食材の販売は、生産者の希望価格で。
にこにことしたいつも通りの笑顔の
「一つお伺いしたいんですが、お二人はここで収穫したナコト草を王都で販売されていますか?」
「それが、どうかしたのかい?」
悠利の質問に対する返答は、穏やかな声音だった。子供を相手にする大人の口調だった。それを理解した上で、悠利は相手が否定しなかったので言葉を重ねた。……次は幾分、意地の悪い表現を使って。
「他の方の手に渡らないほどに根こそぎ収穫した上で、王都で値段をつり上げて販売しているのはお二人ですか?」
「「……」」
にこにこにっこりという感じで笑っている悠利の目が、まったくもって笑っていないことに男達はそこで気づいたのだろう。明らかに敵意の含まれた意地の悪い問い掛けに、返答はなかった。ただ、何だこの子供はと言いたげに若干鋭くなった視線が悠利に向けられるだけである。
その視線を受けても悠利は何一つ怯まなかった。……別段、悠利が元々怖い物知らずというわけではない。こちらの世界に来てから色々鍛えられたというわけでもない。彼はただ単に、本気で怒っているときは1歩も引かないという性格をしているだけである。
そう、今の悠利は怒っていた。元々悠利は悪質な転売行為を行う転売ヤーが好きではない。その上に、転売ヤー(と悠利が思っている相手)のせいで困っているのは大事なお友達であるダンジョンマスターなのだ。愛らしい見た目そのままに幼子の性質を宿した善良な友人が悲しんでいるという事実は、悠利の滅多に起動しない怒りスイッチを押したのである。
「坊やが何を誤解しているか解らないが、私達はここで収穫した食材を王都で販売しているだけだよ?自ら収穫に来れない人もいるからね」
「でも、値段が高すぎるって聞きましたよ」
「高すぎると言われても、こちらも商売だからね」
あくまでも穏やかに、子供に言い聞かせる口調で男達は語る。ふむふむとその話を聞きながらも、悠利はちょいちょいと合いの手でツッコミを入れるのも忘れない。実際に王都で販売しているのを見たことがないのが、決め手にかける部分かも知れない。
男達はあくまでも自分達は商売としてやっているだけであって、決して不適切な価格で販売してはいないと主張しているのだ。それが正しいかどうかは悠利には解らない。そもそも、安く仕入れて高く売るというのは商売の基本であり、行商人のハローズなども各地で仕入れた品物を転売している。だから、それそのものが悪とは言えないのも事実である。
ただ、この場には最強の切り札とも言えるダンジョンマスターがいた。
そう、生産者様である。
通常、どんな商品だって生産者が販売価格にもの申すだろう。一般的に流通している商品の場合、メーカー小売り希望価格という表記がされている場合がある。それより上げたり下げたりは店側の自由ではあるものの、あまり逸脱して値段を上げると不適正だと買い手が考えてしまうのは当然のことだ。
勿論、商品の売値というのは様々な要因で決定される。一律でこの金額が正しいということにはならないだろう。それは悠利にも解っている。だがしかし、現状悠利にとって重要なのは「王都の住人が困っていて、それを聞いたダンジョンマスターが悲しんでいる」という部分なのである。
つまりは、ダンジョンマスターの意に沿う形での販売ならば、別に問題はないと考えている。よって、その事実を突きつけるのであった。
「でも、おじさん達が不適正な価格で販売するせいで王都の人が困っていると聞いて、この子が物凄く悲しんでます」
「「……この子?」」
「コ、コンニチハ」
ずいっと悠利の前に引っ張り出されたダンジョンマスターは、小さな手をお腹の辺りで重ね合わせたまま、もじもじしながらお辞儀をした。目深に被ったフードのせいで相変わらず口元以外見えないのだが、どう見ても小さな子供にしか見えないので、男達はきょとんとしている。
……次の瞬間男達を襲うだろう衝撃を理解しているリヒトだけが、そっと視線を明後日の方向に逸らした。
「この子は、ここのダンジョンマスターです。つまり、生産者ですよ!」
「「……は?」」
「生産者がそういうやり方は止めてくださいって言ってるんで、値段設定考え直してください」
「……生産者……?」
「……ダンジョンマスター……?」
大真面目な顔で悠利が告げた言葉に、男達は反応しなかった。出来るわけがないだろう。人間、予想外のことをいきなり突きつけられたら反応が鈍くなっても仕方ない。
というかそもそも、ダンジョンマスターは普通、人前に姿を現したりしない。確かにここ、収穫の箱庭はあり得ないほどに来訪者に優しい快適なダンジョンである。だが、だからといってダンジョンマスターとひょいひょい目通りが叶うなんて誰も思ってはいない。実際、今までダンジョンマスターと接触した者など、普通の来訪者にはいないのだ。
……そう、つまりは、ダンジョンマスターとお友達になっている悠利が色々とおかしいのである。そして、悠利相手だからこそ、ダンジョンマスターもひょっこり姿を現したということでもあった。このダンジョンを楽しんでくれている人だから会ってみたかった、という理由で。
「このダンジョンは、この子の『沢山の人に来て欲しい。喜んで欲しい』という優しさで成り立っています。それなのに、その生産者の意に反する形で商売をされるのはどうかと思うんです」
「……ま、待ってくれ。ダンジョンマスター?この子が?」
「そうですよ。つまり、ここで手に入る野菜は全てこの子が作ったものになるわけです」
「ドウモ……」
もじもじとしているダンジョンマスターと、大真面目な顔で言いつのる悠利の取り合わせに、男達は完全に困惑していた。ルークスはとりあえず半眼で男達を見ている。威嚇行動は止めていないので、まだ敵認定はしているのかもしれない。
そんなカオス極まりない状況を眺めるハメになっているリヒトは、そっと流れてもいない涙を拭った。何で俺、こんな場面に遭遇してるんだろうという感じで。どう考えても彼は今回貧乏くじを引いていた。
男達がマトモに反応しないのを訝しみながらも、悠利は言葉を重ねている。商売に使うのは別に良い。自分で収穫に来れない人もいるだろうから、販売すること自体を悪いとは思わない、と。ただし、消費者の負担にならず、生産者であるダンジョンマスターが納得する値段で販売して欲しい、と。
……言っている内容はまぁそれなりに納得できるであろう内容なのだが、随所随所に出てくる「ダンジョンマスター」という固有名詞のおかげで、色々と破壊力が強かった。これが普通の農園とかなら、普通に話が進んだだろうに。相手が人外の存在であるダンジョンマスターであるということで、話が進まなくなっていた。
だが、男達を責めるのはお門違いだとリヒトは思っている。悠利はまったく気にしていないし、理解もしていないが、普通はダンジョンマスターと対面することなどないし、こんな話題に放り込まれることもないのだ。色々とあり得ないと思っても仕方がないだろう。
なので、ちょっと助け船を出そうと思ったリヒトだった。何故かというと、話が全然進まないからだ。話が終わらなければ彼も帰宅出来ないので。
「ユーリ、少し彼らに落ち着く時間を与えてあげた方が良い」
「え?」
「普通の商人は、いきなりダンジョンマスターが目の前に現れたら驚くからな?」
「……そういうものですか?」
「うん、そういうものだな」
きょとんとしている悠利に遠い目をしながら、リヒトはぽんぽんとその肩を叩くのだった。なお、付け加えておくならば、別に商人じゃなくても驚く。ダンジョンに潜ることの多い冒険者達だって、ダンジョンマスターに遭遇することなど滅多にないのだから。
《
だがしかし、王都で商人をやっているであろうこの男性2人に、そんな強靱な精神を求めてはいけない。旅から旅を重ねる行商人ならば多少は肝が据わるかも知れないが、街で拠点を構えて商売をするタイプの商人さんは、荒事に向いていないのだから。
そんなわけで、リヒトに説得された悠利は、男性2人組が落ち着くまでしばらく大人しくしていた。目の前でじぃっと自分達を見上げてくる小さな子供にしか見えない生き物を見詰め、それがダンジョンマスターなのだと情報と思考が結びつくまで、およそ数分。……それでもきっと、立ち直りの早い方だと思われる。
何とか衝撃を乗り越えたらしい男性が、悠利達に向けて口を開いた。
「つまり、ここで収穫した食材を売ることに関しては、怒っていないということ、かい?」
「ウン」
「この子はそもそも、皆に喜んで貰いたいんです。だから、そういう意味ではおじさん達にも喜んで欲しいと思ってますよ」
「オ野菜、気ニ入ッテクレルノ、嬉シイ」
他人と会話をするのに慣れていないのだろうダンジョンマスターは、もじもじしながらも自分の気持ちを素直に伝えていた。その愛らしさに緊張の糸が切れたのか、男性2人の表情が和らぐ。
「そういう話なら、こちらも値段の見直しはしようと思う。けれど、一つ良いかな?」
「何ですか?」
「我々は、ここのナコト草を半分も収穫していないよ」
「え?」
「エ?」
衝撃から立ち直ったらしい男性は、これだけは伝えておかなければと言いたげに口を開いた。そうして告げられた内容に、悠利とダンジョンマスターはぽかんとした。悠利はちらりとダンジョンマスターを見下ろす。小柄なフード姿の人外は、ふるふると頭を振っている。少なくとも、この2人組がいなくなった後に、ナコト草が殆ど残っていないことは確認済みなのだ。
だがしかし、違う違うと男性2人は主張する。その顔は本気で悠利達の勘違いを訂正しようとしているものだった。そもそも、最強の鑑定チートである【神の瞳】保持者の悠利を相手に、嘘はつけない。なので、彼らが嘘をついていないことは明白だ。
では、何故、毎度毎度、彼らが立ち去った後にナコト草が無くなるのだろうか?という疑問が浮上する。
「おじさん達じゃないなら、いったい誰が……?」
「デモ、他ノ人ナンテ、イナカッタヨ?」
「でもね、このおじさん達は嘘をついてないんだよ。だから、他に、ナコト草を独り占めしてる誰かが、いるってことになるんだ」
悠利の言葉に、ダンジョンマスターは首を傾げている。男性2人組も、自分達は2人で行動しているのであって、そこに第三者はいなかったと証言している。だがしかし、ダンジョンマスターが確認したところ、この2人組が帰った後にナコト草は殆ど残っていなかったのだという。謎が深まるばかりである。
そんな風に皆でうんうん唸っていたときだった。
まるで何かに誘われるように、悠利は視線をそちらへ向けた。物音が聞こえたわけではない。明確に何かの姿が見えたわけではない。ただ、うっすらと、ぼんやりと、
「……?」
一般人代表と言っても過言ではない程度の身体能力しか持っていない悠利なので、気配などには鈍い。明確に殺気を向けられていてもスルーしてしまいそうな感じの天然っぷりが持ち味だ。けれど今、そんな彼が何かを気にして、何かに気づいた。
そして――。
「ルーちゃん、あそこ、あの辺、ちょっとべしんってやってみて……?」
「キュ」
「ユーリ?」
ぼそりと、足下にいるルークスと、同じく足下にいるダンジョンマスターにしか聞こえないだろう小さな声で悠利が伝える。悠利がそろっと指差した方向には、何も無い。けれど、悠利に忠実なスライムは大人しく言われた通りの行動を取った。みにょーんと身体の一部を伸ばして鞭のようにしならせると、悠利に指定された場所をべしーんとひっぱたいてみたのだ。
本来ならそれは、空気を叩くだけだっただろう。そう、本来ならば。
けれど、今回は事情が違った。ルークスは、不思議そうにきょとんとしている。実際に触った彼には解ったのだろう。自分が今、明らかにそこにいる誰かに触ったということが。
「……ルーちゃん、誰かいた?」
「キュイ」
「あの辺囲ったり出来る?今すぐ!」
「ワ、解ッタ!」
悠利に急かされたダンジョンマスターは、まだ事情が飲み込めていないながらも行動を起こした。小さな小さな、服の隙間からちょろりと見えているだけの愛らしい手をひらりと一振りする。途端に、悠利が指定した場所に木で作られた檻が出現した。
それは別に、上から降ってきたのではない。地面から当然のように生えてきた。いや、そもそも初めからそこにあったのだと言いたげですらあった。その檻の少し前、例えるならば格子から誰かが手を伸ばしているような位置に、宙ぶらりんになっているナコト草があった。
「……ユーリ、今度は何をやったんだ?」
「リヒトさん、あそこに誰かいるんです」
「見えないんだが」
「はい。普通には見えないんですけど、赤っぽい光で人の形が見えます」
「……そうか」
呆れたようなリヒトであるが、悠利とやりとりを繰り返すうちにその場でうなだれていた。きっと彼は、トラブルが増えたと思っているのだろう。間違っていないので仕方ない。諦めも肝心である。
宙ぶらりんになっているナコト草が気になるのか、ルークスとダンジョンマスターはそちらへ近づき、つんつんとナコト草や、その周辺を突っついている。子供が未知の何かに興味を示すときみたいで愛らしいのだが、どちらも色々と規格外なので内情を知っていると割と怖い。
しばらく檻の中を見詰めていた悠利が、ちょいちょいとルークスを手招きして、指示を伝える。
「ルーちゃん、この辺をね、真っ直ぐびゅって出来る?」
「キュピ!」
指で突き刺すみたいなジェスチャーで伝えた悠利に、ルークスはこっくりと頷くと言われた通りにその場所を伸ばした身体の一部でびゅっと突き刺すようにした。すると、何かをはじき飛ばしたのか、カランという音がする。次いで、何も見えなかった檻の中に、1人の若者の姿が現れた。
年の頃は二十代の半ば頃。没個性というか、見事なまでのモブというべきなのか、奇妙に人の印象に残りにくい服装と容姿の青年である。その青年の手が、ナコト草を掴んでおり、彼の腕の部分をダンジョンマスターがつんつんしているというシュールな光景だった。
「こんにちはー」
しかし、悠利は悠利であった。
顔を引きつらせて檻の中に閉じ込められている青年を相手に、いつも通りのマイペースなご挨拶である。それに倣うようにルークスとダンジョンマスターもぺこりとお辞儀をしている。リヒトは明後日の方向を見ており、男性2人組は微妙な顔でそのやりとりを見守っているのであった。
青年は何も答えない。ただ、警戒するように悠利達を見ているだけである。彼が返事をしないので悠利は、地面に転がっている小さな物体、懐中時計のようなデザインのそれを拾い上げる。
そして――。
「一つお伺いしたいんですが、何でこんな、姿隠しの魔道具を使ってナコト草を採取しておられたんですか?」
にっこり笑顔で問い掛けるのであった。ほわほわーっと笑っているが、微妙にオーラが黒かった。
姿隠しの魔道具というのは、かなりレアな魔道具で、その名の通り姿を隠すものである。所謂透明人間になれるアイテムと考えて良いだろう。ただし、持続時間は短いし、姿が見えなくなるだけで気配や匂い、音はごまかせない。あまり実用的ではないとも言える。
なお、使い道としては、魔物の巣に罠を仕掛けたり、奇襲する場合に活用されている。とはいえ、姿が見えないだけなので、感覚の発達している魔物相手だとまったく意味が無いのだが。
そんな微妙な魔道具を持っていた青年は、黙秘権を貫いていた。うーんと困ったように呟いた悠利は、もうどうとでもしてくれと言いたげに遠い目をしているリヒトに問いかけた。
「リヒトさん、オレンジって鑑定しても良いと思います?」
「俺に聞くなよ……。えーっと、赤の場合は鑑定して良いってアリーに言われてるんだよな?」
「そうです。で、このお兄さん、赤に近いオレンジなんですよねー」
どうしましょうか?とほわほわーっと問いかけてくる天然小僧に、リヒトはがっくりと肩を落とした。俺に聞かないでくれと彼は真剣に思っている。常識人で苦労性のお兄さんは、今日一日で一ヶ月分ぐらいの胃痛を味わっていた。
とはいえ、このままではらちがあかないのも事実であった。しばらく迷った末に、リヒトはぽんと悠利の肩を叩いて告げた。
「鑑定しても良いが、後のことは衛兵に任せるんだぞ」
「はーい」
とてもとても良いお返事だった。その返事と笑顔だけを信じることが出来るなら良いのにとリヒトが思ったのも、無理はなかった。
意味が解っていない周囲をそっちのけで、悠利はにこにこ笑顔で目の前の青年の情報を鑑定する。必要なのは彼の
そして、結果はと言えば。
「リヒトさーん、このお兄さん、備考欄に密猟者って書いてあるんで、衛兵さんにお願いして良いと思います」
「……多分、今回のナコト草の件は密猟じゃないと思うけどな……」
「でも、出入りを確認しているこのダンジョンで、姿隠しの魔道具使ってるのって、十分怪しくないですか?」
「……そうだな」
色々諦めたリヒトお兄さんだった。そんな彼をそっちのけで、悠利はダンジョンマスターに檻に閉じ込めた青年を衛兵に引き渡す準備をしようねと話しかけているのであった。色々マイペースすぎる。
その後、色々と話を統合して解ったことは、男性2人組はそこまで無茶苦茶な収穫をしていたわけではなく、彼らが来るのに合わせて密猟者の青年がやってきて、2人を隠れ蓑にして大量のナコト草を収穫していたらしい、ということであった。彼はここで仕入れたナコト草を、自分が直接ではないが王都にて高額で売りさばいていたらしい。
なお、今回の件はリヒトの言うように密漁には該当しなかった。しかし、諸々密猟の余罪が叩けば埃が出るレベルで見つかったので、密猟者の青年はそのまま牢屋に連行されることになったのであった。まぁ、棚ぼたで犯罪者の逮捕に協力したと思えば、多分、悪いことはしていないのだろう。多分。
商人の男性2人組に関しては、販売価格の見直しを検討するということで話がついた。まぁ、話を確認すると、別にそこまで法外な値段で売っていたわけではなかったらしいのだが。
ちなみに、今後同じようなトラブルが起こらないようにと、国や商業ギルドが法律その他の整備を行ってくれることになった。収穫の箱庭は、あくまでもダンジョンマスターの好意によって優しいダンジョンであるだけで、本来ならダンジョンは恐ろしい場所なのだということも、改めて布告されるという。
それでもやはり、幼い性質を有したダンジョンマスターは、来る人が楽しんでくれるなら、喜んでくれるなら嬉しいのだと、ほわほわと笑うだけなのであった。
さて、そんな騒動をしれっと起こした悠利が帰宅後何も無かったかといえば、そんなことはない。案の定、アリーから大目玉を受けている。
「アリーさん、痛いです……。そろそろ正座も疲れてきました……」
「反省の色がない」
「だって、あの子が困ってたから、手伝ってあげたくて……」
「その優しさは別に良い。俺が言いたいのは、何で自分達だけで突っ走ってんだってことだ」
「うぅ……」
アリーの執務室にて、正座で反省を促されている悠利は、大きな掌で頭を押さえつけられていた。それでも、最初の雷は既に通り過ぎたので、そこまで痛くない。なので、ぼそぼそと反論めいたことを口に出来ているのであった。
ちなみに、悠利とリヒトから報告を受けたアリーは、特大の雷を悠利に落とした後に、商業ギルドその他へ赴いて対策を頼みに走ってくれたのである。そうしておかないと、同じことが繰り返された場合に、この天然ぽやぽやマイペースが、「友達が困ってるから!」という理由でまた暴走するのが解っていたからだ。保護者は辛いよ。
「相手が反撃してきたらどうするつもりだったんだ、お前は」
「ルーちゃんもリヒトさんもあの子もいるから、大丈夫かなって……」
「それでも万が一ってことがあるだろうが。ちったぁ自分の身の安全も考えろ」
「……はい」
不機嫌そうにぼやくアリーの言葉に、悠利はこくりと頷いた。頷いたけれど、その顔がちょっとにやけてしまうのはどうにも出来なかった。言葉は荒っぽいが、アリーはいつもこうやって悠利を気遣ってくれる。優しく頼れる保護者様なのであった。
なお、その後しばらくは、何か起きた場合を想定して、アリーもしくはブルックが悠利が収穫の箱庭に赴くときには同行する姿が見られるのだった。
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