされたオレだけがその場に取り残された。
*
そして放課後になり、教室を出ていざ帰ろうとしたオレを茜が無理やり引っ張られていった先は、学園から少し離れたところにある公園だった。
「お前らもいたのかよ」
「何よ、いたら悪いって言うの?」
「別にそんなんじゃねえよ。びっくりしただけだ」
そこには茜だけでなく翠と葵もいて二人はベンチで座って待っていたようだった。
「ふふ、確かに驚くのもしょうがないよね」
葵がそう言って柔らかな笑みを浮かべる。
「それで、話があるって言われて茜に連れてこられたんだが一体なんだよ、話って?」
そうだったそうだったと頭を掻きながら茜がつぶやく。
「実はね……」
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