第5話 バイオレンスは突然に
ゴールデンウィーク、略してGW。
5月にある大型連休のことで元は映画業界が言い出したんだとか。
俺達学生にとっては新生活に慣れ始めた頃合いに訪れる嬉しい連休だ。趣味の時間にあてたりはたまた友人たちとの遊びに使ったり。人によっては恋人と過ごす、なんて人もいるだろう。
だが…今のオレにはそんな貴重な時間をドブに捨てているんじゃないかと言う後悔が押し寄せている。
「玄斗……私を差し置いて他の女と遊ぶなんて……!しかもなんで……」
物陰から共に覗き込んでいる今オレの隣にいるこの蒼髪ポニテ女は目標とされる人物たちを双眼鏡で見る、いやにらみつけながら覗いているが今にも壊れそうな勢いで握りしめている。……恐ろしいな、おい。
遠くにいるカップルの片割れは、こいつら姉妹の想い人である玄斗。そしてその隣にいるのは……
「私じゃなくて、あの女なの……!」
この前とはまた違った私服でその隣を歩く愛海だった。
玄斗の方は、白無地のシャツに黒の薄いジャケットを羽織っており、遠くから見てもいわゆるイケメンと言えるいで立ちだ。それを明るい青のジーンズでさらに際立たせており憎らしく思えるほど整っている。……天は人に二物を与えず、なんていうのがまるで嘘だというのがよくわかる。
一方の愛海は、この前とは違ってノースリーブの純白のワンピースを着ていて自身の黒髪ロングと合わせてまさしく清楚な美少女が漫画から飛び出してきたと言っても過言ではないほどだ。
世間では、美男美女のカップルとか言うが今見えている景色がそれそのものだろう。
だが葵の方も白のブラウスに青色のレディースジーンズを履いているというこっちもこっちでしゃれてるがいかんせん今の表情のせいですべて台無しである。
柄入りの白シャツに灰色ジーンズというシンプルな格好をしているオレがすごく地味で場違いなんじゃないかと思わされるほど整った奴しかおらず思わずため息をつきたくなる。
玄斗が一方的に喋っていて愛海の方が終始顔を少し俯かせている様子を覗き込んでいると玄斗が愛海の手を取り連れ立って歩いていく。
「ターゲットが移動を開始したみたいね……。私たちも行くわよ」
「はいはい……」
表情があからさまに変わってないのが逆にとてつもなく恐ろしいが脅しをかけられている身としては逆らうと後が怖いのでしぶしぶついていく。
(なんで……こうなっちまったんだが……)
今更後悔しても遅いがあの時のオレ、不運にも程があるだろと自虐する。
事の始まりはゴールデンウィークに突入する一週間前、つまり先週にまでさかのぼる。
*
(さて、ゴールデンウィークどう過ごすかねえ……)
放課後、オレは図書室で本(ラノベとか漫画とか)を読んで時間をつぶす。いつもは先に帰って世話になっている居候のために家事をこなすのだがその人が今日は泊りの仕事らしく今日は自分の分だけの食事やら何やらを済ませればいいのでだいぶ気が楽なのだ。
そんな気分転換も終わり、家路につこうと図書室を出た時だった。
蒼髪の女子生徒が何かぶつくさ言いながら廊下を歩いている。
(触らぬ神に祟りなし、と……)
そう決め込んでそいつの反対側を歩こうとすると不意に肩を掴まれたので知らぬ存ぜぬで通そうと試みるが……ダメだった。
爪が食い込んで血が出るほどじゃないかというような力で掴まれてるからしぶしぶ振り向くと……凛々しい顔つきをした蒼髪ポニテ少女の顔がそこにあった。
……表情が変わっていないように見えるが恐らく額に怒りマークが見えるような顔つきでオレをにらみつけている。
「……なんで逃げようとしたの?」
「……別に逃げようとはしてn……ないです、よ?」
「嘘ね……今私を見てマズいと思ったでしょ?」
「……」
(振り向いたら般若がいるとかどこのホラーだよ……後……なんでバレたし)
しょうがないので渋々だがこんなことした理由を聞いてやる。……渋々だがな。
「……で?オレに何か用ですか?葵先輩いや生徒会長様?」
…それは挑発ととらえてよろしいのかしら?と言いつつまあいいわと流し…
「あなた……今週末空いてる?」
そんなことを聞いてくるのだった。
「今週末って……ゴールデンウィーク初日か?」
「そうよ。それ以外に何もないでしょう?」
こいつが急にそんなことを聞いてくるとは……もう嫌な予感しかしないんだが。
「……今週末は用事があるから無理だ」
「ちなみに……断ったら強制的に生徒会に入ってもらうから」
「はぁ!?なんでだよ!?」
唐突にそんなことを言われちゃ黙っていられなかった。
「あなた、部活動に入ってるわけじゃなくしかも委員会にも入っていないでしょう?放課後は時間、有り余ってるでしょう?」
「バイトしてるから無理だっつの!」
「そう」
冷静に返してくる様子から諦めてくれたか、と思っていると……
「でも、毎日というわけではないでしょう?」
「確かにそうだが……」
居候と生活していることはこいつとその姉妹、玄斗は知っているがどんなやつかってことは知らない。……もし知られたりしたらパニックになるであろうことは間違いない。
「なら、大丈夫ね」
拒否権はないから、ときっぱり言われてしまった。背後に般若がずっとにらんでいるように見えるのは気のせいだと思いたい……。
……しょうがない。腹をくくるしかないか。
「……で、その日に何をするってんだ?」
そう言うと、腕を組み仁王立ちしながら高らかに宣言する。
「ゴールデンウィーク特別風紀調査を行うのよ!」
……はい?風紀調査?
「スマン……もう一回言ってくれるか?」
「だから、ゴールデンウィーク特別風紀調査よ。不埒な輩がこの学園から出ないようにしっかり調査・監視し、そして折っ……もとい更生させるのよ」
……今とんでもないこと言おうとして咳払いしてごまかしたな。いやそれよりも……
「ってか、それをなんでオレがやんなきゃならないんだよ?あんた生徒会長なんだから生徒会役員引っ張りゃいいだろ?」
そう言うと、ひどく落ち込んだ様子で細々と言の葉を紡ぐ。
「だって……私以外……誰も……乗って……こなかったんだもん……」
そりゃそうだ。生徒会長の思い付きでせっかくの休日をつぶされちゃたまったもんじゃないしな。
「挙句の果てには……『うちの生徒は大丈夫ですから』って言われてやんわり断られたの……」
……うちの生徒会役員が理性的な人間が多くて良かったな、うん。
まあ、そのせいでオレに飛び火してんだけどな。……恨むぞ、生徒会役員共。
「というわけでやるわよ、調査」
「はぁ……」
力なく息を吐くと
「それと約束通り来なかったら即座に生徒会に入ってもらうからね」
「はいはい……」
と畳みかけるように言葉を重ねてくる目の前の会長様にけだるげに返事をして立ち去る。
このやりとりがあったのがGWに突入する三日前、そして……
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