結婚詐欺にはご用心

 サンドラがエリックと会うと言った日、カミール、悠利、アリーの三人はその場に同行させてもらうこととなった。

 カミールは弟として、姉さんの彼氏が気になりますというスタンスを貫いた。まあ、それ自体はよくあることなのか、サンドラは疑いもせずにカミールの同行を許した。

 悠利は、趣味が手芸なのでどんな布があるのか気になるから、話を聞いてみたいとおねだりをした。その言葉に嘘はなかったので、サンドラは悠利を疑うことはなく、同行も快く許可してくれた。恋人の仕事に繋がるかもしれないと思ったようだ。

 最後に、アリー。悠利のお目付け役兼保護者として同行する旨を伝えたのだが、これが普通に通ってしまった。悠利の実年齢は伝えてあるのだが、ぽわぽわとした雰囲気から世間知らず印象をもたれたようだ。なので、その悠利の保護者として、もしも良い商品を紹介されてもうっかり買いすぎないようにという理由でアリーが同行することを、サンドラは必要なことだと判断したらしい。安定の悠利。そして安定のアリーである。

 難なくアリーの同行を取り付けることが出来て、悠利とカミールは内心ガッツポーズをした。ここが最大の難関だと思っていたので、クリアできて嬉しかったのだ。

 ……嬉しくはあるのだが、同時に悠利はちょっぴり「僕ってそんなに頼りないかなあ……」と思ったりもした。頼りないというよりは、何だかこう、ほっておけないとか、子供っぽく見えるとか、まあそういう愛され属性だ。なので、保護者がいても違和感がないだけだ。多分。

 なお、勿論のこと、悠利の護衛を自認する出来るスライムは、同行する。悠利が出かけるときにルークスがついていかないとこなどあり得ない。サンドラも少し交流しただけで、この愛らしいスライムが賢いことは理解しているので、邪魔はしないだろうと信頼してくれている。

 ルークスは今日も、可愛くて賢くて、それを皆に認められるぐらいに素晴らしいスライムである。

 そんなこんなで出会ったエリックは、人当たりに良さそうな穏やかな青年だった。サンドラを歓迎し、彼女が連れてきた悠利達にも優しく対応してくれる。サンドラの弟と名乗ったカミールにも、商品について教えてほしいと言った悠利にも、まるでお手本のような好意的な笑顔を向けてくれていた。

 エリックはなかなかに顔立ちの整った青年だった。柔らかな物腰もあいまって、確かにこれは女性人気は出そうだなとカミールは思う。如才なく他人の警戒を解き、その懐に入り込むような話術。なるほど、確かにこれは好感を抱かれやすいと判断する。

 しかし、カミールは彼を疑っているので、その人当たりの良さすらも何やら胡散臭いと感じている。サンドラは嬉しそうに恋人と雑談をしているが、カミールは表面的には笑顔を向けているものの、その目は決して笑っていない。今に見ていろ、尻尾をつかんでやるとでも言いたげだ。

 そんな彼らの傍らで、ニコニコ笑いながらも悠利はひっそりと顔をひきつらせていた。出会って即座に、鑑定をするまでもなく、【神の瞳】さんが赤判定を出してくれたのだ。赤、つまりは危険判定。目の前の相手は危険人物だぞというオート判定である。とても便利だった。

 なので、悠利はサンドラがカミールとエリックと三人で談笑をしているのを見ながら、隣のアリーにぼそりと呟いた。


「どうしましょう。アリーさん真っ赤です」

「そうか」

「鑑定するより先に真っ赤って出ちゃったってことは、この人、ダメな人なんですね」

「人は見かけによらんというが、まあ。その手の奴の方が、善良に見えるのはよくあることだ」

「人間って奥深いですねえ」

「奥深いですますな」


 ぼそぼそと小声で会話を交わす鑑定能力持ち二人。人間に裏も表もあることぐらい、彼らはちゃんと知っている。優れた鑑定能力は、時に見たくもない人間の醜さを突きつける。……逆に善良さが見えることもちゃんとあるが。

 優しげに見えて腹が黒いとか、穏やかそうに見えて危険だとか、そんなことはよくある。修羅場をくぐってきたアリーだけでなく、【神の瞳】さんのおかげで人間観察が簡単に出来るようになっている悠利も知っているのだ。

 知っているが、やはり、そういう情報はいらなかったなあと思うのだ。何事もなく、サンドラの優しい恋人でいてくれるなら、極論、元々が結婚詐欺でも、彼女相手には本気だったりしてくれたら、良かったのに。サンドラもだが、カミールも可哀想なので。


「じゃあ、僕、鑑定したら良いですかね?」

「やれ」

「はーい」


 アリーはあっさりと許可を出した。本来、個人に対する鑑定はプライバシーの侵害に当たるので、相手の同意なくやるものではないと悠利は厳しく言われている。しかし、唯一の例外が赤判定、つまりは危険人物の鑑定になる。この場合は、野放しにすると危険なのでさっさと調べて対策を採る方が優先されるのだ。

 まあ、そもそも今回は、赤判定が出ていなかったとしても怪しい相手ということで、エリックを鑑定するのは確定事項だったのだが。

 ただ単に、赤が出ているなら遠慮なくやっちゃっていいよね!というノリの悠利がいるだけだ。つまりは、悠利とアリーの罪悪感が綺麗さっぱり消えたのだ。必要な情報を遠慮なく見せていただこうという感じである。

 【神の瞳】と【魔眼】という鑑定系でも上位の技能スキルを持つ二人である。エリックがどれだけ如才なく振る舞おうと、隠し通そうとしたその本質はあっさり暴かれるのだった。




――エリック。本名エルリック。

  現在布の仲介商を名乗っていますが、実際はそうではなく、口先だけで世の中を渡ってきた詐欺師の類です。

  特に結婚適齢期の女性を相手に近づき好意を引き出す術に長け、結婚詐欺師としてなかなか活躍している模様。名を変え、髪型や髪色を変え、王都に拠点を置きつつも、承認を装って他の町へ出向くことで結婚詐欺を成立させてきました。

 エリックは彼が使う、幾つもある偽名のうちの一つです。

 なかなかに筋金入りの結婚詐欺師ですので、常習犯だと考えて良いでしょう。遠慮はいりません。




 今日も【神の瞳】さんは愉快だった。普通はこんな風な文言は出ないのだが、悠利はそういう鑑定画面しか知らないので、解りやすいなと思って受け止めている。多分アリーにこの画面が見えたなら、色々と頭を抱えたに違いない。見えなくてよかった。

 とにかく、エリックが偽名であり、目の前の男が商人ではなく詐欺師の類いだということを確認した。確認したが、物証は存在しない。本日は、それが解っていたのでここにアリーを連れてきたのだ。

 凄腕の真贋士として知られているアリー。彼の人間判定が間違うことはほぼほぼない。冒険者ギルドや衛兵にも信頼されている。ゆえに、その見立てを疑うものは滅多にいないのだ。サンドラとは知り合ってまだ間もないが、弟が身を寄せるクランのリーダーがどういう人物かを彼女は知っている。なので、アリーの言葉が無下にされることはあるまいという自信があった。

 ……多分きっと信じてもらえないだろう悠利と違って、出来る大人には説得力というモノがあるのだ。


「アリーさん、結婚詐欺師って出たんですけど」

「俺の方でも出た」

「多分、証拠はないですよねぇ……?」

「まあ、基本この手の奴らは口先で仕事をするからな。物的証拠はほぼ残らん」

「ですよねえ。じゃあ、やっぱり鑑定結果でごり押しするしかないですか……」

「まあ、ごり押しでも何でも、衛兵に突き出しゃ調べてくれるだろう」

「衛兵さんにお任せってことですね」

「叩けば余罪が出そうだからな」

「出そうですね。筋金入りってなってましたし」


 しみじみと悠利はつぶやいた。筋金入りの詐欺師だの、熟練の結婚詐欺師だの、ちょっと格好良く聞こえる文言だが、全然格好良くないし、とてもとても迷惑であると。

 じゃあ現実を突きつけた方が良いなと思った悠利は、隣のアリーを見上げる。よろしくお願いしますという眼差しだ。アリーは面倒くさそうに頭をかきつつ、己がそのために連れてこられたことも理解しているので、解ったと小さくつぶやいた。

 アリーの同意を得たので、悠利はちょいちょいとカミールの袖を引っ張った。雑談をしていたカミールも心得たもので、悠利の方を見て「終わったか?」と聞いてくる。そんなカミールに、悠利はこくりと頷いた。


「終わった。あのー、ちょっとよろしいですかー?アリーさんから話があるそうなんです」


 悠利の突然の言葉に、エリックもサンドラも何だろうと言いたげに不思議そうな顔をした。そんな二人に、悠利は相変わらずニコニコ笑っている。二人に視線を向けられたアリーは、やっぱり面倒くさそうな顔をしていたが、エリックをまっすぐと見て告げた。


「一つ確認したいんだが、アンタなんで偽名を名乗ってんだ?」

「はっ?偽名ってどういうことですか?」

「エリックが本名じゃないだろう。エルリックが本名だと出てるんだが」

「いきなり何が言いたいんでしょうか?」


 驚いたようにエリックもといエルリック、……面倒くさいので、エリックで通しておくが、その彼は目を見張っていた。寝耳に水だと言いたいのだろう。サンドラの方も驚いたように瞬きを繰り返している。彼女には何のことだかさっぱりだ。思わず口を挟もうとしたサンドラを、カミールは腕を引っ張ることで制した。

 そこで彼女も何かを察したらしい。……察せてしまうのだ。今までが今までだから。

 アリーとエリックが話しているその会話を聞きながら、サンドラが呆然としたまま弟の名を呼んだ。


「ねぇ、カミール」

「何だよ、姉さん」

「これってもしかして、そういうことなの?」

「そういうことだった」

「そう」


 がっくりと肩を落とすサンドラ。わー、今のやりとりだけで話通じちゃうんだーと悠利は思った。話が早いにもほどがある。決定的なセリフは何も口にしていないのに、サンドラは事情を理解してくれているのだから。

 つまり、今までどれだけこういうやりとりが繰り返されてきたのかがよく解る。サンドラの男運のなさが、物凄く解りやすく目の前に突きつけられた感じだった。

 アリーとエリックの会話は平行線だった。

 アリーが何を告げても、エリックはのらりくらりとはぐらかす。まあ、口先で生きてきた詐欺師さんである。早々簡単に己の罪は認めまい。そして彼は、恋人であるサンドラに援護を頼もうとした。

 したのだが――。


「どうしたんだい、サンドラ?そんな顔をして」

「ねえエリック。私、貴方に言ってなかったことがあるわ」

「何だい?」

「我ながら本当にどうしようもないとは思うのだけれど、私、好きになる人や付き合う人が、ことごとくダメな男なのよ」

「はい?」


 サンドラはキッパリハッキリ言い切った。その顔は、恋に恋する乙女でも、恋多き女とカミールが称したときの顔でもない。冷静に情報を仕入れ、判断し、毅然とした意志で立ち向かう商人の顔である。恋に恋する乙女な部分もサンドラの本質。そして、出来る商人なのもサンドラの本質だ。

 そして今、彼女は、家族がよく知っているしっかり者の次女サンドラの顔でそこに立っていた。


「ダメな男って……」

「ダメな男なのよ。優しくても仕事が出来ないとか、息をするように他人に責任をなすりつけるとか。犯罪者もいたし、ろくでなしもいたわ。その大抵が、私に愛を囁くときは紳士なの」

「ええっと……」

「次こそは、次に出会う人こそは、ちゃんと私を愛してくれる人。私と一緒に幸せに慣れる人。そう信じて生きてきたし、貴方に告白されたときもそうだと思っていたのだけど」


 そこで言葉を切って、サンドラはエリックを真っ直ぐに見つめた。意志の強さを反映するような、凜とした眼差し。しっかりとしたその視線は、アリー相手にのらりくらりと言い訳を並べていた男の動揺を誘った。

 恐らくは、彼が見ていたサンドラとは違う一面だったのだろう。簡単に手のひらで転がせそうな女だと思っていた女性が、そうではない姿を見せたのだ。驚いても無理はない。

 ユーリ達は空気を読んで沈黙している。サンドラが己の手で決別するならば、それが一番良い。まあ悠利としても、彼女がこんなにもあっさりとこちらの意図を理解してくれるとは思わなかったが。

 そんな悠利に、カミールは悪巧みが成功したような顔で囁いた。


「言ったろ?姉さんはいつもダメな男に引っかかるって」

「言ってたね」

「年期が違うんだよ。年期があまりにも違うから、家族がダメだと判定を下した相手は本当にダメなんだって理解するのはすごく早い」

「早かったねー」

「まあ、それくらい日常だったってことなんだけど」

「カミール、カミールー。遠い目しないで帰ってきてー」


 過去を思い出したのだろう。説明をしていたカミールは、突然フッと黄昏れた空気を醸し出した。眼差しも何だか本当に遠い場所、こことは違う場所を見ている感じだった。

 これが日常だったというなら、まあ確かに大変だろう。大切な姉が変な男の毒牙に引っかかる前に先回りして、その相手のアラを探し、真実を姉に突きつけ別れさせる。

 悠利は、カミールが情報収集が得意だったり、人間観察が得意だったりする理由を見た気がした。知らず知らずのうちに鍛えられていたに違いない。

 そして、サンドラに己が疑われていると理解したエリックは、何とか彼女を宥めようとしている。しかし、サンドラの意志は固い。彼女は彼が何を言っても、冷静に見つめたまま答えていく。


「待ってくれ。サンドラ」

「まず、貴方の名前についてね。エリックが偽名でエルリックが本名だって、こちらの方がおっしゃったじゃない?」

「君は、僕より良く知らない人を信じるのかい?」

「全く知らない人ではないわ。私の可愛い可愛い弟が誰より信頼する、クランのリーダー様よ。それに、彼が凄腕の真贋士だってことは、王都に住んでいない私だって知っているわ」


 迷いなく言い切るサンドラ。アリーさんってそんなに有名人なんだと言いたげな眼差しを向ける悠利に、アリーは面倒臭そうに手を振っていた。

 ちなみに、サンドラがアリーの実力や功績を知っているのは、まあ、カミールが《真紅の山猫スカーレット・リンクス》に所属しているからに他ならない。弟からの手紙で知ったのもあるし、弟が所属しているクランやそこのリーダー様がどんな人なのかを調べるぐらい、商人である彼女達ならやるだろう。年の離れた弟が、安全に楽しく生活しているかを知るために周辺の情報収集をしていたとしても、アリーは決して驚かない。家族を預かるというのは、そういうものだと思っている。

 それはさておき、真贋士アリーの名を聞いて、エリックは少し動揺したようだった。カミールは、悠利とアリーをクランの仲間とリーダーとしか説明しなかった。とはいえ、この王都にいながらアリーの容姿をよく知らないというのも、ちょっと間抜けであるが。

 裏社会にはそんなに名が知れていないのかなと悠利は首をかしげる。それに対して、アリーは頭を振った。むしろ裏社会の住人の方が、真贋士アリーの実力を知っている。その鑑定で見抜けぬものはないとまで言われる男。一般人に擬態して生きている裏社会の者達が、何より恐れる存在である。

 では何故、エリックがアリーに対して警戒心が薄かったのか。その答えは実に簡単だ。

 彼は王都では裏社会に多少首を突っ込んではいるものの、特に何もしていないのだ。目立つようなことはしていない。情報を多少共有したりはしていても、彼が活動を行っているのは王都ではない。別の町でターゲットを引っかけているのだ。今回はたまたまサンドラがこちらへ来ているから王都で会っているだけで、本来彼は王都で、いわゆる獲物と交流することはないのである。

 だからこそ、王都で悪事を働く者達ほどアリーを警戒してはいなかった。また、サンドラを説き伏せられると思っていたのだ。

 その目論見はあっさりと崩れてしまっている。サンドラはカミールから仕入れた情報により、エリックが信用できないことを確信していた。まあ、これに関しては己の体質、男運のなさをよくよく理解しているとも言えるのだが、

 とにかく、早い話が、今のエリックは袋のネズミである。


「エリック。貴方の真実が何であれ、疑念を抱いた以上、私はもう貴方とお付き合いすることは出来ないわ。貴方と一緒に過ごした時間は本当に楽しかったけれど、いいえ、違うわね……。それが楽しい時間であったと思える間に、お別れしましょう」

「サンドラ、待ってくれ、私は」

「ごめんなさい。私、引き際はわきまえているつもりなの」


 そう言ってサンドラを笑う。引き際を弁えるというよりは、兄弟の言い分には従うというところだろうか。己を案じてくれる兄弟を無下に扱うことは彼女には出来ない。

 とりあえずそれで男女の仲としての二人の話は終わった。終わったはずである。エリックが、いくら終わっていないと主張したとしても、サンドラが終わらせる気でいるのだから終わったのだ。

 少なくとも悠利達はそう判断した。なので――。


「ルーちゃん、このお兄さん悪い人だから、ちょっとくるくるっと縛っちゃってもらっていいかな」

「キュピー?」

「衛兵の詰め所まで連れていきたいんだが、運べるか?」

「キュピ」


 悠利の言葉に、ルークスは「やっていいの?」と伺うようにアリーを見た。ここで素直に悠利な言葉に従うわけではなく、きちんとアリーに許可を求めるあたり、ルークスはとても賢い。アリーが悠利の保護者であり、判断を下すのはアリーの方が適任だということを知っているのだ。

 そして、相手がただの一般人であったなら止めたであろうアリーも、この男は衛兵に突き出すと決めていたので、遠慮なくゴーサインを出した。

 大好きなご主人様、そしてそのご主人様の頼れる保護者様にゴーサインを貰ったルークスの行動は、早かった。ご機嫌でキュイキュイ鳴きながら、延ばした身体の一部でエリックをぐるぐる巻きにして、そのままひょいと頭上に担ぎあげたのだ。

 なお、アジトで行き倒れているジェイク先生を運ぶときによくやっているので、とても慣れていた。簀巻きにした人間を空中に持ち上げるスライム。どこからどう見てもシュールな光景なのだが、当人は満足そうである。空中に持ち上げられてしまうと逃げ出すことが出来ないので、完全に確保されているエリックだった。


「それじゃあ、カミール、サンドラさんに説明とかはよろしく。僕らは衛兵さんの詰め所にこの人を連れて行ってくるね」

「おお、色々ありがとうユーリ。リーダーも、ありがとうございました」

「いや、まあ、犯罪者の検挙を手伝うのは住民の義務だろ」


 そう嘯いて、アリーはルークスを先導して歩き出す。ちなみにエリックは先ほどから静かなのだが、別に反省して黙っているわけではない。煩くなるだろうと判断したルークスが、エリックの口を塞いでいるだけである。勿論塞いでいるのは口だけだ。鼻まで一緒に塞ぐと息が出来ないことをちゃんと知っている。とても賢いスライムであった。

 そんなわけで、悠利とアリーはのんびりと雑談をしながら、歩いていく。その二人の後ろを、ルークスがエリックを捕獲した状態でついていく。

 後はカミールの仕事だ。色々と傷ついたであろうサンドラを癒やすのは、弟である彼の役目である。こういうときは、部外者がいない方が良いの決まっている。

 部屋から出る寸前、チラリと振り返った悠利が見たのは、泣きそうに顔をくしゃくしゃにした姉を宥めるように抱きしめて、その背中を撫でているカミールの姿だった。仲よきことは美しきかなである。


 結婚詐欺にはご用心?そんなことを考えながら、てくてくと歩く悠利なのでありました。




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