第12話 走り抜けるカゲロウ
野球のボールより少し大きいソフトボールをとらえたバットによる鈍い金属音があたりに響く。
際どいところに落ちるかに思えたがすんでのところでキャッチした選手に称賛の拍手が送られる。
そして容赦なく真夏の日差しが容赦なくスタジアムに降り注ぐ。
しかしそのグラウンドに立つ者たちはそれを遥かに凌ぐ熱量を帯びていた。
ワンプレーごとに選手たちは声を掛け合い一体となっていく。
彼女らを蝕むように太陽が照らすがそれをも、ものともせずに跳ね返し青春の一ページを刻んでゆく。
茜はその中でマウンド上で堂々としており流石エースという活躍を見せている。
仲間たちとワンプレーごとに声を掛け合い助け合う姿はキャプテンそのものでとても信頼されている様子がうかがえる。
その光景はスタンドでただ見てるだけのオレにも心が熱くなったような印象を受ける。
ただオレの両隣には非日常が広がっていた。
「あか姉、がんばれーーー!!」
「ふふ、やはり茜はああやって熱くなるのが似合うな」
マウンドが真正面に見えるスタンド席から声を張り上げて応援する翠。
それとその隣で静かながらに応援する葵がいたのだ。……オレを挟んで。
「……なあ。こんなこと言うのもあれなんだけどよ……」
オレの独り言にも近い発言を二人は頭に?マークでもついたような顔で首を傾げながら聞く。
「何でお前らは玄斗の隣じゃなくてオレを挟んで座ってんだ?」
そう翠はオレの左隣に、葵はおれの右隣りに座っている。
つまりオレは美少女に囲まれて座っている形になる。
だからだろうな。
さっきからオレに向けられる視線が痛いほどに突き刺さってきている。
なぜおまえごときがそんな恩恵を得ているのだ?とでも言いたげに。
そんな視線など気にしていないのかわからないが葵はオレに向き直りこう言った。
「……あれを見ても同じことが言えるのかしらね?」
そう言われて集団ができている方へ視線を向けると……
オレよりも遥かに多い少女の集団に囲まれ困ったような顔を浮かべながらおもちゃにされている玄斗がいた。
もみくちゃにされて怒るどころか喜んでないか、あいつ……。
少女たちが一人の男を取り合うなどハーレム物の話の中でしか見たことがないが現実にもあるものなのだな、と感心というか呆れというのかよくわからない感情を抱いてしまった。
……正直、今のオレの現状も中々に有り得ないけどな。
「まあ確かにあれには巻き込まれたくないのはわかる」
「ね?そうでしょ?」
そうやって首を傾げて覗き見る葵の瞳は油断すれば吸い込まれそうだと思うほど透き通っていた。
「うぉ!?き、急に来るなよ……。びっくりするじゃねえか」
「えへへ~。いいでしょ、このくらい」
何の気なしにやってくるのでとても心臓に悪い。繰り返す、かなり心臓に悪い。
それを見ていた翠がぷくぅ~と頬を膨らます。
「ねぇ、なんであお姉と距離近いの?」
そう言ってオレとの距離を詰める。……実際近すぎて鼻の頭が当たりそうな距離感なのだが。
「知るかよ!知りたきゃ本人に聞け!目の前にいるんだから!」
「そういう翠も玖墨君との距離が近いけど、ね」
けん制するように煽る葵に何をーー!と言いながら葵の方を向き怒る翠。
……オレを挟んでケンカしないでほしいんだが。
「……なあ」
「何よ!?」
「……周り、見てみろよ」
そう言って周囲を見渡すよう促す。
嫉妬、というよりは今良いとこなんだから静かにしなさいという無言のプレッシャーが放たれていた。
それを見てようやく落ち着いた翠。
わかりやすく少ししおれてしまったようだ。
「……まあ、今は応援しようぜ」
「……そ、それもそうね」
そんなアホなやり取りをしていると試合が正念場を迎えていたようだった。
7回裏ツーアウト満塁フルカウントのピンチ、マウンドで汗を拭っている茜にとってはとてもプレッシャーになる場面だ。
構えるまでに時間がかかる。
そりゃそうだ。
自分が投げるこの一球が試合を決定づけるのだ。
だが決心がついたようでようやく投げる構えを取った。
そして力が込められた球が向かった先は……。
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