ダンジョンマスターのお友達
無明の採掘場&数多の歓待場(仮)のダンジョンマスター、ウォルナデット。元人間であるこの青年は、物凄くあっさりと
相手に害意がないと解れば、こちらが身構えるのも愚かしい。そもそも、マギサという前例があるので、即座に戦闘にならないダンジョンマスターもいるということを学習している一同だった。
話題は、基本的にこのダンジョンのことについてだった。
そもそも悠利達はこのダンジョンの調査に来たのだ。主から色々と話が聞けるならば、それにこしたことはなかった。また、彼が人々に敵対するつもりがないというのならば、それも含めて報告する必要がある。
「つまり、ダンジョンコアの力が弱まってるので、身を守るためにダンジョンごと地下にいたってことですか?」
「そうそう。ダンジョンコアに力があってこそ、ダンジョンの維持も出来るし、ダンジョンマスターも力を使えるからさ。まだ、見ての通り、うちのダンジョンコアはまだ力が少なくて」
「……ダンジョンコアって、見た目で力が解るんですか?」
「綺麗に光ってるとエネルギーが満タンってことだぞ!」
「なるほどー」
なかなか聞くことの出来ないダンジョン事情を教えてもらえて、悠利もご機嫌だった。ここにジェイクがいたならば、学者先生の知的好奇心が爆発してそうだ。ある意味いなくて良かったのかもしれない。
クーレッシュはクーレッシュで、だいたいこんな感じというざっくりとした地図を見せてもらったので、それをせっせと写している。実際に自分で見て地図にするのが一番だが、目安にはなるだろう。
今回通っていない部分までも地図にしているのは、報告としてあげれば実際にそちら側を通ってきたチームの地図と照らし合わせることで役に立つと思ったからだ。情報は少しでも多い方が良い。それが、主たるダンジョンマスターのお墨付きとなれば、喜ばれるに違いない。
「で、アンタはダンジョンの外側に別のダンジョンを作ってまで、何がしたいんだ?」
「俺はただ、お客さんに沢山来てもらって、楽しんでほしいんだ」
「「……」」
「ダンジョンコアにエネルギーを増やしたいのは本当だけど、どうせなら来た人に楽しんでほしいからな!」
アリーの質問に満面の笑みを浮かべて告げるウォルナデットに、一同は沈黙した。ダンジョンマスターらしくないとは思っていたが、何かもう、色々とアレだ。というか、物凄くどこかで聞いたことのあるような考え方である。
悠利の脳裏を、照れ照れしながら遊びに来てくれて嬉しいと喜ぶ小さなダンジョンマスターの姿がよぎった。あの友人も、こういう感じのことを言っていた。近所に住む人々が喜んでくれるようなダンジョンにするから、どうか遊びに来てほしい、と。
変わり種のダンジョンマスターって他にもいるんだなぁ、と悠利は思う。まぁ、こちらに対して敵意を向けるような相手でないだけ、御の字だ。
「ダンジョンコアのエネルギーって、人が来たら増えるんですか?」
「滞在してもらうだけでちょっとずつ増えるんだ。だから、いっぱい来てもらえると助かる」
「そうなんですね」
「元々うちのダンジョンコアはやってくる人をエネルギー源としか思ってないから、エグい罠や魔物で殺して全部回収する、みたいな感じだったんだ。でも、その結果が危険と判断されてのダンジョンマスター討伐だから、今は俺のやり方を押し通させてる感じ」
「……聞けば聞くほど、ウォリーさんとダンジョンコアの相性が合ってないんですけど」
「それは俺もそう思う」
大真面目な顔で頷くウォルナデット。当人にも自覚があるらしい。そもそも彼は元人間で、今の会話の雰囲気からも解るようにかなり人懐っこい。フレンドリーな彼にしてみれば、鉱石を餌に探索者をおびき寄せ、根こそぎ喰らう感じの方針は受け入れられないのだろう。
そして、本来の性質がそういう物騒なダンジョンコアであるが、先代のダンジョンマスターが討伐されたこと、己も休眠状態に追い込まれたことを鑑みて、今はウォルナデットに従っているらしい。ただし、力は完全に回復していないことと、本質を曲げるつもりはないらしく、ダンジョンコアに繋がる辺りは未だに罠がエグいままだった。
ちなみに、魔物が見当たらないのは、魔物を配置するだけの余力がないかららしい。強力な魔物を配置するには、それなりに力が必要になるそうだ。よって、見張りも兼ねて表側の数多の歓待場に配置している魔物も、弱いものになっているという。
「他にも色々いたのに、何で俺だったのかなぁ……。どうせ作り替えるんだから、誰でも良かったはずなのに」
「はい!ウォリーさんが一番近い場所にいた!」
「残念、俺とダンジョンコアの間に、俺のパーティーメンバーがいましたー」
「そっかー」
元気よく挙手して発言するクーレッシュ。楽しげに笑ってその意見をぶった切るウォルナデット。どちらも物凄く楽しそうだった。基本的な性格がちょっと似ているのか、この二人は随分と仲良くなった。
二人がわちゃわちゃと会話をしているのを聞きながら、しばらく何かを考え込んでいたブルックがぼそりと呟いた。
「単純に、損傷具合がマシだったからじゃないか?」
「「え?」」
「あー、それかも!うん、それだ!その可能性が高い!」
突然の発言にきょとんとする皆と裏腹に、ウォルナデットは我が意を得たりとばかりに叫んだ。長年の謎が解けたとでも言いたげだ。満面の笑みである。
そして、聞いてもいないのに嬉々として当時の情報を話し始めた。
「俺はパーティーを組んでたし、その場には俺達以外の奴らもダンジョンマスターに倒されてたんだよなー。で、ダンジョンマスターにされた後に見たら、五体満足なやつが一人もいなくてさー」
「「…………」」
「きっと、力が殆どないダンジョンコアは、少しでも造り変えやすい、原形をとどめてる俺を選んだってことなんだろうな。うん、長年の疑問が解けた!」
ありがとう、と晴れやかに笑うウォルナデット。皆は笑えなかった。今の話題は、非常に、ひっじょーにデリケートな話題に思えたのだ。色々と想像したくない感じで。
しかし、当人はケロリとしている。どこまでも朗らかだった。軽いともいう。まぁ、そんな性格だから、ダンジョンマスターにされても特に変質もせずに、のんびりと笑っているのかもしれないが。
「ところで、造り変えたっていうことは、ウォリーさんは人間じゃないってことですよね?その割に見た目はそのままだと思うんですけど」
「え?あぁ、これは擬態というか、仮の姿というか、そんな感じ。慣れてるからこっちを維持してるだけ」
あっさりと言い放つウォルナデット。どこからどう見ても人間という今の姿は、生前の姿を模しただけなのだという。自分じゃない自分の姿を見るのは落ち着かないので、こうしているのだとか。
「ダンジョンマスターとしての姿は、一応コレがベースで、頭に山羊っぽい角が生えて、背中になんかこう、コウモリみたいな翼が生えるんだ」
「…………わー、何か禍々しいー」
「そうなんだよー。物凄く禍々しいから、そんな姿でお客さんの前に出たら怖がられると思って、こっちの姿でいるんだ」
「確かに、初対面がその姿だと、警戒しちゃうと思います」
「だろー?」
自分の感覚が間違っていなかったことを知り、ウォルナデットは嬉しそうに悠利とハイタッチをしている。そんな彼の姿を見て、ダンジョンマスターだと思う者はいないだろう。普通のお兄ちゃんだ。そして当人も、その方が良いのだろう。
元人間だからこそ、ダンジョンにやってくる人々に友好的。一人ぼっちでここにずっといたからか、悠利達との会話を楽しんでいるようだ。その姿は、悠利の中でマギサと重なった。あの小さなダンジョンマスターも、そういう風に人懐っこい部分がある。
「ウォリー、イル……?」
そうそう、こういう声なんだよねー、と思った悠利は、バッと声がした方を振り返った。物凄い勢いで振り返った。それは何も悠利だけではなく、突然聞こえた子供の声に皆がそちらへ視線を向けている。
よくよく見れば、部屋の片隅に細い通路があった。横に並べるのは二人ほどという幅の細い通路だ。声はそこから聞こえた。
まさか、と悠利がじっとそこを見ていると、通路の向こう側、きっちり壁のラインに添うような場所に影が現れる。目深に被ったフード付きローブに、赤い靴。雨合羽を着た幼児のような、小さな隠者のようなその影は、ふよふよと浮きながらそこにいた。
「ま、マギ、」
「先輩ー!」
マギサ、どうしてここに?と悠利が最後まで問うことは出来なかった。それまで悠利達と楽しげに談笑していたウォルナデットが、凄まじい勢いでマギサの元へと移動した。満面の笑みである。
浮かんでいるマギサと視線を合わせるようにほんの少し腰を落とし、ぺこぺこと頭を下げている。その姿は、何となく悠利の中で舎弟という言葉を思い出させた。憧れの兄貴分を見る弟分みたいな感じだった。幼児と青年だけれど。
「先輩、来てくれたんですか?」
「ウン。食ベ物、イルカナト思ッテ」
「いつもありがとうございます。先輩の果物、本当に美味いんですよね!」
「喜コンデクレテ、僕モ嬉シイ」
はにかんだように笑うマギサは、ふよふよと手の前で浮かせていた果物を、コロンと足下に転がした。通路から出てくることはせず、そのままウォルナデットの足下に転がすだけだ。
ウォルナデットはうきうきでその果物を受け取った。一つ一つ拾い上げて、満面の笑みだ。とても喜んでいる。
何が起きているのか解っていない悠利達に、ウォルナデットは手にした果物と、相変わらずふよふよと浮いているマギサを示して声をかけた。
「皆、先輩が美味しい果物を持ってきてくれたから、一緒に食べよう!先輩の果物は本当に美味しいんだ」
「「…………」」
「ん?どうした?」
一同の沈黙の理由が解らないのか、ウォルナデットは首を傾げる。まぁ、彼には解らなくても仕方がない。
沈黙を破ったのは、ウォルナデットの視線の先を追って悠利達を見たマギサだった。まるで幼児のようなダンジョンマスターは、小さな手を口元に当てて驚いたように声を上げた。
「ユーリ?ドウシテココニ?」
「マギサ、それ、僕達の台詞かな……。どうしてマギサが、ウォルナデットさんのダンジョンにいるの?ダンジョンマスターって、自分のダンジョンから外に出られなかったよね……?」
そう、悠利達が驚いているのはそこだ。ダンジョンマスターはその名の通りダンジョンの主で、己が所属するダンジョンから離れることは出来ない。だからこそ、悠利もお友達になったマギサの元へ足繁く通っているのだから。
それなのに今、マギサは自分以外のダンジョンマスターの管轄である無明の採掘場にいる。通路からこちらへ来ないのは事実だが、それでも、そこにいるのだ。ここは収穫の箱庭ではないというのに!
そんな悠利達の当然の疑問に、マギサはケロリと答えた。幼く無邪気な声音で。
「ダッテ、ココノ通路、僕ノダンジョンダモノ」
「「え?」」
ここ、とマギサが示したのは通路だった。ただし、通路の半分側だけだ。自分が立っている側を示して、彼はそこを収穫の箱庭だと主張した。意味が解らない。
混乱している悠利達に説明をしたのは、ウォルナデットの方だった。少なくとも、片言で喋る思考回路が人外のダンジョンマスターよりは、元人間の彼の方が説明に向いていた。
ただし、説明される内容は、色々とぶっ飛んでいたが。
「この通路、こちら側が俺の作ったもので、反対側が先輩の作ったものなんですよ。なので、この通路だけは、俺も先輩も通れるという仕組みです」
「……え?じゃあ、その通路の先って収穫の箱庭なの?」
「はい。地下で直線距離でぶち抜いてる感じで」
満面の笑みで告げる内容ではなかった。何でダンジョンとダンジョンが繋がっているのか、悠利達にはさっぱり意味が解らない。しかも、当のダンジョンマスター二人は当たり前みたいな顔をしているのだ。ちょっと説明が足りない。
一応、原理は理解した。ダンジョンマスターが存在できるのは自分のダンジョンの領域だけで、この通路は二人のダンジョンマスターが半分ずつ作っているからどちらも踏み込むことが出来る。そして、この通路の反対側は当然ながら収穫の箱庭に繋がっている。
問題は、ここが王都からそこそこ離れた場所にあるということだ。馬車で移動してきた彼らである。何で、王都から徒歩十五分の距離にあるダンジョンと繋がっているのか、意味不明であった。
「先輩、この人達とお知り合いで?」
「ユーリハ僕ノオ友達ダヨ」
「何だって!?先輩のお友達!?まさか初めてのお客さんがそんな人だったなんて……!先輩にはいつもお世話になってます!」
「えー、あー、はい」
何故かテンション爆上がりのウォルナデットに、悠利は若干引き気味になりながらとりあえず頷いた。元々人懐っこくてテンション高めのお兄さんだったが、今、一気に盛り上がっている。輝いているとも言えた。
そもそも、先輩とは何ぞや、である。解らないことがどんどこ増えてしまっている。
なお、そんな悠利の背中に、ひしひしと皆の視線が突き刺さっていた。本来ならばアリー辺りが会話の主導権を握って質問をするべきなのだが、今はその役目が悠利に任されていた。
それというのも、当人の気質が幼く温厚で無邪気だとはいえ、マギサは正真正銘のダンジョンマスターだ。誰より懐いている悠利が相手をするのが得策だと思ったのだろう。悠利もそれは理解できたので、一同を代表して二人に問いかけることにした。
「ねぇ、マギサ。先輩ってどういうこと?」
「ンー、ウォリーガ色々聞イテクルカラ、教エテルノ」
「先輩は俺が目指す、友好的なダンジョンのダンジョンマスターだからな!凄く賑わってると聞いたし、ダンジョンコアも輝いてたし、俺もあんな風なダンジョンにしたいんだ!」
「…………なるほどー」
二人の返答に、悠利は棒読みっぽい口調で答えた。ウォルナデットが作った数多の歓待場が、あんなダンジョンだった理由が何となく理解できた。見本が収穫の箱庭なら、理解も出来る。
収穫の箱庭は、農園か果樹園かという感じのフレンドリーなダンジョンである。一般市民が入っても何一つ危険は存在しないと言われる、ダンジョンという名称があってるのかすら謎なダンジョンだ。
それを目標にしているのならば、数多の歓待場の罠があんな風にゆるゆるだったのも、現れる魔物達が襲ってこないのも、理解できる。ある意味で謎は解けた。
「先輩ってことは、マギサの方が年上ってこと?」
「ウウン。生マレタノハ、ウォリーノ方ガ先ダヨ」
「嫌だなぁ、先輩。いつも言ってるじゃないですか。確かに俺がダンジョンマスターに変異させられたのは先輩の誕生より先ですけど、ずーっと眠ってたんですよ。稼働したの最近だから、先輩は先輩です」
当人的にはそれが理由らしく、妙に自信満々である。ただ、マギサにしてみれば自分より先に存在していたウォルナデットなので、年上の後輩という不思議な感じなのだろう。万事がこんな感じなら、彼が悠利達を初めてのお友達認定するのも解る気がする。
同じダンジョンマスター。しかも自分を先輩として慕ってくる相手。これはどう考えても友達という枠ではない。ただ、こうして果物を届けに来るぐらいには、仲良くしているのだろう。
「そもそも、何でマギサのダンジョンと繋がってるんですか?」
「あー、それは、目が覚めてから何が出来るか確かめてたら、たまたま繋がった感じで」
「たまたまなんですか!?」
「うん、たまたま」
あっちこっちに通路を伸ばしてたんだよなー、と能天気に笑うウォルナデット。それはそれで力の無駄遣いだったのでは……?と思ったが、悠利は大人しく黙っておいた。言わぬが花だ。
「それで、先輩のダンジョンコアの部屋に繋がったら、こっちの様子を見てくれるっていうので、通路の半分を先輩が作ってくれて、今に至る感じ」
「マギサ、お手伝いしてあげようと思ったの?」
「凄ク困ッテタカラ」
「困ってた?」
もじもじと身体の前で指をごそごそさせながら、マギサはウンと頷いた。そのときのことを思い出すように、小さなダンジョンマスターは口を開く。
「ウォリーハ、ダンジョンコアト正反対ノコトヲ考エテイテ、ダンジョンコアノ支配下デ何ガ出来ルノカ悩ンデタノ」
「力の使い方もよく解ってなかったし、ダンジョンコアはこの辺の罠を解除しようとしてもさせてくれないしだった」
「あー、なるほどー」
元人間のダンジョンマスターであるウォルナデットにとって、ダンジョンをどうやって造り変えるか、維持するかというのは、未知の領域だったらしい。しかも、ダンジョンコアと方針が合わないので、やりたいようにすることも出来ない。
そんな中、生粋のダンジョンマスターであるマギサに力の使い方や、ダンジョンの造り方を教わったという話だ。そして、安全な外側を造れば良いのではないかという考えに落ち着いたらしい。
……それが何でアレになったのかは、謎だが。物凄く謎だが。
「で、今は定期的にこうやって食材を届けてくれるんだ」
「ウォリーノダンジョンハ、食ベ物ハ出テコナイカラ」
「石しか出ません、先輩……。あ、ダンジョンの資材に使う分、出しましょうか?」
「ウン。アノツルツルノ石ガ良イナ」
「お任せくださーい」
悠利達の目の前で、仲良しダンジョンマスターコンビは暢気な会話をしている。そして、ウォルナデットは身体の目の前で手を広げ、何かを念じるように目を閉じる。
次の瞬間、彼の手の間にはふよふよと浮かぶ石があった。表面がつるりとしたその石は、大理石のような印象を与える。ウォルナデットはそれを足下に転がした。転がった石は通路に移動し、マギサは嬉しそうに拾った。
何だコレ、と皆は思った。規格外枠のダンジョンマスター二人が揃ってしまった。しかもどうやら、先輩後輩という関係らしい。とても仲良しらしい。色々とキャパオーバーになりそうだった。
とりあえず、ダンジョンの性質上出せるのは石だけらしいウォルナデットは、元人間だけあって食べ物に欲求があるらしい。そんな後輩に、マギサが自分のダンジョンで手に入る食材を分けている。そしてマギサは、ウォルナデットから石を貰って、ダンジョンの資材にしているらしい。物々交換が成り立っていた。
「先輩の友達なら、俺とも友達になってくれるか?」
「はい……?」
「流石に、もう生前の知り合いは生きてないから……」
「それは、そうでしょうね」
ウォルナデットの現役時代は、ブルックの言葉が正しいなら、この辺に王国がなかったような数百年前の話になる。そんな時代から生きている存在がいるとしたら、長命種だけだ。彼の口ぶりから、その手の知り合いはいなさそうなので。
そもそも、無明の採掘場の罠はエグい。悠利なんか、一歩間違えなくても死んじゃうような罠ばっかりだった。普通の冒険者でもかなり苦労するだろう、殺意の高いダンジョンである。そこを越えてやってくる人は、どう考えても少数派だ。
俺もお友達欲しい、としょんぼりしているウォルナデット。その傍らで、マギサがじぃっと悠利を見ていた。目は見えないが、その表情は心配そうだった。ダメ?と言いたげな感じである。
そして、可愛いお友達のそんな視線に抗える悠利では、なかった。
「……ぼ、僕でよろしければ……」
「ありがとう!」
「ユーリ、アリガトウ」
顔を輝かせるウォルナデットと、嬉しそうにくるくると浮かんだままその場で回るマギサ。背中に「何やってるんだ」と突き刺さる仲間達の視線を感じながら、悠利はあははと笑った。
そんなわけで、悠利にダンジョンマスターのお友達が増えました。何でこうなった。
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