もふもふ従魔にも色々ありました
目の前には、もふもふの山。
言い方はアレだが、そうとしか形容できない光景がそこにあったのだ。従魔達との快適な睡眠を味わった翌日、
それが、今目の前にいるもふもふの獣系従魔達だ。狼、熊、虎、大型の犬、尾が複数ある狐など様々だ。共通点は四つ足の獣で、毛皮がもふもふであるということだろう。もふもふ担当とアロールが昨日告げたのに相応しい従魔達だ。
「彼がこの子達の主のレスター。見て解るように得手はもふもふ系」
「アロール、言い方……」
「実際、レスターはもふもふしたのばっかり集めるじゃないか。何か間違ってた?」
「間違ってはいないが、もふもふと言われると妙に可愛く聞こえるだろう」
「可愛いじゃない、あの子達」
「……そうだな」
何か問題でもあった?と言いたげなアロールに、レスターと呼ばれた男性は苦笑を浮かべた。恐らくはアリーよりも更に年上であろう男性は、もふもふ系従魔に顔を輝かせている悠利達を見て優しく笑った。
「名目は勉強だと聞いているけれど、今日はうちの子達と触れ合うのを楽しんでほしい。この子達も、身内以外と接するのは良い経験になるだろうからね」
「「はい」」
ハイテンションな双子に比べて落ち着いた大人であるレスター。その彼の発言に、皆は素直に返事をした。そして、お許しが出たからと、うきうきで従魔達に近寄っていく。
ルークスも、それは一緒だった。従魔の先輩達に向けてぺこぺことお辞儀をしながら挨拶をしている。ルークスよりも大きな従魔達は、小さなスライムが礼儀正しく挨拶をしてくるのを鷹揚に受け入れていた。良くある光景なのかもしれない。
そんなルークス達を見ながら、悠利は素朴な疑問をレスターに投げかけた。
「あの、獣系という共通点はあっても、彼らの種族はバラバラですよね?喧嘩とかしないんですか?」
「まぁ、各々の性格もあるから多少の喧嘩はあるけれど、それは人間でも同じだろう?一応、こちらでリーダーを定めているから、基本的にはそのリーダーの言うことに従うようになってるよ」
「リーダー、ですか」
「あぁ」
レスターの発言を受けて、悠利は従魔達を観察する。さて、誰がこの一団のリーダーなのだろうか、と。
しかし、従魔達の言葉など解らない悠利なので、見ていてもよく解らなかった。それというのも、従魔達が思い思いにくつろいでいるからだ。もうどこからどう見てもふれあい動物園みたいになっている。緊張感が皆無だった。
うーんと唸る悠利に、レスターは楽しげに笑って答えを教えてくれた。親切だ。
「うちのリーダーはあの狼だよ。フォレストウルフという種類なんだが、狼は群れを作る性質があるからね」
「群れを作る性質がある方が良いんですか?」
「善し悪しかな。うちの場合は群れの長という感じで据えて上手くいっている」
群れを形成する種族というのは、自分と同じ群れだと認めた相手には親身になる。逆に、群れと認められなければ実に素っ気ないことになるので、新しい従魔を加えるときには大変らしい。
「同系統ばかりで固めると、古参か力の強いものがリーダーになりやすいな。ヴィクトルのところがそうだ」
「スライムばっかりですもんね」
「あぁ。ヴィオラのところはうちと似ている。天馬をリーダーに据えているよ」
「色々あるんですね」
「色々ね」
なるほどなるほどと、悠利はちょっぴり従魔について詳しくなれてご満悦だった。別にルークス以外の従魔を持つつもりなんてないのだけれど、魔物使いと従魔の関係を知るのは純粋に楽しかった。
「古参はあの狐だよ。種族名はシャドーフォックス。強くなると尻尾が増えていく種族でね。その尻尾が本体の影のように見えるってことらしい」
「尻尾が複数ある狐……。ロマンですね」
「そうかい?」
「はい」
可愛い従魔だとは思っていても、そこは特にロマンではないらしいレスター。しかし、悠利にしてみれば十分にロマンだった。九尾の狐とか、尻尾がいっぱいある狐とか、見た目も豪華で格好良い。
古参と言うからにはレスターが魔物使いになりたての頃から使役しているのだろう。しかし、リーダーは狼の方だと言う。資質としてリーダーに向いているのが狼の方だった、ということなのだろうか。
「あの子は力はあるし頭も良いんだけれど、気分屋でね。統率するのは向いてないんだ」
「……狐だけに?」
「狐だけに」
小首を傾げて問いかけた悠利に、レスターはからりと笑って答えた。何となくの悠利のイメージで狐は自由っぽさがあるのだが、どうやら間違っていないらしい。ちなみに狐は猫っぽいけれどイヌ科である。ちょっと変わり種っぽいイメージを抱いている悠利だった。
とはいえ、従魔達の様子をうかがうに仲は良さそうだ。適材適所で、それぞれ仲良くやっているらしい。その辺は人間社会と似ているなぁと思う悠利だった。
そこでふと、ちょっと気になったので、側で暇そうにしているアロールに声をかける。レスターの従魔達の元へ近付かないのは、彼女が近付くと従魔達が彼女を優先するかららしい。天賦の才を持つ魔物使いの十歳児は、他人の従魔にもモテモテだった。
「アロールのところのリーダーって、ナージャさん?」
「そうだよ」
「ナージャさんって群れを作る種族なの?」
「違う。ナージャは単純に力で君臨してるタイプ」
「……え」
「圧倒的強者に逆らうバカはいない」
「そっち!?」
何やら言い方が恐怖政治みたいだったので思わず声を上げた悠利だった。アロールは平然としているし、ナージャはそれがどうしたと言いたげだ。物理なんだ、と悠利は小さく呟いてしまった。
「魔物は人間よりも力関係に敏感だからね。自分より上位者だと理解したら従うから、力で従えるのもアリはアリなんだよ」
「ナージャさん、そんなに強いんだ……」
「まぁね。だから僕の護衛役ってのもあるし」
「どちらかというとお目付役だろう?」
「レスター、煩い」
「ははは」
悠利に説明するアロールの発言に、レスターがそっとツッコミを入れる。相手の言い分が正しいのは解っているのだろう。文句を言うアロールの言葉のキレはいつもより弱かった。そんなアロールを見て、ナージャは定位置である彼女の首元でそっと息を吐く。笑っているのかもしれない。
年長者であるだけでなく、レスターの元々の性格もあるのだろう。アロールに茶々を入れているが彼女の機嫌を損ねるほどではなく、二人のやりとりは軽快だ。
アロールの実家へ来てみて悠利は理解した。彼女が年長者相手でも物怖じせずに、よほどでなければ敬称も付けずに呼び捨てで対応しているのは、実家のこの環境があったからだ、と。ここの人たちは年齢で相手を判断しない。判断基準が能力なのだ。
それは、彼等が長を決める方法が完全なる実力主義だからかもしれない。血筋ではなく能力でそのときの長を決める方針らしく、本家や分家といった概念は存在しなかった。そういった下地があるからこそ、幼いながらも魔物使いとしては一人前のアロールは対等に扱われる。
……まぁ、母親であるミルファは可愛い娘としても扱うし、ヴィオラとヴィクトルの二人は可愛い可愛い従妹としても扱うのだが。しかしそれだけでなく、魔物使いとしては対等に扱うのが染みついているらしい。不思議な関係だ。
「まぁ、理由は色々だけど、とりあえず複数の従魔を従える魔物使いはリーダーを決めてると思うよ。そうでないと、まとまらないから」
「人間も集団になったらリーダーが必要になるもんね」
「そうだね」
その辺りは人間も魔物も変わらないのかなぁと悠利は思った。集団になれば社会が形成されるのは同じなのかもしれない。
そんな風にのほほんとちょっぴりお勉強めいた会話を楽しんでいた悠利。その耳に、楽しそうな女性の声が届いた。
「皆ー、その子達のおやつを持ってきたわよー」
ガラガラと台車を引いてやってきたのは、ヴィオラだった。なお、彼女は台車を引っ張っていない。複数の大きな箱のようなものを積んだ台車だが、動かしているのはヴィオラの傍らを飛ぶ小型のドラゴンだった。器用に台車に繋いだ紐を咥えて飛んでいる。
サイズにして、人間の幼児ぐらいだろうか。ドラゴンというイメージから考えると、随分と小さい。色味は鮮やかな赤で、瞳の色も深みのある赤だった。少し普通と印象が違ったのは、その翼が皮膜状ではなく羽毛のようなふんわりとした印象を与えるものに見えるところだろうか。
「ヴィオラ、その子も連れてきたの?」
「連れてきたって言うか、お手伝いを買って出てくれた感じかしら?お客様がいるのが気になってるみたいなのよー」
「気になってるの方向性がアビーと一緒だけどね」
「そうね」
さらりと言葉を交わす従姉妹達を見て、悠利はハッとした。何やら先ほどから、台車を引っ張っているドラゴンに凝視されていると思ったのだが、理由が解った。これは警戒されているのだ、と。
アビーというのはアロールの母ミルファに従う小型のワニの従魔だ。アロールを庇護するナージャよろしく、主に対して過保護らしい。そのため、余所者である悠利達を「誰だお前ら」「うちのご主人に変なちょっかいかけんじゃねぇぞ」と言わんばかりに威圧していた。この小さなドラゴンもそれと同じらしい。
従魔って、主人に対して思いっきり過保護になる傾向でもあるのかな、と悠利は思った。……なお、悠利はイマイチ解っていないが、ルークスも大概である。あの見た目は愛らしいハイスペックなスライムは、ご主人に危害を加える&ご主人に悲しい顔をさせる輩は全てぶっ飛ばして良いと思っているのだ。
なので、今もルークスは素早く悠利の傍らにやってきて、小型のドラゴンに向けてキュイキュイと鳴いている。うちのご主人様は危ない人じゃないよ!みたいな主張をしているのだろう。……全然相手にされていないのだが。
「ごめんなさいねぇ、ルークスちゃん。この子ったら、頑固だからー」
「キュピー……」
「大丈夫よ。貴方の大事なご主人様に危害を加えることはないわ。そこは私が保証します」
「キュ!」
ヴィオラの説明に、ルークスはそれなら良いやと言いたげに笑った。大きな瞳は鳴き声よりも雄弁にルークスの心境を物語る。スライムの言葉は解らないヴィオラだが、その満面の笑みを見ればルークスが安堵しているのは一目で解る。
そんな微笑ましい光景を見つつ、悠利は傍らのアロールに質問を投げかけた。素朴な疑問だった。
「ところでアロール、おやつってどういうこと?」
「言葉のまんまだよ。午前中の間食」
「朝ご飯は食べてるんだよね?」
「食べてるよ。ただ、従魔はよく食べるからね。午前と午後におやつの時間があるんだ」
「へー……。レレイみたいだね」
「レレイのはただの大食いだからね?」
自分の中の馴染みのあるものに変換して考えるのは悠利の癖なのだが、一緒にしないでとアロールのツッコミが入った。そう、別に食べなくても良いけど娯楽としておやつに手を伸ばすレレイと違って、従魔達の場合は健全な肉体の維持に必要だから摂取するのである。ちょっと用途が違う。
従魔のおやつってどんなのだろうと台車の中身を覗き込んだ悠利は、思わず首を傾げてしまった。そこにあったのは、思ってたのと違うものだったのだ。
「アロール、これがおやつ?」
「そうだよ」
「ドライフルーツとナッツ類と、……こっちのは?」
「穀物の粉を焼いたもの。これが小麦で、これがトウモロコシ。こっちは豆。それぞれ好みがあるから、混ぜて与えるんだよ」
「……へー」
おやつと言うからには、完成形で出てくると思っていた悠利は、ちょっと意表を突かれた。同時に、うわー、これ物凄く見たことあるー、と思った。見覚えのあるとあるモノに良く似ていたのだ。
ドライフルーツと、ナッツと、穀物の粉を焼いたシリアルっぽい何か。それを好きなものを選んで混ぜて与える。もうアレだった。悠利の脳内には、牛乳をかけて朝ご飯に食べるようなアレが思い浮かんでいた。グラノーラである。
人間のおやつと言われても問題なさそうなおやつだ。従魔のおやつと言うには、ちょっと悠利の中では違和感があった。
とはいえ、そんなことを考えているのは悠利だけで、ヴィオラもレスターもアロールも、従魔用の大きめの器にざくざくと盛りつけている。一匹一匹顔を確認して、入れるものを変えている。そして、従魔達は大人しく自分の器のものだけを食べている。
「へー、従魔のおやつってこういうのなんだ」
「面白いな」
カミールとウルグスがふむふむと感心した様子で口にする。確かに、普段は従魔におやつを与えてはいない。ルークスもナージャも基本的に一日三食である。なお、ルークスは掃除でゴミを吸収してエネルギーにしているし、ナージャは害虫駆除のついでに適当に何かを食べていたりするらしい。実に逞しい。
そんなわけで、《
「何かこう、すっげー馴染みがあるんだよなぁ……」
「オイラも……」
「だよな?何かこう、見覚えがあるっていうか、馴染んでるっていうか!」
「あの辺とか、あの辺とか!」
「そうそう。あの穀物の粉を焼いたの?は知らないけど、それ以外な!すっげー見覚えあるよな!」
「あります!」
何やら二人で盛りあがるクーレッシュとヤック。山村育ちと農村育ちの庶民派コンビは、ドライフルーツやナッツ類を示して物凄く盛り上がっていた。
「二人とも、何騒いでるのー?」
「あの辺が見慣れたおやつだなって話」
「です」
「……食べられるの!?」
二人の発言に、レレイの顔がぱぁっと輝いた。ドライフルーツとナッツ類なのだから別に食べられるだろうと思っていた悠利は、従魔のおやつとして出されたものなのでそう思わなかったのだと理解した。
理解して、クーレッシュとヤックが反射でレレイの腕を片方ずつ掴んだのを拍手で褒めた。流石に余所様の食べ物を勝手に取ることはないだろうが、テンション高めに近付いていって無意識に圧をかける可能性はある。
そんな三人のやりとりを見ていたアロールは、淡々とした口調で説明した。
「まぁ、食べられるよ。これも穀物の粉を焼いたものだし。味見する?」
「良いの!?」
「あくまで味見だから。そこを守るなら、全員どうぞ。好きなの食べて」
「やったー!」
うっきうきで何があるのかを確認しにいくレレイ。その後に、クーレッシュとヤックが続く。こちらは、家で食べていたおやつを思い出してうきうきしているらしい。
せっかくなので皆もどうぞと言われて、他の面々もおやつに手を出す。悠利もいただいた。ドライフルーツはどれも抜群の仕上がりだし、ナッツ類は風味が素晴らしい。穀物の粉を焼いたもの、悠利にとっては見慣れたコーンフレークみたいなものも、普通に美味しかった。
美味しかったので、うっかり口が滑った。
「これ、普通にパフェとかになるよね」
「ユーリ、それってどういうこと!?」
「うひゃ!?」
ごろごろしたドライフルーツやナッツ類をふんだんに使ったグラノーラはそれだけで美味しそうだし、そこにアイスやクリームを添えれば立派なスイーツになるだろう。何となく思ったので口にしてしまったのだが、それまで離れた場所にいたヘルミーネが即座に食いついた。甘党恐るべし。
目をキラキラと輝かせる金髪美少女。……その可憐な容姿に反して、圧が凄かった。
「えーっとね、これとクリームやジャム、フルーツソースを一緒に盛りつけたら、色んな味付けのパフェとかになるんじゃないかなーって思っただけだよ」
「それは、美味しいやつなの?」
「美味しいんじゃないかなぁ……」
何となくの味の想像でしかないが、多分美味しいだろうと思う悠利。その答えを聞いて、ヘルミーネはぐるんと身体をアロールの方へと向けた。従魔達におやつを与えていた十歳児に、大声で叫ぶ。
「アロール、コレ、この穀物の粉を焼いたやつも含めて、作り方教えて!ルシアに伝えるから!!」
「……えー」
「新しいスイーツ!ブルックさんにもお土産!」
「そこであいつの名前を出すんじゃない……」
物凄く面倒くさそうなアロールと、頼んでもないところで相棒の名前を聞かされたアリーがぼやくのが悠利の目に入った。そんな二人を、悠利はそっと拝んでおいた。ごめんなさい、と。うっかりやっちゃいました、と。
とはいえ、別に怒られるようなことはしていない。ヘルミーネの食いつきが凄かっただけである。面倒くさそうにしていたアロールは、後で担当者に聞いてあげると答えることでやっと解放されていた。
「キュイ」
「あ、ルーちゃんもお代わり貰う?えーっと、ルーちゃんが喜びそうなのは……」
従魔用に与えられた器を持って側にやってきたルークスに、悠利は笑う。そして、器を受け取って台車の上へと視線を向ける。どうせなら喜ぶものを入れてあげたいのだが、ルークスの好みは悠利にはイマイチ解らない。
……解らない、はずだった。
「……青だ」
目の前のドライフルーツやナッツ類の一部が、ピカピカと青に輝いている。【神の瞳】さんの自動判定である。青は基本的に良い効果だったりするのだが、はたしてコレは何なのか。
そんなことを思っていたら、目の前にぶぉんと説明画面が現れた。
――認識した従魔の好みの食材を青く表示しています。活用してください。
なお、対象者を変えたい場合はその相手をしっかりと見つめてください。
相変わらず、色々とぶっ飛んだ
まぁ、割と初期からこんな感じではあったのだが。そして、使い手である悠利は他の鑑定を知らないので、自分の
ひょいひょいと、青く表示された食材だけを選んで器に入れる。ルークスは特に何も解っていないのか、悠利の行動を普通に見ている。
「はい、ルーちゃん、どうぞ」
「キュ!」
おやつのお代わりを与えられたルークスは、嬉しそうに器の中身を食べ始める。その途中で、ぱぁっと目が輝いた。物凄く嬉しそうに身体を揺らしながら食べている。
「美味しい?」
「キュピ!」
「良かった」
自分でも自覚していなかった好物が入っていたのだろう。ルークスはとてもご機嫌だった。その姿を見て悠利は思った。他の従魔達もそうなのかもしれない、と。
勿論、従魔達と意思の疎通を難なく行える魔物使い達がいる。彼等が従魔達の喜ぶご飯を提供しているだろうとは思うのだ。思うのだが、今のルークスの反応と同じ状況がないとは言えない。
なので悠利は、そろっと、アロールがお代わりをよそってあげようとしている狼の従魔をじっと見た。しばらく見た。目が合ったがへらっと笑って誤魔化す。その後に台車の方へと視線を向ければ、青い光が先ほどとは違う位置に出現していた。
そして、悠利の予想が当たっていたことを示すように、アロールは青い表示ではない食材を入れている。青く表示された食材も入れているが、外されているものもある。
「アロール」
「何?」
「このおやつって、健康のためとかで食べるの決めてたりする?」
「してないよ。基本的にはおやつだから好物ばっかり入れてる」
「じゃあ、それも入れてあげて」
「え?」
「それ、その隣の桃のドライフルーツ」
「……これ?」
悠利に言われて桃のドライフルーツを掬うアロール。その顔は訝しげだった。お代わりを大人しく待っている狼も、不思議そうだった。何でだよと言いたげな反応だ。
「何か揉めごとかい?」
「あ、いえ、揉めごとじゃないです。ただ、桃のドライフルーツも喜ぶだろうなって」
「桃?こいつが?」
「はい」
自分の従魔のことなのでやってきたレスターは、首を捻っている。お前、桃好きなの?と狼に問いかけている。しかし、狼はふいっと視線を逸らす。別にと言いたげな反応だ。
「こいつ、特に桃を好きなわけでもないんだけど」
「でもとりあえず、試してみてください。きっと好きだと思うんです」
「……ユーリ、まさか、鑑定……?」
「さっきルーちゃんで試したら凄く喜んでた」
「どういう使い方だよ……」
悠利の口振りから何をしたのかを察したアロールが、がっくりと肩を落とす。落とすが、悠利の能力の高さを理解している彼女は、それならと桃のドライフルーツを数個器に入れた。渡された狼が困惑しているが、彼女は静かな表情で食べるように促す。
悠利と、アロールと、レスターと。三人の視線を受けつつ、狼は面倒くさそうに桃のドライフルーツを器用に口の中へ入れた。
もぐもぐと咀嚼して、飲み込んで、そして――。
「嘘だろ……。物凄く喜んでる……」
「えー……。桃好きだったっけ、君……?」
「生の桃には興味示さなかったのに……」
「あ、ドライフルーツになってるのが好きなだけかもしれないです」
「「そういう理由!?」」
何コレ超美味しい!みたいにはぐはぐと桃のドライフルーツを食べている狼。二人の口振りから、生の桃には見向きもしなかったらしい。そして狼自身も、生の桃がそこまで好みではなかったので、桃のドライフルーツにも見向きもしなかったのだ。
当人ですら知らなかった好物、というわけである。【神の瞳】さんのお茶目様々だった。
「……何やってんだ、お前」
「好物がどれかを鑑定してました!」
「ヲイ」
騒がしいのが気になってやってきたらしいアリーのツッコミに、悠利は笑顔だ。だって目の前で従魔が大喜びしてくれているのだ。そりゃあ笑うだろう。
いつも通り小言を口にしようとしたアリーだったが、それは叶わなかった。レスターががしっと悠利の手を掴んだからだ。
「ユーリくん、是非ともどの子が何を好きかを教えてほしい。メモを取るから!」
「お安いご用ですー」
「その使い方が出来るなら、他の子のおやつにもユーリを同行させるべきかな……」
「お手伝いするよー」
「何か楽しいお話ー?」
「皆の好物を調べてくれるって」
「きゃー!ユーリくん、何て素敵なの!ありがとう!」
レスターだけでなく、アロールも話に乗った。ついでに、盛り上がっているのに気付いたヴィオラも乗った。この三人は従魔が可愛くて仕方のない従魔バカである。本人も知らない好物が判明するというのなら、是非とも調べてほしいとなってしまうのだ。
鑑定の使い方を考えろといつもの小言を言いたいアリーだが、言えなかった。だって、どう考えてもお役に立っているのだ。それも大歓迎されているのだ。この調子だと、恐らく、他の魔物使い達も大喜びするに違いない。
そっと、手近なところにいるルークスを見るアリー。続いて台車の上の食材に目を向ける。悠利のそれとは表示は違うのだが、鑑定画面にずらりと何が好物かが出た。……出てしまった。
「……見えるのかよ」
鑑定よりも上位の
主に、鑑定ってこういう使い方をするものだったか……?という感じで。多分、悠利の話を聞いて、そういう使い方もあると認識しなければ、見えることなどなかっただろう。認識するのは大事なことです。
「キュイ?」
「……あー、心配しなくて良い。元気だ」
「キュ!」
脱力しているアリーを見上げてルークスは心配そうな顔をした。大丈夫?と言いたげな従魔に元気だと告げるアリー。ルークスは賢いので、ちゃんと言葉で説明してやらないと心配し続けるのだ。それが解っているからの対応だった。
「どうした、アリー」
「いや、ユーリがな」
「ふむ。何やら盛り上がっているな」
「従魔の好物を判定できるってなって、あの騒ぎだ」
「ははは、なるほど。ユーリらしい」
「……それで片付いちまうんだよなぁ……」
事情を聞いたフラウは楽しげに笑うだけだ。そう、それで終わってしまう。悠利が鑑定能力を珍妙な使い方で発揮するのは、今に始まったことではない。いつものこと、になってしまうのだ。
疲れたような顔をするアリーと、楽しげに笑うフラウ。その二人の視界では、悠利が目の前の従魔達の好物をアレコレと説明し、魔物使い三人が興味深そうに聞いている姿があるのだった。
その後、話を聞きつけたヴィクトルによりスライム達の好物も確認する悠利がいるのでした。他の子の好物も調べる予定です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます