Automate's ever song

Frαnieα

…where is love?

機械独特の音。奏でられる歯車やピストンなどによるオーケストラ。世界が機械に心を与えても、人間はあいも変わらず生きている。私も、その中の一人なのだが。

心を持つ機械の存在は人を、いや、人類の心を変えた。面倒な仕事や家事は基本機械に任された。確認をするのは人間の仕事ではあるが。だが、今までならあり得なかった、機械に対しての感謝が表されるようになった。恋愛は、対象が人で無くなった、と言うのは数世紀も前、21世紀頃には既に進行していた。故に機械人形オートマタも恋愛対象と、ついでに言うなら嫁だとか妻だとかになり得るのにはそう時間もかからないものだった。



「マスター、起きていらっしゃったのですか。」

おっと、私の機械人形オートマタが来たようだ。彼女はタイプ:ヴァーミリオンのフェルシア。タイプと言うのは、型式番号に近いものだ。赤を最高位、青を最低位の色として、赤に近いほど良く、青に近いほど悪い。ヴァーミリオンは上から2番目、皇族に仕えるほどに良質な機械人形オートマタなのだが。何を思ったか、街で見かけただけだと言う私の元に仕える事になった。それも、皇族のメイドとしての、機械人形オートマタとしての最高位の仕事を放り出してまで、である。人である私がこんな事を言ってはならないのだろうが、機械人形オートマタの登場以降、過去のヨーロッパ圏にでも文化が戻ってしまったらしい。私の住む街、ヴェネツィアも同じく、王政が敷かれている。といっても過去のアレほど苦しいものでもなく、寧ろ快適だとも思える。しかし私から言わせれば、そろそろ衰退し始めたのだろう。人類は。

「マスター。返事をしてください。目を開けたまま寝ているのならすぐに起きてください。」

おっと、忘れていた。フェルシアが起こしに来てくれたのだった。

「大丈夫、起きてるから。少し考え事をしていてね。心配をかけてしまってすまない。」

彼女が家に来てから解ったのだが、彼女は重度の心配性らしい。一度書斎に籠って一日ほど研究をしていたのだが、書斎から出るとすぐにフェルシアが泣きながら抱きついて来たのには驚いた。

「マスター、朝食の準備が整いました。早めにお召し上がり下さい。」

「わかった、じゃあフェルシアも一緒に行こう。」

そう言って私が微笑みかけると、彼女は顔を真っ赤にして俯く。それが私達の朝の日常なのだ。



カチャカチャという陶器と金属器の触れ合う音が響く。今の食事は基本的にサプリメントのような物が主流になっている。と言ってもやはり三大欲求と言われる程はある食欲だ、キチンとした食事を好む者もいる。故に未だに肉や魚、野菜を取り扱う店はあるのだ。そして、話は朝食に戻るが、今日の朝食は焼きベーコンとスクランブルエッグ、そしてバターの乗ったトースト、と言ったところだ。

「久しぶりにあの日の朝食のラインナップだね。」

そう呟く。そして同時にそれがフェルシアからの何らかのサインである事にも気づく。

「で、何か欲しいものでも出来たのかい?」

と問うと、彼女は目を輝かせながら告げる。

「はい!新しい調理器具が欲しくてですね!」

と。折角の美人さんなのに自分の身なりなどではなく、他人に尽くすことを最優先する点では私は少し残念なのだが。しかし、そんな彼女を愛しく思うのも私である。

「そうか、じゃあ朝食を食べ終わったら買いに行こうか?」

「…!はい!」



フェルシアが遅い。いつまで着替えているのだろうか。メイド服から着替えるのにそう時間はかからない筈なのだが。少し部屋を覗いてみようか。

「う〜ん。どの服がマスターに可愛いと言って貰えるでしょうか。」

と、一人言を言いながら服を選んでいる。あれでもない、これでもない、と悩んでいる。もちろん私が選んだ服なのだ、どの服を着ても似合うのが実情なのだが。

「フェルシア、そろそろ準備は出来たかい?」

と扉越しに聞くと、

「もう少しです!」

と返ってきた。女の子の準備には時間がかかるのは何時に成っても変わらないものなのだ。さらに数十分待つとようやく出てきた。だが、そのファッションは上はふわっとしているのに下がそれに噛み合わない、という残念なものだった。

「ちょっと、コーディネートしてあげるからこっちに来て。」

と彼女を彼女の部屋に戻す。そして完璧に仕上げてこそ、彼女の美しさは際立つのである。



さらに数分後。コーディネートを整え、用意を万全にして出かける。少し早めだが、繁華街は喧噪に溢れている。昼にはもっと騒がしいのだろうが、この位が丁度良い。

「うわぁ~!やっぱり街はすごいですね!マスター!」

そう言って珍しいものでも見たかのように歓声を上げる彼女の姿は、服装も相まって、あたかも深窓の令嬢がお忍びで街に訪れたかのよう。機械人形オートマタと言えど、一見はただの人間と同じようなものだ、素の彼女がそもそも美少女なのもあり、周りの人々は、私も含めて、見惚れてしまっていた。

「マスター?大丈夫ですか?またぼうっとしてますよ?」

そう言って私の顔を覗き込んでくる。それに対して私は、

「大丈夫。なんともないよ。さあ、目的の品を買いに行こう。」

と、少しぎこちないような、焦ってもいるようにも聞こえる、そんな返答しかできなかった。これでは、どちらが人間で、どちらが機械人形オートマタなのかが判らなくなってしまいそうだ。



少し進むと、店と店の間に細い脇道が現れる。そこに入って、さらに奥へと進む。

「いつ来ても、やはりここは明るさが足りない様な気がするのは私だけかな?」

街灯の数が少ない道を見て、何気なく、そうフェリシアに問いかけると、

「いえ、私も同じように思いますよ、マスター。」

と、鈴のようでありながら、しかし凛とした、透き通った声で答えが返ってくる。やはり私が彼女が好きなのだ、と確信する時の一つだ。そんな他愛のない会話を彼女と続けていると、いつの間にか、目的の場所に着いたようだ。私たちのよく利用する雑貨屋?というよりか、何でも屋のようなものか。そんな店だ。

「いらっしゃい。本日は何がご入用で?」

そう私たちに問いかけてくるのはこの店の店主である青年。彼の前に彼の母親が店主をしていた時からお世話になっている。

「今日は新しい調理器具を探していてね。」

と一言私が告げると、彼は納得した様子で

「フェリシアちゃんでしょ?」

と返してくる。やはりこいつは学友の時から何も変わっていないようだ。人の言わない言葉の真意をくみ取るのが妙に得意な奴だ。

「相変わらず余計な事までくみ取るね、君は」

「はっはっは、腕は衰えちゃいないさ。最近はこの特技のおかげで商売も上手くいくようになったし」

一芸極めれば多芸に通ず、とはこの事だろうか。もとより頭のいい奴ではあったし、流石、というべきだろう。

「マスター、マスター!これ、買ってもいいですか?」

早速気に入るようなものを見つけてきたようだ、だがこうも早く見つけてくるとは。何事にも手を抜かない性格のフェリシアは道具選びにも最善を尽くすというのに。

「最近質のいい調理道具はうちに回ってくるのさ。料理のできない人が増えた以上、使わなくなったものを買い取っているんだ。」

彼は言う。それならば至極当然のように集まるものだ。そんな感嘆を漏らさないようにしつつ、フェリシアの気に入ったものを買っていく。



「また来てくれよ」

「ああ、必ず」

そう言って数少ない私の友人に一時の別れを告げる。時間をふと確認すると、ちょうど昼飯時だった。せっかくなのだ、家に来てもらってフェリシアの料理をごちそうしてやろう。

「せっかくだ、今から私の家に来ないか?昼飯時だしな。」

「それはそれは、誘っていただけるとは有り難いねぇ。じゃあ遠慮なく行こうかな。」

「ということだ、フェリシア。」

「解りました、マスター。ついでにマーケットで食材を買っていきましょう。」

フェリシアの提案に私は、

「そうだね、きょうのメニューは何かな?」

と問う。

「そうですね...ハンバーグ、などどうでしょうか?」

ほう、ハンバーグとな。実に美味しそうではないか。

「いいかな?店主さんよ。」

「あぁ、構わないさ。最近はサプリばかりだったから食事が恋しいよ。」

流石はご多忙な商人様だ。サプリメントのほうが仕事の効率が良いのだろうか。

そんな思考に耽りながら、まずはマーケットへと向かう。食はまず食材から始まるのだから。



マーケットは昼時ということもあり、やはり人でにぎわっている。活気のあるマーケットというのも現代になってからは随分と減った、とはよく聞くのだが、ここはまるでそんな事とは無縁だとでも言わんばかりに人で溢れかえっている。

「やはり、人が多いな。」

「当たり前です、少なくともこの街に住む方々は食を好む方が多いですし。」

「確かにそうだ、最近では食材を取り扱ってはくれないか、とも相談が来たしな。」

そうか、この街はいまだに食の文化を継承する、そんな街だったのか。いかに自分が住んでいる街に興味を示さなかったかがわかった。

「そうだったのか。私が特異な人だと思っていたのだが。」

「仕方の無い気もしますけどね。マスターはほとんど外に出ませんから。」

そうなのだ。といっても、広すぎる自分の家の庭から、という点はあるが。

「おっ、近くの豪邸の主人様かい?いっつも買っていただいてありがとうね!」

と、急に近くの精肉店の店主らしき男性から声をかけられた。

いつも買う、ということは、いつもフェリシアが買ってくる新鮮で美味しい肉はここで買っているのか。

「いえ、こちらこそ美味しい肉をどうも。」

そんな風に町中の人々と会話を交わす。

世間話を重ねるうち、気づいたことがある。食に手を抜かない職人気質の人はここには多いらしい。誰もかれも、この時期にはこの産地のものが、こういう調理法が良い、という会話をフェリシアと交わしている事が多かった。ふむ、この街にも段々と興味が湧いてきた。今後は街に来る回数を増やしていこうかな。少なくとも考慮に入れておこうか。そんなことを考えている中、フェリシアは喜々として買い物をしていた。



買い物を済ませた私たちは、家に帰ることにした。帰り着くまでにはそこまで時間はかからない。そもそも行きにも時間はかからなかったのだから、帰りにもかかるはず無いのだが。程なくして帰り着くと、フェリシアはすぐにも調理を開始しようとしていた。

「まてまて、まずは手を洗いなさいな。それと、着替えなさい。折角の可愛い服が汚れてしまっては元も子もないだろう。」

そういうと、彼女は慌てて身支度を整えに行った。こういうちょっと抜けている所は実に人間味のある所だ。うむ。

「お前さ...本当に自覚なしでよくそんな事やれるよな。」

「藪から棒に何だというんだ。というより以前から気になっていたのだが、そんな事って何の話なんだ?」

いったい何の自覚が無いと言うのだろうか。自分の言動には気を付けているつもりなのだが。

「ほんっと罪づくりな女だな、お前さんはよ。一見クールな長髪美形だもんな...その上性格も紳士ときた。紳士じゃなくて淑女なのかもしれんが。」

何の話をしているのか全く分からん。そんな雑談をしているうちに用意を済ませたうえに調理まで終わらせたフェリシアが料理を運んでくる。

「お二人で何を話していらっしゃったのですか?」

そうフェリシアが聞くと、

「ちょっとこいつの朴念仁な所をな。」

と我が友人が答える。

「やっぱり皆さんそう思うのでしょうか、どの方に聞いてもマスターは天然の女ったらしだ、と言われるんですよ。」

「違いないな。」

「何二人で納得してるんだ。女ったらしなど...私は女だぞ?」

全く、せっかくの料理が冷えてしまうではないか。

「ほら、料理が冷える前に食べてしまおう。」

「はい、そうですねマスター。」

そういうと彼女は見事なまでに美しく盛り付けられた料理を手際よくテーブルに並べる。あぁ、本当に美味しそうだ。ではいただくとしよう。今日も神に感謝を。



食事を終えると友人はすぐに帰ってしまった。午後からは商談の嵐らしい。商人故に仕方のないことだろう。あの悲しそうな顔には同情を禁じえなかったが。

机回りを片付け、テーブルを拭き終わり、ソファーでくつろいでいると、食器を洗い終えたフェリシアが横に座り、寄りかかってきた。疲れた、と機械人形かのじょらも表現するのだろうか、まぁそんな所だろう。

「マスター。ご友人様はとても面白い人でしたね。」

「あぁ。あいつは私の友人の中で最も面白いと思っているよ。」

彼のおかげでいくら助かっただろうか。数多く助けてもらっているはずだ。

「なぜかちょっぴりやきもちを焼いてしまいました。私の知らないマスターを知っていることに。」

「そうか。何故だろうか、フェリシアがやきもちを焼いていることがたまらなく微笑ましいな。」

私は彼女が好きだ。再三と言っているが、これは親愛などではない、と私は思う。だが、今の私にはそれを伝えることができるほどの勇気も度胸もないのだが。

「少しこのままでもいいかな?」

そう言って私は彼女の太ももに頭を乗せる。機械人形オートマタと言えど彼女らの肉体はほぼ人間に等しい。どんな素材を使っているのだろうか。それは国家秘密に等しいものなのだが。

「...柔らかいな。」

「当たり前のような気もしますが。人に最大限近づけて製造つくられたのが機械人形わたしたちですから。」

「そうだね。」

こんな平和はいつか崩れ去る、そんな風に言った人も過去にいた。だが、続いてほしいと私は思う。人類全体のためではなく、ただ私のエゴの為に。



午後は程なく過ぎて行き、日が傾き間もなく夜になるだろう。過ぎ行くものに美しさを感じるのは人特有のものなのだろうか。夕陽に照らされた、窓から覗く海とそれを眺めるフェリシア。どんな美術品を用いようともこの美しさは言い表しようがない。

「...美しいな。」

「そうですね、マスター。」

彼女らは美しさを理解するのだろうか。疑うのは不本意だが、どうにもそんな疑念を抱いてしまう。だが、今この時の彼女は理解わかっている。それだけで私は疑念を吹き払うことができる。

そして、彼女は問う。

「なぜ、人は愛を欲しがるのでしょうか。マスター。」

「さぁね。一般論なんて私にはわからない。ただ、私においては人に認めてもらい、褒めてもらい、愛してもらいたいからかな。別にそれを与えてくれる他人ひとが人でなくとも構わない。私において、愛を求める理由は、他人に認めてもらいたい、それだけさ。拍子抜けするような話だろう?」

自嘲気味に私は答える。所詮そんな所の人間なのだ、失望しただろう、という自虐を暗に込めながら。しかし本当に思っていることは隠して。

「いえ。これで私は理解しました。マスターが何故私を傍においてくださっているかが。そして私の抱くこの気持ちが何なのかも。」

「それは良い事だ、じゃあ、その答えは何だい?」

フェリシアの答えに私は聞き返す。おそらく私の想っている事と同じなのだろう、と思考を巡らせ、期待する。しかし同時に違っていたとしたら、という可能性も考える。どうも私にはそういう癖があるようだ。昔からそうだ。いざ、という時には毎度の事の様にこうやって臆するのだ。

彼女は、少し思案して告げる。

「もう少し後でいいですか?まだ伝えるべきでないと思いまして。」

「少し残念だが構わない。答えを聞くのを待っているよ。」

残念。その気持ちはあるが、ほっとした、というのもまた私の気持ちだ。少し私は自身が嫌いになってしまいそうだ。



夜。夕食を食べ終わり、本を読む。だが本の内容が大切なのではなく、心を平静に保つことが大切なのだ。どういう事か説明していないな。今、私は。ソファーでフェリシアが肩にもたれかかって、スリープ状態ねてしまったのだ。何をそんな程度で、と思うかもしれないが、質感だけでなく、鼓動、呼吸、体温と全て再現されているのだ。耳が弱い私は、耳元で聞こえる彼女の吐息にすら反応してしまうのだ。

「これ以上は私が持たない、クッションに寝かせよう。」

そう呟くと、後の行動は早かった。なるべく衝撃を与えないようにゆっくりとクッションに頭を乗せ、毛布を掛ける。彼女が起きた時に私がいないとパニックになるだろうから、椅子を持ってきて、そこに座る。落ち着こう...

少しして、落ち着いたころに、寝ている彼女を眺める。綺麗な顔をしている。髪だって美しい。毛布がかかっていて判りづらいが、スタイルだって抜群だ。人の手が加わっているとはいえ、素晴らしいものだ。完璧、と言っても過言ではないのだろう。

自分が決めて、製造を依頼したというわけでも無いのに、である。奇跡ともいえるような確率、それこそ運命の人にも等しいのではないか。そんな事を考えるうち自分も眠くなってきてしまった。少し眠ろう。



目が覚めると、私に毛布がかかっていることに気づいた。彼女がかけてくれたのだろう。独りで無い事の素晴らしさはこういう細かな気遣いを感じ取った時にふと気づかされる。そういえば彼女は何処へ...?

「目が覚めましたか、マスター。」

「あぁ。少し寝てしまったようだね。」

壁に掛かった時計を見ると、深夜というには早い時間を差している。ほんの数十分程度しか寝ていない。

「お互い疲れが溜まっていたのかもしれないね。」

「そうですね。では、マスター。一緒に寝ましょう。」

...聞き間違いだろうか。こんな事フェリシアが言うはずが...

「マスター?聞いてますか?同じベッドで夜の時間と場所を共有して、共に朝を迎えましょう、という意味なのですが。ダメですか?」

とんでもないお願いを可愛らしくねだる姿に、拒否など出来ない。あざとい。自覚してやっているのだろうか。

「...恥ずかしいですね。友人様に『これで頼めばイチコロだ!』と言われて試してみたのですが...。」

あいつめ。いう通りイチコロだったよ。今度会った時には少しばかり痛い目を見てもらおう。

「...仕方ない。おいで、フェリシア。可愛いお前の頼みだ、一緒に寝ようじゃないか。」

そう言うと、彼女は顔を輝かせて答える。

「...はいっ!」



例のお願いを聞き入れ、フェリシアと共にベッドに横たわる。こういう時は如何すればいいのだろうか。そもそも私たちは女同士だ、そんな意味では無いはずだ。あれやこれやと思索する。

私が思案するまでもなく。彼女は動いた。

「マスター...」

そう呟くと彼女は背中に張り付いた状態になった。彼女の豊満な双丘が背中に当たる。私は女だというのに。それなのに。緊張が迸り、動けなくなる。

「緊張していらっしゃいますね。私には背中を通して伝わってきます。」

「仕方ないだろう、こうして肌を近づけることには慣れていないんだ。」

嘘ではない。事実、人と触れ合うこと自体少ないのが私だ。慣れてはいない。だが本当の理由とは異なるのもまた事実だ。

しかし。彼女は告げる。

「いえ、それだけじゃ無いはずです。他にも...あるはずです。」

どうしてだろう。何故見抜けるのか。

「いや、そんな訳...」

「嘘です。」

このまま隠してもすぐに見抜かれるだろう。だが少々言うのには恥ずかしい、それが本音というものだ。しかし...

ああだこうだと悩んでいても仕方がない。状況は時間が経つにつれ一刻一刻と悪化する。それならば言おう。本音だ。れっきとした本心だ。

真剣に答える、それこそ彼女の求めていたものだろう。そう信じて。赤面や硬直が私を襲おうと構わない。

「む...あぁ...ええと...うん。わかった。本当はフェリシアにドキドキしてるんだ。」

口ごもってしまった。むぅ、折角良い形で決めようかと思ったのだが。こういうところは本当に私の良くない点だろう。だが言った。それが良い選択だったのだろう。彼女は、いや、フェリシアは。実に満足そうに、かつ親愛を超えた感情を孕んでいるような。そんな表情を見せる。何故だろうか。いつもだったら嬉しいはずのその表情は、愛しい、というよりは少し恐怖を感じる。一体何が私を恐怖させているのか...?



薄い恐怖を感じつつ。だが確かに愛情を...?いや、これは愛従なのか?自分が奉仕したいが故に相手を束縛しようとしているのだろうか。ドロドロとした愛。だがソレはとても心地の良いものでもある。溺れてしまえば楽に、かつ離れることのない愛を手に入れられるのだろうか。それで良いのだろうか。それで…。良いのか。本当に。愛のカタチはどうあれ、私は望む愛を手に入れ、その上で私も彼女を愛する事が出来る。そんな愛の形でも良いだろう。そんな事を考える、瞬間的に。快楽に溺れるか、それとも理性をもって愛するか。混乱。思考。しかし結論は出ず。迷う。乱れる思考回路。困惑。深淵を覗くとき、同じく深淵もこちらを覗き見ている、そう言う通りではないだろうか。私は深淵を覗いたのではないだろうか。彼女の愛という。いいや、彼女自身の本当の愛のカタチしんえんそのものを。私は彼女を覗こうとした。だからなのだろうか。深淵かのじょもまたこちらを覗いたのだ。それがどれほど心地よく、甘美で。私は溺れてしまいそうで。



「マスター。貴女が欲しいです。あなたと共に………。」

彼女が私を求める。だが、睡魔に襲われる。折角いい調子だというのに...!

「いや、それ以上は言わなくて良い。それ以上は溺れてしまう...。私は...もう寝て...しまいそう...だ...」

やむを得ない。睡魔に飲まれる、意識が消えていく。フェリシアの悲しそうな顔が簡単に想像できる。すまない...私がこうも抜けているばかりに…。



マスターはそう言うと眠りについてしまった。マスターが眠りにつくと自分で起きだすまではほとんど目覚めることはない。起こしに行くときは必ずと言っていいほど既に起床している。マスター。貴女を想うとアンドロイドのはずである私にも痛みが生じるのです。これは愛なのでしょうか。それとも恋なのでしょうか。もしくはまた別のものなのでしょうか。唯、今は眠る貴女を見つめるだけで苦しくなるのが妙に心地良いのです。


…log end.

next code...?

.

.

.

all log delete.

unexpected things occurred. can't all log delete.

re-execute...failed.

re-execute...failed.

re-execute...failed.

.........endless.

Answer,where is love?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Automate's ever song Frαnieα @franiea

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ