お土産にトマトのサンドイッチ
何だかんだで王都に数日滞在していたデュークが故郷に戻る日がやってきた。
可愛い可愛い妹と別れるのを惜しんでいるデュークではあったが、その妹であるマリアに「お土産を頼まれているなら持って帰らないとダメなのでは?」とあっさりと言われてしまい、泣く泣く帰郷を選択していた。そもそも、元々の滞在予定通りの日程である。宿屋ではなく《
第一、十数年単位を「少し見ない間」と言ってうっかりしていたデュークである。今は寂しがっていても、家に戻ったらまた時間感覚がバグって、早くて数年単位ぐらいでしか妹に会いに来ない可能性はあった。マリアがそう断言していたので、多分そういうものなのだろう。
とりあえず、昼前に出立するというので、朝は幾分ゆっくりだ。ヴァンパイアは日差しに弱いので夕方から出立して夜に移動するという手段もあるのだが、デュークは昼型タイプのヴァンパイアだった。日差し対策をきちんとした上で日中に行動する方が、生活リズムに合っているらしい。
ヴァンパイアも色々と大変だなぁと思いつつ、
のんびりと帰郷する予定らしく、デュークが選んだ移動手段は普通の乗合馬車だった。来るときは急いでやってきたので、ワイバーン便を利用したらしいのだが、帰りは景色を楽しみながら乗合馬車と決めていたらしい。
滅多に外に出ないらしいので、たまの外出で色々と楽しもうということなのだろう。道中を楽しみにしている風情だった。
そんなデュークの帰路に、悠利は楽しみを添えようとお弁当を作ることを提案したのだ。滞在中に悠利達が作る庶民飯(とりあえず常よりトマト増量)を気に入ったらしいデュークなので、その申し出に大喜びしたのである。
「食べやすいようにサンドイッチが良いかなー。具材はやっぱりトマトだよねー」
冷蔵庫の中身を確認しながら呟く悠利。トマト大好きお兄さんのデュークのために作るならば、やはりトマトのサンドイッチが一番だろう。丁度美味しそうなトマトを買ってあるので、喜んでくれるように頑張ろうと思った。
最初に作るのは、シンプルにレタスとトマトのサンドイッチ。耳を落とした食パンにバターを薄く塗り、千切ったレタス、輪切りにしたトマト、レタスの順番で挟む。トマトとレタスの間にマヨネーズを塗るのも忘れない。
挟んだら、食べやすいように包丁で切る。色々考えた結果、一口でぱくりと食べられるように小さく切った。トマトが潰れないか心配だったが、包丁の切れ味が良かったので上手に切ることが出来た。可愛らしいミニサンドの出来上がりだ。
「次はロールパンにしよーっと」
切り込みを入れてぱかっと開くようにしたロールパン。そこに詰めるのは、トマトのツナマヨだ。食感が残るようにサイコロ状に切ったトマトを、ツナと一緒にマヨネーズで和えるだけである。トマトとツナの相性は悪くないので、コレは問題なく美味しいはずだ。
何せ、トマトカップにツナマヨやマヨネーズ系のサラダを詰めこむ料理もある。トマト、ツナ、マヨネーズのコンボは美味しく仕上がる確信があった。
開いたロールパンの内側に、スプーンで掬ったトマトのツナマヨを詰めこんでいく。マヨネーズで和えるときに塩胡椒もしてあるので、これで十分味があるだろう。トマトのツナマヨから出る水分はパンに吸収されて、旨味になるはずだ。
「デュークさん、アレで結構食べるんだよねぇ……。ちょっと多めに作った方が良いかな」
見た目は細身の超弩級の美形であるデュークだが、種族特性なのか食欲旺盛だった。どうやら、ヴァンパイアゆえの怪力を維持するためにはそれなりの食事量が必要らしい。
詳しい話を聞いたところによると、吸血しない分のエネルギー補給を食事で行っているようだった。ヴァンパイアの生命維持に血液が最適というのは、とりあえず本当らしい。何でそうなっているのかは、当のヴァンパイアであるデュークにも解らないらしいが。
とりあえず、デュークの胃袋の大きさを考えると、サンドイッチも多めに作ってあげた方が良さそうだと思う悠利。食パンで作ったシンプルなトマトのミニサンドも、ロールパンにトマトのツナマヨを挟んだロールサンドも、一つ二つでは足りないような気がした。
どちらを気に入ってくれるか解らないので、両方沢山作ろうと思う悠利。せっせとサンドイッチを量産する背中は、何だかんだで楽しそうだった。
「デュークさーん、これお弁当ですけ、ど……?」
出来上がったサンドイッチをバスケットに詰めこんだ悠利は、出立準備をしているだろうデュークの元へとやって来た。やって来たのだが、目の前の光景に目が点になった。
何故ならば――。
「なるほど。では、血液が生命維持に必要なだけでなく、我々の食事の好みのように血液にも好みが存在するということですね」
「そうなる。実際、種族や年齢性別、食している物によって血の味は変わるのだ」
「それは初めて知りました。では、同じ食事をしている家族などは血の味が似ているということでしょうか?」
「いや。食事だけでは味は決まらない。運動状況や体質、年齢性別で変わってしまうので、家族でも似た味になるとは限らない」
「奥が深いですねぇ……」
リビングのソファに座るデュークを前に、ジェイクがメモ帳片手に興味津々で質問大会を繰り広げていた。学者先生のエンジンがフルスロットルである。
デュークは数日滞在していたのだが、何だかんだで予定が合わずにゆっくり話す機会がなかったらしいジェイク。知的好奇心の権化のような学者先生は、せめて彼が帰還する前に色々と聞きたい!ということで、好意に甘えて質問をしまくっているらしい。
遠巻きに眺める仲間達の「まだやってる……」みたいな視線が、色々なことを物語っていた。きっと、悠利がサンドイッチを作っている間ずっと、こんな感じで質問大会だったのだろう。デュークの気が長くて助かるやつだ。
小さくため息を吐いてから、悠利は話し込んでいる二人の元へと歩いていく。悠利の気配に気付いたのか、デュークが視線を向けてくれた。
「デュークさん、お弁当出来ました」
「ありがとう、少年」
「トマトのサンドイッチを二種類作りました。お口に合うと良いんですが」
「君の料理はとても美味しいから、楽しみにさせていただくよ」
「恐れ入ります」
柔らかく微笑むデュークに、悠利はぺこりと頭を下げた。選んだ言葉は固いが、表情はいつも通りのほわほわ笑顔なので、悠利が戯けているだけだと皆に理解できる。……何となく、そういう畏まったセリフを使ってみたくなる雰囲気が、デュークにはあるのだ。御曹司様のオーラかもしれない。
受け取ったバスケットの中身を確認して、デュークは嬉しそうに顔を綻ばせた。無表情で黙っていると恐ろしさすら感じる造作の持ち主だが、感情表現が豊かなお兄さんなので表情が出ると途端に親しみが湧く。……逆に湧きすぎて、ヴァンパイアという種族の神秘性がどっかに吹っ飛ぶぐらいのギャップがエグいのだが。
「小さい方がレタスとトマトのサンドイッチで、ロールパンの方がトマトのツナマヨのサンドイッチになります。あと、こっちが紅茶で、こっちがトマトジュースです」
「何から何まですまない」
「いえ、好きでやってることなので」
説明を聞いて頭を下げるデュークに、悠利はいつもの調子で笑った。実際その通りなのだ。やりたくてやっている、悠利の自己満足である。
それがよく解っているので、居合わせたジェイクが楽しそうに口を開いた。
「ユーリくんはそういうの大好きですからねぇ」
「お料理好きですし、喜んでもらえるのはもっと好きです」
「君は趣味と実益を兼ねている感じですよね」
「ジェイクさんもそうじゃないですか」
「あぁ、そうですね。楽しくて良いです」
「ですねー」
己の知的好奇心だけで突っ走る学者先生は、悠利の指摘にぽんと手を叩いて笑った。興味のあることだけを調べて、研究して、論文を書いて、その発表やら何やらの手続きに関わる面倒くさい部分は全部師匠に丸投げをする。やりたいところだけをやっている。それがジェイク先生である。
今、デュークに話を聞いているのもその延長だ。自分が知りたいだけであり、何か成さねばならない研究があるとかでは、ない。
ただジェイクの場合、元来の学者としてのスペックは高いので、興味が湧いた部分を調べて論文に仕上げる腕前は確かだった。物凄く気分屋で、誰に何を言われても興味が湧かない分野では指一本動かさないところが玉に瑕なだけで。
もっとも、弟子がそういう風にポンコツだと解った上で好きにさせる師匠がいるので、世の中は上手く回っているとも言えた。
「それで、ヴァンパイアの生態についてお話を聞いてるんですか?」
「えぇ。ダンピールのマリアからも話は聞けますが、やはり当事者の話というのは情報量が多いですからね」
「デュークさん、馬車の時間は大丈夫です?」
「まだ大丈夫だよ、少年」
「それなら良いですけど」
エンジンフルスロットルのジェイク先生に付き合わされて、うっかり馬車の時間を逃しては目も当てられない。一応その辺はデュークも解っているのか、時折時計を確認しているらしい。一安心だ。
そんな悠利の心配をどこ吹く風で、ジェイクは再び質問を再開している。帰る前に一つでも多く教えて貰おうと思っているらしい。……今日が休暇だったのをこれ幸いと、嬉々として質問大会を繰り広げている学者先生だった。
「それでは、うちのメンバーの中なら誰の血が好みとかありますか?」
「ジェイクさん、何を聞いて」
「ふむ。私は健康的な強者の血が好みだね」
「デュークさん、答えるんですか!?」
何でもないことのように会話を続行させる二人に、悠利は思わずツッコミを口にする。それを聞いた周囲から、「ユーリがツッコミ入れたぞ……」とか「ユーリがツッコミ側に回るなんて……」みたいな発言が漏れたが、三人には届いていなかった。
なお、皆がざわざわしているのは、普段の悠利がボケ側だからである。天然ぽやぽやで思考回路が斜め上に逸れている悠利なので、常日頃は仲間達にツッコミを入れられる側だ。
しかしそんな悠利も、たまーにツッコミ役に回ることがある。自分より更にフリーダムな面々と接するときだ。
そして、今がそのときだった。
なお、悠利のツッコミは綺麗に聞き流されていた。ジェイクもデュークも全然気にしていない。困った大人が増えていた。
いや、デュークは別に困った大人ではないのだろう。質問されたから答えてくれているだけだ。親切なだけなのだ。その質問内容がちょっとアレだというのに、全然気にしないで答えているだけで。
「健康的な強者というと……、……あの辺とかです?」
「あぁ、彼らは実に美味しそうだ」
「なるほど、なるほど。性別や年齢ではなく、特性で味の好みがあるという感じですね」
「そうなるかな」
のほほんとした雰囲気で会話をしている二人だが、「あの辺」と言われた面々は顔を引きつらせていた。ヴァンパイアと接することなどほぼほぼないが、血が美味しそうと言われても困る。というか、それって食料枠なのでは……?と思ってしまうのだ。
なお、ジェイクが指差したのは前衛系の皆様だった。常日頃から肉体を鍛え上げ、太陽の光もよく浴びている、いわゆる健康優良児の皆様だ。レレイとかウルグスとかブルックとかリヒトとか、その辺だ。
その理屈で言うと妹のマリアも含まれそうなのだが、身内はノーカンなのか特にコメントはなかった。……なお、特に美味しそう認定をされていたのがブルックな辺り、強者を見抜くセンサーはお持ちなのかもしれない。
「いやー、色々と参考になりました。ありがとうございます」
「いやいや、学者殿のお役に立てたのなら何より」
「またの機会に、色々とお話しさせてください」
「喜んで」
出立時間が近づいてきたので、二人は穏やかに会話を切り上げる。ありがとうございましたとお礼を言うと、ジェイクはメモ帳片手に部屋へと戻っていった。……どうやら、文献と睨めっこを始めるつもりらしい。お見送りをするつもりは一切なかった。
何だかんだーと思いながら去っていったジェイクを見送った悠利は、そこでふとあることが気になった。荷物の最終確認をしているデュークに、そっと問いかける。
「あの、デュークさん。一つ聞いても良いですか?」
「何かな、少年」
「デュークさん、どうして僕らのことは名前で呼ばないんですか?」
「……」
そう、そこだった。妹であるマリアのことは名前で呼ぶが、それ以外は全員、何らかの属性や役職名で呼んでいる。悠利は比較的接している時間が長いはずなのに、少年としか呼ばれない。不思議だった。
そんな悠利に、デュークはちょっと困ったように笑った。申し訳なさそうな顔だ。何か理由があってそうしているのだと解る顔だった。
「デュークさ」
「ごめんなさいね、ユーリ。それはお兄様なりの処世術で思いやりなのよぉ」
「マリアさん?」
兄を見送る時間だとリビングにやってきたマリアが、デュークに代わって事情を説明してくれるようだ。デュークはといえば、これでしばらく可愛い妹の姿が見納めになるということで、にこにこ笑顔でマリアを見つめていた。安定の兄バカだった。
「思いやりってどういうことですか?」
「実はね、ユーリ。お兄様は、魅了とカリスマの
「…………は?」
「魅了とカリスマ持ちなのよ、お兄様」
思わず絶句した悠利に、マリアは重ねて
それが事実なのだと理解して、悠利はバッとデュークを見た。誰が見ても美形だと認める圧倒的なまでの美貌を誇る、麗しのヴァンパイア様。領主様の息子という由緒正しい御曹司。そんな人の所持
「……あの、つまり、それは……」
「お兄様のこの顔で、この声で、親しみを込めて名前を呼ばれた相手が、好意を抱かないわけがないわよねぇ?」
「……ですねぇ」
「そこに魅了とカリスマの
「やだこわい」
思わずカタコトめいた口調になった悠利だったが、マリアは責めなかった。でしょう?とでも言いたげだ。妹なのである程度耐性があるらしいマリアはともかく、一般人には破壊力が強すぎる。
そんな二人のやりとりを聞いていたデュークが、困ったような顔で告げた。彼なりの本音を。
「私としては、名前を呼ぶことで親しくなりたいと思うのだけれど、父にも母にも禁止されていてねぇ。……子供の時分に、ちょっと色々と引っかけてしまったものだから」
「……具体例は聞きたくないので、説明は結構です」
「聞かない方が幸せよ、ユーリ」
あのときは大変だったなぁ、なんて暢気に宣う美貌のヴァンパイア様。黙っていれば白皙の美貌に相応しい圧倒的な存在感があるのに、口を開いたらただの兄バカで、気の良いお兄さんだった。……それを解っていても、魅了とカリスマの合わせ技は怖いと思う悠利だった。
「あ、勿論、慣れてくれたなら名前で呼んでも大丈夫なのだよ?」
「僕のことは少年で十分です」
「……つれない……」
「お兄様、うちの大事な家事担当をたぶらかそうとしないでくださいな」
「そんなつもりはないよ、可愛いマリア」
せっかくお友達になれそうだったのに、みたいな雰囲気を醸し出すデューク。ユーリが取られる!?と周囲がざわざわするが、マリアが大丈夫と合図を送ると静かになった。デュークは兄バカなので、妹が嫌がることはしないのだ。
「名前呼びはともかく、また遊びに来てください。精一杯おもてなししますから」
「おや、嬉しい。それでは、近いうちにまた遊びに来るよ」
「お兄様、言っておきますが人間のユーリにとっては、数年単位は近いうちではありませんからね?」
「……気をつけるよ」
「あははは……」
ついうっかりしてしまうからなぁ、とデュークは眉を下げる。時間感覚がバグってしまうのは種族特性みたいなものなので、なかなか難しいらしい。長命種も大変だなぁと悠利は思った。
それではありがとう、とデュークは悠利達に礼を言って去っていく。お弁当にと悠利が渡したトマトのサンドイッチを楽しみにしながら。
見送りのためにリビングにいた皆も、デュークが去ったので解散した。任務とか、鍛錬とか、お仕事とか、まぁ、色々と。それでも時間が許す限りはお見送りに出てきているので、何だかんだで《
そんなことを思っていた悠利は、いつまでも隣から立ち去らないマリアをちらりと見上げた。妖艶美女のお姉様は、にっこりと笑っていた。
「……えー、デュークさんのお弁当に作ったサンドイッチの残りがありますが、召しあがりますか?」
「食べるわぁ。うふふ、ユーリならそう言ってくれると思っていたのよ~」
「お昼ご飯もちゃんと食べるんですよね?」
「食べるわよ?」
それがどうかしたの?と言いたげなマリアだった。素敵な美貌のお姉様なのに、ほっそりしているのに、相変わらずの大食漢。この人もデュークさんも、食べた分は一体どこに消えるんだろうなぁ、と思う悠利だった。
皆がそれぞれの用事でいないので、マリアと二人で食堂へ移動すると、悠利は残しておいた二種類のサンドイッチを差し出した。シンプルなレタスとトマトのサンドイッチは一口サイズのものが二切れ。これはバスケットに入りきらなかった分だ。ロールパンにトマトのツナマヨを挟んだサンドイッチは、最後に残った分を入れたので少し具材が少なくなっている分。誰も食べないならおやつにでも食べようと思っていたものだ。
「皆に見つかる前に食べちゃってくださいね」
「はいはーい」
大丈夫よぉと楽しそうに笑いながら、マリアは白い指先でサンドイッチに手を伸ばす。一口サイズのサンドイッチは、ぱくんと一瞬で口の中に消えた。
シャキシャキとしたレタスの食感と、瑞々しいトマトの旨味。それだけでは物足りなく感じるだろう部分を、マヨネーズが補ってくれる。また、パンに薄く塗られたバターが隠し味のように効いてくる。ふわふわの食パンの食感も優しく、野菜の水分と旨味を吸い込んでいるのがまた良い。
シンプルだが、それだけに、パンと野菜が美味しいからこそ引き出された味というのがよく解る。手は込んでいないが美味しい。そんなサンドイッチだった。基本に忠実とも言えるかもしれない。
「この小さなサンドイッチ、食べやすくて良いわねぇ」
「じゃあ、今度サンドイッチをお弁当にするときは小さく切りますね」
「ありがとう」
皆が喜んでくれるなら、その一手間を何とも思っていない悠利だった。優しいわね~と素敵な微笑みで見つめてくれる妖艶美女のお姉さんだが、悠利は特に気にした風もなかった。そんなことより、サンドイッチの感想が気になっている。悠利らしい。
続いてマリアはロールパンのサンドイッチをかじった。刻んだトマトとツナマヨが合わさって、口の中にじゅわりと旨味が広がる。ツナマヨもトマトもサンドイッチの具材として皆に愛されているのだが、ツナマヨにトマトを混ぜるというのは初めてだった。水気は余分に出るかもしれないが、トマトの旨味がツナマヨと混ざって絶妙の味わいだ。
マヨネーズで和えるときに塩胡椒をしてあるので、その風味が旨味を後押ししているようだ。ロールパンの柔らかな食感と、クリーミーなトマトのツナマヨのハーモニーが口の中を幸せにしてくれる。ここにレタスやキュウリなどが一緒に挟んであっても、食感の違いを更に楽しめるだろう。だが、これだけでも十二分に満足感がある。
「このトマトの入ったツナマヨ、とっても美味しいわぁ」
「お気に召して良かったです。デュークさんも気に入ってくれると良いんですが」
「きっと気に入るわ~」
うふふとマリアは楽しそうに笑う。美味しいサンドイッチを食べられて喜んでいる顔。そして、同じものを大好きな兄が喜んで食べるだろうと考えて喜んでいる顔だ。そんなマリアを見て、悠利も嬉しそうに笑顔になるのだった。
後日届いた手紙で、サンドイッチがいかに美味しかったかを伝えられた悠利は、喜ぶと同時に「デュークさん、食の好みが割と庶民的だよね」と思うのでした。美味しいに貴賤はないのです。多分。
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