冒険者ギルドで人材チェックのお手伝いです


「今日はお世話になります」

「こちらこそ、わざわざ来ていただいてありがとうございます」


 ぺこりと頭を下げる悠利ゆうりの前で、今日も片眼鏡モノクルがよく似合う冒険者ギルドのギルドマスターは優雅にお辞儀した。

 今日、悠利はとあるお手伝いで冒険者ギルドにやってきていた。基本、普段の悠利は冒険者ギルドに足を運ばない。用事がないからだ。

 他の仲間達ならともかく、悠利がここへ来る理由は滅多にない。あるとしたら、ルークスの従魔登録関係ぐらいだろうか。

 というのも、悠利の所属先は鑑定士組合だからだ。身分証を作るためにお世話になった場所だ。たまにお仕事を手伝うこともあるが、基本的に普段は関わらない。

 さて、それはともかく、何故そんな悠利が冒険者ギルドにいるのかといえば、アルバイトだ。


「本当に僕で良いんですか?」

「アリーのお墨付きは頂いてますからね。それに、君の腕が確かなのは知っていますから」

「出来る限り頑張ります」


 穏やかに会話をしながら、二人並んで奥の個室へと向かう。込み入った話などをするための場所だ。

 そして、今日はそこで悠利はお仕事なのだ。鑑定能力を使った仕事なので、アリーのお墨付きというのも間違いではない。

 別に、悠利がやりたいと言ったわけではない。ただ、アリーは時々こうやって悠利に鑑定の仕事を振り分ける。技能スキルの使い方を正しくしっておけという感じだ。そうでもしないと悠利は、食材の目利きや仲間の体調管理ぐらいにしか技能スキルを使わないので。


「それで、素質の確認ということですけど、頻繁にやるんですか?」

「いえいえ。手持ちの技能スキルの確認ならば難しくなくとも、素質の確認は熟練の鑑定能力者が必要です。そうそう簡単には出来ませんよ」


 穏やかに告げられた言葉に、悠利はなるほどと呟いた。このアルバイトを紹介してきたアリーにしても、「お前なら問題なく出来るだろ」という感じだった。悠利の能力の高さだけは皆が認めるところだ。

 悠利がこれからやるのは、言葉の通りにその人の素質を見抜く作業だ。現在所持している技能スキル職業ジョブに関してではない。今はまだ持っていないが、磨けば光るだろう才能に関して調べるのだ。

 これは、自分が何に向いているのか、何を鍛える方が効率が良いのかを知りたい者に対する、有料サービスだ。冒険者ギルドに常駐している職員の鑑定能力では出来ないので、鑑定士組合に声をかけたり、たまにアリーがやっている仕事である。

 今回も、ギルマスはアリーに話を持ちかけた。素質を見抜くその能力をもって、《真紅の山猫スカーレット・リンクス》の面々を適切に育てている彼の手腕を見込んでのことでもある。また、【魔眼】持ちとして真贋士アリーの名はよく知られているので、説得力がある。

 あくまでも素質であると前置きをしても、自分の望まない結果だった場合に不愉快を露わにする者もいる。そういった者達は、鑑定能力の方を疑う。実に面倒くさい話であるが。

 そういったトラブルが、アリーの場合は起こらない。王侯貴族にすら一目置かれる男の能力を疑うバカはいない。


「アリーさんだと説得力あると思いますけど、僕で納得してもらえますかね?」

「アリーの秘蔵っ子ですし、今は君の話も色々と伝わっているので大丈夫だと思いますよ」

「僕の話?」

「えぇ、君の話です」

「…………?」


 何のことだろうと首を傾げる悠利の足下で、ルークスも同じように首を傾げた。ルークスが真似っこしているのに気付いて、悠利は「どういう意味だろうね?」と問いかけて、一緒に首を傾げる。

 不思議そうな悠利に、ギルマスはにこやかに笑うだけだ。当人だけが解っていないが、何だかんだで悠利の能力の高さは噂として広がっている。あちこちでお手伝いをしているので。

 よく解っていない悠利だが、とりあえず今日のお仕事に支障はなさそうだと解ったので、言われるままに席に着く。素質に関しては個人情報の極みみたいなものなので、希望者は一人ずつ入ってくるらしい。

 いつもはギルマスは立ち会わないらしいが、今日は例外だ。悠利の能力の高さは認められているとしても、ぽやぽやした雰囲気なので舐められる可能性がある。悠利に何かあると色々と大変なので。

 具体的にいうと、怒りにまかせて飛び込んでくる保護者が多いことだ。《真紅の山猫スカーレット・リンクス》の仲間達は言わずもがなだし、レオポルドをはじめとした職人組も湧いてくる。何だかんだであちこちに知り合いの多い悠利なので。


「よろしくお願いします」

「はい、よろしくお願いします」

 礼儀正しく一礼して入ってきたのは、年若い女性だった。年齢にして、二十過ぎぐらいだろうか。身につけているのは動きやすそうな鎧などで、腰に剣を差している。多分前衛職だろうと悠利は思った。


「初めまして、僕はユーリです。貴方の素質を確認することになりますが、具体的にどういった素質を知りたいとかありますか?」

「え?」

「素質と一口に言っても色々とあるので」


 瞬きを繰り返す女性に、悠利はにこりと笑って言葉を続けた。これは、アリーからのアドバイスでもある。知りたい素質が武術系なのか、学術系なのか、身体能力に関することなのかで、情報を絞ることが出来るからだ。

 勿論、悠利が所持する鑑定系最上位技能スキルである【神の瞳】さんにかかれば、彼女の素質全てをささっと確認することは可能だろう。特に使用者である悠利に負担もかからない。その程度にはハイスペックな技能スキルだ。

 けれど、【神の瞳】さんがさくっと情報を全て提示できるからと言って、受け手である悠利がそれをささっと目の前のお姉さんにお伝えできるかは別の話だ。情報量が多ければ多いほど、きちんと伝えるのは難しくなる。

 なので、あらかじめ絞ることが出来るなら、範囲を選択しておいた方が良いと言われたのだ。中には何も考えずにただ素質を知りたいと言う意見の者もいるかもしれないが、大抵は伸び悩んでいたり、今後の道筋にするための判断基準として知りたがっているのだから、何らかの取っかかりはあるだろう。


「えーっと、武器に関することとか、身体能力に関することとか、色々とあると思うんですけど」

「あ、あぁ、そういうことね。それなら、武器に関してを見てもらえるかしら?」

「はい、解りました」


 悠利の説明で何を問われているのか理解した女性は、表情を和らげて答えた。おかげで内容が絞れるので、悠利も助かる。

 それでは失礼しますと一言断って、悠利はじぃっと彼女を見た。他の部分を見るのはプライバシーの侵害なので、きちんと武器に関する素質だけが見えるように集中する。

 少しして、結果が悠利の目の前に映し出された。




――武器適正素質一覧。

  双剣:最適。

  槍:適切。




 シンプルイズベストな答えだった。しかし、シンプルなおかげで助かるのも事実だ。このまま伝えれば良いので。

 なお、注釈みたいな感じで「最適、及び適切の上位2種類のみ選出しております」とコメントが入っていた。安定の【神の瞳】さんである。お茶目にもほどがある。

 ばっさり切り捨てるような不適切という単語が出てこないので、悠利としても心苦しくならない。向いてないものを伝えるのではなく、あくまでも向いている分野を伝えるだけで良いのだから。心構えが段違いだ。

 もしかしたら、【神の瞳】さんがその辺を慮ってくれたのかもしれないと、悠利は適宜アップデートされていく己の技能スキルに感謝した。……なお、技能スキルに意思など存在しないので、多分これは単なる作業の効率化や適切化であると思われる。


「解りました。最適なのは双剣で、その次に適性があるのは槍だそうです」

「双剣と、槍……?」

「はい」


 反芻する女性に、悠利はこっくりと頷いた。【神の瞳】さんがそう教えてくれたので、間違っていないはずだと悠利は自信満々だった。

 悠利に武器適性を教えられた女性は、しばらく考え込んでいる。何でだろうと悠利が不思議に思うが、すぐに彼は気付いた。彼女の腰にあるのは、剣が一本だけ。きっと、今まではそれを磨いてきたのだろう。

 双剣ということは両手で使わなければならないし、槍となれば何から何まで違うだろう。今まで鍛錬してきたものが違うと解って、ショックを受けているのかもしれない。

 心配そうに女性を見ていた悠利だが、彼女の反応は彼の予想を裏切った。一度目を伏せ、開いたときの彼女の表情は晴れやかなものだった。むしろ、自信に満ちあふれている。


「えーっと、あの……?」

「ありがとうございます!ずっと、自分には武術の才能がないのだと思っていました。けれど、違ったのですね。私は、双剣や槍を磨けば、強くなれると」

「強くなれるかどうかは僕には解りませんが、適性はあるようです」


 感極まっている女性に、悠利はとりあえず思ったことを素直に告げておいた。責任を全部こちらに投げられても困るからだ。悠利に解るのは素質があるということだけで、それを磨いて光るかどうかは当人の努力次第である。

 そもそも、戦闘どころか護身術すらからっきしの悠利に、その辺りのことが解るわけがない。ちらりと傍らのギルマスに視線を向ければ、ナイスミドルの頼れる紳士は穏やかに笑っていた。笑っているだけだった。


(ギルマスさん、そこはフォローとか説明とか何かしてください……)


 冒険者でもない、ただちょっと桁外れの鑑定能力を持っているだけの一般人な悠利にとっては、荷が重い。何せ、冒険者の皆さんは命がけで生きているので。少しは援護射撃が欲しかった。


「教えてくれて本当にありがとう。これで、私も両親に胸を張れます」


 満面の笑みを浮かべて、女性は部屋から出て行った。最後の言葉が何を意味するのか解らない悠利は、ちらりと傍らのギルマスを見た。頼れるギルマスは、にこやかに微笑んで口を開く。


「彼女の祖父母は、それぞれ双剣と槍の名手だったんですよ」

「へ?」

「ご両親は剣や弓を得手にしておられたので、彼女も剣を手にしたのでしょうね。ところが、思ったよりも伸びなかったようで」

「はぁ……」


 それでも、今まで剣を使って生き延びているのだから、多分、適性がそこまで低いとかではないのだろう。ただ単に、双剣と槍の方が適正値が高かっただけで。

 そんなことをぼんやりと思った悠利の耳に、思いもよらなかった言葉が飛び込んだ。


「伝説と言われた祖父母のどちらかに、彼女が届く日が来るのかも知れませんね」

「はい……!?」


 伝説って何!?と悠利は思わず声を上げた。悠利が驚いたので、ルークスも釣られたように驚く。

 普通に生活していたら、絶対に耳にしないような言葉だ。名手ぐらいなら聞くこともあるだろうが、伝説までいっちゃうとちょっと格が違いすぎる。話が壮大になりすぎだ。


「あの、伝説って、何ですか……?」

「大変息の合った双剣使いと槍使いで、一騎当千だと伺っております」

「そ、そんな凄い方の、お孫さん……?」

「えぇ。ご両親もそれなりに強い冒険者だったので、彼女も色々と期待されてたんでしょうねぇ」


 冒険者にも世襲制みたいなノリあるんだ、と思う悠利だった。いや、親が冒険者をやっていて、その背中を追って冒険者になるのは珍しくはない。レレイもそうだ。

 ただ悠利が思ったのは、親の名声が子供にのしかかるパターンである。重圧凄そうと思ったのだ。


「お子様が誰も双剣も槍も受け継げなかったとかですからね。孫の彼女に素質が隔世遺伝したんでしょうか」

「……あの、僕、何か物凄く重要なこと言っちゃった感じですか……?」

「おやおや、そんな顔をするものではありませんよ。だって、君は嘘は言っていないでしょう?」


 ちょっとしたアドバイスのつもりが、何だか話が壮大になりそうだと思った悠利が顔を引きつらせるが、ギルマスはけろりとしていた。確かに、悠利は嘘は言っていない。嘘は何一つ言っていないけれど、こんな大事になるなんて思わなかったのだ。

 おろおろする悠利の肩を、ギルマスは宥めるようにぽんぽんと叩いた。優しい仕草だった。


「心配しなくても、彼女が貴方に責任を押しつけることはありませんよ。ただ、己の信念に従う理由が出来たと喜ぶだけです」

「それなら、良いんですけど……」

「さぁさぁ、気を取り直して次の方が待っていますよ」

「はぁい」


 終わったことをアレコレ考えても仕方ないので、悠利はパンパンと頬を軽く叩いて気合いを入れ直す。お仕事は始まったばかりだ。頑張らなければならない。

 ただ、最初が彼女で良かったとも思った。素質を伝えるだけだと思っていたが、それは誰かにとっては人生の大きな転機に繋がると解ったからだ。鑑定持ちがこの世界で重宝されるのが、少しだけ理解できた悠利だった。

 次に入ってきたのは、世慣れた感じの青年だった。それなりに冒険者として経験を積んでいるのだろう。防具の類いはあまり見当たらない。軽装だった。


「こんにちは。ユーリです。よろしくお願いします」

「よろしく頼む」


 幼い風貌の悠利を相手に、青年は静かな声で告げて頭を下げた。侮っている気配は見えない。それだけで、多分それなりの実力者なんだろうなと悠利は思った。

 冒険者ギルドにいる冒険者も、その性質はピンキリだ。時々、どうしようもなくダメダメな冒険者もいる。そういう冒険者の共通点は、ぽやぽやした雰囲気で幼い外見の悠利を舐めることだ。それがないだけで、悠利が相手をちゃんとしていると判断する基準になる。


「知りたいのはどんな素質に関してでしょうか?」

技能スキルに関してだ」

技能スキル、ですか?」

「あぁ。俺は一応隠密の技能スキルを持っているんだが、レベルの上がりが悪くてな。適性があるのかないのか、確認して貰えるか?」


 淡々と告げられた言葉に、悠利はぱちくりと瞬きを繰り返した。思ってもいなかった方向だ。どんな技能スキルの素質があるのか、鍛えれば覚えられそうな技能スキルについて聞かれるのなら予想は出来たのだが、これは完全に予想外だ。

 ただ、相手が明確に目的を告げてくれたので、それほど難しいことではないと悠利は思った。他の鑑定能力持ちがどう感じるかは知らない。悠利の所持する【神の瞳】さんにかかれば、別に難しくもないというだけだ。

 だから、悠利の返事は決まっていた。


「解りました。それでは、確認しますね」

「頼む」


 にこりと笑って、悠利は目の前の青年をじぃっと見つめる。知りたいのは隠密の技能スキルに関して。技能スキルレベルではなく、彼にどれだけの技能スキル適性があるかだ。

 特に難しいことではなかったので、答えはすぐに出た。先ほどのように、悠利の目の前に目当ての情報が映し出される。




――隠密技能スキルの適正。

  やや不適切。




 物凄くざっくりとした情報なのも先ほどと同じだった。多分、【神の瞳】さん的には、他にコメントすることが見当たらなかったのだろう。

 ただ、出てきた答えを告げるのは少しだけ胸が痛んだ。きっぱりはっきりあんまり向いてないですと書いてあるのだ。救いは、ややと付いているところだろうか。完全に不適切ではないらしい。気休め程度かもしれないが。

 悠利の表情が曇ったことで、青年もギルマスも何かを察したのだろう。けれど青年は、困った顔をする悠利に向かって優しく声をかける。


「聞いたのはこちらだ。どんな答えでも構わない。教えてくれるか?」

「……はい。あの、やや不適切って出ました」

「やや不適切」

「はい」


 ややってどれぐらいなんだろうと思いつつ、悠利はとりあえず書いてあったままを伝えた。申し訳なさそうな顔をする悠利に対して、青年は晴れ晴れとした顔をしていた。

 え?と思わず悠利が声を上げる。悪い結果を伝えた割に、当人はさっぱりした顔なのだ。意味が解らない。


「あ、あの……」

「いや、助かったよ。長年気になってた謎が解けた。そうか、あんまり向いてなかったか」

「やや不適切と言われる技能スキルをそこまで磨き、仕事を果たしてきた貴方は努力家ということですね」

「ありがとうございます、ギルマス」


 青年とギルマスは笑顔で言葉を交わしている。不向きだろうが必要だと信じて自分を磨き続けていた今までがある。上げた技能スキルレベルは嘘を吐かない。そのことを言っているのだと、悠利は胸が温かくなるのを感じた。

 そこで、不意に目の前の鑑定画面がぶわんと揺れ、文字が追加された。




――追記。

  素質はやや不適切でありましたが、長年の研鑽により磨き上げられています。

  このまま努力を続ければ、適切に至る可能性があります。

  実に珍しいケースです。




「えぇええええ!?」

「うぉ!?どうした、少年」

「ユーリくん、どうしました?」


 思わず叫んだ悠利に、大人二人が驚いたように声をかける。しかし、悠利の方に彼らに答える余裕はなかった。【神の瞳】さんは、最後の最後に爆弾をぶち込んできた。

 というか、表現方法が相変わらずアレだった。追記って何だろうとか、こういう風に能力が強化されるパターンあるのとか、驚愕が悠利を支配する。

 けれど、すぐに何とか立ち直って、目の前の青年に今見たものを伝えた。伝えなければならないと思ったからだ。


「あの、適性はまだやや不適切なんですけど、今までしっかり努力されてきた結果、近い将来に適切へと上昇する可能性があるみたいです」

「は!?」

「はい?」

「いつとか、あとどれぐらいとかは解らないんですけど、あの、努力が実る感じで、素質が上がるみたい、です」


 突拍子もない発言に、青年もギルマスも声を失った。説明する悠利の声も、途中で不安げに揺れる。確証はない。ただ、【神の瞳】さんが教えてくれた情報は伝えた。


「ギルマス、そんなことがあるんですか?」

「いえ、私も知らないですねぇ」

「でも、あの、僕の鑑定結果ではそういう感じだったので……」


 信じられないと言いたげな大人二人に、悠利はぼそぼそと答えた。嘘は言ってない。前例の有無は知らないが、悠利は真実しか言っていないのだ。


「あぁ、何も疑ってるわけじゃない。ただ、そういうことがあると聞いたことがなかったもんでな」

「多分、誰にでも起こることじゃないんだと思います」

「ん?」

「誰にでもそういうことが起きるなら、素質で左右されることはないと思うので」


 確証はないながら、悠利は言い切った。それというのも、【神の瞳】さんが珍しいケースだと言っているからだ。レアケースを引き当てたらしい。


「なるほど。それなら、俺は努力が実ったということだな」

「お疲れ様です」

「教えてくれてありがとう。励みになる」

「頑張ってくださいね」


 素質が向上する可能性があると知った青年は、嬉しそうだった。元々、己に素質がないと思いつつも隠密の技能スキルを上げていた彼だ。今後もたゆまぬ努力を続けるだろう。

 世の中には不思議なことがあるなぁと思いながら、悠利は気を引き締める。どれぐらいの人数を鑑定することになるのかは解らないが、誰かの役に立てると解ったので。

 そんな悠利の姿を見つめながら、ギルマスは口元にうっすらと笑みを浮かべた。アリーが太鼓判を押すだけの見事な腕前だった。武器適性や技能スキル適性を確認するぐらいならば、同等の者はいるだろう。だが、最後に告げた素質の向上に関して告げられる者は少数派だ。

 当人ののほほんとした雰囲気で誤魔化されがちだが、相変わらず見事な能力だとギルマスは舌を巻く。これだけの才能が、どこかに攫われることも囲われることもなく平和に生きていられる現実が、途方もなく幸運だと思って。

 まぁ、それは日夜アレコレとツッコミを口にしながら悠利を守っている保護者代表のアリーのおかげだろう。あと、悠利の運∞という色々とアレな能力値パラメータのおかげだ。きっと。

 この能力に経験が加われば、きっと誰もが一目置く鑑定能力者に育つのだろうと思いつつ、多分そうはならないだろうと思うギルマスだった。こちらから仕事を与えないと、鑑定能力を磨くことなどしない悠利なので。

 とはいえ、それぐらいが丁度良いのだろう。のほほんとしている悠利だから、その卓越した鑑定能力に押しつぶされることがないのだ。彼は自分の能力に重きを置いていないので。

 目の前で次の相手の素質を確認している悠利の、やっぱりいつもと変わらないほわほわした雰囲気に、ギルマスは笑みを浮かべるのだった。妙に和むので。




 しっかりお仕事をしてバイト代も貰った悠利は、「次も是非お願いしますね」とギルマスに頼まれるのでした。定期的なアルバイトが決定したようです。



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