第15話 その少女、不名誉につき。~次女の場合~ 中編

 オレは、茜と一人分入れるであろうスペースを空けて座り通路の壁に寄りかかる。


 座った音に少しびくりとしながらも視線だけをオレにやる茜。


「……お前が話したくなるまでここにいる」


「……えっ?」


 茜の顔を見ずに正面だけを見据えたオレを不思議そうに思う声が聞こえてくるがなるべく顔を見ないようにする。


 そして重たい空気がオレ達を包み込む。


(とっさの判断で言っちまったが……これ、大丈夫か?)




 *




 忠晴が自分のとった行動に少しの疑問と後悔を覚えていた頃、彼が去った後の現場は険悪なムードに包まれていた。


「あれ、なんで皆そんなに怖い顔してるの?」


 すべてのことの元凶になっている玄斗だけは全然わかっていないようだが。


「……玄斗、君は少し黙ってくれないか?」


 普段あまり怒らない葵から発せられた怒気に周囲の生徒たちが恐れおののく。


「だって、皆真剣に考えすぎじゃない?だってあの茜ちゃんだよ?」


 両手を広げまるで意味が分からない、とでも言いたげに首をかしげる。


「……アンタの目がここまで節穴だとは思わなかったわよ」


 わなわなと怒りで肩を震わせる翠に対しても動じずキョトンとしている玄斗。


「……君を好きになってしまったのを後悔してしまうよ。それに……こんなことをしている場合じゃないね」


「……えっ?」


 そう言って背を向け他の生徒たちをバスに乗せるべく行動を開始する葵。


 それを見た玄斗は葵に手を伸ばそうとしたが翠がはねのけた。


「アンタはもう金輪際アタシたちに関わらないで!!」


 そう言うと二人とも玄斗に視線を向けることもなくその場を去り、玄斗だけが残された。


「白木君……」


 ポツンと立ち尽くすしかできない玄斗を見て声をかけたのは一部始終を遠くから見ていた愛海だった。


「愛海ちゃん、これは違っ……」


「……そんな人とは思わなかった」


 その場を去ろうとするのを止めようとした玄斗だったがその手はむなしく空ぶった。


「な、なんでことにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!??」


 頭を抱えて叫ぶがそれに応えるものはどこにもおらず、ただただ空しくあたりに響いた。




 玄斗が自業自得の地獄に落ちてしまっている頃、とうの忠晴はというと……




 *




(さて、どうしようか……)


 茜が話したくなるまでここにいる、と言い出したはいいもののあれからずっと茜とオレはこう着状態に陥っている。


 時間だけが無情にも過ぎていくがヘタに動くわけにもいかず無音だけが二人を包む。


(オレから何か話しかけるか……?いや、さっきの茜の態度から考えてそれはやめといたほうがいいよな……?)


 一人心の中で自問自答を繰り返すが解決策が思い浮かばない。


(いや、マジでどうするオレ!?)


「……実はボク、先輩とケンカしたんだ」


 内心焦っていると観念したのかどうかわからないが茜がぽつぽつと語りだした。


「今年が最後の夏になってしまったのはボクのせいだって。それにその人はボクに……」


 そう言って涙交じりに声が震えながら響く。


「アンタなんて死んじゃえばいい、って」


 嗚咽交じりに語るその姿はとても痛々しくて見ていられなかった。


 だがようやく本音を話してくれた茜の話を静かに、だがたしかな相づちを打ちながら聞く。


「ボクってやっぱり死んじゃったほうがいいのかな?」


 涙まみれになった顔を上げてオレを見る茜。


「……死ぬなんて簡単に言うなよ」


 オレは少し怒気を含ませながら茜に言う。


「えっ?」


「お前が死んで何になる?何のためにもならんだろ?残された方の気持ちになりやがれ」


 それを聞いた茜は顔を沈めてしまう。


「それに……」


「それに……?」


 そこで区切ったオレに疑問の目を向ける茜の目をまっすぐ見ながら言う。


「お前が死んだら、寂しくなるだろ」


 オレじゃなくて皆がな、と付け加えた。


「……そうなの?」


「ああ、そうだ。それに……その先輩も心からそんなこと言ってるわけじゃないと思うぜ」


「そんなわけない……!?」


「ギャプデン!!」


 少し首を傾げ、わからないといった表情を浮かべる茜。


 そこに涙まみれになって肩で息をしている先輩がいた。


「先輩っ!?」


 なんでここが分かったの!?とでも言いたげに驚く。


(実はさっき話聞かせてもらったんだよな……)

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