出来るお姉さんは男運がありませんでした

 カミールが、姉サンドラをアジトに連れて来てから数日後。悠利達は真剣な顔でリビングで膝をつき合わせていた。

 この場にいるのは悠利と見習い組の四人だけ。彼らは普段から行動を共にしているので、こうして一緒にいても特に変ではない。ないのだが、普段見せないような真剣な雰囲気に、何かあったのかな?と視線を向ける仲間達がいる。

 しかし、あくまで視線を向けてくるだけで、子供達の集まりに首を突っ込むことも口を出すこともなかった。もしも何か困っていたのならば、向こうから言ってくるだろうという判断である。

 《真紅の山猫スカーレット・リンクス》の面々は基本的に善良で、まぁ恐らくは、どちらかというとおせっかいが多いのだが、だからこそ仲間との距離感は適切に考えている。助けを求められていないときに、無理矢理割り込むことはしない。

 勿論、一人で悩んでいるようであったならば、声をかけただろう、けれど、少なくとも悠利達は五人で膝を突き合わせている。ならば、自分達で何とかするだろうという感じだ。

 さて、そんな悠利達であるが、彼らは今報告会の真っ最中だった。議題はカミールの姉サンドラの彼氏、エリックという名の布の仲介商のことである。


「皆、協力してくれて本当にありがとう。視点が違うから、手に入った情報も違うと思うんで、すり合わせというか、共有をしたい」

「それは僕も同感。聞き込みに行っている場所も違うだろうしね」

「むしろそれぞれの得手が違うからこそ、俺らに頼んだんだろう?なぁ、カミール?」

「あぁ、そうだよ」


 ウルグスの言葉に、カミールはこくりと頷いた。同じ見習い組の仲間で、カミールが頼みごとをして行動を共にしていても姉に怪しまれない。それが皆に最初に説明した理由ではある。だが、それ以外の理由もあった。生まれも育ちも違う彼らである。要は、テリトリーが異なるのだ。テリトリーが異なれば手に入る情報も違う。カミールはそれに期待したのである。


「まず僕から。市場で出会う主婦の皆さんとかに聞いてみたんだけど、概ねに好意的な感じかな?人当たりも良くて、勧めてくれる商品も悪くないって」

「あれ?商人相手の仲介しかやってないんじゃないのか……?」

「うん、どうもね、布が欲しい人にどういう布がその用途に向いているかっていう相談に乗ってるみたい。その流れで、該当する商品を取り扱ってるお店の紹介とかをしてるんだって」

「一応仕事をしてんのか」

「みたいだね」


 悠利の答えにカミールは真剣な顔で呟いた。どうにも彼は、今まで姉に関わった様々なダメ男を見てきた経験から、エリックに何か引っかかるものを感じているらしい。何かこう、裏がないか気になるのだろう。しかし、少なくとも井戸端会議などで悠利がお世話になる主婦の皆さんから聞いた話では、特に問題はなかった。

 ただし――。


「ただねえ、お婆ちゃんは胡散臭いみたいなこと言ってたんだよね」

「お婆ちゃんって、あの市場の端の方で道楽でお店やってるあのお婆ちゃん?」

「そのお婆ちゃん」

「気に入らない客は箒で追い回して叩き出す、あのお婆ちゃん?」

「僕は一度も見たことないけど、皆がそう言ってるお婆ちゃん」


 カミールのちょっと物騒な台詞に、悠利は真顔で答えた。皆がそういう風に、頑固で偏屈で怖いお婆ちゃんだというけれど、悠利にとっては孫のように可愛がってくれる優しいお婆ちゃんである。この辺りで見かけないような珍しい食材も取り扱ってくれているので、大変助かる。

 なおカミールが言っているのは嘘ではなく、気に入らない客は本当に箒を使って外へ叩き出しているようなお婆ちゃんだ。悠利相手のときの態度だけが、例外なのだ。

 それはともかく、このお婆ちゃん、老後の道楽で市場で店を開いているのだが、若い頃はそれなりに名の知れた商人だったとか。今はその店やら人脈やらを息子夫婦に譲っているそうで、ご本人は王都で気楽にのんびりと生活中だ。

 つまりは、人を見る目に長けているお方である。そのお婆ちゃんからの胡散臭い判定。カミールは思わず眉を下げた。嫌な予感的中かな?みたいな顔である。的中しているかもしれないのが、そうじゃなければ良いなぁと悠利達は思った。カミールがあまりにも不憫なので。


「それで、具体的にどういう感じで胡散臭いって?」

「何かねぇ、『商人は腹が読めないのは普通だけど、それにしたって考えてることと顔が合ってないような気がする』とか、『アレは流れるように人を騙したり、普通の顔で嘘をつく類の人間に見える』みたいなこと言ってた」

「なかなかの酷評だなあ……」

「まあ、あくまでお婆ちゃんがそう感じたってことらしいから。後、そうだね。既婚者さんには普通に親切で、独身の若い女性には特に親切みたいなことは皆が言ってた」

「あぁ?女好きか何かかよ」

「どうだろう?」


 途端にカミールの機嫌が悪くなった。姉が入れあげている男が女ったらしであるのは、あまり嬉しくない。エリックが、特に何も問題を抱えておらず、姉と上手に添ってくれるなら文句はない。しかし、女遊びが激しいとか、ちょっと身持ちがアレだったりするというのなら、全力で排除させてもらうまでである。彼は静かに燃えていた。

 その姿を見て、カミールって、やっぱりお姉さんのこと大好きだなあ悠利は思った。口には出さなかったけれど。これは悠利だけの感想ではない。その場に居合わせた見習い組全員の感想だ。口では何だかんだ言いつつ、カミールは姉をとても心配しているのだろう。そうでなければ、悠利達を巻き込んでこんな風に姉の彼氏の身辺調査をやったりなんてしない。

 ちなみに、今までがどういう風だったのかを聞いたら、姉達が情報を引き出し、カミールがその男の周辺の調査をするというのが鉄則だったらしい。未だ子供のカミールなので、姉の彼氏の周りをウロチョロとしたところで、微笑ましく見守られるだけだったとか。

 まぁ、この見た目だけは上品な貴公子みたいな少年は、幼いと思って侮ると大変なことになるのだが。商家で育った少年は目端が利くし、情報収集はお手の物なのだから。

 それにしたって、それが日常になるほどにサンドラがダメ男を引いてしまうのは、何故なのか。男運が悪いと言うが、限度というものがある。言ってもどうにもならないが。


「とりあえず、僕の手元にある情報はこんな感じ。少なくとも表向き、人当たりは良さそうだし、特に女性からの好感度は高そう。これといってナンパって感じはないけど、女性には親切って感じみたい」

「了解。その親切さで姉さんに近づいたって感じか……」

「だねー」


 ぼそりとつぶやくカミール。彼には色々と思うところがあるのだろう。

 しかし、すぐに気持ちを切り替えたのか、情報の共有に戻る。カミールに視線を向けられたヤックは、次は自分の番だなと理解して報告を始めた。


「オイラが聞き込みをしたのも、まあ悠利とあんまり変わらない場所だよ。ただ、オイラはお店やってる人たちとか中心に聞いてみた」


 ヤックは、市場の辺りで働いている人々に可愛がられている。「まだ小さいのに、いつも一生懸命頑張っているねぇ」という意味合いで、とても可愛がってもらっているのだ。なので、聞き込みも自然とその辺りになるらしい

 場所は被っているが、聞き込みをしているターゲットが悠利とは違うので、拾ってきた情報も異なる。


「カミールのお姉さんの話だと割と前々から王都に住んでたみたいな感じだけど、オイラが聞いたのだとちょっと違うんだよね」

「違う……?」

「少なくとも建国祭より前には見てないって」

「あぁ?」


 眉を跳ね上げ、何だそれと唸るカミール。良家の子息のように見える整った顔立ちで、不機嫌丸出しで凄まれると微妙に圧が増える。ヤックはその圧にビクッと反応して、一瞬言葉に詰まった。

 そんなカミールの眉間の皺を、悠利の足元に控えていたルークスが身体の一部を延ばしてぐりぐりと突いた。まるで眉間の皺をほぐすような仕草に、カミールは呆気にとられたように目を見張った。

 ルークスの突然の行動には悠利も驚いたが、心配そうな目をしているルークスを見て、何かを察したのだろう。悠利はこまったように笑って口を開いた。


「いきなり怒った感じになったから、心配してるんじゃない?怖い顔しないでって感じで」

「あー、皆、ごめん」

「ううん、大丈夫。カミールが必死なのは僕達も解ってるし」


 ぺこりと頭を下げるカミール。今の自分が余裕がなく、頭に血が上りやすいのは理解しているからだ。

 なお、ルークスの言葉は解らないなりに悠利が判断した内容は、どうやら間違っていなかったらしい。ルークスはキュイキュイと柔らかな声で鳴いて、宥めるようにカミールの額を撫でている。皆で仲良くお話してるんでしょう?怒っちゃダメだよ、みたいな感じだった。癒やしである。

 そんなルークスのおかげで、張り詰めていた場の空気が和んだ。出来るスライムは、空気を読んで場を和ませることすら出来るのだ。素晴らしい。


「でも確かに、何でそんな嘘をついてるのかな?建国祭より前に王都にいなかったんなら、素直にそれを言えばいいだけなのに」

「言えない理由があるのか、あるいはそれより前から王都にいたのは事実でも、今と違うかだな」

「今と違うって、何が?」

「見た目とか仕事とかだよ。髪の色が違うだけで印象は変わるし、そもそも髪形や服装で印象は大分変わる。今の姿で表に出ていなかったんなら、まぁ、王都にはずっといたけど市場の人たちには認識されていないっていう状況は成立するっちゃあする」


 とはいえ、そんな風に無理矢理納得しようとしても、不信感は隠せない。何故サンドラに偽りの情報を伝えたのかと考えてしまうのだ。

 そんな一同にトドメを刺すように、ウルグスが口を開いた。


「あのよう、例の男、布の仲介商って話だったよな?」

「ああ」

「言われた店に行ってみた。それっぽい人は確かに出入りしてみたいだけど、何か聞いた話と違うんだ」

「あ?」

「時折顔を出して色々と話をするぐらいの間柄。そこの責任者は別の人だし、実際に仕事をしてる人たちも別の人だ」

「どういうことだよ?」

「事業の内容をエリックって人が知ってるのは事実だろう。どういう品物があるかも把握してるし、客を紹介してくれたりもするっていう話はあった。ただ、そこの所属じゃないっぽいぞ」


 ウルグスの言葉に、ピタリと全員が動きを止めた。なんだって?と言いたげである。所属先が虚偽である可能性。それがもし本当だとしたら、ちょっとまずいのではないかと皆が思った。

 サンドラは商人である。商人として知り合ったというのなら、その情報に嘘があった場合、彼女は騙されていることになる。

 悠利達は、カミールを見た。彼は姉の商人としての嗅覚を正しいと信じている。彼はしばらく考えて、そして天を仰いで呻いた。


「嘘は言ってないっていうパターンかもしれない」

「何だそれ……」

「姉さんは嘘には敏感なんだけど、もしかしたら本当のことを言ってないだけで嘘じゃないって可能性はある。そうなると、言いくるめられてたり、騙されている可能性は否定できない」

「何その言葉遊びみたいなの……」

「そういうこともあるんだよ」


 ハァと盛大にカミールはため息をついた。面倒くさいことが増えたと言いたげである。まあ、確かに面倒くさい。エリックの発言が全て虚偽なのか、それとも真実に多少の虚偽が混ざっているのか、あるいは虚偽に真実が少し混ざっているのか。それによって、こちらが判断するべきことも大きく変わってくるからだ。

 そして、皆はマグを見た。置物よろしく椅子に座り、時折り喉が渇いたのかジュースを飲む姿はまあ、見るものが見れば愛らしいのかもしれない。表情筋の一切動かない小柄な少年だが、容姿はそれなりに整っているので。

 悠利と見習い組の全員が情報収集として外に出ていたとき、マグも勿論外に出ていた。ただし、皆は思う。はたしてこいつに情報収集が出来たのか、と。

 少なくとも聞き込み調査は出来ないはずだ。マグは極端に言葉数が少なく、会話を単語で行う。普段生活を共にしている悠利達でも、何となく解るかなぐらいしか把握できないマグの言いたいことを、きちんと把握できるのはウルグスだけだ。そのウルグスと離れ、単独行動をしていたマグが、果たしてどんな情報を持って帰ってきたのかという話である。

 ただ、マグはスラムの出身で、アジトに来る前から暗殺者の職業ジョブと隠密の技能スキルを身につけていた。早い話、が気配を殺したり、隠れたり、尾行したり、潜入したりというものは割とお手のものなのだ。だから、そういう方向でならば情報を手に入れてきてもおかしくはない。ただちょっと、聞くのが怖いような気がするだけで。

 でも、とりあえず聞かないと話が進まない。覚悟を決めたみたいな雰囲気で、皆はマグをじっと見た。全員の視線が自分に向いたことで、どうやら自分の番らしいと把握したマグは、淡々と口を開いた


「住居、二ヶ所」

「「「え?」」」

「二ヶ所」


 報告は以上だとでも言いたげである。あまりにも端的すぎた。悠利達はしょんぼりと肩を落としながら、ウルグスを見た。ごめん、通訳を頼むという意味である。

 ウルグスは心得たように口を開く。……通訳扱いするなと怒るときもあるが、今回のように重要な話し合いの場合はそんな風に怒ったりはしない。彼は空気が読めるのだ。


「つまり、俺達が本人に近づかずに周りから情報を得ていた間、こいつは当のエリックを尾行して、家が二か所あることを突き止めた、と。そうだな?」

「諾」


 何でそれぐらいすぐに解らないんだと言いたげなマグである。解るか、ボケッ!と言いたげなカミール。口には出さないが、同感であろうヤック。疲れたように肩を落とす悠利。まあ、三人の反応も当然である。今のセリフでどうやって理解しろというのだ。

 とはいえ、これはいつもやりとりなので、皆はサクッと気持ちを切り替えた。


「家が二カ所ってどういうことだ?」

「別宅」

「別宅って、別荘って感じ?」

「表と裏」

「ウルグス通訳」

「はいはい。表向き、つまりは俺らが情報収集した範囲での人間関係に対してはサンドラさんが聞いてた場所が家。もう一個家があるっていうのは、そっちだけで繋がる人間関係があるとか、そういうのだな。後、そっちが前々から王都にあった家だと」


 慣れた様子で説明をするウルグス。今の単語で何でそんなところまで理解できるのかと問いたいが、今更である。謎の技能スキルでも生えているのかと思ったが、別にそんなものはなかった。《真紅の山猫スカーレット・リンクス》七不思議の一つである。

 マグのセリフを聞いても意味が分からないので、悠利達はとりあえずウルグスにマグから話を聞き出してくれるように頼んだ。こちらが口を挟まず、二人の間で情報交換をしてもらう方が絶対に早いからだ。

 その結果、解ったことがある。エリックは以前から王都に住んでいた。ただし、それはサンドラに告げた今の家ではなく、どちらかというと治安のあまりよろしくない裏稼業とかそちらに関わる者達がいるような地域らしい。

 そして、仕事の方にしても、ウルグスの調べてきた通り、仲介商として働いているわけではなかった。知人としてそこへ出入りし、手に入れた情報を上手に使っているようだ。

 また、当人は布の仲介商と名乗ったことはなく、それを手伝っていると話を濁しているようだ。手伝っているというのは、嘘ではない。手に入れた情報を使って交流し、そこから取引先に繋いでいるので、仲介商の手伝いで間違いないのだ。

 そう、彼は自ら布の仲介商だと名乗ったわけでもないので、嘘ももついていない。サンドラが、騙されたのはここだろう。恐らく、悠利が【神の瞳】さんで鑑定したとしても、彼のセリフは嘘とは判断されないはずだ。何故なら嘘は言っていないのだから。ただ単に、事実を告げていないだけだ。

 それらの情報をつなぎ合わせて、悠利をあっさりと告げた。


「何かこう、詐欺師みたいだね」

「詐欺師」

「そう、詐欺師。ほら、嘘は言ってないけど、本当のことも言わないで、相手をどう騙して自分にとっていい感じに動かすかってやるの、詐欺師じゃない?」

「確かにそうだけど……。奴が詐欺師だとして、姉さんに近づいて何があるんだ?」


 カミールは眉間に皺を寄せる。姉サンドラは確かに実家の商売を手伝っているが、あくまでも補佐だ。決定権は長女夫婦にあるわけで、サンドラに近づいたところでそれほど旨味はない。また、公私混同は避けるタチなので、仕事に関してエリックに不必要な情報を漏らすことはないだろう。

 そこは徹底的に教育されているので、カミールは姉を信頼している。サンドラがいくら恋多き女でも、色々とダメな男を引っかけてきたとしても、今までもその一線だけは決して越えていないのだ。

 そんなカミールに答えだというように、マグが告げた。


「お金」

「はっ?」

「結婚金詐欺」

「ウルグス、頼む。説明をしてくれ」

「あー、つまり結婚詐欺目当てで近づいて、惚れさせて金引き出して、その気にさせておいてトンズラする、と?」

「諾」


 グッと親指を立てるマグ。そんな情報いらないなと悠利達は思った。そして「結婚詐欺かぁ……」とがっくりと肩を落とす。

 本質的にアレでダメな男に引っかかっただけならば、そういう人だからということで遠ざけることも出来る。なかったことにしましょう、で終わらせれば良い。しかし、相手が結婚詐欺となると話が別だ。単にサンドラから遠ざけるだけでは話は解決しないだろう。治安的な意味で。


「結婚詐欺ってことは、ちゃんとつかまえた方がいいってこと?やっぱり僕、エリックさんを鑑定した方がいいやつ?」

「そうなるかぁ……。姉さんを納得させるには鑑定じゃなくて、きちんと情報収集して伝える方が良いと思ったけど、結婚詐欺になると鑑定でしっかり確認して、誰か大人と一緒に行動してとっ捕まえた方が良いよなぁ……」


 そこまで告げて、カミールはがっくりと肩を落とした。面倒くさい仕事が増えた。とてもとても面倒くさい。

 姉を面倒な男と別れさせるだけだと思っていたら、まさかの犯罪者の捕縛作戦開始という展開だ。何でこんなことになったんだろうと言いたいのだ。なお、悠利達だってそう思っている。

 とはいえ、皆で協力して情報を手に入れた結果、エリックが結婚詐欺であろうという結論が出たのだ。少なくとも、サンドラはまだエリックに金を渡していない。結婚詐欺にあったわけではない。ちょっといい感じの恋人が出来たくらいの状況なので、まだ傷は浅い。それを思えば、今のうちに、そう、サンドラが王都にいるうちに、さっさとケリをつけるべきなのだ。


「カミール、お姉さんがここにいるのって、いつまで?」

「大丈夫だ。まだしばらくいるって。商談を色々まとめてから帰るってことらしいから」

「じゃあ、えっと、お姉さんの予定の空いている日で、誰か大人の人に一緒に来てもらって、エリックさんを鑑定して、とっ捕まえて衛兵さんに突き出す感じ、かな?」

「だな」

「お姉さん、僕の鑑定だけじゃ納得しないよね?多分……」

「多分な……」


 これは、悠利の見た目と悠利に対する情報が少ないことが原因だろう。どこからどう見てもぽやぽやとしたただの少年の悠利が、そんなずば抜けて凄い鑑定能力を持っているなんて思わないだろう。周囲の仲間達や何だかんだで関わりのある知り合い達、ついでにアリーの秘蔵っ子という伝家の宝刀を知っている衛兵や冒険者ギルドの関係者などは、悠利の言葉を信じてくれるが。

 しかし、サンドラにはそちら方面の情報がないので、悠利は弟の仲間のちょっとぽやぽやした少年でしかないのだ。その悠利の言うことを全て信じろというのは無理がある。


「相手が逃げたときの対策として、アリーさんにお願いしよっか?」

「リーダーにこんな個人的なことで迷惑かけるのもなあ……」

「あのね、カミール」

「うん?」


 身内のことで倒れるリーダー様のお手を煩わすのは、みたいになっているカミール。その気持ちはよく解るのだが、悠利は常はアリーに言われている言葉があるのだ。なので、それを真顔で告げる。


「何も言わずに勝手に行動して、何かを起こすぐらいなら、最初から全部言えって、僕いつもアリーさんに言われているから」

「それはユーリ限定だと思う」

「でも今回は僕も関わってるから、最初っから話しといた方がいいと思うんだよね」

「それは確かに。ユーリが絡むと、何が起こるか解んないもんな」

「それ、どういう意味?別に僕がトラブルを起こしているわけじゃないよ!」

「割とレアな状況を引き当てるのは、大抵ユーリじゃん」

「ふぐぅ……」


 カミールの言葉を、悠利は否定が出来なかった。とはいえ、悠利の言葉を聞いてカミールもそうだなとは思った。トラブルの種があるのだから、最初に伝えておく方が良いのだろう、と。事後報告でやらかしてから連絡することでリーダー様の心労を増やすぐらいなら、最初から潔く巻き込んでしまおうということである。

 決行は、サンドラの予定を確認してからだ。恐らくは結婚詐欺であろう男を、サンドラから引き離すための作戦作戦。というよりは捕り物と言うべきか。それに向けて準備を頑張ろうと決意を新たにする悠利達なのであった。


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