第2章 二本のビール

啓介はあっけらかんとして隣の女性を見つめていた。


女性は、顔に手を当てて、嗚咽を漏らしながら泣いていた。


「これ、使います?」


と、啓介は自分のポケットからハンカチを取り出して、女性に差し出した。


「ありが、、とうござい、、ます。」


しばらくして、女性は落ち着きを取り戻した。


「ほんとにすみません。私、彼氏に浮気されてて、、しかも、私の親友と、、もう二人のことが信じられなくなって、、」


「そうですか、、」


啓介は、出会ったばかりの人、ましてや女性から打ち明けられても、ただ、相槌をするしかできなかった。


女性は、啓介に事のあらすじを話すと、吹っ切れたように、


「ごめんなさいね、ペラペラ喋ってしまって。この、ハンカチ、洗濯して必ずお返ししますね!」


と言うと、啓介が断るよりも早く、女性は、足早に去ってしまった。


嵐が去って行ったかのように、啓介の公園は静けさを取り戻した。


「なんだったんだ、今のは。」


と小声で呟き、残っていたビールを飲み干した。



翌日。


いつものように、会社からの帰り道、最寄駅のコンビニでビール二本とつまみを買い、公園へ向かった。


昨日啓介が座っていたベンチに人影が見える。別のところに座ろうかと辺りを見回していると、


「あ!あの!」


昨日の彼女がこちらに手を振っている。


啓介は軽く会釈をして、彼女の方へ歩み寄った。


彼女の隣に腰掛け、ビールが入ったビニール袋を自分の隣に置いた。


「昨日は、すみませんでした!知らない人にハンカチ借りて、話まで聞いてもらって、、あ、これ。洗濯してきました!お返ししますね。」


そう言って、彼女は白色の紙袋を手渡した。


中には、啓介が貸した青色のハンカチとビールが二本入っていた。


「あの、これって、、」


「あ、ハンカチのお礼に、と思って、、昨日もビール飲んでたから、お酒好きなのかなって、、」


「なんか、、わざわざすみませんね。」


「いえいえ、私の方こそ、すみません。」


ぎこちない会話が途切れ、気まずい雰囲気が流れる。


「この公園、よく来られるんですか?」


彼女の方から静寂を切った。


「えぇ、まあ。仕事終わりの息抜きに。」


「私も時々来るんですよ。ここ、思い出の場所だから、、」


啓介が、彼女の方を見ると、彼女は穏やかな笑顔を向けていた。


「あ、また自分のこと喋っちゃってますね、私!すいません。、、あ、あの。お名前聞いてもいいですか?」


「あ、僕、横田啓介って言います。」


「横田さん。私、梅田香奈美っていいます。」


ぎこちなく、二人が挨拶を交わす。


しばらく他愛もない会話を続け、香奈美は帰って行った。


啓介は、ベンチから立ち上がり、空いた缶ビールをゴミ箱へ捨てた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夜のベンチ 坂本 由海 @nanaurara

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ