ダンジョン調査のお仕事です


「これがダンジョン、ですか……?」


 不思議そうな顔で呟いた悠利ゆうりに、アリーはこくりと頷いた。目の前に在るのは立派な洋館で、とてもではないがダンジョンには見えない。

 とはいえ、悠利が知っているダンジョンは二つだけだ。

 一つ目は、この世界に転移してきたときに潜り込む形になった、異邦人の抜け殻。石造りのザ・ダンジョンという感じのもので、罠も魔物も普通に存在するダンジョンだ。多分、悠利一人だったら抜け出すのに苦労しただろう。

 二つ目は、王都の近所に存在する収穫の箱庭。悠利のお友達であるダンジョンマスターのマギサが、沢山の人に楽しんでほしい、喜んでほしいという思いを込めて構築しているこのダンジョンは、有り体に言えば農園である。果樹園でもあるかもしれない。もっと言うなら、スーパーだ。

 内部構造こそ、幾つものフロアが繋がるダンジョンという感じだが、広がる光景は青々と茂った野菜であり、つやつやに輝く果実である。もうどう考えても畑でしかない。

 とはいえ、その二つのダンジョンには共通点があった。入り口はダンジョンっぽいのだ。何かこう、洞窟っぽい入り口なのだ。それに比べると、今目の前にあるものをダンジョンの入り口だと言われても、悠利は首を傾げるしかない。

 だって、どう考えても西洋映画で吸血鬼が住んでいそうな、大層立派な洋館なのだ。


「ダンジョンも色々だからな。入り口というか、外観も色々ある」

「それにしたってこれ、普通にお家ですよね?」

「まぁ、こういうのは珍しいがな……」


 目の前にある立派な洋館は、そうと言われてしっかりと観察しない限り、普通の建物に見える。よくよく見れば、建物の端の部分にまったく別の形状の建物が繋がっているように見え、更に言えばそれは途中で途切れている。

 いや、途切れているのではない。洋館の背後にででんと存在する洞窟っぽい部分とくっついているのだ。まるでヤドカリかカタツムリのように、洋館の後には洞窟っぽい何かがあるのだ。へんてこりんだった。

 へんてこりんと言えば、この洋館が建っている場所もへんてこりんだ。

 大草原のど真ん中、なのだ。右を見ても左を見ても、「わー、馬が喜んで走りそうー」という感じの大草原だ。悠利のイメージでは、遊牧民が馬を走らせているような、そんな感じの見渡す限り見事な大草原である。


「とりあえず、ユーリ」

「はい」

「ここはお前がいつも出掛けてるのとは違う正真正銘のダンジョンだ。単独行動はするなよ」

「……収穫の箱庭も、一応正真正銘のダンジョンなんですけど」

「一般人がホイホイ入れるレベルのダンジョンと一緒にするな」

「はい」


 その意見に異論はなかったので、悠利は素直に頷いた。大型スーパーか農園か果樹園かみたいなノリの王都の住民御用達のダンジョンと一緒にしてはいけないことぐらいは、悠利にも解っている。

 この先は、魔物も出てくるし、罠も存在するだろう普通のダンジョンなのだ。そう思って気を引き締める悠利だが、それでもやっぱり、見事な洋館の玄関を見て抱くのは「変なダンジョンだなぁ」という感想だった。




 普段、《真紅の山猫スカーレット・リンクス》のアジトと市場以外では知り合いの店ぐらいしか足を運ばない悠利が何故ダンジョンにやって来ているかというと、話は少し前へと遡る。事の発端は、アリーが受けてきた一つの依頼にあった。


「……ダンジョンの調査、ですか?」

「そうだ」


 アリーの告げた内容を反芻して、悠利はぱちくりと瞬きを繰り返した。どう考えても悠利には馴染みのない内容だったからだ。

 先日どこかに呼ばれて出掛けていったアリーは、ダンジョンの調査という依頼を引き受けてきた。アリーだけでなく、複数合同での仕事になるらしい。それぞれの集団に調査の出来る鑑定持ちを迎え、新しく出現したダンジョンを調査するというものだ。

 そういった仕事自体は、別に珍しくはない。ダンジョンは基本的にこちらの予測の通じない領域であるし、ある日突然どこかに新しいモノが出現することもある。逆に、ダンジョンコアとダンジョンマスターを失って消えていくものもある。

 だから、別にアリーがその依頼を受けたことも、それで数日アジトを留守にすることも、悠利にとっては許容範囲だ。お仕事頑張ってくださいとお弁当を作ってお見送りするぐらいのノリで。

 悠利の予想と違ったのは、アリーが告げた「お前も一緒に来い」という一言である。


「あの、アリーさん」

「何だ」

「僕、自分で言うのも何ですが、運が良い以外は戦闘とか向いてないので、危ない場所に行くのは良くないと思うんですが……」

「それは俺も重々承知だ。ブルックも連れて行くから安心しろ」

「なるほど?」


 ブルックが一緒なら安全は確保されてるかと思った悠利だが、それでもやっぱりよく解らなくて首を傾げる。アリーは基本的に、悠利に目立つことをさせたがらない。それは、悠利の保持する技能スキル【神の瞳】や、職業ジョブ探求者というものを隠したいからだ。

 【神の瞳】は現在この世界では悠利以外に確認されていない技能スキルだし、その保持者に与えられる探求者という職業ジョブは伝説の存在として認識されている。鑑定系最強チート様は、ちょっと表に出すには色々とアレな究極のレア扱いなのだ。

 ちょっとお茶目なやらかしをしただけでお説教をするようなアリーが、他の人も同行するような調査に自分を連れて行こうとするのかが、悠利には解らないのだ。そもそも、自分が必要か?と思ってしまう感じで。


「お前の言いたいことは解るが、今回ばかりはお前の力が欲しい」

「はえ?」

「今回の依頼は、王室からのものだ」

「……王様の命令、なんですか?」

「命令というよりは、依頼だがな。新たに現れたダンジョンがどんなものなのか、しっかりと調べてほしいという依頼だ」


 王様の命令だから、念には念を入れて自分を連れて行くということだろうか?と考えた悠利は、続いたアリーの言葉に何故自分が呼ばれたのかを理解した。


「そのダンジョンが現れたのは、第三王子フレデリック様の領地だ」

「……そう、なんですね」

「フレデリック様には俺もお世話になっているからな。万全を期したい」


 アリーの言葉は本心なのだろう。その表情はどこか柔らかい。王子様に対するものというよりは、弟分を案じるようなものだ。いつも、悠利達に向けているものと良く似ている。

 悠利は第三王子様と面識はないが、そういう理由ならばお手伝いするのもやぶさかではなかった。年齢が近いこともあって、何となく親近感を抱いているのだ。


「解りました。そういうことなら僕も、お手伝いを頑張ります」


 斯くして悠利はアリーと共に、新しく現れたダンジョンに足を運ぶことになったのだった。




「ところで、クーレは何で来てるの?」

「マッピング担当ー」

「あ、なるほど」


 ダンジョンの調査を始める前に腹ごしらえだということで、ごそごそと学生鞄から人数分のお弁当を取り出しつつ問いかけた悠利に、クーレッシュはのんびりとした口調で答えた。なお、その表情はお前今更と言いたげではあった。

 ちなみにアリーが選んだメンバーは、悠利とブルック以外には地図作製担当のクーレッシュと、ヤクモとレオポルドだった。何だろうこの人選とちょっと不思議に思う悠利だった。

 王都ドラヘルンからこの不思議なダンジョンまでは、馬車で数時間の距離だ。半日もかからずに辿り着けたので、予定通りダンジョン前で昼ご飯となっている。なお、直線距離だともっと近いのだが、道が通っていないので少し遠回りになっている。

 闇雲に道を広げても、自然破壊や生態系を乱すことになりかねないし、魔物の住処の近くなどは避けて通りたい。何でもかんでも直線距離でぶち抜けるわけではないのが現実だ。まぁ、馬車は王室が用意してくれただけあって上等だったので、道中はのんびり過ごしていた悠利なのだが。


「キュピー」

「あ、ルーちゃんお帰り。見回りご苦労様」

「キュ!」


 悠利の行くところルークス有り。主が危ないダンジョンに足を運ぶというのなら、護衛を自認する有能なスライムが付いてこないわけがない。というか、アリーもブルックもルークスを悠利の護衛として頭数に入れている。

 出立前に二人が大真面目な顔で「目を離さないように」などと言い聞かせていた姿も、記憶に新しい。

 ……なお、優秀な冒険者として名の知られた二人が、愛らしいスライムに大真面目に頼み事をしているという姿は、今回の依頼を受けている別のチームの面々に驚愕をもたらした。もたらしたが、当人達は外野の視線など気にも止めていない。

 そんなルークスは、皆が昼食の準備をしている間に、周囲の散策に出掛けていた。多少の敵なら自分でどうにかするだろうという認識で、誰も止めなかった。当人は、悠利の安全を確保するための見回りのつもりなのだろう。


「はい、ルーちゃんのご飯の野菜炒めだよ」

「キュピー!」


 悠利が差し出した皿には、山盛りの野菜炒めが入っていた。ご機嫌で食事を始めるルークス。いつも通りの愛らしい姿に、皆の表情も綻んだ。


「皆のご飯はおにぎりです。中に具材が入っていたり、混ぜ込んであったりするんで、お好きなのをどうぞ」


 悠利が皆の中央に置いた数個の大皿の上には、おにぎりが幾つも積み上がっていた。外で食べることを考慮して、食べやすいおにぎりをチョイスした悠利だ。

 しかし、塩むすびでは味気ないし、そもそも肉や野菜を取らないと体力が心配だと考えた。考えた結果、具材を混ぜ込んだり、炊き込みご飯をおにぎりにしたり、おにぎりの真ん中に詰めこめば良いという発想になったのだ。まぁ、普段のおにぎり弁当と何一つ変わらない。

 あえておにぎりだけにしたのは、この昼食が他のチームの面々と近しい場所で食べると聞いていたからだ。いくら魔法鞄マジックバッグとはいえ、ほいほい美味しそうなご飯を出してしまえば、人目を引く。食事で不和を引き起こすのはよろしくない。


「あらー、流石ユーリちゃんねぇ。どれも美味しそうだわ」

「レオーネさんのお口に合うと良いんですけど」

「貴方のお料理が美味しいのは知ってるから、大丈夫よぉ」


 うふふと優しく微笑む美貌のオネェに、悠利は照れたように笑った。実に微笑ましい光景だ。彼らはとても仲が良い。

 その隣で、悠利に感謝しながらおにぎりを食べていたアリーとブルックが、ぼそりと呟いた。


「野営となれば、豪快に魔物を丸焼きにして食ってた奴が何か言ってるぞ」

「必要とあらば割と何でも食べてた奴だ。口の方を合わせるだろう」

「ちょっと貴方達、聞こえてるわよぉ!?」


 もぐもぐとおにぎりを食べながらのアリーとブルックの声は、小さかった。小さかったが、皆で皿を囲むように座っているのだから、聞こえる。友人達の言い草に、レオポルドは柳眉をつり上げて怒鳴った。美人は怒っても美人だった。

 途端に三人で言い合いを始めるのを、悠利とクーレッシュは遠い目をして見ていた。普段の彼らは、悠利達にとって頼れる大人である。尊敬する大人である。なのに何故か、三人揃うと途端に珍妙なやりとりを繰り広げるのだ。何だコレと思う二人だった。

 そんな若者二人と裏腹に、ヤクモは口元に笑みを浮かべて三人のやりとりを見ている。滅多なことでは取り乱さない、ジェイク関係以外は器も懐も大変大きい呪術師殿は、不思議そうな悠利とクーレッシュに向けて静かに口を開いた。


「気の置けない友人との談笑というのは、緊張を解きほぐすのには良いものであろうよ。下手に気負わず、自然体で挑むことも大事ゆえ」

「これってそういう話でしたっけ?」

「え?アレってただの喧嘩じゃあ……?」

「少なくとも、お主らは緊張せぬであろう?」

「「……なるほど?」」


 ヤクモの説明を聞いた悠利とクーレッシュは、物凄く悩んでから、とりあえず納得したように頷いた。頷いたけれど、やっぱり首を傾げてしまう。未熟者の自分達が緊張しないようにしてくれているとしても、あの口喧嘩はやっぱり普通に本気の喧嘩に見えるからだ。

 もぐっと叩いた梅干しを混ぜ込んだおにぎりを口に含んで、悠利はうーんと小さく唸った。口の中に広がる梅の酸味とご飯の甘味は絶品だ。シンプルだが美味しい。なので、悠利が唸っているのはおにぎりが美味しくないからではない。


「いかがした?」

「いえ、気心知れてるって言うのを差し引いても、本人が冒険者は引退したって言ってるレオーネさんが、何で一緒なのかなぁと思って」

「あ、それは俺も気になった。後、ヤクモさんがいるのも」

「我?」

「「はい」」


 二人の反応に、ヤクモは不思議そうに首を傾げた。はて、何が気に掛かるのであろうか?みたいな雰囲気を出している。

 とはいえ、二人が疑問に思っているのならばと、自分が参加している理由を教えてくれる。親切だった。


「このダンジョンは外観を少し見れば解るように、珍妙な形状をしている。その珍妙さは内部も同じで、中は各地の建物を繋ぎ合わせたようになっているらしい」

「各地の建物を……?」

「それって、探索フロアを移動したら、建築様式の異なる建物の中になるってことですか?」

「入り口付近を調べた限りはそうなっているようだ。ゆえに、我が呼ばれた。各地で見てきた建造物が多いのでな」


 ヤクモの説明に、悠利とクーレッシュはなるほどと呟いた。故郷を遠く離れ、各地を旅してきたヤクモの見識は深い。知識という意味ならジェイクがいるが、実際に目で見て、耳で聞いてきた彼の経験は別格だ。

 アリー達も冒険者としての経験ならば同じぐらいなのだが、彼等はどちらかというと拠点を決めて行動していた。勿論遠出はしているし、見識は深い。それでも、様々な国、様々な地方を実際に見聞きしているという意味では、ヤクモに軍配が上がるのだ。

 適材適所と言うことらしいと理解した二人は、ふむふむと納得顔。しかし、そこまで聞いてもやはり、何であの人いるんだろうと思う二人だった。とはいえ、彼等は別に悪くない。そう思っても仕方がないのだ。

 今や凄腕の調香師としてお貴族様相手にもお仕事をしている美貌のオネェ・レオポルド。彼は今でもそこらの冒険者には負けないぐらいにお強いが、一応冒険者稼業は引退している。何かあったときのためや、自ら素材を採取するときのために登録は残してあるが、基本的には休業状態である。

 その彼が、何故、ここにいるのか。呼んだのはアリーだろうが、普段のやりとりを見るに、何で呼んだのか全然解らなかった。


「リーダー、何でレオーネさん呼んだんだろうな?」

「呼んだアリーさんもだけど、レオーネさんも何で来たんだろうね?」

「それな」


 真ん中に大きな鮭の切り身が入ったおにぎりを食べながら、クーレッシュが呟く。鮭の脂が米に染みこんで、実に美味しい。所々ピンクに染まっているのもご愛敬だ。塩鮭なので、その塩分が良い感じに米の美味しさを引き立てている。

 悠利が重ねた疑問に、クーレッシュは大きく頷いた。お仕事大好きなあのオネェさんが、何でこんな面倒くさいお仕事に同行しているのか、若者二人にはちっとも解らなかったのだ。


「あらぁ、あたくしだって、恩に報いるとかでお仕事することぐらい、あるわよぉ?」

「うぉ!?」

「んぐ!?」

「あらやだ、ユーリちゃん大丈夫?喉詰めちゃった?お水飲むのよ」


 突然聞こえたレオポルドの声に、クーレッシュは驚きの声を上げ、悠利は食べかけのおにぎりを喉に詰めた。どんどんと喉を叩く悠利に、レオポルドはそっと水の入ったコップを差し出した。それを飲んで何とか落ち着いた悠利だった。

 ごめんなさいねと謝るレオポルドに、二人はふるふると首を左右に振った。驚いたのは確かだが、レオポルドに悪気はなかったのだし、落ち着いたので問題ない。それよりも、気になったのは彼の発言だ。


「アリーさん達に恩があるからお手伝いしてるってことですか?」

「え?」

「恩に報いるってそういうことかなって」

「違うわよぉ。あの二人に恩なんてないわぁ。むしろ、あたくしからの貸しの方が多いわよ」

「は、はぁ……」


 自信満々に言いきるレオポルドに、悠利は相づちを打つしか出来なかった。素早く反応したのはアリーとブルックだった。


「何言ってやがる。お互い様だろうが」

「百歩譲ってチャラだと思うが」

「いちいち煩いのよ、二人とも」


 打てば響くような軽快な会話だ。何で三人揃うとこんな感じなんだろうと思う悠利。しかし口には出さなかった。昔馴染みってこんなもんなんだろうなと思うことにしているので。

 このまま再び口論になるのかと思ったが、そうはならなかった。何だかんだで、じゃれるときとそうではないときを使い分けているのかもしれない。悠利にはその基準はちっとも解らないが。

 或いは、悠利達の疑問を解消する方が先だと思ったのかもしれない。アリーの性格を考えると、そちらの方が可能性が高そうだなぁと悠利は思った。頼れるリーダー様は保護者が板についているので。


「こいつはな、いると便利なんだ」

「便利、とは……?」

「もうちょっと言い方を選びなさいよ」


 アリーの簡潔すぎる説明に首を傾げる悠利。レオポルドは面倒そうに訂正を求めた。とはいえ、心底からそうしているというよりは、会話を楽しんでいる雰囲気だった。

 そんな二人のやりとりを、ブルックは放置していた。その姿を見てクーレッシュは、いつもこんな感じだったんだな、と思った。間違ってない。


「こいつは元々は薬師だからな。今でも薬品に詳しい。魔物の弱点が解れば、それに対応した薬品で対処出来るんだよ」

「わぁ、レオーネさん流石ですね!」

「ありがとう、ユーリちゃん」

「後はまぁ、間合いが解ってるからな。こいつの邪魔にならない」

「邪魔……?」


 アリーが示したのはブルックだ。邪魔ってどういうことだろうと首を傾げる悠利の隣で、クーレッシュがぽんと手を打った。物凄く納得した顔だった。


「つまり、レオーネさんはブルックさんの邪魔にならずに援護が出来るんですね?うわ、すっげー!」

「見直したかしら?」

「凄さを再確認しました。あのブルックさんの動きを把握できるとか、マジで凄いです」

「そんなに凄いの?」

「凄い」


 きっぱりはっきり言いきるクーレッシュに、悠利はきょとんとした。物凄く実感がこもっている気がした。戦闘に参加しない悠利には、それがどこまで凄いことなのかがイマイチ解らないのだ。

 そんな悠利に、クーレッシュは興奮冷めやらぬ感じで口を開いた。


「ブルックさんは凄腕の剣士で、動きに無駄がないんだ。その上早い。その邪魔をせずに的確に援護が出来るってことは、物凄く状況把握が上手いってことだ」

「ふむふむ」

「大袈裟ねぇ。単純に慣れよ、慣れ。伊達に一緒に旅はしていないわぁ」


 悠利にも解るようにと言葉を選んで説明をするクーレッシュと、大真面目な顔で頷いている悠利。そんな二人を見て、レオポルドは楽しそうに笑った。上品なその笑みの奥に、確かな経験が息づいている。

 三人の会話を耳にしたブルックが、それまでの沈黙を破って口を開いた。万感を込めて。


「むしろ、アレだけ共に戦っていて呼吸が合わない方が問題だがな」

「それね」

「それな」


 ブルックの言葉が終わるやいなや、レオポルドとアリーが同意した。元パーティーメンバーとして共に何度も死地を潜り抜けてきた彼等にしてみれば、互いの動きを把握できて当然だった。年季が違うのだ。

 当たり前のように言いきる大人三人の姿に、悠利とクーレッシュは尊敬の眼差しを送った。未熟な若者の彼等では到達できない境地だ。そして、ルークスもまた、目をキラキラと輝かせていた。……どうやら出来るスライムは、信頼関係に基づく連携に憧れがあるらしい。

 そこから話が弾みそうになった矢先、ヤクモが穏やかに口を開いた。


「各々方、話が弾むのは良いのであるが、少々食事を急いだ方がよろしそうだが?あちらの食事が終わりそうだ」

「「あ」」

「ダンジョン内部では別行動とはいえ、突入は共にと伺っている故、急いだ方が良いか、と」

「「はい」」


 ついうっかり雑談に花が咲いていた一同は、ヤクモの言葉に素直に頷き、慌てておにぎりを食べるのだった。頼れる大人がいると助かります。




 そんなこんなで、悠利のダンジョン調査のお手伝いが始まるのでした。何が待っているのかは、まだ、解りません。




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