人が多いと迷子になる人もいるようです。

「美味しそうなものがいっぱいあって目移りしちゃうよねー」

「確かにー」

「美味、大量」

「キュキュー」


 たくさんの屋台を巡り、それぞれ昼食に食べたいものを色々と買い込んだ悠利ゆうり達は、うきうきしていた。それほど特別なものは買い込んでいないのだが、建国祭の賑やかな空気の中で食べるというのが、非日常感があって楽しいのである。ぶっちゃけ、食べたいだけならば、買った物をアジトに持ち帰れば良いのだから。それをしないのは、建国祭を満喫したいからに他ならない。

 購入した食べ物は全て悠利の学生鞄の中に入れてある。人が多いので、手に抱えていては移動に支障が出るだろうということになったのだ。……まぁ、お察しの通り、それぐらい色々と買い込んでしまったのである。悠利はあまり食べないが、ヤックもマグも育ち盛りの男の子だ。せっかくのお祭りなのだからと、両名も普段よりお財布の紐が緩かった。

 ちなみに、ルークスが興味を示した料理も購入済みなので、全員分の昼食が揃っていることになる。なお、ルークスが欲しがった分の代金は、先日、《木漏れ日亭》でお手伝いをしたときに貰ったバイト代を使っている。自分のお金で自分が欲しいと思ったものを買ってもらえるという初めての体験に、ルークスは大きな目をキラキラと輝かせて喜んでいたのだった。今日も賢いスライムは癒やし枠です。


「とりあえず、食べ物は確保したから、食べる場所探さないとなー」

「そうだねー。確か、この先に買った物を食べられる休憩場所あったよね?」

「うん。それぞれの屋台とか出店の前に置いてある机や椅子はそこで買った物しか食べられないけど、この先にあるのは誰でも自由に使える場所だから、大丈夫」

「それじゃ、今日はそこでお昼ご飯だねー」

「キュイー!」


 色々な屋台で食事を買ってきたので、どこかのお店のイートインスペースを使うわけにもいかない悠利達だ。なので、祭り客用に開放されている休憩スペースへと移動しているのだった。そこは、普段は広場として街の人々の憩いの場所となっている。ただ、建国祭の間は椅子やテーブルがたくさん並べられており、色々な人が休憩や食事、雑談に興じているのだった。

 とはいえ、そんな風に利用されている場所なので、当然ながら人が多い。悠利達が見たのは、あっちもこっちも人でいっぱいになっている光景だった。ある意味予想通りとも言えた。


「わー、やっぱり人が多い……」

「探す」

「オイラも」

「二人とも、気をつけてねー」

「諾」

「うん。あ、ルークス、ユーリのこと頼むよー!」

「キュピ!」

「……何で頼んでいくの、ヤック……」


 早く買ってきたものを食べたいのか、マグが人混みの中へと繰り出していった。それを追うようにヤックも駆けだしていくのだが、途中で振り返ってルークスに悠利のことを頼むのだった。頼まれたルークスは任せろと言わんばかりの大きく頷き、悠利は困ったように脱力するのだった。

 まぁ、一応ヤックは悠利を案じてそんな風に言ったのである。戦闘能力皆無の悠利が、変な奴に絡まれたりしないようにと思っただけである。優しさだ。……ほんの少しばかりは、うっかりトラブル巻き起こさないでね?というものがあったのかもしれないが。

 とにかく、座る席が見つからないのであれば昼食を広げられないので、悠利はルークスと一緒に大人しく広場の入り口付近に立っていた。誰かの邪魔にならないように端の方を選んで立っている。ルークスは物珍しそうに広場を行き交う人々を見ていた。悠利も同じくだ。

 流石は王都で行われる建国祭と言うべきだろう。街行く人々には、見慣れない種族の人々も多々いた。普段この街は、大多数が人間で時折獣人やハーフリングなどの姿が見える程度なのだ。それが今は、多種多様な種族の人々が楽しそうに祭りを満喫している。実に平和的で、熱量に満ちあふれ、見ているだけでこちらも楽しくなるような光景だった。


「……アレ?」


 そんな中、悠利は一人の少年を見かけて首を傾げた。明るく淡い茶髪が風にふわふわと揺れている。そんな彼は、どこか困ったような顔であちらこちらに視線を向けながら、しょんぼりした様子で移動している。それを何度も繰り返しているので、どうやら彼が何かを探しているらしいということを察した悠利だった。


「キュイ?」

「あ、ごめんね、ルーちゃん。あのね、あそこに困った顔してる人がいるでしょ」

「キュウ」

「迷子かなーって思うんだけど、どう思う?」

「キュウ?」


 悠利の問いかけに、ルークスはよく解らないと言いたげにゆらゆらと身体を揺らした。スライムのルークスに聞かれても困る内容である。ルークスは悠利が大好きだし、超レア種の変異種で名前持ちネームドという三段コンボのハイスペック従魔であるが、それでもやはりスライムはスライムである。解らないことの方が多いのである。

 そんなルークスの頭をごめんごめんと言いながら撫でつつ、悠利は視線をその少年に再び向ける。やはり、相変わらず誰かを探すようにしては見つからなかったのかしょんぼりしている。明らかにこの場に慣れていないという雰囲気で、どう見ても迷子である。


「よし。ルーちゃん、ちょっと移動するよ」

「キュ?」

「困ってる人は放っておけないよね」


 不思議そうに見上げてくるルークスに笑みを向けると、悠利は少年に向けて歩き出した。その行動が正しいか間違っているかではなく、悠利はそういう性格だった。目の前で困っている人がいると、放っておけないのだ。お人好しと皆に言われるが、やらないよりやる方が良いと悠利は思っている。何より、困っている人を放っておくのは悠利の気持ちが曇るのだ。楽しいお祭りをこのまま楽しむためにも、目の前の困っている人にとりあえず声をかけようと思う悠利なのだった。


「すみません、ちょっと良いですか?」

「え?」

「何かお困りですか?僕で手伝えることがあれば、お手伝いしますけど」


 突然話しかけてきた悠利に、少年は驚いていた。きょとんとして悠利を見る顔は、まだ少し幼さが残っている。悠利と同年代ぐらいの、十代半ば頃の風貌だ。特別目立つ容姿をしているわけではないが、着ている服はシンプルな作りながら生地が上質だし、身のこなしが洗練されている。……早い話が、良いところのお坊ちゃんという感じなのである。

 育ちの良さが滲み出ている少年を相手に、悠利はあくまでも穏やかに接する。もし良かったらという雰囲気を出しているのは、相手が必要ないと答えたらそのまま立ち去ろうと思っているからだ。これはあくまでも悠利のお節介なので、いらないと言われたら素直に引き下がるつもりなのだった。


「キュ?」

「スライム……!?」


 大丈夫?と心配そうに少年を見上げたルークスに、少年は物凄く驚いていた。確かに、街中でいきなりスライムに遭遇したら驚くかもしれない。悠利の周囲の人々は、悠利がスライムのルークスを連れ歩いているのが普通なので誰も何も言わないのだ。しかし、よく考えたら、このほわほわのほほんとした悠利が従魔を連れているとか、普通は多分考えない。

 ただ、少年は驚いたものの、恐れや怯えは見せなかった。ルークスも相手が驚いているのを察したのか、悠利の隣へと移動してぺこぺことお辞儀を繰り返している。


「あ、この子は僕の従魔のルークスです。とても賢いので、こっちの言っていることも解りますよ」

「そうですか。従魔なら安心ですね」

「それで、先ほどから何かを探しているようでしたが、どうされたんですか?」


 なでなでとルークスの頭を撫でながら悠利が問いかける。少年は困ったように眉を下げて、しょんぼりした風情で答えた。


「連れとはぐれてしまったんです」

「じゃあ、探しているのはお連れさんなんですね」

「はい。ただ、人は多いし、はぐれた場合の待ち合わせ場所も決めていなかったので、どうしようかと……」

「あー……。それは決めておくべきでしたね……。この人混みですし」

「はい。僕もそう思います」


 悠利の言葉に少年はしょんぼりとした。まさかはぐれると思っていなかったのかもしれない。もしかしたら、普段はこんな風に人混みの中に行かないのかもしれないなぁと悠利は思った。正しい意味で育ちの良さを感じさせる上品な少年なので、きっと人混みに慣れていないのだろう。

 かくいう悠利もそれほど人混みに慣れているわけではない。ただ、悠利の場合は、もしもはぐれたらその時点でアジトに戻るという選択肢がある。最初からそういう風に決めてあるのだ。はぐれて、しばらくしても合流できなかった場合は、全員一度アジトに戻ろう、と。建国祭は逃げないので、変なトラブルに巻き込まれるぐらいならば、一度離脱して再集合してから遊びに行く方が無難だという結論である。

 さて、迷子の少年をどう助けてあげるべきだろうかと悠利が考えていたときのことだ。少年も大真面目にどうするのが良いのか考えていたときだ。不意に、ある音が二人の耳に届いた。




 ぐぅうう…………。




「「…………」」


 紛うことなく、腹の虫である。発生源は少年の方だった。思わず二人揃って沈黙している悠利達の足下で、ルークスが不思議そうに身体を傾けている。首を傾げるような仕草だった。

 にょろり、とルークスが身体の一部を伸ばして、少年の腹部を撫でる。びくりと少年が驚くが、ルークスは至って真剣に少年の腹を撫でていた。……どうやら、空腹で腹が鳴ったというのが解らず、そこに何か変なものでもいるのかと心配になったらしい。案ずるように撫でている。


「る、ルーちゃん、大丈夫だよ。怪我とか病気じゃないから」

「キュイ?」

「あのね、お腹が減ってるってだけだから」

「キュウ」

「…………すみません」


 申し訳なさそうに顔を赤くする少年に、悠利は気にしないでと笑う。時間は普通にお昼時なのだ。健康的な十代男子が腹の虫を制御できなくても仕方ない。ましてや、周囲では皆が美味しそうに昼食を食べているのだから。

 そこへ、ヤックが悠利とルークスを見つけて走ってきた。


「ユーリ、ちょうど空いた席見つけたから、そっちで食べようー!今マグが場所取りしてるから大丈夫だと思うけど、なるべく早く戻ったほうがい、」

「あ、ヤックありがとう。マグが場所取りかぁ……。早くご飯持って行かないと機嫌悪くなりそうだね」

「そうなんだよー。……ってそうじゃなくて、その人誰?」

「え?」

「え?じゃなくて、そちら、誰?」

「…………そういえば、お名前聞いてないですね」

「ユーリ!?」


 何してんの!?とヤックが驚愕の声を上げるが、悠利は気にしない。また変なことに首を突っ込んだのかとか、トラブルの種を拾ったのかとか、色々と言いたいことはあったのだろう。とはいえ、少年自体は育ちが良く温厚で優しそうなので、それを確認して少し落ち着いたが。

 ……ヤックがここまでの反応をしてしまうのは、悠利の今までが今までだからである。悪気なくひょいひょいと拾ったり接触した相手が色々とワケありだったというのは、もはや悠利のお約束である。ルークスを拾ったときもそうだったし、ワーキャットの若様を保護したときもそうだった。一番近いので言えば、《収穫の箱庭》のダンジョンマスターと出会ったことだろう。……つまりは、悪いのは悠利である。多分。


「僕はユーリです。この子はルークスで、こっちはヤックです」

「どうも。《真紅の山猫スカーレット・リンクス》の見習いです」

「《真紅の山猫スカーレット・リンクス》の方だったんですか!アリーさんやブルックさんのお話はよくお聞きします。あ、申し遅れました。僕はフレッドと言います」


 ヤックが口にした《真紅の山猫スカーレット・リンクス》という名称に、少年の顔が輝いた。アリーさん達有名人だなーと思う二人である。流石、彼らを束ねるリーダー様のネームバリューは素晴らしい。


「じゃあ、自己紹介も終わったところですし、一緒にお昼ご飯どうですか?」

「「え?」」


 ぽやぽやーんとしたいつも通りの笑顔で悠利が言った言葉に、ヤックとフレッドの二人が固まった。あまりにも突然の申し出である。だがしかし、先に立ち直ったのはヤックだった。悠利だし、という顔をして大人しく黙っている。相手のことを何も知らないので、自分が口を挟むのもどうかと思ったのだ。……或いは、早々に色々と諦めたのかもしれない。


「いえあの、僕は」

「だって、お財布持ってないんじゃないですか?」

「……あ」


 悠利が告げた言葉に、フレッドは固まった。これはあくまでも悠利の憶測だったのだが、どう見ても育ちの良さそうなお坊ちゃんで、しかも連れとはぐれて困っている少年が、自分で財布を持っていると思わなかったのだ。そしてそれは、この場合は正解だった。何かあったら危ないということで、財布は同行者が持っていたということをフレッドが説明すると、ヤックも途端に同情的になった。

 財布を持った同行者とはぐれて合流できない。しかも時間はお昼時。その瞬間、ヤックはこの困っている少年を助けようと決意したらしい。悠利の隣でこくこくと頷いて、一緒にご飯を食べようと誘っている。……農家育ちの少年は、空腹のつらさをよく知っていた。主にお仕置きがご飯抜きという家庭で育ったという理由で。

 そんなわけで、遠慮するフレッドの左右を悠利とヤックががっちり固めて、マグが待っている場所まで移動するのだった。移動中に二人に説得されたフレッドは、同行者と合流したら食べた分の代金を支払うということで何とか折り合いをつけたらしい。他人に迷惑をかけるのが苦手なんだなぁと思う悠利だった。


「……誰」

「「……あー」」


 悠利とヤックの到着を今か今かと待っていた(多分待っていたのは二人ではなく、悠利が持っているお昼ご飯だろうが)マグが、見知らぬ少年を見てすぅっと目を細めた。見習い組の中でも特に一癖あるこのスラム育ちの少年は、警戒心の塊である。野良猫みたいなものだと思って間違いないだろう。見知らぬ他人にホイホイ隣を許すような性格はしていないのだ。

 だがしかし、悠利は気にしなかった。もとい、無理矢理にマグの意識を逸らす手段を持っていた。


「さっき知り合ったフレッドくん。一緒にご飯食べようってことになってね」

「……何故」

「まぁ、細かいことは良いじゃない。それよりマグ、待たせてごめんね。はい、マグのご飯だよー」

「……!」


 マグの警戒バリバリの視線に若干怯えているフレッドの相手はヤックに任せて、悠利はにこにこ笑顔で学生鞄からマグが購入した料理を取りだした。自分達の食べる分は後回しに、マグの分を手早く彼の前に並べてやる。その中の一つ、マグが何よりも待ち望んでいたであろう料理を取りだした瞬間、マグは無言でそれに手を伸ばした。


「お腹減ってるでしょ?先に食べかけて良いよ」

「……諾」


 悠利の許可を貰ったマグは、こくこくと頷くと、手を合わせて小さくいただきますと呟いてから食事に取りかかる。彼が真っ先に手を伸ばしたのは、汁物料理だった。出汁の信者は今日も絶好調です。


「……ハローズさんが味噌の宣伝のために味噌汁の屋台開いててくれて本当に良かったよね、ヤック」

「……オイラもそう思う……。出汁がいっぱい入ってる料理があって良かった」

「……あの、彼は、大丈夫なんですか?僕が、ここにいても」

「「好きなものを食べることに意識が向いてるから大丈夫」」

「……」


 ぐっと親指を立ててハモる悠利とヤックに、フレッドは沈黙した。それで良いのかなと思ってしまったのだ。どう考えても何も説明していないし、何も納得させていない。食べ物で誤魔化したとしか思えない状況である。

 だがしかし、二人が気にしないで平気と言うので、大人しくそれに従うことにした。フレッドにはマグがどういう人物なのかが全く解らないからだ。それならば、二人の言い分に大人しく従おうと思ったのである。

 そんなフレッドをそっちのけで、悠利は学生鞄から次から次へと料理を取り出す。ヤックがそれを、食べやすいようにセッティングする。ルークスは大人しく皆の足下でじっとしていた。見事な連係プレーに感心するフレッドだった。


「はい、それじゃ、好きなモノ食べてくださいね。足りなくなったらまた買いに行けば良いので」

「そうそう。オイラ買いに行ってくるし」

「ありがとうございます。本当に、何とお礼を言えば……」

「困ったときはお互い様ですよ。お連れさんとはぐれたなら、下手に動き回るよりどこかでじっとしていた方が良いと思いますし」

「オイラもそれ言われたことある。自分がはぐれた側だったら、むやみやたらに動き回るなって」


 もぐもぐとカレーパンを頬張りながらヤックが続けた言葉に、悠利は「アリーさん?」と問いかけた。ヤックは首を左右に振って「クーレさん」と答えた。そこで何となく話の流れが見えた悠利だった。きっとそれは、自分がはぐれても皆を探すために動き回ったレレイとかヘルミーネとかと一緒にいたクーレッシュの体験談なのだろう。お前らが動くな!みたいな気持ちが込められた言葉だったに違いない。


「あ、やっぱりこの魚の串焼き美味しい」

「魚まるごと焼いてあるのって、食べにくくないの?」

「これ、何か、焼くと骨が柔らかくなって頭から食べられる魚なんだって。あっさりしてて塩味美味しい」

「へー。オイラも食べてみようっと」


 悠利が手にしているのは、小ぶりのサンマのような形をした魚である。尻尾から頭までぶすっと串刺しになっていて、屋台でそれを焼いていたのだ。その匂いがあまりにも美味しそうだったので購入したが、アタリだったらしい。

 本来なら魚をまるごと食べるのは骨が気になるところだが、悠利の言葉の通り骨なんてあったっけ?みたいな感じで食べられるようになっている。焼き方が上手なのか、皮はパリッとしているのに、身はふわふわだった。シンプルに塩を振って焼いただけだが、魚の旨みがギュッと濃縮されていて実に美味だった。


「美味しい-」

「でしょー?」


 わいわいと喋りながら食べる悠利達と裏腹に、マグは黙々と己の食事を平らげていた。基本的に食事中に特に喋ることのないマグなので、いつも通りとも言えた。時々、思い出したかのようにフレッドの方へと視線を向けるのだが、彼が大人しく食事をしていると解ると興味を失ったかのように食事に戻るのだった。

 そしてフレッドは、こんな風に雑踏の中で食事を取ることに慣れていないのか、動きがぎこちなかった。けれどその緊張も徐々にほぐれて、悠利達と同じように色々な料理に手を出して微笑んでいる。美味しいですね、と笑う笑顔は年齢相応のものだった。


「キュピー」


 そんな四人の足下では、自分のバイト代で買った料理を食べてご満悦のルークスがいる。彼が食べているのは野菜料理ばかりだった。肉や魚、パンやパスタなどの主食にはあまり興味を示さず、野菜のおかずばかりを買い求めたルークスである。彼は野菜炒めが好きなので、どうしても好みがそちらの方に行くらしい。

 キュピキュピとご機嫌で食事を続けるルークスの姿を、フレッドは物珍しそうに見ていた。


「ルーちゃんがどうかしました?」

「あ、いえ、すみません。こんな風に間近でスライムの食事を見ることがなかったので」

「あぁ、なるほど。ルーちゃんは野菜炒めが好きなので、野菜の料理を買ってきたんですよ」

「スライムにも食事の好みがあるんですね」

「他の子はどうかは知りませんが、ルーちゃんにはあるみたいです」


 にこにこ笑う悠利につられたように、フレッドも笑顔になる。そんな二人を見ながら、雰囲気が似てるなぁと思うヤックだった。何というか、浮世離れしたというか、世間ズレしていないのんびりしたところが似ているように感じてしまうのだ。

 しかし次の瞬間、悠利ほどぶっ飛んではいないだろうと自分の考えを否定するヤックだった。彼は悠利に近い場所にいるので、この人畜無害そうな無自覚トラブルメーカーが、思考回路とか行動という意味では色々ぶっ飛んでいるのを理解しているのだった。当人に言ってもちっとも理解してもらえないので、最近はツッコミを入れるのを諦めたのであった。




 そんなこんなで、迷子の少年を加えたお昼ご飯は、のんびりゆるゆると続くのでありました。……なお、お代わりの買い出しは二回ほど行われました。皆でわいわい食べるのが美味しいので仕方ないです。




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