酸味が美味しいお肉の梅マヨ焼き

「梅干し、どうしようかなぁ……」


 ある日のことだった。悠利ゆうりは梅干しの入った壺の前で考え事をしていた。考え事というか、メニューを考えていたという方が正しいか。

 この大きな壺に入っているのは、大量の梅干しだ。アリーの実家から送られてきているもので、とても美味しく悠利もお気に入りの梅干しである。ただ問題は、梅干しをばくばく食べるような人が《真紅の山猫スカーレット・リンクス》にはいないということだろうか。確かに悠利も、梅干しをそのまま幾つも食べるわけではないし。

 なお、誤解のないように言っておくが、《真紅の山猫スカーレット・リンクス》の面々は梅干しが嫌いなわけではない。気が向いたら食べるし、梅味の料理は普通に食べる。ただちょっと、ライスよりパン派が多いので、梅干しの消費が少ないだけだ。


「梅マヨにでもしようかな。お肉で」


 独り言で呟いて、悠利は自分で頷いた。梅味のお肉は何だかんだで皆は食べる。梅肉を挟んだカツなど、取り合いになるほどだ。だから、お肉と梅の取り合わせは皆に気に入ってもらえるはずだった。

 それに、そこにマヨネーズが加わるならばもはや最強と言えよう。マヨネーズは何だかんだで皆が好きな味付けだった。流石マヨネーズ。


「叩いてマヨネーズと混ぜて味付けに使うとして、お肉はどれにしよーかなー」


 味が決まったならば、次は肉だ。どの肉を使うのかを考えようと、冷蔵庫を開ける。

 大所帯なので大きな冷蔵庫には、いつだって食材がたっぷり入っている。なお、賞味期限が短くて心配になるような食材は、悠利の学生鞄に保管している。時間停止機能が付いた無敵の魔法鞄マジックバッグになっているので、入れておくと傷まないのだ。

 確認した冷蔵庫の中にあった肉は、ビッグフロッグ。大きな蛙の魔物の肉だが、下処理が終わった状態なので蛙らしさは殆どない。鶏モモ肉のような味わいのお肉で、悠利もしょっちゅう使っているお肉だ。

 何せ、値段が安い。元々安くて庶民御用達のお肉だというのに、異常繁殖したときに大量に狩られて更に安くなるというオマケ付き。馴染みの肉屋のおじさんに「今日はビッグフロッグが安いよ」と言われたら、躊躇わずに購入するぐらいだ。大食漢が多いので、出来る範囲での節約は大事である。


「ビッグフロッグの梅マヨ焼きで良いや。レタスも添えたら美味しそう」

「今日のメニュー決まった?」

「あ、お帰りヤック。うん、決まったよ」

「ただいまー」


 食事当番のヤックが戻ってきたので、本格的に夕飯の準備の開始だ。ヤックも自分の仕事だと解っているので、すぐに準備に取りかかる。

 ちなみに、今日は図書館で調べ物をしていたらしい。アジトにも本はあるが、やはり図書館の蔵書量には適わない。普段は縁がない場所だが、ジェイクに連れられて資料の探し方から調べ方までを習ってきたらしい。

 なお、《真紅の山猫スカーレット・リンクス》にある蔵書の八割はジェイクの私物だ。自室では入りきらないので、アジトの書庫まで侵食している。まぁ、皆で共有しても全然気にしていないジェイクなので、ある意味で備品が充実していると言えるのかもしれないが。


「図書館、楽しかった?」

「楽しいってわけじゃないけど、色々解って面白かった」

「良かったね」

「うん」


 学ぶことの楽しさを満喫しているヤックだった。悠利はそこまでお勉強は好きではないが、自分が興味がある分野ならば調べるのは楽しいだろうなぁと思っている。ヤックは早く一人前の冒険者になりたいらしく、そういう意味で勉強にも真面目に取り組んでいるのだ。


「それで、今日のメニューは?」

「ビッグフロッグのお肉を梅マヨで味付けして焼こうかなって」

「梅マヨ……?」

「まぁ、そのままズバリ、マヨネーズに叩いた梅干しを混ぜただけなんだけどね」

「マヨネーズと梅干しって合うの……?」

「意外と合うよ」


 不思議そうな顔をするヤックだが、悠利の答えを聞くと安心したようだった。悠利の美味しいと自分の美味しいが合致しているので、その悠利が言うならばという信頼があるらしい。時々どうしてもダメなときがあるが、そういうときはヤックだけでなく他の人も合わないので、多分文化の違いとかそういう感じだ。


「と、いうわけで、梅干しを叩きます」

「わー……」

「ちょっと面倒だけど、頑張ろうね」

「うん」


 ごろごろとまな板の上に梅干しを並べて、二人は作業に取りかかる。まずは種を外すところからだ。人数が多いので梅干しも沢山必要になる。ひたすら種を外す作業だった。

 なお、外した種は捨てない。とりあえずボウルに入れておいて、後ほど何かに使う予定だ。お湯をかけて飲んだり、お茶漬けに入れたり、スープにしたり。種にも使い道があるので、こうやって大量に出るときは捨てないようにしている悠利だった。

 そもそも、種の周りについている梅肉を完全に取ることは不可能だ。塵も積もれば山となる。ボウルいっぱいの梅干しの種ともなれば、それなりの量なので。

 種を外した梅肉を、ひたすらに包丁で叩いていく。みじん切りというよりは、叩く。ミンチを作る作業にも似ている。作業自体は単純なのだが、やはりそれなりの数をやると大変だ。二人でやるから頑張れる。


「オイラ、梅干しを叩くのは嫌いじゃないんだけどさぁ」

「どうかした?」

「終わった後のまな板を洗うのが大変だなぁって……」

「あー……」


 ヤックの言葉に、悠利は遠い目をした。真っ赤に染まるまな板。汚れをきっちり落とすのはなかなかに大変だ。

 しかし、彼等には強い味方がいた。可愛らしい声が届く。


「キュー?」

「あ、ルーちゃん」

「キュキュ、キュイ!」

「……えーっと、後でまな板を綺麗にしてくれるってことで良いの?」

「キュ!」


 任せて!と言いたげに愛らしいスライムはその場でぽよんと跳ねた。しつこい汚れも何のその。丸ごと体内に取り込んで綺麗にするのは得意だった。むしろそれが自分の役目だと思っているルークスである。……従魔として間違っているとか言わないでください。

 悠利とヤックは顔を見合わせ、そして、笑った。優しい従魔に声をかける。


「それじゃ、お願いするね、ルーちゃん」

「いつもありがとう、ルークス」

「キュピ!」

「また後でねー」

「キュイー」


 調理中は台所に入らないようにしているルークスは、それじゃ!と言いたげにぽよんぽよんと跳ねながら去っていった。

 ルークスの優しさと可愛らしさにほっこりしつつ、二人は作業を続ける。ほどなくして、必要分の梅干しは叩き終わった。


「ボウルに梅干しとマヨネーズを入れて、よく混ぜます」

「他は?」

「んー、お好み?甘めが好きならみりんを足すし、すりおろしたガーリックや醤油を加えるのもアリ。今日はシンプルに梅とマヨネーズだけでやるけど」

「解った」


 ボウルの中で叩いた梅干しとマヨネーズが混ざると、うっすらと赤くなる。ピンクという法が近いだろうか。ところどころ梅干しの粒々が見えるのもご愛敬だ。


「味見してみる?」

「うん」


 どんな味か気になったのだろう。ヤックはスプーンで梅マヨを掬うとペロリと舐めた。舐めて、そして、ちょっと顔を歪めた。


「……酸っぱい……」

「焼くとね、マヨネーズと合わさってまろやかになるよ」

「うー、ユーリがそう言うなら信じる……」

「それじゃ、次はお肉を切るよー」


 酸っぱいなぁと困った顔をしているヤックに笑いながら、悠利はビッグフロッグの肉の準備に取りかかる。食べやすい大きさにそぎ切りにするのだが、あまり小さくしないように気を付ける。何せ、肉は焼くと縮むのだ。小さくなりすぎると固くて悲しい。

 こういった作業はヤックも慣れたもの。いつもの感じだよね?と問いかけた後は、迷いなく切り分けていく。何だかんだで料理の腕は上がっていた。目に見えて解る部分ではなく、こういった慣れという意味で解る感じで。

 切り分けた肉は、ボウルに入れていく。そして、全ての肉が入ったら、全体に梅マヨが絡むようにしっかりと混ぜ合わせる。道具を使うとイマイチ上手に混ざらないので、よく洗った手で行っている。


(……ビニール袋が恋しい……)


 心の中で、悠利は呟いた。調理用の色々と便利なビニール袋が恋しくなるのはこういうときだ。タレに漬けたお肉を揉み込むときなど、袋に入れると手が汚れないので大変便利なのだ。

 しかし、ここは異世界。そんな便利な使い捨ての道具は存在しなかった。現代日本の無駄に便利な部分を痛感しつつ、今はボウルの中のお肉をせっせと手で混ぜる悠利だった。美味しくなりますようにと思いながら。


「混ざったらしばらくこのまま味を馴染ませようね」

「いつものやつだ」

「そう」

「じゃあ、他の料理の準備だね」

「その通り。慣れてきたね、ヤック」

「えへへ」


 褒められて嬉しそうなヤック。交代で日々のご飯を作っているので、彼等なりのペースで成長しているのだ。お肉の入ったボウルは冷蔵庫で寝かせて、その間に二人で他のおかずの準備である。

 肉と一緒に盛りつけるレタスを洗って千切ることも忘れない。スープや副菜、皆がどどんとご飯を食べるのでお米の準備もだ。何だかんだでアレコレやっていると、それなりに時間がすぎていく。

 他の料理の目処が立ったところで、満を持してメインディッシュの登場だ。冷蔵庫から取り出したボウルの中には、梅マヨが馴染んでしっとりしたビッグフロッグの肉があった。


「それでは、これを焼きます」

「解ったー。ユーリ、油はー?」

「油はなしでー。マヨネーズで焼く感じ」

「マヨネーズで、焼く……?」

「マヨネーズは作るときに油が入ってるでしょ。火加減を間違わなければそれで焼けるよ」

「なるほど!」


 そういえばそうだった、とヤックは驚いた顔だ。普段マヨネーズとしてしか認識していないので、うっかり忘れてしまうのだろう。悠利にとってはマヨネーズソテーとかもあるので、マヨネーズで焼くというのは割と普通の感覚だった。

 フライパンの上に肉を並べて火を付ける。とりあえずは中火で様子を見るが、焦げそうならば弱め、火が通りにくければ強くする。蓋をして蒸し焼きにするのも一つの手である。

 しばらくすると、じゅわーとマヨネーズが熱されて溶けてくる。香ばしい匂いが漂ってきて、二人の胃袋を刺激した。焼いたマヨネーズの匂いはとても魅力的だ。そこにビッグフロッグの肉の匂いも混ざるのだから、お腹が減らないわけがない。

 焦げ目が出来たらひっくり返して、両面しっかりと焼く。中までしっかり火が通るようにするのが大切だ。心配な場合は、試しに一つ取り出して半分に割ってみると良い。


「凄く良い匂いがする……」

「するねぇ……」

「味見はありますか」

「味見はありますね」

「やったー!」


 お一つどうぞと焼き上がったお肉を小皿に載せて渡されたヤックは、大喜びだった。先ほどから匂いだけでお腹が減っていたので、思わず飛び跳ねる勢いで喜んでしまったのだ。ただ、悠利も気持ちは解る。マヨネーズが焼ける匂いも肉が焼ける匂いも、それはもう、お腹が減るのだ。

 かぷりと囓れば、最初に感じるのはマヨネーズの風味だ。続いて、マヨネーズに混ぜた梅干しの酸味が広がる。それだけでは酸っぱさを感じるだろうが、そこにビッグフロッグの肉の旨味がじゅわりと広がり、丁度良い塩梅に混ざり合う。マヨネーズのコク、梅干しの酸味、肉の旨味が混ざった絶妙のハーモニーだ。


「あ、美味しい」

「上手に出来たねー」

「梅干し入ってるのに気にならない!酸っぱくない!」

「焼くとまろやかになるし、お肉と食べると風味が加わって良いでしょ?」

「うん、凄く美味しい!」


 梅マヨだけを味見したときは酸っぱさに困っていたヤックだが、完成品を食べて満足したらしい。美味しいと言う笑顔は晴れやかだった。


「それじゃ、残りの分も焼いちゃおうね」

「了解!」


 味付けに問題ないことを確かめた二人は、皆の分のビッグフロッグの梅マヨ焼きを作るのだった。




「何コレ、美味しいー!」


 夕飯になり、本日のメインディッシュが梅マヨ焼きだと説明されたときには困惑顔だった皆も、一口食べれば美味しいと笑顔になっていた。その代表格がレレイだ。

 ぱくんと一口で食べながら、ご飯を続けて食べる。もぐもぐとやや頬張るようになりながら食べる姿は、いつも通りだった。満面の笑みで、見ている方がお腹がいっぱいになるような幸せそうな様子で食べている。濃い味付けのお肉なので、ご飯との相性も良いのだろう。

 噛む度に口の中に広がる旨味に、レレイは終始ご機嫌だった。美味しい、美味しいと言いながら、どんどん食べる。大皿から小皿に取り分ける暇すら惜しいと言いたげな食欲だ。


「お前、気に入ったのは良いけど、一人で食い尽くそうとすんなよな?この大皿は、皆の分だぞ。お前だけの分じゃないからな?」

「ん?わはっへるお?」

「レレイ、口をもごもごさせながらだと何を言ってるか解らないよ」

「ふぁーい」


 クーレッシュのツッコミに、レレイは返事をする。するのだが、大量に詰めこんだままなので何を言っているのか解らない。悠利の指摘に対する返事もまた、もごもご言っていた。

 お前なぁ、と呆れた顔をするクーレッシュだが、それ以上は何も言わなかった。言っても無駄だと思ったのかもしれない。レレイの方は、ごくんと口の中の物を飲み込んでから「ちゃんと解ってるよ?」と不思議そうな顔だ。そこまでバカじゃないもんと言いたげだ。

 はたしてその言葉をどこまで信じて良いのやら。悠利とイレイシアは、視線だけで会話をして、口では何も言わなかった。いつものことなので。

 大食いで肉食のレレイのお口にあったということは、大半のメンバーの口に合ったということだろう。梅干しの酸味が肉をさっぱりとさせているのか、普段ビッグフロッグの肉よりもバイパーの肉(鶏ムネ肉のような味わい)を好む面々も、美味しそうに食べている。イレイシアもその一人だ。

 人魚であるイレイシアは、ほっそりとした美少女で、その見た目通りの食欲をしている。つまるところは小食だ。海育ちなので肉より魚派なところもある。そんな彼女はあっさりとした味付けの料理を好むのだが、今日の梅マヨ焼きはお口に合ったらしい。


「イレイス、食べられそうならいっぱい食べてね」

「ありがとうございます、ユーリ」

「お肉でイレイスが喜んで食べてくれるの珍しいからね」

「あ、そうだねー。イレイス、お肉はあんまり食べないもんね。美味しいならいっぱい食べてね!」


 お代わりいる?と善意で大皿をぐいぐいと押し付けてくるレレイに、イレイスは大丈夫ですと微笑んだ。自分のペースで食べるという返答に、レレイは気を悪くした風もなく「そっかー」と引き下がった。

 そんな女子二人のやりとりを見て、クーレッシュが口を開く。


「そういや、イレイスって割と梅味の料理だとよく食べるよな。酸っぱいのは平気なのか?」

「酸っぱいものが好きというよりは、そういう味付けのときはお肉があっさりしているような気がしますの」

「あぁ、だから焼いた肉をポン酢で食ってたりするのか」

「はい」


 肉そのものが苦手というよりは、肉の脂が苦手というイレイシア。ポン酢やレモン、梅干しなどでさっぱりさせると、それほど負担なく食べることが出来るらしい。悠利が時々作る梅ドレッシングも好評だ。

 今日はマヨネーズで味付けをしているのでこってりしているはずなのだが、何故か不思議とさっぱりとした仕上がりだ。梅干しパワー、恐るべし。


「それに、こちらのお肉はライスが進みますわね」

「そうそう、ライスと一緒に食べるとすーーーーっごく美味しいんだよね!」

「レレイ、気持ちは解ったから、乗り出さない」

「レレイ、美味いのは伝わるから、大声出さない」

「はーい」


 美味しいご飯にテンションが上がっているレレイに、悠利とクーレッシュがすかさずツッコミを入れる。何だかんだで年齢が近く、普段からわちゃわちゃしている彼等の連携はある意味で完璧だった。

 ちなみに、ちょこちょこボケとツッコミが入れ替わるのがご愛敬だ。ただし、レレイがツッコミに回ることはほぼない。男二人がボケとツッコミを兼任することがあるだけだった。まぁ、大抵クーレッシュはツッコミ役なのだが。

 そんな三人のやりとりを見て、イレイシアが笑う。口元に手を当てて上品に笑う姿は、とても美しい。楚々とした彼女の容姿にとても合っていた。


「イレイス、どうかした?」

「いいえ。お三方はとても仲が良いと思っただけですわ」

「まぁ、仲間だし?」

「友達だしなぁ」

「仲が良いのはよろしいことですわ」


 微笑ましそうなイレイシアに、悠利とクーレッシュは首を傾げる。何を言いたいのかよく解らなかったのだ。

 そんな中、ご機嫌でご飯を食べていたレレイが口を開いた。不思議そうな顔で。


「イレイスも仲良しでしょ?」

「え?」

「だからー、あたし達三人だけじゃなくて、イレイスも、他の皆も仲良しだよ?」

「……えぇ、そうですわね、レレイさん。ありがとうございます」

「何でお礼言うの?変なのー」


 首を傾げるレレイに、イレイシアは笑うだけだ。よく解らないと思ったレレイは、とりあええず言いたいことを言ったので興味が失せたらしく、美味しいお肉を食べる方へ意識を戻した。とりあえず食欲が優先されるお嬢さんなので。

 そんな二人のやりとりに、悠利がぽそっと呟いた。


「レレイって、こういうところが凄いというか、ある意味で大物だよね」

「……それな」


 誰とでも仲良くなれる。誰に対しても態度が変わらない。レレイの長所が発揮された部分だと思う二人だった。


「何してるの?食べないの?」

「食べるよ!一人で食うな!」

「ぶー。そうやって怒るから聞いたのにー」


 いらないなら全部食べちゃうよ?と八割ぐらい本気で言っているレレイ。彼女なら本当に一人で大皿をぺろりと平らげることが出来ると解っているので、三人は慌てて自分の小皿に肉を取るのだった。

 悠利はそこまで大食いではないが、イレイシア同様にさっぱりとした味付けのお肉は嫌いではない。今も、囓ると肉汁がじゅわーと出てくるような旨味爆弾と化したお肉を嬉しそうに頬張っている。

 そして、ちょっと行儀が悪いと思いつつ、肉がまだ残っている口の中へとご飯を放り込む。レレイの言葉通り、ご飯と一緒に食べると大変美味しい。そもそも梅干しはご飯と相性が良いし、マヨネーズも何だかんだで相性は良い。合わないわけがなかった。

 肉のジューシーさも、マヨネーズの香ばしさも、梅干しの酸味も、何もかもがご飯と調和する。もぐもぐと噛みしめるように食べながら、悠利はふと呟いた。


「これ、丼にしても美味しいかもしれないね」

「丼!?いっぱい載せて!?」

「レレイ、落ち着いて。かもしれない、だから」

「美味しいよ。絶対に美味しいよ。あたしが保証するよ。だから今度作って」

「解った、解ったから、落ち着いてってば」

「とりあえず大人しく飯を食え」


 目をキラキラと輝かせるレレイ。その圧に悠利が宥めにかかり、クーレッシュが後でやれとツッコミを入れる。やっぱりコントのような三人だった。その姿を見て、イレイシアが上品に笑っている。

 ただ、美味しいご飯を食べながら、こんな風に雑談に興じることが出来るのも、仲が良い証拠だ。騒がしくなる一歩手前の三人の会話を聞きながら、やはり彼等は仲が良いと思うイレイシアだった。




 後日、キャベツの千切りと共に丼にしたところ大変好評だったので、《真紅の山猫スカーレット・リンクス》の丼メニューがまた一つ増えたのでした。美味しいの可能性は広がるのです。




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