きみが泣いた、いつかのこと
夕飯の後、しばらく思い思いに過ごしてから、わたしは迷いつつも口を開いた。
「
「うん?」
「今日はさ。何を思い出してたのかな」
大学に行かず、部屋の中で黒い感情を抑えきれずにいた理由は。
「朝は単に、生理がキツすぎて動きたくなかっただけなんだけど。途中で急に、十歳の時のこと思い出してさ」
「うん」
わたしが知らない、花織の傷。
わたしのいない、花織の
ひとつずつ、抱きしめていこうと決めていた。
痛みは分け合った方が軽くなると知ってるから。だから今、わたしに見せて。
「小四、
花織の声が震え出す。彼女の手を握り締める――大丈夫、わたしが受け止めるから。
「すごく嬉しかったから、学校に着けて行ったんだ。けどある日、ロッカーに入れていたはずが無くなっていて。自分の行くところを探し回ったけど見つからなくて。次の日、トイレの便器の中に突っ込まれてるのが見つかって」
泣くのを堪えている。叫ぶのを堪えている。
けど、良いんだよ。わたしに吐き出して、少しでも楽になるなら。
「おばあちゃんが旅立ったばっかりで悲しんでるお母さんに、こんなこと言いたくなかったからさ。家に持ち帰ってこっそり乾かして、翌日からまた着けて行ったらさ。お前もマフラーも臭いんだよって嗤われて」
決壊した。抑えきれず嗚咽する彼女を、強めに抱きしめる。
「良いんだよ。これまでの全部、わたしに聞かせて。花織だけの痛みにしたくないから」
花織は頷いてから、呼吸を整えて話を続ける。
「それからさ。貰えることなんて滅多にない癖に、プレゼント貰うのが怖いんだ。贈られたモノだって、贈ってくれた気持ちだって、壊されちゃうものに思えるから」
贈り物は壊される、それが彼女の世界の法則。
「……だから、わたしが誕生日にあげたときも複雑そうな顔してたんだ」
「そう。最近は家族からも貰えてなかったから、ほんとに嬉しかったんだけど、そのぶん怖くて」
冷たいのに安心して、温かいのに戸惑う。それが彼女の世界の温度。
「そっか、そうだったんだ……じゃあさ、嬉しいだけになるまで贈り続けていいかな」
そんな君の世界を、わたしは変えたいんだ。
贈られるのも、温かいのも、素直に嬉しいって思えるように。
「……先は長いよ、
「それは楽しみじゃない、考え甲斐あって」
花織は呆れたように笑ってから。
「そんな私になれるの、楽しみにしてる」
まだ涙の味がする唇を、そっと重ねてきた。
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