青ジソたっぷりたらこパスタ。


「今日のお昼は僕とリヒトさんとお留守番のジェイクさんだから、そんなにたくさん作らなくても良いかなー?」


 ある日の昼下がり、悠利ゆうりはそんな独り言を口にした。

 《真紅の山猫スカーレット・リンクス》のお昼は、日によって人数が物凄く変化する。悠利ひとりぼっちのときもあれば、ほぼフルメンバーの日もある。夕飯は何だかんだで皆が揃うことが多いのだが、お昼はやはり任務や修行の関係で人数の変動が著しいのだ。

 そんなわけで、少人数のときのお昼ご飯は悠利にとっても色々とお試しメニューだったりする。メンバーを考えて作るのは事実だが、人数が少なければ好みに合わせやすいので。

 ちなみに、リヒトもジェイクも食事に文句を付けることはない。また、特別食べられないものも存在しない。作る側としては非常にありがたく、同時に、これといった好物がないという意味では厄介な二人だった。


「小食のジェイクさんと、いっぱい食べるリヒトさんで調節できるメニューって何かなぁ……?」


 うむむと一人で唸る悠利。とても真剣に悩んでいた。

 暑い季節、ただでさえ小食のジェイクの食欲は落ちている。そのジェイクでも食べられる料理とは何か、と考えているのだ。また、そうでありながら大食漢のリヒトの胃袋を満足させることも必要だ。難問だった。

 リビングで服の修繕をしながら、悠利は一人メニューを考える。

 とりあえず、朝食のサラダが残っているのでそれを使い回すのは決定だ。主食を米にするか、パンにするか、麺類にするか。主菜を肉にするか、魚にするか。何でも良いが一番困るんだよなぁと思う悠利だった。

 いっそ、解りやすく好物とかがあれば、話は早い。人数が少ないときこそ、好物を作っても大丈夫なときなのだから。しかし、リヒトもジェイクも、解りやすい好物が存在しない二人なのだ。


「何を唸ってるんだ?」

「へ?あ、リヒトさん。お帰りなさい」

「あぁ、ただいま。服の修繕中か。ユーリは忙しいな」


 買い物から戻ったリヒトが、苦笑しながら告げた言葉に、悠利は首を傾げる。忙しいって何のことだろうと思うのだ。彼にとっては日常なので。

 だから、悠利は手にした服と、隣に積み上げた服を見比べてから、けろりと答えた。


「裾の解れを直したり、ボタンを付けたりするだけなので、そこまで手間じゃないんですよ?」

「それを皆の代わりにやってる段階で、忙しいだろ」

「そうですか?」

「そうだよ」


 首を傾げる悠利に、リヒトはぽんぽんとその頭を撫でて諭す。相変わらずだなぁと言いたげなリヒトに、悠利はやっぱり不思議そうな顔をしていた。

 彼にとって、家事はイコールで趣味なのだ。だから、こうして服の修繕をしているのだって、好きなことをしているにすぎない。綺麗になった服を見てご機嫌になるぐらいだ。

 とはいえ、確かに悠利が他者の負担を肩代わりしているのは事実だ。当人だけがそれを負担だと思っていないだけで。

 言っても無駄だと解っているのか、リヒトはそれ以上その話題に触れなかった。悠利はふと思いついて、リヒトに向けて口を開いた。


「リヒトさん、お昼に食べたいものってあります?」

「は?」

「今日のお昼、僕とリヒトさんとジェイクさんの三人なんですよ。だから、何か希望があるならと思って」


 突然の質問に驚いているリヒトに、悠利は重ねて説明をする。ついでに、素直に「メニューがなかなか考えつかなくて」と事情も伝えた。その説明で納得したのか、リヒトはしばらく考え込む。

 基本的に、リヒトに食の好き嫌いは存在しない。少なくとも、人間の食べ物であれば文句は言わない。勿論、美味しい不味いという感想は持っているが、出された食事に文句を付けるような人物ではないのだ。

 考えた末に、リヒトは悠利に一つリクエストを口にした。


「たらこパスタが食べたいな」

「たらこパスタですか?」

「あぁ。この前、ロカで美味しそうなたらこを買ってきたと言っていただろう?」

「はい、言いました。ちゃんとありますよ」


 それは事実だったので、悠利は頷いた。とても美味しそうなたらこを見つけたので、買ってきたのだ。そういえばまだ使ってなかったなと思う悠利。なかなか使う機会がなかったので。

 とはいえ、だからといって何でたらこパスタなんだろうと悠利は首を傾げた。確かにリヒトは以前たらこパスタを食べて気に入っていたが、あまりがっつりしたメニューではない。大食漢のお兄さんの希望としては珍しい気がするのだ。

 そんな悠利の反応に、リヒトは笑顔で答えた。実に彼らしい理由を。


「たらこパスタなら、ジェイクも食べやすいだろう?俺は足りなかったらパンを食べるし、二人はパスタの量を減らせば問題ないと思ったんだが」

「……リヒトさん、息をするように気遣いしますよね」

「そうか?普通だと思うが」

「なかなか出来るものじゃないですよ、そういうの」


 凄いです、と悠利は素直にリヒトを賞賛した。そんな反応をされると思っていなかったのか、リヒトが困ったように笑っている。

 ちなみに、悠利の感動には物凄く実感がこもっていた。

 食べたい料理のリクエストが出来るとなったときに、こんな風に一緒に食べる誰かのために配慮が出来る人は少数派だ。少なくとも、悠利のご飯に餌付けされている《真紅の山猫スカーレット・リンクス》の面々では。


「解りました。それじゃ、今日のお昼はたらこパスタにしますね」

「あぁ、楽しみにしてる」

「はーい」


 また後でなと告げて去っていくリヒトを見送って、悠利は服の修繕に戻る。メニューが決まってしまえば、後は作るだけなので気が楽になるのだった。

 そんなわけで、服の修繕を終えた悠利は昼食用のたらこパスタを作るために台所にやってきた。港町ロカで買い求めたたらこを、学生鞄の中から取り出す。

 立派なたらこだった。ぷりぷりとしており、そもそも一つの大きさが普段見かけるたらこより一回りは大きい。色は淡いピンクで、優しい色合いだが、味が濃厚なのは確認済みだ。味見をしてから買ったので、間違いはないだろう。


「さーて、まずはたらこをバラさなくっちゃー」


 大きなたらこを縦に半分、ずばっと切る。そして、切ったたらこをボウルへ移動させ、菜箸で挟んで皮と身を分離させる。すすーっと上から下へ移動させると、実に簡単に身が外れる。最後に残ったペラッペラの皮は、そのまま口へぽいっと放り込んだ。


「んー、良い味ー」


 捨てるには味が染みこんでいて勿体ないので、悠利の胃袋にご案内されるのだ。ところどころ身が残っているが、ぷちぷちとした食感が楽しく、美味しさを増すだけだった。元が良いので、カケラを食べるだけでもその味がよく解る。

 3人分とはいえ、リヒトはよく食べる。なので、悠利はせっせとたらこを分解するのだった。たらこパスタはたらこがたっぷり入っている方が美味しいので。

 たらこを解し終わったら、常温に戻したバターを入れて混ぜる。バターを入れるとコクが出るし、たらこがペースト状っぽくなるのでパスタと絡みやすいのだ。

 ここまでは、以前作ったものと同じだ。今日はここに、もう一工夫を加える。


「青ジソー!」


 冷蔵庫から取り出した大量の青ジソを、悠利は戦利品よろしく掲げた。ちなみに、葉っぱではない。茎ごとだ。わさっと葉っぱがいっぱいくっついた、畑に成っている状態に近い。

 この状態だと、茎の部分に水を含ませておけば冷蔵庫でもそれなりに日持ちがする。お店で買う場合は葉っぱだけになっていることが多いのだが、収穫時はこんな感じだ。なお、何で悠利がそんな状態の青ジソを持っているのかというと、毎度お馴染み食材が豊富な採取系ダンジョン収穫の箱庭で手に入れたものである。

 仲良しのお友達であるダンジョンマスターに「茎ゴト持ッテ帰ッテモ大丈夫ダヨ」と言われたので、遠慮なくハサミでじょっきんしてきたのだ。大量の青ジソにほくほくの悠利に、周りは何でそんなに喜ぶのかと不思議そうだったが。

 青ジソは、さっぱりとした風味を加えてくれる夏の薬味だ。梅との相性もよく、梅味の何かを作るときには混ぜると良い感じになる。それ以外にも、ミョウガと一緒にサラダに使うと爽やかだ。

 そんな青ジソを、悠利はたらこパスタに大量に投入することに決めたのだ。青ジソとたらこの相性は悪くない。悠利は手巻き寿司で、青ジソとたらこの二つを一緒に使うのが大好きだ。

 後、お店のたらこパスタにも、青ジソが散らされていることは多々ある。刻み海苔の店もあるが、青ジソのお店もある。つまり、青ジソとたらこのコンビは間違っていないのだ。


「とりあえず、まずはみじん切りかな」


 プチプチと青ジソの葉っぱを千切って使う分を確保しながら、悠利は小さく呟いた。呟いて、そして、じっとまな板を見る。これから、過酷な運命を背負うだろうまな板を、哀れむように。

 ……青ジソをみじん切りにすると、まな板が大変なことになる。具体的にいうと、まな板が青ジソの色に染まる。それはもう、見事に染まるのだ。

 千切りぐらいならば良い。多少跡が付くぐらいだろう。しかし、悠利が今から挑戦するのはみじん切りなのだ。みじん切り。細かくひたすら切り刻む作業。必然的にまな板は青ジソの色素に敗北する。

 そもそも青ジソは、手で千切るだけでも指先に色が移るのだ。少量ならともかく、大量の新鮮な青ジソを指で千切ったら、指の腹が黒ずむことがある。それが、青ジソの色素だ。青ジソパワー、恐るべし。

 後、色だけでなく、匂いもそれなりに残る。薬味、和製ハーブという分類は伊達ではなかった。


「ごめんね、まな板……!後でちゃんと、綺麗に洗うから……!」


 くっ、と悠利はまな板から視線を逸らした。……お前一人で何をやっているんだと言われそうだが、一人だからこんなコントめいたことをしているのだ。話し相手がいるなら雑談が出来るので。

 そんな小芝居を挟みつつ、悠利はまな板の上で青ジソのみじん切りを作り出す。料理技能スキルが高レベルなのは伊達でない。あっという間にみじん切りは完成した。

 最終的に細かくなれば良いので、切り方の順番などは割と適当だった。最後にみじん切りになっていれば良いのだ。多分。

 みじん切りにした青ジソを、バターと混ぜたたらこペーストの中へと放り込み、混ぜる。全体に交ざるようにすると、たらこのピンクと青ジソの緑が良い感じの色合いになった。やはり、青物の色が入るとパッと鮮やかになる。

 これで下準備は完成だ。後は、パスタを茹でて混ぜるだけでたらこパスタは完成する。

 時計を見れば、良い感じの時間だった。どうせなら出来たてほかほかの美味しい状態を食べて貰いたいので、パスタを茹でる時間は重要だ。

 鍋にたっぷりのお湯を沸かし、塩を入れ、パスタを投入する。くっつかないようにトングでくるくると混ぜる。後は茹で時間に従って引き上げれば完成だ。


「……誰もいないし、頑張らないと」


 茹で上がったパスタの鍋を見つめ、悠利は小さく呟いた。決意を固めるように鍋を流し台へと運び、置いてあるザルの上へと中身を流し入れる。

 瞬間、ぶわりと立ち上った湯気に悠利は顔をしかめた。熱いわけではない。いや、触れたら熱いのだけれど。問題はそんなことよりも、真っ白に染まった視界である。


「……うぅ、曇り止め欲しい……」


 しょんぼりとしながら、悠利は中身のなくなった鍋を置き、眼鏡を外す。もうもうと立ちこめる湯気の中、パスタは無事に全てザルの中に入っていた。一安心だ。

 眼鏡っ子の悠利にとって、湯気は天敵だった。眼鏡が曇ると何も見えないからだ。なので、普段は他の誰かがこの作業をしている。

 曇りが取れたのを確認すると、悠利は眼鏡を装着する。眼鏡がないと日常生活で困るぐらいには視力が悪い悠利なので、眼鏡が復活してくれないと困るのだ。これでやっと次の作業に入れる。

 まず、何も入っていない大きなボウルにパスタを全て入れる。次に、そこにオリーブオイルを加える。そして、トングで満遍なく混ざるようにする。この作業をすることで、パスタが冷めてもくっつきにくくなるのだ。

 今回は3人分にしては多い量を茹でたので、冷めた場合を考慮してこうやってオリーブオイルを混ぜている。たらこの方にバターが入っているので、その油分でも多少はコーティングされるのだが、念のためだ。

 オリーブオイルでのコーティングが終わったら、熱々のパスタをたらこの入ったボウルへと移動させる。温かいパスタが入ることでバターが良い感じに溶け、たらこペーストが麺に絡むのだ。

 たらこと青ジソに多少火が通ってしまうが、そこはご愛敬だ。それに、たらこは半生の状態をキープできているので問題ない。悠利が食べたいのは生たらこパスタだし、リヒトに以前提供したのもこの作り方なので、今回もたらこに火は完全に入れない方針だ。

 全体をしっかりと混ぜ合わせれば、パスタは完成だ。人数分の器に盛りつけて、最後に彩りに千切りにした青ジソをぱらぱらと。ピンクが印象的なたらこパスタに、鮮やかな緑が加わった。

 ……なお、ペーストに混ぜたみじん切りの青ジソは、火が入ってしまって色が濃くなっている部分もある。しかし、ペーストに混ぜることにより全体に青ジソの風味が行き渡るので、味は良いはずだ。多分。

 試しに一口味見をしてみる悠利。ちゅるんと口の中にパスタが入る。味付けはたらことバターのみだが、そのシンプルな味付けでも何も問題はなかった。あと、やはり青ジソの風味が生きている。爽やかだ。


「よし、これでオッケー」


 喜んでくれるかなぁとうきうきする悠利。パスタが冷めてしまっては美味しくないので、洗い物は後にすることにした。どうせ人数が少ないので、洗い物も少ないのだ。食後に回しても問題はないだろう。

 勿論、そのまま放置しておいては汚れがこびりついて取れなくなるので、しっかりと水を張っておく。食後の自分に頑張れとエールを送りつつ、悠利はいそいそと配膳を進めた。

 本日のメニューはたらこパスタとサラダ。シンプルすぎるかもしれないが、一応リヒトのリクエストには応えている。それに、小食のジェイクはあまりおかずを増やしても食べきれない可能性があるので、品数を増やすのは止めたのだ。

 悠利が配膳を終えた頃、まるでタイミングを見計らっていたのかと思うほどぴったりの時間に、リヒトとジェイクが食堂にやって来た。正確には、リヒトがジェイクを連れてきたようだ。


「二人とも、時間ぴったりですね」

「ジェイクが本の虫になってたから、連れてきたぞ」

「流石リヒトさんです。ありがとうございます」

「いやー、リヒトは優しいですよねぇ」


 のほほんとした口調のジェイクを、悠利はじっと見た。不思議そうに首を傾げるジェイク。そんな彼に、悠利は大真面目な顔で告げた。


「良いですか、ジェイクさん。リヒトさんが特別温厚で優しいだけなんですから、あんまり迷惑かけちゃダメですよ」

「何で僕はそこまで真剣に怒られないといけないのか」

「あー……、まぁ、他の奴らに迷惑かけるよりは、マシだと思ってるからな、ユーリ」

「えー……。リヒトさん、あんまり甘やかしちゃダメですよ。ジェイクさんだって、日常生活はちゃんと送れるようにならないと」

「まるで僕が日常生活をちゃんと送れていないみたいな言い草!」


 諭すような悠利の言葉にジェイクは異論を唱えた。彼には彼の言い分があるのだろう。しかし、それに対する悠利とリヒトの反論は息ぴったりだった。


「「送れてないから」」

「えぇえええ……」


 ちゃんと生きてるのに、とぼやくジェイク。生きているだけではきちんと日常生活を送っているとは言えないので、どう考えてもギルティである。リヒトも悠利も、そこを譲歩するつもりはなかった。

 そもそも、気を抜いたらアジト内で行き倒れている男が、きちんと生活できていると言わないでほしい。どう考えても間違っている。

 それ以上問答をしても無駄だと思ったのか、悠利は二人を席へと促す。ピンクが鮮やかなたらこパスタは、どれが誰の分か一目瞭然な感じで盛りつけられていた。具体的には、リヒトのは大盛り。悠利のは普通。ジェイクのは気持ち少なめだ。胃袋の大きさに合わせてある。


「いただきます」

「「いただきます」」


 悠利が手を合わせて告げると、リヒトとジェイクがそれに続く。いつもの食前の挨拶を終えたら、食事開始だ。

 パスタを食べやすい量フォークで取り、口の中へ。麺に絡んだたらこと千切りの青ジソも一緒に頬張れば、口の中で風味豊かな旨味が弾ける。たらこの塩気、バターのコク、青ジソのさっぱりとした風味が合わさって、食欲をそそる。

 また、半生状態のたらこのぷちぷちとした食感も楽しい。ところどころ刻んだ青ジソがアクセントを添えている。シンプルであっさりとした味付けだが、だからこそ箸が進む味だった。


「前回のも美味しかったが、今回のはまた格別だな、ユーリ」

「そう言ってもらえると嬉しいです」

「たらこが美味しいのもあるけど、この青ジソが良いな。夏っぽい」

「ですよねー。青ジソが入るだけで風味が変わるので」


 リヒトの感想に、悠利はにこにこと笑った。青ジソは薬味なので、好き嫌いは分かれるだろう。しかし、リヒトもジェイクも青ジソを嫌っていないので、大量に入っていても嫌がられないのだ。むしろ、その風味を楽しんでくれている。

 港町ロカで買い求めた見事なたらこも、収穫の箱庭でダンジョンマスターから貰ってきた美味しさが凝縮された青ジソも、とても良い仕事をしている。バター以外の味付けを加えていないのに、濃厚な旨味が口いっぱいに広がるのだから、素晴らしい。

 魚卵を忌避する人もいるので万人受けするとは言えないが、悠利にとっては美味しいご飯だ。そして、密かにたらこを気に入っていたらしいリヒトにとっても。

 ジェイクはどうだろうかと視線を向ければ、小食であるはずの学者先生は、美味しそうにたらこパスタを食べていた。どうやらお気に召したらしい。


「ジェイクさん、たらこ好きでしたっけ?」

「酒のつまみに炙ったのを食べることはありましたよ」

「普段はあんまり食べてませんでしたよね?」

「食べてませんねぇ。いやほら、ライスが進むと言われると、他のものが食べられなくなるので」

「……なるほど」


 生たらこは白ご飯が美味しく食べられるというのは、共通認識だ。悠利はおにぎりの具材にすることもある。なお、焼きたらこや生たらこを真ん中に入れるバージョンと、生たらこを混ぜご飯にするバージョンとある。

 しかし、そんな風にご飯が進むおかずとなると、小食のジェイクにはある意味鬼門だったらしい。主に、調子に乗って白米を食べ過ぎて、おかずが入らなくなるという意味で。どうやら自分で自制していたらしい。

 なので、今日はどーんとたらこパスタが用意されていたので、うきうきしながら食べているらしい。それならそうと言ってくれたら、もっと早くに作ったのにと思う悠利だった。


「ジェイクさん」

「何ですか?」

「食べたいもののリクエストがあったら、遠慮しないで言ってくださいね」

「え?」

「よく食べる人たちは、割と何でも食べるんで。小食の人のリクエスト、受けつけてますよ?」


 茶目っ気たっぷりに告げた悠利に、ジェイクは一瞬ぽかんとした。けれど、すぐに破顔する。君は本当に優しいですねぇと笑うジェイクに、悠利はにこにこ笑うだけだった。誰かが自分の作ったご飯を喜んで食べてくれることが、悠利にとっては嬉しいことなのだから。

 そんな二人ののんびりとしたやりとりを余所に、ぺろりと大盛りを平らげたらしいリヒトが、お代わりをよそいに行っていた。あらかじめお代わりはご自由にと悠利に言われているので、遠慮なくお代わりをしていた。よく食べるお兄さんである。

 この調子なら、多めに作ったたらこパスタは完食してもらえるかなと思う悠利。残ったら残ったで誰かが食べるだろうが、やはり温かい間に完食してもらえるのはありがたい。作って良かったなぁと思う悠利だった。

 もぐもぐとたらこパスタを食べながら、他にもたらこパスタを喜ぶ人がいるのかを考える悠利。そもそもたらこをあまり提供していないので、誰が喜ぶのかが解らなかった。……なお、割と何を出してもご機嫌で食べるレレイは別だ。

 魚卵なので、海鮮大好きな人魚のイレイシアは喜ぶかもしれない。同じく、海鮮を好むヤクモも。あの二人には一度聞いてみようかなと思う悠利だった。青ジソを入れても大丈夫かもちゃんと確認して。

 そうやって、食べてくれる誰かのことを考えて料理をするのが、今日もとても楽しい悠利でした。美味しいを喜んでくれる人に囲まれるのは、幸せなことなので。




 なお、青ジソのみじん切りに敗北したまな板は、主のピンチに張り切ったルークスによってピカピカにされた。出来るスライムは今日も優秀です。




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