書籍20巻部分
休日の散策でお兄さんとエンカウント
何故ウルグスと一緒にウロウロしているのかといえば、彼の行きつけの店を教えてもらうためだ。ウルグスは王都生まれ王都育ちなので、悠利達の誰より王都の店に詳しい。
ただ、普段の言動があれなのでうっかり忘れがちだが、ウルグスくんは代々王宮の文官を輩出するようなお家に生まれた生粋のお坊ちゃまである。そのため、彼が行きつけとしている店の多くは、裕福な庶民から貴族様がご利用するような、ちょっと敷居の高いお店である。悠利達が普段食材や日用品を買い求めている店とは、品揃えも価格も違う。
なので、一人で行くにはちょっと気が引ける悠利は、ウルグスに一緒に行ってもらうことにしたのだ。友達と一緒ならば、普段行かないようなちょっとお高いお店も、足を踏み入れるハードルが大分下がってくれる。更に言えば、その友達がその店の馴染みであったならなおさらだ。
そんなわけで、悠利とウルグスは二人仲良く、休日に散策と洒落込んでいるのである。
「このあたりはあんまり来ないんだよね」
「皆そう言うよな。けど、良い物が揃ってるんだぜ。値段はそれなりにするけど」
「お値段それなりっていうのがねぇ……。お財布と相談しながら買い物しなきゃってやつだよ」
「いやいやいや。ユーリ、結構貯金あるだろう?」
「あるけど、でも、何ていうのかな?無駄遣いする気はあんまりないし。お高いものって言うのは、こう、落ち着かないから」
根が庶民の悠利は、いくらお金があったとしても、バッと使う!みたいにはならない。後先考えずに贅沢するのは得意ではないし、いきなりブランド物で全身を固めるみたいな発想にもならない。身の丈に合った生活を心がけている。
ちなみに悠利の収入源は、ほぼほぼ調味料のレシピによる特許だ。普通に作ったり、錬金釜で作ったり、とにかく調味料関係でやらかした記憶が存在する。
なお、悠利本人は別にそれらで特許を貰おうなどとは思っていなかった。だって故郷にあるものを再現しただけなのだ。悠利が開発者ではない。
しかし、行商人のハローズおじさんによる「ちゃんと対価は受け取らなければいけませんよ」というありがたいお言葉により、今の状況に落ち着いている。錬金釜で作った調味料の大半は商業ギルドに登録され、いわゆる特許収入のような感じで悠利の収入になっていた。
なおハローズが悠利が錬金釜で作った商品のレシピを商業ギルドに登録するのには、きちんと理由がある。レシピをギルドに登録することにより、そのレシピを用いて錬金術師達が商品を作ることが出来るのだ。どこに権利があるかはっきりしていると、無用の争いを避けることが出来るので。
悠利には細かいことは解らないが、ハローズおじさんがそういう風に言っていたので多分そういうことなんだろうなと思っている。
閑話休題。
「まぁ、確かに身の丈に合った値段のものをってのは解る。俺も、自分の金だけで物を買おうと思うと、この辺の店ちょっと高いなって思うことあるし」
「そうなんだ」
「実家にいるときは思わなかったけどな。基本的にツケ払いだったし」
「ツケ払いって何?」
「ツケって言って良いのか解らねぇけどな」
呆気にとられる悠利に、ウルグスはどういう仕組みなのかを説明してくれた。
「店で買い物をするだろう?」
「うん」
「で、その場で支払いはせずに、月末にまとめて家に請求が来るんだろよ。それでまとめて親父が払うって感じ」
「待って、そういうのってアリなの!?」
「現金持ち歩かない人多いからな」
悠利の常識には存在しない支払いシステムだったので、思わず声を上げてしまう。ウルグスの方はケロリとしていた。彼にとってはそれが普通なのだろう。
悠利がイマイチ理解できていないと思ったのか、ウルグスは自分の知ってる範囲で説明をしてくれる。悠利も大人しくその話を聞いていた。
「このあたりの買い物って、そういう風に家同士で信頼がある場合は、後日請求みたいな形になってんだよ。勿論その場で払うことだって出来るぜ。家に請求が行くのがばれないようにするために」
「ばれないようにって……」
ウルグスの言い方に、悠利はちょっと困ったような顔をした。何だかそれは、いたずらがばれるのを困る子供のようではないかと。
しかし、実際はそういう後ろ暗い理由ではない。悠利が誤解しているのを察したウルグスは、ぱたぱたと顔の前で手を振って告げた。
「違う違う。そうやらないと、家族にこっそり誕生日プレゼントを買うとか出来ないだろう。特に親相手」
「なるほど、サプライズのときかー」
「後、家の用事で使い分とか、私的なものじゃなかった場合は、家払いだな。そんで、自分の個人的な買い物のときは自分で払うって感じか」
ウルグスの説明は端的だった。
早い話が、公的な部分が家払いで、私的な部分が個人払いという感じなのだろう。会社の備品を購入するときと、私物を購入するときの違いのような感じだった。とりあえず悠利はそういう感じで理解した。
上流階級の発想だなぁ、と悠利は思う。ツケ払いが通じるというのは、それだけ店と家の間に信頼があるということだ。そんなことが可能になるのは、悠利の感覚で言うとよほどのことである。
しかしウルグスに取っては普通のことなのだろう。いつも通りの口調で言葉を続けた。
「女の人の買い物のときは結構そういうい場合が多いんじゃないかな」
「何で?」
「女性が大金持って歩いてたら危ないだろう?王都の治安はいいけどさ」
「なるほど。そういう発想かぁ。世の中色々あるんだねぇ」
悠利はしみじみと呟いた。庶民の悠利には未知の世界なので、面白いなぁと感じているのだ。
「俺としては普通のことのつもりだったから、ユーリがそこまで反応すると変な感じがする」
「だって僕、庶民ですから」
「まぁ、ユーリってちょいちょい常識外れなところあるしな。そんなもんか」
「酷くない……?」
あまりにも流れるようにポンコツだと言われてしまった悠利。言った方は一人で勝手に納得しているが、常識のないポンコツ扱いされてしまった悠利としては、色々と物申したい。
なおこの場合、悠利に諸々の常識が足りていないのは、一応異世界に馴染んでいるとはいえ、現代日本育ちの天然ぽやぽやだからということになる。悪気はない。ただこう一般常識というものが、ちょっぴりずれてしまうだけだ。
まあウルグスもこんな風に言ってはいるが、別段悠利を嫌っているわけではない。「何かお前、そういうところあるよな」みたいなノリである。盛大にやらかすときは仲間達総出で止めてくれるし、そうではないときには笑って注意をしてくれる。何だかんだで仲間に恵まれているのだ。
「お高い買い物はお財布と相談してになると思うけど、楽しいね。後、ちょこちょこ僕らみたいな人もいるね」
「まあ高いけどさ、その分品物がいいから長持ちするってのはあるんだよ」
「ああ。あれだね、安かろう悪かろうとか、安物買いの銭失いとかにならないわけだ」
「何だそれ?」
「えっと、僕の故郷での格言みたいなもの」
「お前の故郷、ちょいちょい変な言葉あるよな」
「そうかなぁー」
悠利としては、ごく普通に日常で聞いていた言葉であったりするので、変な言葉と言われてもいまいち実感がわかない。なお、この二つの言葉、早い話が値段は正直というような意味合いだ。高いものはそれなりに持ちが良かったり、質が良かったりするというお話。安いものに飛びつきたくなるのが人間だが、使い捨てならともかくある程度使うものは、あまり安いとすぐ壊れてしまって困るというような感じである。
そういう意味では、このあたりのお店で売っている品物は質が良い。別段、目玉が飛び出るほどの高さではないし、庶民の手が出ないほどの値段というわけでもない。ちょっと頑張れば手が届いて、しかも良いものなので長持ちするという感じだろうか。層となれば、奮発して買っていく人々もいるのだろう。確かにその気持ちは悠利にも解る。
今日は特に何を買うというわけでもないので、ブラブラと歩いているだけだが、いずれこの辺りで何かを買い求めてもいいなぁと思った。そんな風に二人、のんびりと休日を満喫していたときである。
「ウルグス?こんなところでどうしたんだ?」
優しげな声が二人を呼び止めた。
正確には、呼び止められたのはウルグスである。名前を呼ばれたウルグスと、知り合いの名前が聞こえたことで反応した悠利が振り返れば、視線の先には上品そうな雰囲気をした一人の青年が立っていた。
茶色の短髪に青色の瞳の、おっとりとした雰囲気の育ちの良さそうな青年である。服装はシャツにベストにスラックスという、まあどこでも見るような感じだ。
見知らぬ人ではあるのだが、何か妙な既視感を感じて悠利は傍らのウルグスを見る。そして、もう一度青年を見る。よく見れば二人の色彩は同じだった。もしかしてと考える悠利の耳に、驚いたようなウルグスの声が飛び込んできた。
「兄さん?何でこんなとこに。あ、いや、いてもいいけど。仕事は?」
「今日は休日だよ。うちはほら、皆で交代で休みを取る感じだからね」
「あ、そっか。決まった曜日に休みってわけじゃなかったか」
「うん。それでウルグスは何をしているんだい?買い物?そっちの子はクランのお仲間かな?」
「ああ、この辺りの店に行ったことがないっていうから案内してたんだ」
「なるほど」
穏やかに会話が進む。兄さんと呼ばれたからには、目の前の人物はウルグスの兄なのだろう。失礼になるかと思いつつ、悠利はマジマジと相手を見た。見て、そしてもう一度ウルグスを見る。色々と言いたいことはあったが、とりあえずぐっと飲み込んだ。
しかし、悠利が飲み込んだことに気づいたのだろう。ウルグスはジロリと睨んでくる。
「悪かったな、似てなくて」
「ええっと、似てないとは思っていないよ。うん。髪と目の色とか同じだし、仲良さそうだなあとは思うし。ただ、ウルグスの雰囲気とお兄さんの雰囲気が全然違うもんだから、色彩から血縁だろうなとは思っても、あんまり兄弟っぽく見えないなぁとか思っちゃって……」
最初こそ言い訳めいたことを言っていた悠利だが、無言の圧力をかけられて正直に答えた。正直は悠利の美徳である。まあ、ウルグスの方もそう言われることを解っていたのだろう。特段、気を悪くした様子はなかった。
そして、こんな会話はよくあることなのだろう。ウルグスの兄は、悠利のちょっぴり失礼な発言に対しても穏やかに微笑んでいる。むしろ、弟が仲間と仲よくしている姿にご機嫌というところだろうか。どうやら兄君には弟のことを可愛がっているようだ。
「はじめまして。ウルグスの兄、ヨナスです。君は《
「あ、はい。初めまして、僕の名前はユーリです。《
「家事担当。ああ、君が。話を聞いているよ。とても美味しい食事を作ってくれると」
「そうなんですか?」
言われて悠利は、チラリと隣のウルグスを見た。その視線を受けて、ウルグスはすいっと視線を逸らした。どうやら本当らしい。
ウルグスの家は王都にあるので、何かのときに実家に帰ることがある。また、実家に帰らずとも家からの使いの人が手紙を持って来たりしているので、家族と何らかのやり取りをしているのだということは悠利も知っていた。ただ、まさか自分のことがそういう感じで話題になっているとは思わなかったので、不思議な気持ちでウルグスを見てしまったのである。そしてウルグスは、何だか奇妙な気恥ずかしさに襲われて悠利から目を逸らしたというわけである。
実際、ウルグスをはじめとする見習い組だけでなく、訓練生も指導係も悠利の食事を美味しいと思っている。皆そう思っているのだから、まあ美味しいご飯をありがとうという意味で、悠利が仲間達に感謝されるのも慕われるのも普通ということだろう。
そんな悠利の視線と兄の生温い視線を受けることに耐えられなくなったのか、ウルグスは話題を変えるように口を開いた。
「それで、ヨナス兄さんは何やってるんだ?休みとはいえ、この辺にいるの珍しいけど」
「うん、今日はちょっと探し物をしていてね」
「探し物?」
「そう。探し物」
にこりとヨナスは笑った。微笑み一つとってもウルグスとは全然違う、上品で穏やかで育ちの良さを感じさせるものだった。そんなヨナスを見て思うのは、似てないと感じることではなく、(ウルグス、本当にお坊ちゃんなんだ……)という感想になる悠利だった。
この感想を抱くのが何度目になるのかは当人も覚えていないが、それでもやはり、普段とのギャップという意味で、ついつい抱いてしまうのだ。悠利は悪くない。多分他の仲間達でもこうなる。
「職場の先輩がネクタイピンを失くしたと聞いてね。一応落とし物として届けてはいるらしいけど、もしかしたら中古で流れてるかもしれないからそういうお店を巡って探そうかと思って」
「待ってくれ。何で兄さんはそれを探そうとしてるんだよ」
「えっ?」
「だからそれ、兄さんがやることじゃないよな?」
呆れたように告げるウルグスにヨナスは首をかしげた。はははと笑う姿は優しい。ああ、この人根っからのお人好しなんだなと悠利は思った。
口にしなかったのでウルグスにはバレていないが、もしウルグスに気付かれていたら、「お前が言うか?」というツッコミを貰っただろう。安定の、自分のことはよく解っていない悠利である。
「兄さん、まさか面倒事を頼まれたとかじゃないよな?」
「頼まれたとかじゃないよ。自発的にやってるだけさ」
のほほんと答えた兄に、ウルグスはがっくりと肩を落とした。彼は、この優しい優しい、優しすぎる兄がちょっと、いや、かなりお人好しなことを知っているのだ。
勿論、誰かに優しいのは良いことだ。だが、自分の休日を削ってまでやることではない気がするのだ。それが表情に出ていたのだろう。ヨナスは心配症の弟の肩をぽんと叩いて言葉を続けた。
「別に、頼まれたわけでも押し付けられたわけでもないよ。ただ、その先輩は奥さんが産み月でね。出来る限り側にいてあげた方がいいと思うから、私や他の同僚が代わりに探すということになったんだ」
「妊婦さんか……。それはまぁ、奥さんの側にいてあげた方が良いよな」
「あぁ。休暇だからって失せ物探しに外に出るよりは、いつどうなるか分からない奥さんの側に寄り添う方が良いだろう?」
「それは確かに」
兄の主張に、ウルグスはためらいなく同意した。二人の傍らで話を聞いていた悠利も、うんうんと頷いた。
妊婦さんは、産み月でなくたって不安を抱えているに違いない。医療従事者でもない旦那様が側にいて何の役に立つのかという意見もあるだろう。それでも、側にいて一緒に寄り添ってくれるだけで、気持ちは大分楽になるだろう。恐らく。
「それで、そのネクタイピンを探せる目処は立ってるのか?」
「いや……。実は、中古品を取り扱ってる店に似たような商品が幾つもあってね。一応、先輩からどういうものかは聞いているから、一つ一つ確認しようかと思っているよ」
「また、気が遠くなる作業をまあ……」
「今日は休暇で特に用事もないからな」
「休暇ってのは休むためにあるんだぞ兄さん」
「そうだね」
呆れたようなウルグスの言葉に、ヨナスはやはり笑った。ヨナスは勿論、休暇の意味はちゃんと解っている。それでも、困っている先輩のお役に立とうという優しさが見える。そしてウルグスもまた、小言を口にしてはいるが、兄がそういう性格だと解っているので、それ以上は何も言わない。
そんな二人の会話を聞いていた悠利は、一つ気になったことがあって問いかけた。
「あの、ヨナスさんってもしかして、前に情報を調べてもらうのを手伝っていただいた方のお兄さんですか?」
「ん、ああ、そうだよ。王宮で文官として勤めています」
「そうなんですね。その説は本当にありがとうございました。おかげでとても助かりました」
相手が予想していた存在だと理解した悠利の行動は、一つだった。感謝を込めて、頭を下げる。深々と頭を下げる悠利に、ヨナスは驚いたように口を開く。
「いやいや、あの程度の情報、部署に務めている者なら誰でも引き出せるものだし、改めてそんな風に言われるほどじゃ」
「そんな風に言われるほどです。少なくともあのときの僕達にとっては、とっても重要な情報でした。ね、ウルグス?」
「ああ、そうだな。兄さんのおかげですごく助かった」
「それなら良かった」
感謝の気持ちを精一杯伝える悠利に、ヨナスは大げさだなという態度を崩さない。きっと、彼の中では簡単なことをしただけなのだろう。
だが、友人であるフレッドが襲撃され、その襲撃犯を探すために若手総出で走り回っていた悠利達にとっては途方もない情報だったのだ。少なくとも王宮で文官として勤めている者でなければ、手に入らない情報だ。ウルグスを通してヨナスが手助けしてくれたのは、悠利達にとって凄まじい幸運だったのである。
だからその言葉は、するりと悠利の口からこぼれた。
「あの、もし良かったら、そのネクタイピンを探すのを僕、お手伝いしましょうか?」
「え?」
何を言われているのか解らないと言いたげなヨナスと、その手があったかと言いたげな顔をするウルグス。しかし、ウルグスは悠利が今日休暇だというのは解っているので、あえてそれ以上は言わなかった。
ここで兄を手伝ってくれというのは、悠利の休暇を潰すことになるので、ウルグスとしても口に出来なかったのだろう。しかし、そんなウルグスの考えなど悠利には通じていなかった。見事に、何一つ、全く、気づいていなかった。
なので、満面の笑みでこう告げる。
「僕、これでも鑑定系の
「なるほど……」
「ちなみにですけど、もしそこでネクタイピンを見つけた場合は、何か届け出たりとか、ややこしい手続きをする予定ですか?」
「いや、よほど法外な値段じゃない場合は、買い取る形でいいと言われているよ。落としてしまった自分が悪いとも言っていたし」
「落とした人が悪いってなっちゃう世の中は、何か違うと思うんですけどねぇ……。まあ、壊されずに品物が見つかればいいってことでしょうか?」
イマイチ釈然としないなぁ、みたいな顔で悠利が呟く。落とした人はただちょっとうっかりしていたとか、運が悪かっただけにすぎない。誰にだってそういうミスはあるだろうから。
そんな風に悠利が考えるのは、やはりまだ現代日本の感覚が抜けていないからかもしれない。落とし物は適切に届け出をすれば、意外と無事に手元に戻ってくる感じの世界で生活をしていたので。ふとしたときに垣間見えるこの世界の世知辛さは、悠利にはまだちょっと馴染めない。
そんな風にちょっぴり考え込んでいた悠利の耳に、ヨナスの説明が飛び込んでいた。聞き逃せない類いのやつが。
「結婚式のときにご両親から頂いたネクタイピンらしくてね」
「それは何が何でも探さないといけないやつじゃないですか!」
さらりとヨナスが口にした情報に、悠利は思わず食い気味で叫んだ。単なるネクタイピンだと思っていたら、アニバーサリー的な意味がものすごく刻まれたネクタイピンである。これは是が非でも探し出すお手伝いをしなければ!みたいなスイッチが入っていた。
「なぁ、ルークス。アイツ、今日自分が休暇だってことを忘れてないか?」
「キュピー」
いつも通りのテンションで、流れるように人助けに入ろうとする悠利を見て、ウルグスが思わずぼやく。それに応えるルークスも、やれやれと言いたげな感じであった。
ルークスは悠利のことが大好きだが、同時に悠利がお人好しで色々と首を突っ込むことも理解している。それが理解できる程度には賢い従魔です。
「えっと、良いのかな?」
「勿論です。お世話になったお返しということで」
「それだとこちらの借り分が大きくないかな?」
「そんなことないです。僕にとっては
悠利はちっとも引く気配を見せなかった。お礼が出来ると張り切っている。なので、最初は申し訳なさそうにしていたヨナスも、やがて折れた。
「それじゃお願いしようかな」
「了解です。ウルグスも良いよね?」
「おお、好きにしろ。俺は今日、お前に付き合うってだけだから」
「ありがとう」
そんなわけで、悠利とウルグスの今日の予定は、ウルグスの兄の探し物を手伝うことになった。予定は色々と変更されるものであり、突発的にこういうイベントが起こるのもまた、それはそれで楽しいのである。
それでは、いざ探しにいこうとなった瞬間に、くぅと小さく悠利のお腹が鳴った。続いて、それに釣られるようにウルグスのお腹も鳴った。
「そろそろお昼時だったね。それじゃ、これから皆でお昼ご飯にしようか」
「賛成です」
「了解」
ヨナスの提案に、悠利は元気よく、ウルグスはいつも通りの口調で答えた。腹が減っては何とやら。どうやら、探し物の前に美味しいご飯を食べることになりそうです。
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