夕飯は、具だくさんスープと屋台飯です

 ひとまずは雑談という名の情報交換は終了した。ロザリアとランドールが泊まる部屋の準備も出来て、各々自由時間。それを終えての今、夕飯の時間である。

 ちなみに本日の夕飯は、悠利ゆうりが嬉々として買い求めてきた屋台飯がメインだった。せっかくそこに美味しそうなご飯がいっぱいあるんだから、味わってみたいじゃないですか……!という謎の主張がとりあえず通った。もしかしたらアリーは色々諦めたのかもしれない。

 後はまぁ、ここの屋台で金を落とすと、今後も店を出して貰えるだろうという考えもある。経済はきちんと回すと良い感じに還元されるのだ。お店がどんどん増えたら、観光客も喜んでくれるだろうし。


「色んなお店があったねぇ、ルーちゃん」

「キュイー」

「ルーちゃんの好きそうな焼き野菜もあって良かったね」

「キュ」


 ルークスは雑食のスライムだが、野菜炒めを特に好む節があった。スライムに味覚があるのかは謎だが、とりあえず好みの料理があるならばそれを用意してあげたいと思うのが悠利の気持ちである。

 生憎、屋台飯に野菜炒めっぽいものはなかったが、食べやすくスライスした野菜をシンプルに焼いたものが売っていたので、それをルークス用に購入している。ぶっちゃけ、スライムに食事は必要ないし、何ならその辺の塵や埃、石ころだろうと分解吸収してエネルギーには出来る。

 しかし、そこはそれ、である。皆が食事をしているときに、同じように食事をさせてあげたいと思う悠利の気持ちがあった。……そこ、扱いがペットとか言わないでください。大事な仲間です。

 大人組は明日の打ち合わせや相談もあるだろうと気を利かせた悠利は、ルークスと二人で買い出しに出かけていたのである。その買い出しの戦利品をテーブルの上に並べる姿は、実に楽しそうだった。

 ちなみに、屋台では木製の食器を貸し出しているのだが、悠利は人数が多いことも考慮して、手持ちの大皿に入れてもらった。なので、テーブルの上にはどーん、どーん、どーん、と大皿が並んでいる。

 彩り鮮やかな魚介たっぷりのパエリア。タレの焼けた匂いが香ばしいオーク肉とバイソン肉の串焼き。ほんのり温かいのが美味しい、三種類のパニーニ。パニーニの中身は、ハムとチーズ、ハムと葉野菜、トマトと葉野菜となっている。おかずの邪魔をしない配分だ。

 パエリアとパニーニでご飯とパンが被ってしまっているが、人数が多いので多分大丈夫だろうと悠利は思って買い求めた。自分が食べたかったというのもあるのだが、複数を取りそろえた方がどれかが誰かの好みになるだろうと思ったのだ。

 そしてそこに、追加で準備するものがあった。具沢山のスープである。

 魔法鞄マジックバッグと化している学生鞄から悠利が取り出したのは、寸胴と呼ぶべき大鍋だった。そこに、もはや食べるスープと呼んでも間違いではない、ゴロゴロと具材の入ったスープがなみなみと入っていた。


「季節が季節だから、汁物はないかなーと思ってたら、やっぱりなかったね、ルーちゃん」

「キュ」

「持ってきて良かったねぇ」

「キュイ?」

「あ、これは見習い組の皆と一緒に仕込んだから、今頃アジトで皆も食べてると思うよ」

「キュキュ!」


 それは良いことだね!みたいな感じでぽよんと跳ねるルークス。こちらだけが食べているという状況は、何だか抜け駆けみたいで落ち着かないという感じだろうか。まぁ、実際は、「せめて一品ぐらい献立考えてから行って……!」と泣きつかれたからなのだが。

 丼のような深めの器に、悠利はスープをよそう。具材はキノコと根菜、厚切りのベーコンだ。根菜は食べやすいように一口サイズに切ってある。ゴロゴロ野菜と厚切りベーコン、賑やかしにキノコ、という感じだろうか。具材の旨味がぎゅぎゅっと詰まったスープである。

 食べるスープ状態にしているのには、理由がある。屋台飯がどんなラインナップか解らなかったので、スープで野菜が取れるようにしようと思ったからだ。やはり家事担当としては、多少なりとも栄養バランスが気になるので。

 きちんと栄養学を学んだわけではないので、色んな食材を満遍なく食べるのが良いだろう、というふわっとした認識をしている。肉も野菜もキノコも食べれば、きっと大丈夫じゃないかなという感じである。少なくとも、肉オンリーよりは身体に良いに違いない。

 じっくりことこと煮込んだので、根菜にも味が染みこんでいることだろう。キノコもたっぷり入れたので、美味しい出汁が出ているはずだ。ベーコンの旨味は勿論言うに及ばずである。そんな食べるスープを人数分の器によそい、取り皿を二枚ずつ準備する。

 食器は全て出先で傷つくことがないようにと木製のものを選んでいる。ちなみに、《真紅の山猫スカーレット・リンクス》のアジトにはこの手の食器が大量にある。職人の見習い達の作品である。人数が多いし出先で使うこともあるので、安く購入しているのだ。

 つまりは、クランの備品として、遠征セットが用意されている感じである。まぁ、簡易コンロや重量を気にせずに持ち運びの出来る魔法鞄マジックバッグがあったからといって、出先で本格的な料理をしようとする面々はいないが。悠利ぐらいである。

 その悠利にしてみれば、今回はかなり自重している。スープも作ったのを持ってきただけだし、夕飯のメインは屋台飯だ。宿屋として使われる室内で火を使ったり肉や魚を焼いたりすると、匂いが付いてしまうのではとちょっと心配になった結果である。

 なお、結論としては「え?毎朝定期的に全部一新すれば問題ないよ?」というオーナー(違う)の一言で、杞憂だったと理解できたのだが。ベッドメイクもアメニティの補充も、訪問者が増えたことで手に入ったエネルギーでサクッと行うらしい。新品に取り替える方式だ。

 唯一その恩恵に与れないのが、購入することになった備品である。シャンプーとかボディーソープとか、洗顔用品とか。そういうものはダンジョンマスターパワーでどうにかすることが出来ないので、本格始動した暁には適当な魔物が掃除担当としてうろうろするらしい。


「さて、準備完了ー。ルーちゃん、向こうの部屋にいる皆を呼んできて貰って良い?」

「キュピー」


 悠利にお仕事を頼まれたルークスは、任せて!と言いたげに嬉しそうにぽよんと跳ねると、そのまま器用に扉を開けて外へと出て行った。大人組はロザリアとランドールが宿泊する部屋で相談中なのである。

 なお、ダンジョンマスターであるウォルナデットはダンジョンの見回りというか確認のために席を外している。やろうと思えばどこでもダンジョン内の確認は出来るらしいが、そこはそれ、一応守秘義務みたいな感じらしく、別の部屋でやってくるなーと去っていった。やっぱり軽い。


「ユーリ、待たせたか」

「大丈夫ですよー。後はウォリーさんが戻れば全員集合ですね」


 アリーを先頭に室内に戻ってきた一同は、テーブルの上に準備万端と言わんばかりに用意された食事を見て感嘆の声を上げていた。上限金額が設定されていなかったので、悠利がうっきうきで買い込んできた屋台飯がたんまりである。


「パエリアと、三種のパニーニと、串焼きはオーク肉とバイソン肉です。後、野菜が足りないかなと思ったので、キノコと根菜とベーコンのスープになります」

「……見慣れた鍋がそこにあるってことは、そのスープは持ってきたのか」

「アジトの今日の晩ご飯も同じスープです」

「……そうか」


 色々とツッコミを入れるのを諦めたらしいアリーだった。持ち込みぐらいどうってことないと悠利は思っている。お弁当の延長だ。前回だってキーマカレーを持ち込んでいるのだから、具沢山の食べるスープがあったところで問題はない。

 アリーがツッコミを入れたかったのは、鍋の大きさである。えらくデカい鍋を、とぼそりと呟いた声は、皆に料理の説明をしている悠利の耳には届いていなかった。立派な寸胴鍋の中には、スープがまだまだ入っていた。

 とはいえ、予定外に竜人種バハムーンが二人加わっているのだ。余分に食料があるのは良いことだと思うことにしたのだろう。それ以上は何も言わずに、アリーも席に着いた。


「皆さん揃いましたけど、ウォリーさんがまだなんですよね、どうしましょうか……」

「キュ?」

「え、ルーちゃん、どうしたの?」

「キュキュー!」


 ちょっと待っててね、とでも言いたげに悠利の足にすり寄って挨拶をすると、ルークスは部屋を飛び出していった。驚いて追いかける悠利の視界に、ダンジョン内をちょろちょろしている小型の魔物に話しかけているルークスの姿があった。

 しばらく何か話してから、ルークスは満足そうに戻ってきた。仕事をやりきったぞ、みたいな雰囲気である。


「ルーちゃん、どうし」

「夕飯の準備が出来たと聞いて!」

「うわぁ!?ウォリーさん、いきなり湧いて出ないでください!」

「あははは、すまない。準備が出来たと連絡を貰ったものだから、つい」

「連絡……?」


 ひょっこりと悠利の眼前に現れたウォルナデットは、テンション高めで笑っていた。ダンジョンマスターはエネルギーさえあればダンジョン内を自由に移動できると先日知ったばかりではあるが、前触れもなく現れると驚いてしまうのだ。

 ちなみに、ウォルナデットのテンションが無駄に高いのは、晩ご飯へのわくわくが押さえられていないからである。時々詰め所の責任者さんにお裾分けをもらえるとはいえ、自分で好きに買い食いが出来るわけではない状況。彼は相変わらず人間の食べ物に飢えていた。


「ん?ほら、うちの魔物にルークスくんが呼びかけてくれて、その魔物から俺に連絡が」

「……な、なるほど……」


 そういえば以前もそんな感じで話が通っていたなと思い出した悠利である。ちなみに、収穫の箱庭のダンジョンマスターであるマギサも同じようなことをしていたので、多分これは標準装備なのだろう。色々と便利な伝令になっている。


「それでは、ウォリーさんも戻ったので食事にしましょうか。スープのお代わりはありますし、料理が足りなければ追加で買いに行きますね」

「足りない場合は食いたいやつが買いに行けば良いだけだ」

「はーい」


 つまりは、お前が全部やらなくて良いという意味だった。ぶっきらぼうな言い方だけど優しいアリーに、悠利は元気にお返事して自分も着席した。

 いただきます、と手を合わせて食前の挨拶をする悠利に倣うように、アリーとブルックも手を合わせる。他三人は顔の前で手を組んで目を伏せていた。お祈りでもしているのかもしれない。

 とりあえず、食事開始である。先ほどから良い感じに匂いが空腹を刺激していたので、悠利はうきうきと料理に手を伸ばした。大皿にどーんと盛られたパエリアを、小皿に取り分ける。プリプリのエビが目に入ったので、しれっと拝借しておく。

 パエリアは、大雑把に言ってしまえば洋風の魚介炊き込みご飯である。浅くて広い鉄板に敷き詰めるようにして作るのだが、魚介の旨味がギュギュッと詰まってとても美味しい料理だ。

 スプーンに掬ってまずは米の部分だけを頂く悠利。黄色く着色された米だが、別にその黄色に味があるわけではない。噛んだ瞬間に感じるのは、海のエキスと呼ぶべき魚介の旨味である。特に貝から出る旨味が濃く感じた。

 続いて、エビも一緒に口へと運ぶ。プリプリのエビは大振りで、一口で食べるにはちょっと大きすぎたので、がぶりと囓って半分ほどにした。噛んだ瞬間に確かな弾力と旨味を感じて、思わず悠利の表情が綻ぶ。美味しい、と言葉にせずに伝わる感じだ。

 パエリアは屋台で見かけて是非とも食べようと思っていた悠利は、もうこれで半分ぐらい満足していた。貝柱も美味しいし、殻ごと盛り付けられている二枚貝も美味しい。魚介も大好きな悠利にとっては、とっても豪華で美味しいご飯だった。

 そんな悠利の隣では、ウォルナデットがごくごくとスープを飲んでいた。器を両手で持って、水でも飲むようにぐびぐびやっちゃっている。食べやすい大きさに切ってあるとはいえ、具沢山のスープである。喉詰めないかなとちょっと心配になる悠利だった。

 ごくり、と喉を鳴らして、ウォルナデットはスープを堪能していた。煮込む前に具材をオリーブオイルで炒めてあるのだが、そのおかげでスープ全体に香ばしさがある。調味料はシンプルにコンソメと塩と少量の醤油なのだが、具材の旨味で深みがとても出ていた。大鍋で作ったからこその旨味もあった。

 大きな鍋で大量に作ると、それだけ大量の具材を入れることになる。様々な具材の旨味がしっかりと溶け込んだスープは、それだけで確かな満足があった。ましてや、具材たっぷりの食べ応え抜群なのである。ウォルナデットの表情は幸せそうだった。


「……あのー、ウォリーさん?」

「ん?どうかしたか?」

「いえ、お肉とかパエリアとか良いんですか?」

「屋台飯は頼めば食べられる機会があるから、こっち優先で!」

「……は、はぁ。お代わりはご自由にどうぞ」

「ありがとう!」


 人間のご飯に飢えているダンジョンマスターさんは、いつでも食べることの出来る屋台飯よりも、悠利に貰わないと食べられない家庭料理を選んだらしかった。特に料理名もない具沢山スープにそこまで食いつかれて、ちょっと困惑している悠利である。

 二人のやりとりをそっちのけで、他の面々は大皿料理を順調に消費していた。そもそもが、健啖家の竜人種が三人もいるのである。串焼きもパニーニもパエリアも、しっかりと消費されていた。


「このパニーニ、トマトと葉野菜というのもなかなか良いな。いつもは肉系を頼むが、今度は野菜を頼んでみるのも良さそうだ」

「ハムとチーズのも美味いぞ」

「それが美味いのは解る」


 ロザリアとブルックはそんな会話を交わしながら、パニーニを食べていた。パニーニのもっちりとした食感と、中に入った具材とのハーモニーはそれぞれどれも美味しいのである。仕上げに専用の道具で焼き上げるパニーニなので、ほんのり温かいのも良い感じだ。

 ハムとチーズのものは両者の塩気がパンに染みこんで何とも言えずに食欲をそそるし、何よりとろりと溶けたチーズが絶品だ。冷めてしまえば美味しさが半減するに違いないと思えるほどである。溶ける系チーズは温かい方が美味しいので。

 ハムと葉野菜のものはハムの塩気と温かくなってしんなりした葉野菜がコラボレーションをしている。味付けなどいらないと言わんばかりのハムの存在感を、葉野菜が優しく受け止めているのだ。もっちり食感の生地と共に、優しく口を楽しませてくれる。

 そして、トマトと葉野菜。温かいトマトは好みが分かれるかもしれないが、この場にいる面々は誰もそれを不快に思わなかった。パニーニはぎゅっと挟んで焼くので多少トマトが潰れてしまっているが、それでも美味しさは変わらない。味付けは何かドレッシングのようなものでされており、酸味が際立つ。

 この酸味が際立つのが、口の中をリセットするのに一役買っていた。串焼きもパエリアもしっかりとした味付けだし、ハム入りのパニーニはハムの存在感がある。トマトと葉野菜に加わる酸味が一度口の中を落ち着かせてくれるおかげで、次の料理が更に美味しく感じるのだ。

 そう、寿司屋のガリのような感じである。別にそんな意図で悠利は買い求めた分けではなかったのだが、結果として良い感じの仕事をしてくれていた。

 オーク肉とバイソン肉の串焼きは、それぞれタレにしっかりと漬け込んでから焼かれている。鉄板で焼くのではなく、網で炙るようにして焼かれていたことにより、余分な脂は落ちている。だからこその、濃縮された旨味がある。

 タレはどちらも同じ味付けで、醤油のようなソースのような、焼き肉のタレのような、ちょっと濃いめのしっかりとした味付けだ。これは白米が進むやつ、と悠利は勝手に思っている。別にパエリアと食べてもパニーニと食べても美味しいけれど。気分の問題だ。

 オーク肉は豚肉っぽいので、しっかりとした噛み応えと共に肉のパンチを与えながらも優しい味わいだった。部位は赤身の部分らしく、余分な脂は殆どない。そのおかげで悠利にも食べやすかった。

 バイソン肉の方は、ほどよく脂ののった牛肉という感じだ。なかなかに良い部位を使っているのか、簡単に歯が入って噛みやすい。噛んだ瞬間にじゅわりと広がる肉汁と、タレの味が混ざり合って見事なコンビネーションである。

 味のしっかりした串焼き肉を食べていたランドールが、不意に己の荷物入れに手を伸ばした。恐らくはそれも魔法鞄マジックバッグなのだろう。小型の鞄に手を突っ込んだ彼が取り出したのは、随分と大きな瓶だった。

 ……見るからに、酒瓶である。


「ランディ、何やってんだ?」

「この串焼き肉、なかなかに美味しいのでお酒が欲しいな、と」

「……お前、相変わらず荷物に酒を詰め込んでるのか」

「一日の終わりに美味しいお酒を飲むのは何よりの幸福ですよ」

「「言ってろ」」


 柔らかな面差しに上品な微笑みを浮かべ、穏やかな口調で告げたランドールを、幼馴染みズはスパッと切り捨てた。この同胞の酒への執着の強さを彼らはよく知っている。ブルックが甘味に拘るのと同じレベルなので、何を言ってもどうにもならないことを知っていた。

 別に他の面々も、ランドールが手持ちの酒で晩酌をしようと気にはしない。それは別に良い。ただ、アリーが瓶の銘柄を見て顔を引きつらせているだけだ。


「……アリーさん、顔が引きつってますけど、どうかしました?」

「……火酒だ」

「火酒?」

「山の民が好んで飲む酒で、度数が強いことで有名だ。その名の由来は、マジで火が付くところにある」

「……ひぇっ」


 火が付くお酒と言われて、悠利は脳裏にウォッカを思い浮かべた。映画とかドラマでロシア人が飲んでいたお酒として記憶している。とりあえず何かめっちゃ強いお酒、という認識だった。そして、強いお酒だからこそ、飲み方を気にしなければいけないということも。

 そんな風に衝撃を受けている悠利の目の前で、ランドールはグラスになみなみと火酒を注いだ。先ほどまで水が入っていたグラスに、色は殆ど変わらないがぶわりと酒精を漂わせる液体が入っている。

 そして彼は、その物凄く度数が高い火酒を、一気に呷った。


「えぇ!?」

「マジか……」


 まるで水でも飲むようにぐびぐびと火酒を飲むランドール。グラス半分ぐらいの火酒を飲み干すと、美味しそうに串焼きを食べる。串焼きを咀嚼したら、またグラスの中身を飲む。そして空になったらお代わりを注ぐ。

 まるで何かのルーティーンであるかのように、その光景は繰り返された。食べ方は上品なのに、同じテーブルに着いているだけで酒精を感じるような強いお酒を、水のように飲むランドール。肝臓どうなってるんだろう、と悠利は思った。


「アリーさん」

「何だ」

「火酒ってあーゆー飲み方するもんですか?」

「しねぇわ。いや、山の民はストレートで飲むから、あんな感じかもしれんが……。大体は、果実や水で割って飲む」

「ランディさん、本当に酒豪なんですね……」


 言われてみれば、ブルックも酒には強かった。彼は果実酒を好むのであまり酒豪というイメージはないが、片っ端から果実酒の瓶を開けたとしても普通の顔をしている。単に味の好みが果実酒なだけで、酒そのものにはめっぽう強いのだ。

 竜人種ってお酒にも強いのかぁと思った悠利の耳に、ロザリアの呆れたような声が飛び込んできた。


「相変わらず、アホみたいな飲み方をするな、貴様……。山の民でもやらんぞ」

「火酒は飲み口がスッキリで、純粋な酒の風味を楽しめて良いんですよ?」

「そういう話はしていない。その酒は、そんな風に飲むもんじゃないだろう。水じゃあるまいし」

「それは同感だ。後、ほどほどにしておけよ。室内に酒精が漂っては、未成年のユーリに害悪だ」

「あぁ、それは確かに。申し訳ない。気をつけます」

「え、あ、いえ、大丈夫、です」


 幼馴染み二人に言われて思い至ったのか、ランドールは開けっぱなしだった酒瓶に蓋をした。飲むのは止めないが、少しでも酒精が漏れるのを避けようという心遣いらしい。悠利はとりあえずぺこりと頭を下げた。

 このお肉が美味しいもので、とグラス片手に微笑むランドール。穏やかそうなお兄さんが持っている透明な液体の入ったグラス。それが火が付くような度数の高いお酒だなんて、普通は思わないよねぇ、と考える悠利だった。




 その後、雑談を挟みつつ食事は恙なく進み、途中で食べ足りないからと竜人種達がウォルナデットを連れて買い出しに出るのでした。彼らの胃袋はやはり大きかったようです。


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