第14話 その少女、不名誉につき。~次女の場合~ 前編

「どうしよう……どうしよう……!!」


 先ほどの女生徒の声を聴き周りにいた生徒たちはパニック状態になった。


 ざわざわとした雑音はやがて大きなノイズになっていく。


「どういうこと!?」


「詳しく説明してもらえないだろうか?」


 そう言って翠と葵がその女子生徒に近寄り事情をうかがう。


 流石のオレも『死ぬ』なんてワードが出てきたもんだから何事かと思いその女子生徒に近寄る。


 その女子生徒がこちらに見せたメッセージアプリの文面には


『今まで迷惑かけてごめんなさい。ボクはもう疲れました』


 とだけあった。


「そ、それにこんな動画が……」


 そう言って二十数秒ぐらいの動画を見せてくる。


 なにやら言いがかりをつけている少女の声が聞こえてきてその後はっきりと聞こえてきてしまった。


『アンタなんて、死んじゃえばいいのよ!!』


 それを直接受けてしまった別の少女が走り出す音が聞こえた後動画は終わった。


 画面端(はじ)に赤い髪がチラッと映ったがおそらく茜だろう。


「これはいつ起きたんだい?」


「ま、まだそんなにたってないはずです、けど……」


 葵が女子生徒に優しく問いかけると、たどたどしく返した。


「なによ、はっきり言いなさいよ!」


「あ、あの……」


「落ち着け」


 翠に静止するよう呼びかけ問いかける。


「これを撮ったのは誰なんだ?」


「わ、私の友達、です……。それにこの後この人を部員全員で探しているみたいなんですけど見つからなくて……」


「そうか……」


「なら、探しに行かないといけないじゃない!!」


 騒ぎが大きくなる中、声を荒げる翠。


「大丈夫だと思うよ」


 こんな緊迫した状況の中で信じられない声が聞こえた。


 その方を振り向くと、玄斗があっけらかんとして立っていた。


「茜ちゃんならちゃんと戻ってくるよ。普段元気いっぱいなんだし」


 こんな状況での言葉にオレを含めその場にいた全員が絶句した。


 プツンとオレの中で何かが切れた音がした。


「ッ!!玄斗ッ、アンタねぇ……!」


「……てめぇ、本気で言ってんのか?」


 翠がそう言って掴みかかろうとする直前にオレは玄斗の胸倉をつかんでにらみつける。


 当の本人はなぜこうされているのかわからないといった表情を浮かべたままだ。


「お前、自分が何言ってんのか本気でわかってんのか?さっきの試合、お前も見てたろ」


「うん」


「その後もだ。それを見たうえで本気で言ってんのか?」


「うん」


 自分でも背筋に寒気がするほど冷たい声で玄斗に怒るが何も響いちゃいないようだった。


「……。そうか、もういい」


 そう言って玄斗を離し、一切視界に入れないように背を向ける。


「オレが、探してくる」


 そう言い放ち、その場を離れようとする。


「待ってよ!アタシ達全員で探した方が……」


 翠が提案をしてくるが、状況が許さなかった。


「そろそろバスの出発時間が迫ってるこの状況で生徒会長とかがいなかったらそれこそパニックになる。その点オレがいなくなっても問題はない」


「それじゃアンタが……」


「オレがいないところで気にする奴はいねえよ」


「でも……」


「……絶対に、見つけてくれるんだろうな?」


 真剣な顔をした葵がオレを見つめる。


「ああ、必ず見つけ出す」


「そうか……。わかった。こっちの状況は私たちでどうにかしよう」


 そう言って近づきささやく。


「妹を、よろしく頼む……」


 了解、とだけ呟きスタジアムの方へ駆ける。


 玄斗は……もう知らねえ。




 *




(見つけるとは言ったけど正直どこにいるのかわかんねえ……。だけど、放っておけねえ)


 手当たり次第に探ってみるしかない。ロッカールームや休憩所、試合が行われるグラウンドやスタンドなどありとあらゆるところを探すが一向に見つからない。


(まさか、本当に死んじゃいねえだろうな……?)


 そんな不安が頭をよぎるが生きていると信じて血眼になって探し回る。


 そして照明が届かない薄暗くなっている階段下の物置になっているような通路に見慣れた赤髪の少女がいた。


 体育座りをして顔をうつむかせているようだ。


 近づくと足音で気づいたのかパッと顔を上げる。


「玄斗ッ……」


「残念、オレだよ」


 そう言うとまたすぐに顔をうつむかせる。


「悪かったな、玄斗じゃなくて」


 距離を取って話しかける。


「キミもボクを笑いに来たのかい?」


 うつむいたまま力なく吐く声が悲しく響く。


「そんなことしに来たんじゃねえよ。探しに来たんだ。戻るぞ」


 声をかけたがうつむいたまま微動だにしない。


「いいよ。どうせ戻ってもボクの居場所ないし」


 そう言って頑なに動こうとしない。


「そんなことはねえよ。皆お前を待ってる」


 すると茜が涙まみれになっている顔を向け叫んだ。


「キミにボクの何がわかるのさ!」


 あまりにもの悲痛な叫びに少しのけぞってしまった。


 そしてまた顔をうつむかせ泣き出してしまう。


(どうしたもんか、これは……)


 対処に困ったオレがとった方法は……





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