第11話 曇りのち雨、そして晴れ?
(外、すごい雨だなあ……)
そんなことをぼんやり考えながら廊下を歩く。
バケツをひっくり返したような雨で急いで走っていく人もいた。
天気予報では夕方には晴れると言っていたけれど不安だった私は傘を持って家を出た。午前中は晴れていて傘を持っていた人はちらほらはいたもののほとんどいなかった。
私の考えすぎかなと思ったけれどそんなことはなかったみたい。
「愛海~、何してるの~?」
「理奈ちゃん、どうしたの?」
「一緒に帰らない?」
私の数少ない友人の谷原理奈ちゃんだ。
茶色のショートヘアで頭に青のヘアピンをつけている。
陸上部でエース級の活躍をしているけれど茜ちゃん率いるソフトボール部の方が目立っていいなあとかよく愚痴をこぼしている。
「今日は部活ないの?」
「今日は外がこんな雨だし、テストも近いから部活はなしだってさ~」
残念そうな口ぶりで愚痴をこぼす。
「そうなんだ……」
「それよりも~……」
悪い笑みを浮かべながらこちらへにじり寄ってくる理奈ちゃん。
この微笑みを浮かべた時はまずい……
「あんたはいつになったら玖墨とかいうやつに告るのよ~」
「い、痛いよ~……」
うりうりとか言いながら私の頭をぐりぐりする理奈ちゃん。
そんなじゃれあいをしつつ廊下を歩いていると昇降口に差し掛かってきたところぐらいで見覚えのある背中が出入り口付近でポツンと立っていた。
(あ、あの背中は……もしかして玖墨君?)
少し小走りになって声をかけようと思ったその時だった。彼の横から声をかける別の女の子がいた。
(もしかして、翠ちゃん……?)
特徴的な緑色の髪とツインテールは紛れもなく翠ちゃんその人だった。
何だか仲が良いやりとりをしているのが遠目から見てもわかる。
そして、何かを受け取り彼は外へ出ていく。見たところ折り畳み傘の用だった。
それを受け取った彼はどこかばつが悪そうにしながらもどこか嬉しそうだった。
対して傘を渡した翠ちゃんの方は彼の姿を見送った後、顔を両手で抑えていた。
(もしかして、翠ちゃんも玖墨君のこと……)
胸の奥がきゅっと締め付けられた感覚が私を襲った。
目の前に広がっていた光景を呆然と眺めていると翠ちゃんの元に歩み寄る人たちがいた。
「あ~、あれはかの有名な光坂三姉妹だねえ」
私の隣で理奈ちゃんが感心したような声を出す。
その三人が出ていくまでその光景を呆然と眺めていた。
それを見たからなのかわからないけれど理奈ちゃんはまた私の頭をぐりぐりしてくる。
「ちょ、ちょっとやめてよ~、理奈ちゃん~」
「何考えてるのかわかりやすいのよ、愛海は」
呆れながらもようやく手を離してくれた。
「愛海は玖墨君が好き、それだけでいいでしょ」
そう言って二の句を継ぐ。
「それに、あの人たちが仮に玖墨君が好きだとしても愛海には関係ないでしょ?愛海は愛海なんだから、ね」
爽やかで温かい笑みを私に向けてくれる理奈ちゃんにお礼を言いながら一緒に帰る。
(玖墨君は私のことどう思ってるんだろう……)
そんな疑問を抱きながら歩く私を雨は覆う。
*
(また、やっちまったわ……)
降りしきる雨を見ながら昇降口の前で立ち尽くす。
(今朝翠に傘返さなきゃよかったかもしれねえ……)
「く、玖墨君!」
そんな後悔に苛まれつつどうしようか悩んでいると
後ろから聞き覚えのある声がした。
パッと振り向くとそこには走ってきたのかどうかわからないが息を切らして肩で息をする愛海がいた。
「ど、どうしたんだ橘?」
「く…玖墨…君、あ…あの…ね…」
「とりあえず……落ち着け?」
肩で息をしている愛海に息を整えるよう促したオレは彼女の言葉を待つ。そして不安そうな顔をして聞いてきたのだ。
「玖墨君って、翠ちゃんのことどう思ってるの?」
急にそんなことを聞かれたオレは内心はぁ?となりつつも素直に答える。
「どうって言われてもあいつはただの友達みてえなもんだが……それがどうしたんだ?」
特に何かあるわけでもないように答えてやるとさっきの不安そうな顔はどこへやら、外の雨とは対照的に明るくなった。
「そっか、よかった~……」
「……何がよかったんだ?」
「……な、何でもないよ」
「??」
まあ、いいか。
不意にオレから顔を反らす愛海に少々疑問を持ちながらもさてこれからどうしようかと思い外を見ると……さっきまでの雨が少しずつ嘘のようにやみ、少しずつ晴れ間が見えてきた。
「マジかよ……」
「嘘……」
二人してそんな情けない声を上げて空を見上げる。
雲の隙間から光が差し込んでいて街を鮮やかに照らしていた。
「……一緒に帰らない?」
いまだ呆けていたオレの顔を覗き込むようにして聞く愛海。
「お、おう。……そうだな、帰るか」
うん、と言ってオレの右隣りを歩く愛海。
雨上がりの陽射しがオレ達を照らしていた。
その光景を恨めしく見ていた人影がいたことも知らずに……。
*
「何で、僕じゃなくてアイツなんだ……!」
そう吐き捨てた後、自分に言い寄ってくる女子たちをかき分けて先ほどまで二人が仲良く並んで歩いていた校門前の光景をにらみつけていた。
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