コロコロ美味しい揚げ出し豆腐

「……また豆腐がメインディッシュか」

「カミール、そんな物凄く微妙って言いたげな顔をしないでよ」

「だって、豆腐ってあんまり味ないじゃんか……。後、壊れやすいから難しい」


 しょんぼりと肩を落とすカミールに、悠利は困ったように笑った。

 確かに、彼の言い分も解る。悠利がうきうきで買い求める豆腐は、基本的に絹豆腐。木綿豆腐や焼き豆腐に比べて、どうしても崩れやすい豆腐である。その代わり、その滑らかな食感が大豆の旨味を感じされてくれると悠利は思っている。

 カミールだけでなく、育ち盛りだったり肉食だったりが多い《真紅の山猫》では、豆腐をメインディッシュにという考えはあまり出てこない。というかそもそも、豆腐に馴染みがないのだ。悠利が買ってこなければ、多分誰も豆腐に興味を持たなかっただろう。

 唯一の例外はヤクモだが、彼の場合は故郷が和食に似た食文化の国だというのが理由なので、ちょっと違う。そもそも最初から豆腐を知っているのだから。

 ちなみに豆腐や油揚げといった大豆加工品は、通常の市場では売っていない。取り扱っているのは、「ババアの老後の道楽さ」と嘯くお婆ちゃんのお店のみである。何でも、知り合いが置いてくれと頼んでくる食材を適当に並べているのだとか。気に入らない客は箒で叩き出す最強のお婆ちゃんだが、悠利には優しいお婆ちゃんなので行きつけのお店でもある。


「確かに豆腐は味が薄いし、壊れやすいっていうのは解るけど、今日のはきちんとおかずになるよ。メインディッシュってほどじゃないかもしれないけど」

「ってことは、豆腐ステーキじゃないんだな」

「今日は揚げます」

「揚げる?豆腐を?」

「うん」

「……揚げられんの?水分多いのに……?」


 胡乱げな顔をするカミールに、悠利は大丈夫だよと笑った。

 なお、以前作った豆腐ステーキは、甘辛いしっかりとした味付けだったからか、肉食メンツにも大好評だった。そっち系かと思っていたので、色々と意表を突かれた形になったカミールなのだ。


「今日作るのは、揚げ出し豆腐です」

「揚げ出し豆腐……? ……出汁?」

「揚げた豆腐に、出汁風味のつゆをかけて食べる料理」

「もう完全にマグホイホイじゃねぇか!」

「……そうなんだよねぇ」


 思わずと言った具合に叫んだカミールに、悠利はちょっと遠い目をした。今は鍛錬で出掛けているマグだが、夕飯のときにはすごい勢いで食いつきそうだなぁと思う二人だった。

 なお、揚げ出し豆腐は、単体では粉を付けて揚げた豆腐なので、マグが食いつくとしたらつゆの方であろうと悠利は思った。いわゆる天つゆっぽい感じに仕上げる予定だが、きっとマグはそれをお代わりするんだろうな、という予感がしていた。……多めに作っておこうと決意を固める悠利だった。


「で、準備のために豆腐は布に包んで水気を取っています」

「……このまな板の上に乗ってるやつか」

「そうそう。粉を付けるにも、水気が多いと困るからねー」


 布巾に包まれた謎の物体がまな板の上に乗っているのが何なのか密かに気になっていたカミールだが、その疑問は悠利の返答で解けた。解けたが、結構な数だなと思うカミールだった。複数のまな板の上を占拠する豆腐は、二桁に近い。


「こんなにいるのか?」

「今日の夕飯は人数が多いんだよねー」

「何でそんな人数の多い日にやろうと思ったんだよ……」

「お豆腐がいっぱい売ってたから」

「……あっそう……」


 ケロリと答えた悠利に、カミールは脱力した。割と悠利はその日の思いつきでメニューを決定することが多い。食材が余分に手に入ったとかに影響されるのだ。まぁ、逆に主夫っぽいのかもしれないが。

 とはいえ、悠利が準備をしておいたので、豆腐はもう調理できる。揚げ出し豆腐は簡単な料理ではあるが、数が多いとそれなりに大変だ。


「とりあえず、冷めちゃったら美味しくないので、先につゆを作ります」

「了解」

「昆布を付けておいた水を鍋に入れて沸かしたら、味を付けるだけなんだけど」

「冷蔵庫の昆布水、活躍してんなぁ……」


 あると便利だからという理由で悠利が冷蔵庫にストックしている昆布入りの水は、普段からしれっと大活躍している。昆布は水に漬けておくことで旨味成分が出るので、その手間が省ける感じだ。

 なお、鍋物っぽいときなどは、悠利は気にせず昆布も一緒に投入する。調理手順としては沸騰したら昆布は抜いた方が良いのだが、悠利はくたくたになった昆布も好きなので、そのまま入れているのだ。味が染みこんで柔らかくなって、これはこれで美味しいので。

 それ以外のときは、一度取り出してから刻んで具材にしたり、刻んだ昆布を鰹節と一緒に醤油で炒めてご飯のお供にしたりする。昆布は最後まで美味しく食べられます。


「で、湧いてきたけど、味付けは?」

「塩とみりんと、白だしで」

「白だしなんだ」

「めんつゆでも良いんだけど、白だしの方がイメージが近かったから。別に、面倒だったらめんつゆを薄めるだけでも大丈夫だよ」

「めんつゆ万能だな」


 めんつゆと白だしは万能なので、そこは否定しない悠利だった。やや甘めで醤油が強いめんつゆと、塩分と出汁の風味が強い白だしという違いはあるが、どちらも便利な合わせ調味料であることは確かだ。

 今日は、見た目のイメージもあって白だしを選択した悠利だ。白だしはめんつゆよりも色が薄いので、出来上がりもすまし汁のように薄い色に仕上がるのだ。

 沸騰した鍋に調味料を入れて、味見をする。みりんを入れるのは、少し甘めに仕上げることで天つゆのようなイメージにするためだ。ほんのり甘いつゆが、豆腐のあっさりとした味に絡んで美味しく仕上がると悠利は思うので。


「つゆはこんな感じだよ。味見してね」

「おー」


 味見をするのは、覚えるという意味で大切だ。揚げ出し豆腐にかける前の、基本の味を覚えるという意味で。

 小皿に取ったつゆを口に含み、カミールは何かを確認するようにふむふむと頷いた。昆布出汁をベースに塩と白だしで味を調え、みりんの甘さがまろやかに全てを包み込むような仕上がりである。


「カミール、どうかした?」

「間違いなくマグが食いつくなって思っただけ」

「あははは……」


 それはその通りかもしれないと思った悠利は、乾いた笑いを浮かべるしか出来なかった。人数分より明らかに多い分量を作っているのもマグ対策だ。出汁の信者はきっと、今日も元気にお代わりを希望するだろう。


「とりあえず、つゆは出来たから揚げ出し豆腐を作っていこうか。量も多いしね」

「おー」

「鍋に油を入れて熱してる間に、粉の準備ー」


 そう言って悠利はボウルを取り出した。用意した粉は、米粉である。


「小麦粉?」

「ううん、米粉」

「コメコって何」

「お米を砕いた粉」

「米って粉にすんの!?」

「しちゃうんだよねぇ」


 平然と告げる悠利に、カミールは驚愕していた。彼は米を、炊いたらライスになる穀物としか認識していなかった。いや、彼だけではあるまい。多分、アジトで米粉を認識しているのはヤクモぐらいだ。

 ちなみにこの米粉、以前うどんを作るために粉を買いに行った粉マニアさんのお店で購入したものである。あまり量が売っていないので、普段は使っていない。時々、悠利が天ぷらに小麦粉と混ぜて使うぐらいだ。

 悠利以外の面々は、これが何か解っていないので触らなかったというのもある。米粉の見た目は小麦粉よりも白く、さらさらしている。指で触ってその粒の細かさに、カミールは感心したように呟いた。


「何か、母さんが顔に塗ってた化粧品みたい」

「白粉のこと?」

「そうそれ。塗ったら肌が白くなるやつ」

「これは顔に塗るんじゃなくて食べる粉だから」

「おー」


 ボウルに米粉をたっぷりと入れたら、次は豆腐の準備だ。布巾を外して確認すると、布に水分を吸われた水気の減った豆腐が現れる。周囲の水分が減っているだけで、豆腐そのものの瑞々しさは失われていない。


「では、この豆腐を食べやすい大きさに切ります」

「……俺、前から思うんだけど、その掌の上で豆腐切るの、マジで凄いと思う……」

「別に、包丁を引かなきゃ切れないよ?」


 一丁丸々掌に載せた悠利は、まずはそれを半分にした。悠利の掌はそこまで大きくないので、一丁のまま細かく切ると端の方が落ちてしまうのだ。安全第一である。

 カミールは包丁が肌に触れるのを怖がっているようだが、悠利にしてみれば別に怖くも何ともないものだ。豆腐は柔らかいので、特に力を入れなくても切れる。上から下にすーっと包丁を下ろすだけ、という認識なのだ。

 そんなわけで悠利は、特に何も気にせずにさくさくと豆腐を切っていく。食べやすい大きさを考えて、半分にした豆腐を六個に切る。一丁を十二個に切る計算だ。

 市販の揚げ出し豆腐は四分の一ぐらいの大きさだったりするが、悠利の好みは小ぶりな揚げ出し豆腐。食べやすいのもあるが、その方が衣と豆腐のバランスが取れて美味しい気がするのだ。

 何せ、豆腐が大きいと豆腐だけの部分を食べることが増えるので。それも別に悪くはないのだが、悠利としてはつゆが染みこんだ衣と豆腐のバランスとして、小さい方が好みだなぁという感じなのだ。

 そうやって切った豆腐を、そっとボウルに入れる。ふかふかの米粉の上に転がされる形になった絹豆腐だが、ゆっくりと入れたので特に壊れてはいない。


「後は、米粉を全体に付けて油で揚げるだけ」

「割と簡単だな」

「うん、まぁ、簡単なんだけどね」

「……何だよ」


 言葉を濁した悠利に、何か落とし穴があるのかと言いたげな顔をするカミール。そんな彼に、悠利は厳かに告げた。


「衣が揚がれば良いから、引き上げるまでの時間が短いんだ」

「……は?」


 当人は大真面目だが、カミールには何のことかさっぱり解らなかった。むしろ、調理時間が短いならばさくさく作れて良いのではないか?と言いたげだ。

 そんなカミールに、悠利は理由を説明した。


「豆腐に粉を付けて鍋に入れる人と、引き上げる人の二人が必要なんだよね、この大きさだと」

「……あー。なるほど」

「と、いうわけだから、カミール、引き上げるの頑張ってね!」

「せめてタイミングは教えろよ!?」

「はーい」


 僕が切って粉を付けるからー!と満面の笑みを浮かべる悠利に、カミールは思わずツッコミを入れた。仕事を頑張るつもりはあるが、初めての料理なのだからちゃんと指導はしてほしいのだ。

 勿論、悠利もそれぐらいは解っている。単純に、手が汚れているのでカミールに代わりに引き上げてほしいだけなのだ。

 悠利の説明通り、鍋に入れられた豆腐達はすぐにぷかぁっと浮かんできた。米粉が油によってキツネ色に色づいていく。


「あ、そろそろひっくり返して。反対側も揚げたいから」

「おー」

「ぷくぅって膨らんできたら引き上げて大丈夫だと思う」

「ちなみに、忘れるとどうなる?」

「破裂して豆腐がはみ出てバチバチ言う」

「それは嫌だ……!」


 いくら水を切っていたとしても、豆腐は水分を持っている。衣が割れて剥がれて中身が出てきたら、確実に油と喧嘩をするだろう。そうなったら火傷の危険性もある。

 なのでカミールは、こまめにくるり、くるり、と豆腐をひっくり返して変な膨らみがないかを確認することにした。

 こんがりと綺麗な色になってきたら、トングで触っても壊れそうな柔らかさはなくなった。……なお、揚げ物はトングか菜箸かを気分で使い分けているのだが、今日はトングの方がやりやすそうということで、トングになっている。


「そろそろ引き上げても良いと思う」

「解った」


 両面がこんがりと色づいた豆腐を、カミールはそっと油切りの網が乗ったバッドに引き上げる。ころん、ころん、と転がる感じが何とも言えず可愛らしい。


「これ、このまま食べても味はないんだよな?」

「ないね。しいていうなら、揚げた油の味。後、豆腐本来の味」

「じゃあ、味見はやっぱりつゆをかけて……?」

「そのままが良いなら、そのまま食べても良いけど」

「いや、つゆ欲しいんだよ!」

「あははは」


 解ってて言ってるだろ、と言われて悠利は笑った。カミールは別に豆腐を嫌いではないが、味がないと思う程度には豆腐のことを薄味だと思っている。なので、さっき作ったつゆを寄越せという気分なのだろう。

 そんなカミールのために、悠利は小鉢に揚げ出し豆腐を入れると、つゆをかけた。熱々の揚げ出し豆腐に、少し冷めたつゆなのでバランスは良い。熱々に熱々をかけても良いのだが、今は味見なのですぐ食べられる方がありがたい。


「すぐに食べると豆腐の表面がカリッとしてて、汁の味が薄い感じ。しばらく漬けておくと、ふやけて味を吸うよ」

「とりあえず、半分食べて半分置いとく」

「それも良いかもね」


 フーフーと息を吹きかけて冷ましながら、カミールはかぷりと揚げ出し豆腐に齧り付いた。熱々の豆腐なので、囓った瞬間にあふあふと言っているが、仕方ない。中身は熱いのだ。

 米粉はカリッとした食感に揚がるので、表面はこんがりした見た目そのものなカリカリ具合。対して、中の豆腐は絹豆腐なので柔らかく滑らかだ。揚げたことで熱々に仕上がっているが、食感は変わっていない。それだけだと物足りないが、つゆの旨味が絡んであっさりとしていながら優しい味を口の中に広げる。


「メインディッシュって感じじゃねぇけど、優しい味だな。すまし汁とはまた違う感じ」

「一応揚げてるしねー。漬けておくとまた食感変わって楽しいよ」

「とりあえず、美味かったから、頑張って揚げる」

「頑張ろうー」

「おー」


 これ美味いわと言いながら、カミールは鍋に向き合うことに決めた。悠利もせっせと豆腐を入れることを忘れない。仲間分を作ろうと思うと結構な労力になるが、美味しいものを食べるためだと解っているので、二人は協力して揚げ出し豆腐を作るのだった。




 そして、夕飯の時間である。

 揚げ出し豆腐だけでは物足りないのは解っているので、一応シンプルに塩胡椒で焼いたビッグフロッグの肉も用意した悠利だ。鶏モモ肉みたいなお肉なので、肉食メンツも満足だろう。

 初めて見る謎の小鉢料理に首を傾げていた皆だが、豆腐を揚げたものであるとの説明を受け、今では美味しい美味しいとお代わりをしている。

 揚げ出し豆腐はつゆに長く漬けるとふやけてしまうので、悠利とカミールは大量に作った揚げ出し豆腐を別の器にお代わり用として確保していた。欲しい人は自分で取りに行き、つゆが足りなければ追加してもらう感じだ。


「ユーリ、これ、とても美味しいですわ」

「イレイスのお口にもあった?」

「はい。お豆腐はいつもスープの具材という感じでしたけれど、こうやって一品物にもなりますのね」


 感心したようなイレイシアは、彼女にしては珍しくお代わりをしていた。豆腐は元々ヘルシー食材なので、小食のイレイシアの好みの食材でもあった。初めて見る揚げ出し豆腐だが、どうやらお口に合ったらしい。

 つゆも美味しいですわと微笑む美少女、プライスレス。その美しい微笑みは、見る者の心に喜びを与えるだろう。彼女は文句なしの清楚系美少女なので。


「美味しいけれど、一つ一つが小さくて、少し物足りない感じねぇ」

「……マリアさんの胃袋仕様の料理では、ないので……」


 口元に指先を添えながら妖艶な美貌で微笑むお姉さんに、悠利は目を逸らしながら答えた。確かに、見た目を裏切る大食漢のお姉さん仕様ではない料理だ。

 そもそも、既に肉をばくばく食べているのに、物足りないとか言われても困る悠利だった。ダンピールのマリアお姉さんは、今日も元気に大食らいだ。所作が妖艶で美しいのでうっかり忘れがちだが、彼女はレレイと張り合うレベルの大食いさんである。

 そんなマリアを適当にあしらいつつ、悠利も揚げ出し豆腐を口に運ぶ。揚げたて特有のパリッとした食感は時間がたつと失われるが、つゆを吸った衣の美味しさはそれを補ってあまりある。

 じゅわりと広がるつゆの旨味、汁を吸って柔らかくなった衣と、変わらず柔らかい豆腐の滑らかな食感。口の中でそれらが調和して、柔らかい揚げ出し豆腐も美味しいと悠利は顔をほころばせる。

 あっさりとした味につゆを仕上げているので、幾つでも食べられそうな感じだ。悠利がそう思うのだから、大食いメンツはもっとそうなのだろう。

 そんなことを思いながら視線を向けた先で、ある意味で予想通りの光景があって悠利はそっと眉間を押さえた。予想通りとはいえ、ちょっと頭が痛かったので。


「マグ、今日のメインは豆腐だ。揚げ出し豆腐は、豆腐を食う料理なんだ」

「諾」

「そうだな?解ってるよな?お代わりするのは豆腐だって解ってるよな?」

「諾」


 言い聞かせるようなカミールに、マグはこくりと頷く。律儀に何度も頷くマグの手には、小鉢があった。揚げ出し豆腐が入っている器だ。お代わりの揚げ出し豆腐が幾つか入っている。

 そこまでは良い。

 お代わりは、皆がいっぱい食べられるようにと沢山用意されている。だから、マグが豆腐をお代わりしているのは何の問題もないのだ。

 では、カミールが何を必死に訴えているのかと、言うと。


「それなら、そのお玉になみなみと掬ったつゆは、鍋に戻せ……!」

「否」

「多過ぎ! 多過ぎだから! これ、つゆ飲む料理じゃねぇから!」

「美味」

「美味いのは解るけど、皆の分がなくなるから!」


 料理当番として、必死に止めているカミールだった。マグは面倒くさそうな顔をしていた。出汁の信者は今日も、美味しい出汁料理と定めたものには一直線だ。

 それでも、一応カミールの話を聞いて止まっている辺り、マグもちょっと成長していた。ちょっとだけ。

 相変わらずだなぁ、どうしようかなぁ、と思っていた悠利だが、痺れを切らしたウルグスが動くのが見えたので、任せることにした。適材適所だ。マグが何を言っているのか理解できるウルグスは、今日もマグ担当として認識されていた。

 途端に少しばかり賑やかになるが、アリーが怒るレベルではないので、悠利はのんびりと揚げ出し豆腐を堪能することにした。久しぶりの料理だったので。


「ねぇユーリ」

「何ですか、マリアさん」

「これ、もう少し大きくは出来ないの?」

「出来ますけど、そうすると素の豆腐っぽい部分だけになっちゃう可能性もありますよ」


 食べてるときに、と告げた悠利の言葉に、マリアは黙った。想像をしているのか、少し考え込んでいる。

 しばらくして、妖艶美女のお姉さんはぼそりと呟いた。


「それは味が足りなくて嫌ね」

「マリアさんならそうだと思いました」

「じゃあ、小さいのを沢山食べることにするわねぇ」


 お代わり行ってきますと微笑んで立ち去るマリア。基本的にトマト以外は肉食なマリアが、ここまで揚げ出し豆腐を気に入るとは思わなかった悠利だ。物珍しいからかもしれない。

 何はともあれ、仲間達が喜んで食べてくれるので満足そうに頷く悠利。普段は添え物だったり味気ないと言われている豆腐も、調理次第では美味しくなるのだと伝えられて嬉しいのだった。




 なお、揚げ出し豆腐は完売し、残ったつゆはマグが美味しそうに飲み干しました。出汁の信者、絶好調です。



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