アクセサリー職人さんと超特急のお仕事


「それじゃ、ミリー、ロイリス、行ってらっしゃい」

「「行ってきます」」

「お弁当、ブライトさんにも届けてね」

「任せてください」

「ありがとうな、ユーリ!」


 ある晴れた日、悠利が用意した弁当片手に《真紅の山猫スカーレット・リンクス》のアジトから出掛けていったのは、ミルレインとロイリスの物作りコンビだ。その二人を見送る悠利の表情は、いつも通りの笑顔だ。

 ただ一つ違うのは、いつもよりももっと、頑張れというオーラが出ているところだろうか。これから二人が、とても忙しい仕事を頑張ることを知っていたからだ。何せ、応援するためにお弁当を作ったのだし。

 彼らは今日、ブライトの工房へ出掛けるのだ。アルバイトのようなものと考えて良いだろう。ブライトの仕事はアクセサリー職人。双方まだ見習いだと自称するが、ミルレインは鍛冶士、ロイリスは細工師としてそれなりの腕を持っている。きちんと戦力になるはずだ。


「無事にお仕事が終わると良いなー」


 走っていく二人の背中を見送りながら、悠利は呟く。昨日、切羽詰まった顔をしていたブライトの顔を思い出しながら。




 特に用事もなかったのでルークスとぶらぶら散歩がてら外出していた悠利は、近くを通りかかったという理由でブライトの工房へと足を運んだ。特に用事がなくても、近くに来たときは挨拶をする程度には仲が良い。勿論、仕事の邪魔をするつもりは微塵もない。

 悠利だけでなく、ルークスもブライトのところへ遊びに行くのを喜んでいる。ルークスにとってブライトは、お気に入りの王冠型のタグ飾りを作ってくれた人だ。お気に入りのアクセサリーを、丁寧に修理してくれる人でもある。

 そんなわけで、悠利とルークスはいつものように呼び鈴を鳴らし、ブライトの登場を待った。


「……アレ?」


 いつもならば、すぐに返事が聞こえるのだが、今日は聞こえない。留守だろうかと思ったが、それならば外出中を示す札が下がっているはずだ。ここは彼の職場なので、お客様が来たときのためにそういう風にしている。

 なのに、留守を知らせる表記はないのに返事がない。仕事が立て込んでいるのか、集中しているのか、それともトイレにでも入っているのか。どれだろうと思いながら、悠利はとりあえず待った。

 ルークスも大人しく待った。目が期待にキラキラしている。大好きなお兄さんに会えるのを楽しみにしている目だ。ルークスは割と感情が解りやすい。

 しばらくして、ばたばたと足音が聞こえた。どうやらちゃんといたらしい。そんなことを思っていると、扉が開いてブライトが顔を出した。


「……ユーリ?何か用でもあったか?」

「近くまで来たので挨拶に来ただけですけど……」

「そうか」

「……ブライトさん、何か、やつれてませんか……?」


 思わず悠利がそう問いかけてしまうほどに、今のブライトは疲れていた。普段はこんな風にならないブライトだけに、何があったのかと心配になる。


「いや、ちょっと仕事が立て込んでてな」

「お邪魔なら帰りますけど……。……掃除とかしましょうか?」

「バイト代払う……」

「じゃあ、ルーちゃんと二人でお掃除します」

「助かる……」


 悠利の申し出を、ブライトは疲れた顔で受けた。悠利が掃除を提案したのには、理由がある。ブライトの背後に見える工房の中が、珍しく散らかっているからだ。雑然としているとかそういう感じではない。人間的な生活の最低限しか送ってなかったなと思える感じだ。

 掃除と聞いて、ルークスも張り切った。大好きなブライトのお役に立てるというのも大きいだろう。キュピキュピ鳴きながら、二人の足元をすり抜けるようにして中へ入る。


「わー、ルーちゃんやる気満々ー」

「今回はマジで助かる……。仕事が本当にヤバくて……」

「ブライトさんにしては珍しいですねぇ」


 入ってくれと促されて、悠利は勝手知ったる工房の中へと足を踏み入れる。どこに何が置いてあるかも把握しているので、慣れた手つきで片付け尾を始める。ちなみにルークスは、もはや勝手知ったる我が城ぐらいのレベルで、さっさと掃除に取りかかっていた。馴染みすぎである。

 ブライトの作業場には、何かの素材が大量に置かれていた。完成品も置いてあるが、何というか、慌ただしい雰囲気を感じる。雑然としているからかもしれない。

 悠利が珍しいと告げたのには、理由がある。ブライトは己の力量をきちんと把握しているので、スケジュールは常に余裕を持っているのだ。納期ギリギリに徹夜で仕事を回す、みたいなことは絶対にしない。帳尻を合わせれば良いだろうみたいな生き方はしていないのだ。

 それを知っているからこそ、今の状況が異質であると悠利は感じたのだ。そんな悠利の意見に、ブライトは乾いた笑いを零した。


「勿論、俺だって普段はこんなことにならないようにしてる。この仕事も、本当はもっと余裕があったんだ」

「と、いうことは途中で予定が変更になったってことですか?」

「そうなんだ。納期が早まって、今、マジで死にそう」

「……わぁ」


 散らかった机の上を片付けながら、悠利は遠い目をした。ブライトが悪いわけじゃないところがミソだ。彼の口調からして、依頼主の方も予定の変更などでこうなっているのだろうと思えた。

 誰も悪くないけど納期が短くなっちゃうアレっぽい。皆が大変なやつである。


「こういうときって、誰かに助っ人をお願いしたりしないんですか?」

「手伝ってもらえそうな知り合いは、全員仕事を抱えてて無理だった」

「あらら……」

「手隙なのがサルヴィだけだった段階で終わってる」

「……えーっと、サルヴィさんはお手伝いしてもらえない、と?」


 サルヴィというのは、ブライトの幼馴染みの職人で、今は食品サンプルの制作に勤しんでいる青年だ。食べて美味しかったものを模型で作るという謎の趣味の持ち主で、今はそれを仕事にしている。

 ちょっと芸術家気質みたいなところがあって、コツコツきっちりお仕事をするというのとは無縁っぽい青年だった。


「あいつは気が向かないと何もしない。そして俺の仕事は、あいつにとって気が向くものじゃない」

「言い切っちゃった……」

「とりあえず納期に間に合わせるために仕事してたら、他のことが疎かになってな……」

「掃除と片付けは任せてください」

「助かる……」


 悠利の言葉に、ブライトは感謝の言葉を告げた。物凄く心がこもっていた。よっぽど切羽詰まっているらしい。

 片付けをしながら、悠利は作業をするブライトの手元を時々の見る。どうやら、小さなネームタグのようなものを作っているようだ。金属を小さな板の形状にし、そこに模様を刻み込み、最後にブレスレットに取り付けている。見た目はシンプルだが、何気に工程が多い。

 金属をカットし、薄く伸ばし、更に削って角を整える。細かな模様を刻み、さらには色を付ける。そして、あらかじめ用意してあるブレスレット用の鎖に取り付ける。作業一つ一つは簡単そうだが、一人で全部やるのを考えると大変そうだ。

 しかも、数がえぐい。材料である金属の塊ではどれぐらいの量か解らないが、どどーんと用意されているブレスレット部分を見れば、まだまだ全然終わらないことは明白だ。納期が短くなったせいで、彼はこの山と戦うのだろう。

 そこまで考えて、悠利はふと思いついたことを口にした。


「ブライトさん、これ、手伝ってくれる人がいたら、バイト代って出ます?」

「いるなら出す。納期が早まった分、報酬が増えてるから」

「うちのロイリスとミリー、分担すればお手伝い出来るかもしれないなって思ったんですけど」

「……あの二人か。確かに」

「じゃあ、ちょっと呼んできてもらいますね」

「頼む」


 悠利の提案を、ブライトは素直に受け入れた。細工師のロイリスと鍛冶士のミルレイン。模様を刻む作業はロイリスが出来そうだし、金属を加工するのはミルレインが出来そうだと思ったのだ。そして、ブライトもそこに同意した。

 よって、悠利は嬉々として掃除をしているルークスを呼び、言伝を頼む。勿論、ルークスは喋れないのでメモに伝言を書き、渡して貰うのだ。


「ルーちゃん、ロイリスとミリー、今日はアジトにいるから、二人にこのメモを渡して呼んできてもらえる?」

「キュイ!」

「よろしくね」

「キュピー!」


 任せてー!と言いたげにぽよんと跳ねて、ルークスは悠利から渡されたメモを大事そうに身体の内側に取り込んで外へと出て行った。吸収されないのかと思うが、ルークスは自分の意志でその辺を調整できるので問題ない。

 ちなみに、自分が呼びに行くのではなくルークスに頼んだのには、理由が二つある。一つ、ルークスの方が早いから。二つ、ちらりと見えたキッチンスペースが大変なことになっていたから。ルークスが出掛けている間に、あそこの片付けをしようと思う悠利だった。

 その間も、ブライトは黙々と作業を続けていた。時々あーとかうーとか唸っているが、悠利は聞かなかったフリをした。気付かないフリをしてあげるのが大人な対応だと思ったのだ。

 そうこうしている内に、ルークスに先導されたロイリスとミルレインがやってきた。二人とも礼儀正しく挨拶をして中に入ってきたのだが、やつれたブライトを見た瞬間にその顔が歪んだ。息を飲んだともいう。


「ブライトさん、その顔……」

「随分と、お疲れのようですね……」

「バイト代はちゃんと出すから手伝ってください……」

「「解りました」」


 ブライトの様子からかなりマズいなと思ったらしいミルレインとロイリスは、二つ返事で了承した。そうなると、全員が職人だというのもあって、話は早かった。

 ミルレインは渡された金属と見本を見比べ、作業スペースと道具を確保してさっさと作業に入る。ロイリスは作業スペースを確保するために周辺の片付けを初め、ミルレインが作った金属板を受け取ってから作業を開始する。

 どちらもまだ見習いではあるが、その手付きに迷いはなかった。見本があり、作業が彼らにとっては難しくないものであったため、動きがスムーズだ。普段から色々と話をしたり、時々二人で共同で何かを作っていたりするので、息も合っていた。


「……あの二人って、共同制作に慣れてんのか?」

「あー、たまに良い素材を見つけると共同で購入して、一緒に何か作ったりしてますね。練習らしいです」

「なるほど。おかげで今、俺はとても助かっている」

「あははは……。とりあえず、ブライトさんはちょっと休憩しましょうか。お茶入れましたから」

「え?」


 二人が手伝ってくれるなら自分は仕上げ作業に入ろうとしていたブライトを、悠利は引き留めた。何で?と言いたげな顔をするお兄さんに、一言。


「適切な休憩を挟まないと、作業効率は落ちますよ。とりあえず、お茶と甘い物をどうぞ。エネルギー補給です」

「……どこから出した?」

「僕の鞄、魔法鞄マジックバッグなので」

「なるほど」


 お茶もお菓子も悠利の魔法鞄マジックバッグから取り出したものである。用意されたそれらで一息をつくブライト。悠利は掃除と片付けを続行することにした。

 納期が迫っているので急がなければならないことは解っている。解っているが、それはそれとして適切な休息は必要だ。無理をするとどうしようもないミスを犯してしまうこともあるので。ブライトもそれを解っているから、悠利の言葉に従ってお茶にしているのだった。


「二人が手伝ってくれるなら、何とかなりそうですか?」

「多分な。それでも、数日は手伝って貰わないとダメだろうが」

「それじゃあ、その間はお弁当作りますね」

「え?」


 にこにこ笑顔の悠利の言葉に、ブライトはぽかんとした。何を言われたのか解っていないらしい。けれど悠利は気にせず、何が良いかなーなどと献立を考えている。

 忙しいのは解っているので、食事の準備も大変だろうと思ったのだ。どこかに食べにいくにしても、買ってくるにしても、時間がかかる。それならば、朝二人が出発するときにお弁当を持たせれば良いと思ったのだ。


「ユーリ、弁当ってどういうことだ?」

「この状態じゃあ、お昼ご飯を用意するのも大変ですよね?なので、二人のついでにブライトさんの分もお弁当作ります」

「いや、しかし」

「お弁当代は、お仕事が無事に終わってから計算してくださいね」

「話を聞け」


 何日かかるか解らないので、弁当代に関しては全部終わってからの支払いで良いと宣う悠利であるが、ブライトの言いたいのはそこではない。そこではないのだ。しかし全然通じていなかった。悠利なので。

 結局、ロイリスとミルレインが悠利の弁当を希望したので、ブライトの分も用意されることになった。最後までブライトのツッコミは届かなかった。いつものことかもしれない。




 そんなわけで、悠利は今日、三人分の弁当を用意した。口に合うかは解らないが、食べやすさを考えて準備したので、気に入ってもらえれば良いなぁと思っている。

 ついでに、今日のお昼はアリーと二人ぼっちなので、お弁当と同じものを用意した。既に用意が終わっているので、今日のお昼ご飯の準備はとても楽ちんだ。おかげで午前中の家事もはかどるというものであった。

 ……まぁ、悠利にとって家事は楽しいことなので、何の負担もないのだが。趣味が仕事になっているような状態なので。


「今日はまた、随分と変わった飯だな」

「お弁当と同じものになります」

「あぁ、なるほど」


 定刻通りに食堂にやってきたアリーは、テーブルの上に用意された昼食を見て首を傾げた。けれど、悠利の説明を受けてすぐに納得した。昼食としては見慣れないが、弁当だと言われれば納得できたのだ。

 悠利が用意したのは、二種類の惣菜コロネパンと、すりおろした根菜がたっぷり入ったスープ。そして、デザートに食べやすく切ったカットフルーツ盛り合わせだ。

 コロネは、パン屋のおじさんに頼んで中身の入っていないものを売ってもらった。店頭には、具材を詰めた惣菜パンや、クリームを詰めたお菓子パンとして並んでいる。しかし、悠利は自分で好きに具材を詰めたいので、こうやって何も入っていないコロネを所望するのだ。

 今日は、輪切りにしたキュウリとツナをマヨネーズで和えたツナマヨキュウリを入れたものと、塩押しした千切りキャベツに炒めたベーコンを油ごと絡めたものの二種類を詰めこんである。ツナマヨは皆に大人気の味付けだし、分厚いベーコンは食べ応えが抜群だ。そのまま囓って十分美味しい。

 ちなみに、サンドイッチにしないでコロネを選んだのは、その方が片手で手軽に食べられると思ったからだ。作業中に摘まみやすいかな、という考えである。何故ならば、コロネはポケットのようになっているので、中身がこぼれないからだ。

 分厚く切った食パンに切り込みを入れてポケットサンドにするのも考えたが、そうすると今度は厚みがあって食べにくくなる。ブライトはともかく、少女のミルレインと外見が幼児に近いロイリスは口が小さい。その彼らでも食べやすいようにと考えた結果の、惣菜コロネパンだった。


「こっちがキュウリとツナマヨで、こっちがベーコンとキャベツです。お代わりの分はあります」

「そんなに作ったのか?」

「どうせならいっぱい作っておこうかな、と。残ったら皆に食べてもらうか、鞄の中に入れておけば良いので」

「……お前の鞄は、性能がおかしいからな」

「えへへ」


 疲れたようなアリーの言葉に、悠利は照れたように笑った。別に褒められていないのだが、それはちょっと通じていない悠利だった。そんなもんである。

 こちらの世界に転移してきたときに魔法道具マジックアイテムになってしまった悠利の所持品達は、基本的に全部壊れ性能だ。魔法鞄マジックバッグとなった学生鞄もその例に漏れない。

 ソート機能が付いていたり、悠利以外の誰かは入れることは出来ても取り出すことが出来ないとかも大概なのだが、上には上がある。容量無制限かつ時間停止機能というのは、多分普通に考えて色々とおかしい。入れた物がそのときの状態を維持される上に、いくらでも入る。軍にでも知られたら、荷物持ちとしてかっ攫われそうな性能であった。

 なので、その辺の詳細を知っているのは仲間達ぐらいだ。また、アリー以外の仲間達は「悠利以外に取り出すことが出来ない」と「時間停止機能がある」しか知らない。時間停止機能に関しては、ごくまれに存在するのでまだ良い。ただし、容量無制限というアレな性能に関しては秘密だった。


「このカタチにしたのは、食べやすさ重視か?」

「はい。作業の傍らでも食べられるかなって」

「なるほどな」


 がぶりとコロネにかぶりつきながら、アリーは納得したように頷いている。悠利も大きく口を開けてぱくんとコロネを食べる。やはり、パンと具材を一緒に食べるのが醍醐味だ。具材の水分がパンの内部に染みこんで、食べやすくなっている。

 キュウリとツナマヨはしっかりと味がついていて、ふんわりとしたパンと共に口の中で調和する。水分で少しふやけた内側の部分がまた、美味しい。外側のしっかりとした食感と合わさって、何とも言えないハーモニーだ。

 ツナマヨだけでも十分美味しいのだが、そこにキュウリが入ることで食感の違いが楽しめる。輪切りなので簡単にかみ切れるのも実に良い。上から順番に食べても、奥までしっかり具材が入っているので最後まで味がする。なかなかに良い塩梅だった。

 ベーコンとキャベツの方は、噛めば噛むほどにベーコンの肉汁が溢れて口の中を楽しませてくれる。それだけだとくどくなりそうだが、塩押ししたキャベツが味を和らげてくれる。あえて生の千切りキャベツではなく塩押しした千切りキャベツにしたのは、食べやすさを考えたからだ。生野菜というのはしっかり噛まないと消化に悪いので。

 パンとベーコンとキャベツ。普通のサンドイッチでも間違いなく美味しい組み合わせは、パンがコロネになったところでそのポテンシャルを失ったりはしなかった。ベーコンを少し分厚く切っているので、食感のアクセントと肉を食べているという感じがする。味付けはシンプルだが、それでも少しも物足りなくはなかった。


「俺はこのベーコン入りの方が好きだな」

「何となくそんな気がしてました」

「お前は?」

「僕はツナマヨの方が好きですねー」


 アリーの言葉に、悠利はのんびりと応えた。肉類も好きだが、そこまでがっつり食べたいと思わないタイプの悠利なので、ツナマヨの方がお気に入りだった。とはいえ、別にベーコンの方に不満があるわけでもない。どっちも美味しいけど、好みはツナマヨという感じだ。

 それはアリーも同じで、ベーコンの方に軍配が上がってはいるが、ツナマヨのコロネも食べている。既にそれぞれ二つ目に突入している辺り、何だかんだで大食漢である。悠利はまだやっと一つ目を食べ終わったところだというのに。

 まぁ、別に競争でもないので、悠利はスープに手を伸ばす。すりおろした根菜をたっぷり入れたスープは、見た目だけなら具のないスープだ。しかし、実際は根菜だらけ。そのままぐいっと飲み干せて、消化も良い素敵なスープだ。

 人参やジャガイモ、ダイコンの旨味がぎゅぎゅっと濃縮されて口の中に広がる。風味付けにと入れた生姜の絞り汁も良い仕事をしていた。味にインパクトが足りないと言われそうだが、これはこれで美味しいのだ。

 ちなみに、お弁当組には水筒に入れて渡してある。コップに入れれば片手で飲める。極力、箸やスプーンなどを使わなくて食べられるようにと考えた悠利だ。ついでに、早食いで腹に押し込んだときに、胃袋の負担が少ないように。コロネは大量に持たせたので、それで微調整してもらうつもりである。


「ところでユーリ」

「はい」

「これ多分、残ってたら皆が食うぞ」

「え?」

「ロイリスとミルレインが戻ってきて話をしたら、多分、食べたいと騒ぐぞ」

「あー……」


 アリーの指摘に、悠利は確かにと遠い目をした。《真紅の山猫スカーレット・リンクス》の面々は悠利の作るご飯が大好きだ。自分達が食べられなかったご飯があると、かなり本気で悔しがる。

 なので、お弁当を作ってもらった二人の話を聞いて、しかも食べたことのないメニューなので、確実に食べたいと言うだろう。大量に作った惣菜コロネパンは、仲間達の胃袋に消えていく未来が確定した。ストックは作れなかった。


「まぁ、美味しく食べて貰えるなら、それで良いです」


 ストックを作るのが目的ではなかったので、悠利はにこにこ笑ってそう言った。アリーは静かにそうかと言うだけだった。まぁ、いつものことなので、彼らとしても他に言葉がなかったのだ。

 お弁当、三人共喜んでくれてるかなーと考えながら、もぐもぐとツナマヨコロネパンを頬張る悠利だった。




 数日後、無事に納期に間に合ったブライトに弁当のことも含めて感謝される悠利でした。ちなみに物作りコンビは、良い修行になった上にバイト代が貰えてご機嫌なのでした。



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