飛行系従魔と空のお散歩

「今日はこれから、皆で空の散歩をしたいと思います!」


 満面の笑みを浮かべてそんな宣言をしたのは、ヴィオラだった。空の散歩?とアロール以外の全員が首を傾げる。確かにヴィオラの従魔は飛行系なので、空を飛ぶのはお茶の子さいさいだろう。しかし、空の散歩とは何なのか解らない。

 とりあえず、悠利ゆうりは素朴な疑問を口にした。空の散歩で思い浮かんだので。


「それって、来たときと同じように天馬が引く馬車に乗るってことですか?」

「違うわよ」

「あれ、違った……?」


 皆で散歩と言うからには、移動のときと同じような状態で空を飛ぶのだと思った悠利である。しかしその意見はヴィオラにあっさりすっぱり否定された。そうなると、どうやって空を飛ぶのだろうかと皆は不思議な顔をするしかない。

 よく解っていない皆に向けて、ヴィオラはやはり笑顔だ。そんな彼女の背後には、従魔達が控えている。天馬が二匹に小型のドラゴン、グリフォン、大形の鳥、さらには人間サイズの蜂と蝶までいる。もはやカオスである。

 飛行系が得手と宣言している通り、ヴィオラは空を飛ぶ魔物を使役している。種族はバラバラなのだが、飛行系という共通点があるのか、言葉に似た部分があるらしい。彼女は勉学によって魔物の言葉を覚えた努力型だ。

 ちなみにヴィクトルはスライムと波長が合うという素質があったパターンなので、才能型。どんな従魔とも言葉を交わすことが出来るアロールは特殊な異言語理解の技能スキルを持っているので、その上位と考えて良い。魔物使いでも色々と違いがある。

 ヴィオラのような勉学で魔物の言葉を覚えたタイプは、人によっては他の言葉を覚えることも出来る。ただやはり、向き不向きや得手不得手というのは存在するので、習得具合は個人差がある。勉強ってそういうものですね。

 閑話休題。


「せっかくだから、この子達に乗せてもらって空の散歩をしようと思うの」

「全員一度には無理だから、何回か交代する感じでね。僕は留守番してる」

「アロール、そんな寂しいこと言わないで……!私と一緒に乗りましょう?」

「僕は今更勉強する必要はないから、皆に譲るよ」

「そんなこと言わないでちょうだい!」


 朗らかな笑顔で方針を告げたヴィオラであるが、続いたアロールの言葉に顔色を変えた。大好きな可愛い従妹と一緒に空の散歩をしたかったらしい。物凄く必死に縋っている。しかしアロールは面倒くさそうにそれを斬り捨てるのだった。

 それでも諦めきれないのか必死に訴えるヴィオラ。ヴィオラの背後の従魔達も、アロールをじーっと見ている。一緒に散歩しないの?みたいな雰囲気だった。アロールは他人の従魔にも愛されているのである。

 しばらくかかりそうだなぁと判断した悠利達は、どの順番で空の散歩をするかを相談することにした。というか、まず、どの従魔のお世話になりたいかの相談とも言えた。

 何しろ、天馬、ドラゴン、グリフォン、鳥、蜂、蝶とラインナップが豊富だ。好き嫌いというわけではないが、苦手なタイプの従魔もいるだろう。そこで順番を決めるのが良いのではという考えだった。


「私、別に時間があったらとか、余ってたらで良いわよ」

「良いのか、ヘルミーネ」

「はい。そりゃ、従魔に乗って空を飛ぶのも気になるけど、自分でも飛べますしー」


 アリーの問いかけに、皆の方が空を飛ぶのを体験したいでしょ?と小首を傾げてにっこり笑うヘルミーネ。金髪美少女の笑顔、プライスレス。羽根人の彼女にとっては、空を飛ぶのは別に珍しいことではないのだ。うきうきしている悠利達に譲る気持ちが芽生えたらしい。優しい。

 ふわりと背中に真っ白な翼を出現させて、自前で飛べるというのをアピールしている。出し入れ自由なのが羽根人の便利なところである。なお、服はそれに合わせて特注品です。破れてないのでご安心ください。

 ……ルシアに新しいスイーツを作ってもらえる可能性のある情報を持ち帰れることが確定しているので、ご機嫌なのかもしれない。彼女は割と現金なのです。

 そんな風に会話をしていると、従魔達の方が動いた。不思議に思う悠利達の前で、従魔達はじぃっとこちらを見て、そして、特定の人物の前で止まった。

 最初に動いたのは、フラウの前に立ったグリフォンだった。凜とした面差しの弓使いのお姉さんを見下ろしていたグリフォンは、おもむろにぺこりと頭を下げた。まるでお辞儀をするような仕草だ。


「……これは、気に入られたと言うことで良いのだろうか?」

「……そうなんじゃないですかね」


 グリフォンはフラウだけでなく、フラウの隣に立っていた悠利にも同じように頭を下げてくる。深々とお辞儀をして、頭を上げると二人を見つめる。思慮深い眼差しに真っ直ぐと見つめられて、二人は困惑しつつもお辞儀を返した。

 何せ、従魔の言葉は解らない。悠利の足元のルークスが満足そうにぽよんぽよんと跳ねているところを見るに、好意的に接してくれているのだろうと推察出来る。何せルークスは、悠利に害があると思ったら即座に臨戦態勢を取るので。

 似たような光景は、他の従魔達でも起きていた。二頭の天馬はラジとクーレッシュの前でお辞儀をし、甘えるようにすり寄っている。驚きつつも首を軽く叩いてコミュニケーションを取っているのは流石だった。

 大きな鳥型の従魔は、自分と同じように翼を持つヘルミーネが気になったのか、じぃっと彼女を見下ろしている。ただこれは、あくまでも背中に白い翼を持つ羽根人が気になったということのようで、前者達のように甘えたり親しみを含んだ仕草はなかった。

 同時に、興味津々で見てくるレレイと、少し離れた場所にいるラジを警戒しているように見える。……鳥の本能がネコ科を察知したということなのだろうか。レレイは猫獣人の血を引いていて、ラジは虎獣人だ。大雑把に分類するなら、彼等はネコ科である。


「……オイラ、蜂は別に怖くないけど、このサイズはちょっと慣れない……」

「ははは……。蝶でも慣れないぞ……」


 震える声で軽口を叩いているのは、ヤックとカミールだった。彼等の前には、自分達と同じぐらい、むしろ羽を広げた分だけ彼等よりも大きい蜂と蝶がふわふわと浮いていた。昆虫の瞳が、じぃっと二人を見ている。

 何故自分達の前に蜂と蝶がやってきたのか、二人には解らなかった。獣と違って感情の起伏が解りにくいので、尚更謎が深まる。しかし、蜂も蝶も二人の前でふわふわと浮いており、時折羽を羽ばたかせている。


「お前ら変なのに好かれてんなぁ」

「ウルグス、他人事止めて」

「獣はまだしも、虫はよく解んないんだよ……!」

「でもお前らの前から動かないってことは、気に入られてんじゃねぇの?」

「「解らない!!」」


 言葉どころか表情素すら解らない相手なのにどうしろと!とヤックとカミールは悲鳴じみた叫びを上げる。その声で騒ぎに気付いたのか、アロールとヴィオラが慌てたように二人の元へと移動してくる。

 蜂と蝶は主の出現に一瞬だけそちらに視線を向けたけれど、やっぱりヤックとカミールを見ていた。……何か、彼等の琴線に触れるモノがあったのだろうか。


「心配しないで。飛ぶなら自分達が運ぶって言ってるだけだから」

「「何で……?」」

「君達なら運べそうなのと、直感的に気に入ったって感じみたいだけど」

「「……あー」」


 アロールの説明に、二人は脱力した。蜂も蝶もあまり力があるように思えないので、大柄な人間を避けたのかと理解できた。ただ、それでも蜂の方がヤックを選び、蝶の方がカミールを選んだのには何かがあるらしいが。本能っぽいので解らない。

 そこで、カミールはハッとしたように傍らを示した。小柄な人間なら、他にもいる。


「だったらマグは!?あいつの方が小さいだろ」

「マグは何か物騒な感じがするから嫌だって」

「……えー」

「マグって、従魔に物騒って思われちゃうの?」

「素直に身を委ねてくれそうに見えないんだってさ。まぁ、基本的に警戒心の塊だしね」

「「……確かに」」


 アロールが従魔達の言い分をさっくりと通訳してくれると、二人も反論することが出来なくなった。言い分に納得してしまったのだ。

 マグは小柄だがスラム育ちで戦闘能力が高く、いざというときの思い切りが良い。そして人見知りの気があり、警戒心が強い。そうそう簡単に自分の命を預けてくれない感じはした。

 とはいえ、そうなるとマグは空を飛べなくなるのではないか。せっかくの珍しい体験なのに勿体ないなぁと思うお子様三人の耳に、ヴィオラの驚いたような声が届いた。


「あら、貴方その子が気に入ったの?」

「ギュア」

「珍しいわねぇ……。貴方が初対面の人を運んであげようとするなんて……」


 ヴィオラが貴方と呼んだのは、赤い小型のドラゴンだ。機嫌良く鳴いているドラゴンは、何故かマグの肩辺りに浮いていた。しゅるんと尻尾を動かして、ぺしぺしとマグの背中を叩いている。じゃれているようだ。

 特筆すべきは、マグがそのドラゴンの行動を受け入れていることだろう。パーソナルスペースに知らない相手が入ってくるのを嫌がるマグにしては珍しい。


「え?何、波長でもあったの……?」

「何か、目で会話した後に意気投合してたぞ……」

「ウルグス、見てたの?」

「見てた」


 訝しげなアロールに、ウルグスは疲れたような声で説明を続けた。

 アロール達が騒いでいる間、ぽつんと離れたところにいたドラゴンがこちらへやって来て、ウルグスとマグをじっと見ていたのだ。ウルグスからはすぐに視線を逸らし、マグと無言の睨み合いを続けること数分。尻尾を差し伸べたドラゴンと、握手をするようにその尻尾を握るマグということになった。

 マグにはドラゴンの言葉は解らない。そして、マグは喋っていないのでドラゴンにもマグの考えは解っていないはずだ。だが、目と目で会話をしたのか、何かが通じ合ったのか、一人と一匹は意気投合してしまったのだ。

 意気投合した結果、ドラゴンはマグの両肩に足を乗せ、がしりと掴む。怪我をさせないように加減をしているのだろうが、そのままばさりと翼をはためかせる。羽毛のような見た目の翼は柔らかく動き、ぶわりと風を動かす。

 そして次の瞬間、マグの身体はふわっと浮いた。ドラゴンが浮上するのに合わせて、足は地面を離れる。


「あ、こら!待ちなさい!勝手に飛ばないの!まだよ!」

「ギュアア」

「皆で行くから待ちなさい!貴方も大人しくされるがままになってちゃダメよ!一人は危ないんだから!」

「……諾」


 ヴィオラに叱られて、ドラゴンは面倒くさそうに鳴いた。それでも、主の言葉に逆らうつもりはないのか、そっとマグを地上に降ろす。マグの方は返事はしているが感情はこもっていなかった。

 慌てて駆け寄ったウルグスが、マグに小言を言っている。勝手に行動するなと怒られている。しかしマグはどこ吹く風。動いたのは自分ではないと言いたげだ。

 そんな風に騒動はあったものの、とりあえずは従魔達側からのアクションで誰がどの従魔に乗るのかは決まった。一度目は今従魔達に選ばれた面々が乗ることになる。ただし、天馬の一頭にはヴィオラが乗るので、ラジとクーレッシュは同時には飛べない。話し合いの結果、ラジが先に空を飛ぶことになった。


「ユーリ、もし良かったら一緒に乗らないか?」

「え?」

「グリフォンは身体が大きい。アロールに聞いたら、二人ぐらいなら問題なく乗れるそうだ」

「お邪魔じゃないですか?」

「邪魔ではないさ」

「それじゃあ、よろしくお願いします」


 フラウの申し出を、悠利はありがたく受けた。ふっかふかの羽毛が魅力的なグリフォンに乗れるということで、テンションがちょっぴり上がっていた。そんな微笑ましい悠利尻目に、フラウとアリーが視線を交わしたことに悠利は気付かなかった。

 一人で乗せるよりも、フラウが一緒の方が安全に違いない。大人二人の間ではそういう認識だった。……つまりは悠利は、一人で乗せると何が起こるか解らないと思われているのだ。安定の悠利。

 まぁ、はしゃぎすぎてうっかり体勢を崩したとしても、フラウが同乗しているならば支えて貰えるので安心なのは事実だ。はしゃぐ以外にも、突然の風などでバランスを崩す可能性もある。悠利の体幹はそんなに鍛えられていないのだ。

 なお、ルークスはお留守番だ。何やら不服そうだったが、フラウが同乗するということで大人しく引き下がった。騎乗する二人を見て、フラウに向けてぺこぺこ頭を下げる姿がちょっと印象的だった。ご主人をお願いしますと言っているらしい。


「それじゃ、皆さんしっかりとうちの子達に掴まってくださいね。何かあっても暴れたりしないこと。不備があれば声を上げてください」

「「はい」」


 引率の先生よろしくヴィオラに言われて、皆は元気よく返事をした。そして、空へふわりと舞い上がる。

 天馬とグリフォンは背中にまたがる形で乗せて貰っているので、特に不安はない。座れるというのは安定感がある。なので、悠利もフラウもラジも、落ち着いていた。

 落ち着いていなかったのは昆虫組だった。


「お、落とさないでね……!?お願いだからね!?」

「大丈夫、大丈夫、大丈夫。落とされない、落とされない」


 不安そうな顔で蜂に声をかけているのは、ヤック。その彼の姿勢は、水平に飛ぶ蜂に身体の下で抱きかかえられている状態だ。まるで荷物を運ぶような感じだ。

 自分に暗示をかけているカミールも、似たような状況である。こちらは真っ直ぐ立っているときのような状態で、背後から蝶に羽交い締めにされている。ばさばさと羽ばたく度に風が髪を揺らしていた。


「……抱えられてるだけって、結構不安そうですね」

「うむ。しがみつく先がない上に、踏ん張れないからな……」

「やっぱりお尻と足が安定してる方が良いのかなぁ……」


 優雅に飛ぶグリフォンの背中で、フラウと悠利はそんな会話をした。昆虫に抱えられて飛ぶという滅多にない経験をしているヤックとカミールは、空の高さも周囲の景色も楽しむ余裕はなさそうだった。

 ジェットコースターも、宙づり型だと不安定だもんねぇ、と悠利は心の中で思う。足場があるタイプとないタイプでは、安定感が違う気がするのだ。勿論、よく躾けられた従魔達が同行者を手荒に扱うことはないと信頼しているが。

 それはヤックとカミールだって同じだ。ちゃんと信じているから、空を飛ばせて貰おうとしたのだから。……しかし、それはそれ、これはこれ。実際に抱えられた状態で空を飛んでみると、ぶわっと恐怖が襲ってきたらしい。無理もない。

 しかし、世の中には更に上がいた。マグである。


「あら、上手ね、マグくん」

「……」

「落ち着いてるわねー」

「空、綺麗」

「えぇ、綺麗よね」


 小型のドラゴンに肩を掴まれているだけという実に不安定な体勢で、マグはいつも通りの淡々とした口調で答えている。眼前に広がる広い空を堪能しているらしい。

 ドラゴンを信頼しているのか、その足を掴むことすらしていない。手は腰の辺りで後ろ手に組み、足は風に流されるままぶらぶらしている。多分、一番安定が悪いのは彼だ。なのに物凄く平然としていた。


「……マグの肝の据わり方が普通じゃない……」

「あ、ラジ」

「グリフォンは流石に大きいだけあって羽ばたきが凄いな」

「天馬さんは優雅だね」


 天馬には鞍と鐙が付いているので、ラジの体勢はとても安定していた。グリフォンの側へ寄ってきたのはラジの意志を汲んだ天馬の行動らしい。一応手綱は握っているが、基本的に従魔任せで空を飛んでいるので。

 ちなみに、グリフォンには鞍や鐙はないが、手綱は用意されている。大きな身体の上でしっかりと掴まることが出来るようにという配慮らしい。手綱を握っているのはフラウで、悠利はその彼女の腕の中にいるという感じだった。


「一番不安定なのに、何でマグは平然としてるんだろうな」

「まぁ、マグだしねぇ。何かこう、その辺の覚悟が人一倍簡単に決まってるような」

「僕だったら、せめてドラゴンの足は掴む」

「僕もそうするかなぁ……」

「それをしないマグだから、あのドラゴンが選んだ可能性はあるだろうな」

「「あ」」


 フラウの指摘に、悠利とラジはハッとしたように顔を見合わせた。確かに一理あった。慣れていない相手にがっしり足を掴まれるのが嫌だとしたら、マグを選んだ理由も理解できる。悠利達ならば絶対に足を掴んでしまうだろうから。

 というか、今の状態だって彼等は、命綱っぽい何かが欲しいなと思ってしまうのだ。手綱はあっても、手を離したらアウトである。身体を支える何か、シートベルトっぽいものが欲しいなと思う悠利だった。

 それは凜々しい姐御であるフラウも同じだったのか、落ち着いた声音で言葉を紡いだ。


「手綱だけでは身体を支えるに不安が残るな。腰にベルトを繋ぐなどが出来ないものか」

「やっぱりフラウさんもそう思います?空を飛ぶのは気持ち良いですし、景色も素敵ですけど、安全面を考えちゃいますよね」

「あぁ。この状態では手を離せないからな。それでは弓が使えない」

「……はい?」


 大真面目な顔で言われた言葉に、悠利は首を傾げた。今までの会話の流れで、何で弓の話が出てくるのか解らなかった。しかし、弓使いのお姉様は当然と言いたげな口調で話を続ける。


「上空を取れるというのは実に良い。魔物使いと連携出来ればこんな風に便利に空を飛べるというのに、手綱を握っていては弓は使えないからな……」

「……あの、フラウさん?」

「馬上で弓を射ることはあるが、アレは地上だからな。落ちてもそこまでダメージはないが、流石に上空ではもう少し身の安全を確保した方が良さそうだ」

「……わぁ」


 そういえばこのお姉さんは頭の中が基本的に戦闘について考えるように出来ているのだと、悠利は思い出した。消臭剤の話をしていたときも、体臭を消せれば魔物に気付かれにくくなるとか言っていたような御仁である。今も思考がそんな感じなのだろう。

 確かに、言いたいことは解る。上空を自由自在に飛べるのは便利だが、うっかりバランスを崩して落っこちたらおだぶつだ。それに、敵が空を飛べたら更に危険性は上がる。

 そう、それは解る。解るのだけれど、平和にお空の散歩を楽しみましょうねーという状態の今、何で物騒な方向に考えちゃうのだろうかと思っただけだ。職業病か何かかなぁと思う悠利だった。

 とりあえず、フラウも悠利を相手にその手の話が出来るとは思っていないのか、独り言をぶつぶつ言っているだけだ。同意を求められないだけマシかもしれない。悠利はフラウの独り言はBGMみたいなものだと割り切って、目の前に広がる景色を堪能した。

 グリフォンは、それほど速いスピードで飛んでいるわけではない。乗せているのが不慣れな悠利達だからだろう。どの従魔も、比較的ゆっくりと飛んでくれている。そのおかげで、周囲を落ち着いて見ることが出来る。


「景色も良いけれど、風を感じるのが素敵でしょう?」

「ヴィオラさん」

「普段はこの子達だけで飛ばせてるんだけど、たまに私も一緒に飛ぶのよ。だって、こんなに気持ちが良いんだもの」


 これを貴方達に感じてほしかったの、とにっこりと笑うヴィオラの笑顔は、晴れやかだった。自分の従魔をとても可愛がっていて、その彼等が見せてくれる景色の素晴らしさを皆に教えたかったというだけの笑顔。悠利は思わず釣られたように笑った。


「とても楽しいです」

「それは良かったわ」


 伝えた感想に嘘はなかった。頬を撫でる風も、眼前に広がる空の青も、眼下に広がる景色も、何もかもが素晴らしい。滅多に出来ない体験をさせてもらって、悠利は幸せを満喫するのだった。




 その後、何度も交代をして複数の従魔達に空の散歩をさせてもらう悠利達なのでした。……なお、昆虫系に運ばれてはしゃいでいたのはレレイだけでした。強い。




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