第6話 恋は盲目になりがち
「今日と言う今日は絶対に許さないんだからね、玄斗……」
いくらか離れて尾行している玄斗達に向かって恨み言を放つこの蒼髪ポニテ長女に無理やり引っ張り出されてるオレが一番可哀想じゃね…?と一人ごちる現在に至る。
「玄斗の隣は私の特等席なのに…!」
(さいですか……)
と心の中で盛大に愚痴る。オレとしてはせっかくのGWに何故こいつらに関わらなきゃならんのかという呆れが圧倒的に勝っている。
「んで、アイツらがどこに向かうのかわかってんのか?」
それを聞いた葵はふっふっふと怪しい笑い声を漏らしながらある一冊のパンフレットを取り出す。
そこにはジェットコースターだの観覧車だのが載っているこの近くの駅から行ける遊園地の案内パンフだった。
「玄斗がこそこそ読んでたのを遠目から盗み見して探し出したの。それに『これ何?』ってカマをかけたら慌てて隠していたからクロね」
(そこまですんのか……)
この姉妹は本当に手段を選ばないおっかない奴らだと認識せざるを得ない。
そうこうしていると目的地に着いたようで玄斗達が遊園地に入ろうとしているようだ。
それに連れ立ってオレ達も入っていく。
GW初日とあってか中は人でごった返していた。
ただ(こう言っちゃなんだが)美男美女のカップルだ。いやが応にも目立つ、いや目立ちまくっている。
さっきから道ゆく人がすれ違うたびに愛海たちを目で追いかけていて挙句の果てにはそれきっかけか痴話げんかしてるカップルまで出てくる始末だ。
改めてあいつがいわゆるイケメンで愛海はその隣に立つのに匹敵する美少女なのだという現実を目の当たりにする。
「私の方が玄斗の隣に立つのにふさわしいんですから……」
と隣で拳を力いっぱい握りしめながらこめかみに青筋が立っている生徒会長様は目の前の光景が気に入らないようだが。
*
というわけでオレたちは玄斗達に気づかれないようにアトラクションに乗りながら尾行しているわけだが玄斗と愛海が遠くから見てもいい雰囲気になっているように見えた時の会長の激怒具合ったら恐ろしい、なんて言葉で形容しがたいものがあった。
怒気だけで周囲にいた客がまるで見ちゃいけないもん(まさにその通りだが)を見たかのようにさっと目をそらしてクモの子を散らすように去っていく。
(ああ、はやく帰りたい……)
そんなオレの想いも空しく次にたどり着いた場所は廃病院をモチーフにした遊園地では定番のお化け屋敷だ。
(そういえばここって前テレビで特集されてた”めちゃくちゃ”怖いお化け屋敷だったな……)
いつかテレビをぼーっと見ていた時にある報道番組かなんかで特集されてたのを思い出す。
ふと横を見るとさっきまでいた奴がおらずどこにいったのか辺りを見回して探すと……魂が抜けたような顔して立ってる葵がいた。心なしか顔が青ざめているように見える。
「大じょ…」
「こ、怖がってなんかないですからね!?」
「だけどあいつらあの列に並んだぞ?行かなくていいの・・・」
「あ、貴方だけでいけばよろしくて!?」
(こいつ、まさか…)
「もしかして怖いのにが……」
「い、いえ大丈夫です。行きましょう」
スタスタとオレを置いて歩いていく。
「あっ、おい、ちょ、待てって!」
ほぼほぼ無理やりと言ってもいいくらいに乱暴な足取りで向かっていく葵を追いかけそのお化け屋敷へと向かう。
……なんか怖くない怖くないとかぼそぼそ言ってる気がするがホントに大丈夫なのか…?
そんなことをしている間にもさっさと列に並んだ葵の隣を何とか陣取ると他の男女二人組であったり家族連れであろう人たちがずっと怖い怖い言っているし何なら子供がギャン泣きするレベルだが一方では表情の変わらないやつ、ましてや楽しみでしょうがないのかニコニコ通り越してニヤニヤする客までいる始末だ。
隣の葵は……言うまでも無い。
さっきからずっとオレの服の裾を掴んで離さない、どころかちぎれるんじゃないかってくらい引っ張っている。
「……怖いなら無理すんじゃねえぞ?」
あまりにもな怖がりっぷりに心配がつい口をついて出てしまった。
が、言葉を発する余裕もないのか裾を掴んだまま首をふるふると横に振っている。
(ほんとに大丈夫なんだろな……?)
というより玄斗のためにここまでやるあたり……
(恋は盲目、ってやつなんかね…)
そんなどうでもいいことを頭に巡らせ、まあ出るまでの辛抱かとため息をつく。
そんなオレたちを含めたグネグネと曲がった行列を形成していく中で十数人ほど離れたところに玄斗達がいたが何やら様子がおかしい。
見た感じ、愛海以上に玄斗が怖がっているようで呆れているような目で見ているようだ。
(ああ~、あっちも怖いけど行くって感じか。……あいつも相当な怖がりなんだな……)
そしてあいつらの番になり建物の中へ消えていく。
ということはオレたちの番も少しずつ近づいてくるということで嫌が応にもおどろおどろしい光景が視界に入ってくる。
オレはそこまで怖がっていないのだが隣の葵はさっきから全然顔を上げず俯いたままである。
「そろそろ順番回ってくんぞ?」
「……うん」
顔を俯かせたまま聞き取るのがやっとの声を出す。
「……ホントに大丈夫なんだろうな?」
そう聞くと、オレのシャツの裾をギュッと掴んでこれまたか細い声をあげる。
「……うん、大丈夫。だけど何かあったら……私を守って……ね?」
さっきまでの威勢はどこへやら、しおらしくなってしまったわれらが生徒会長様が上目遣いで懇願してくる。
……不覚にもドキッとしてしまったのは内緒だ。
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