植物状態の義妹を救ったのは、僕のキスでした。

@saijoyasumasa

一話

父親が再婚した。

桜井紗江子さんという、父より4つほど等が離れている女性だ。気さくで優しい人だと言う印象は、僕の脳内にインプットされている。

それと、娘さんが一人いるらしいが、僕はまだ会った事がない。僕より一つ下らしいから、妹ということになるのだろうか。

母が亡くなって五年。父はその間一人で僕の学費などの世話を見てくれた。なので、再婚する事は、別に反対などはしなかった。出来るわけない。今まで散々迷惑をかけた。恩返しというわけではないが、少しは父にも幸せになって欲しい。


「ー宏樹。おい宏樹。」


「ん?えっああ、父さん何?」


「来週には、同居という流れにはなると思うが、その前に一つ言っておかなければいけないことがある。」


父は、切迫した表情でこちらを見ている。

それを見た僕も、緊張してじとーっと汗をかき、生唾を飲み込んだ。


「紗夜ちゃん。お前の妹になる子、分かるだろ?」


「うんまぁ。会ったことは一度も無いけど。でもなんで、いつも紗江子さんだけで、紗夜ちゃんは来ないの?人見知りだったり?父さんは会ったことあるんでしょ?」


「見た事はある。」


「それって、どういう?」


「紗夜ちゃんは、二年前に交通事故に合い、それから目を覚ましたのは良いものの、植物状態になっていて、医者にはもう一生そのままかもと…」


「……っ?!」


僕は父の言葉を聞き、言葉にならない絶叫をあげた。

植物状態…僕には何もできないのだろうか。

決して出来ないだろう。僕ごとき素人が出来るならば、とっくに医者がやっているはずだ。


「宏樹。紗江子も医者までも諦めかけてる。でも俺はまだ諦めたくない。お前もだよな。」


「勿論そうだけど。僕には何も出来ない…」


「まあ、直接的には何も出来ないが、もし起きた時のため…いや、起きると願って、週末だけでいい病院に行き、紗夜ちゃんの手を握り、起きるのを祈ってくれないか?」


「わかった。それぐらいなら僕にも出来る。可愛い妹のためだ!」


…ってまだ見たこともないんだけどね。


そして、僕と父は病院に向った。


病院に着くと、父は紗江子さんと待ち合わせをしているらしく、先に行っててくれと、言い残して、すたこらとどこかに行ってしまった。

てな訳で、僕一人で紗夜ちゃんの病室に行くことになってしまった。緊張しつつ、病室まで足を運ぶと、トントンとノックして、部屋に入った。

ドアを開け、部屋の中入るとそこには、ベットに横たわる一人の少女の姿があった。その少女は、銀髪で、目はつむっていて分からないが、顔も整っていて、垢抜けていた。僕は、その少女。紗夜ちゃんを見て、まるで、桜の季節に降り、桜と共に散っていく雪のように感じた。

僕は、近付こうとして歩き出すが、彼女に気を取られ過ぎて、下に落ちていた花瓶に気づかず躓いて転んでしまう。

チュッ…刹那、柔らかな感触が僕の唇に触れた。

目を開けるとそこには、僕が近付こうとしていた紗夜ちゃんの顔があった。

そう、僕は今、紗夜ちゃんとキスしてしまっているのだ。僕はそれに気付くと、すぐに身を引き立ち上がった。

やってしまった…意識の無い女の子にキスしちゃうなんて…しかも、自分の妹になるって子に…


「んん…」


僕が罪悪感に溺れていると、紗夜ちゃんが吐息をこぼした。


「起き…る訳ないよなぁ…白雪姫じゃあるまいし…ただの寝息だよな?」


「だ…れ?」


「え?今、喋った?もしかして。」


「ねえ。誰って聞いてる」


「やっぱり喋ってる!!やった!起きたんだ!なんでかわからないけど、ナースコールしなきゃ…」


ギュッ。僕が、ナースコールのボタンを押そうとベットに近づくと、紗夜ちゃんが僕のシャツの袖を掴んできた。


「どうしたの?紗夜ちゃん?」


「何回も言ってる。お兄さん誰…なの?」


「ごめんごめん。起きたのが嬉しくて、聞こえなかったよ。僕は、岬宏樹。紗江子さん…君のお母さんの再婚相手の息子で、君のお兄さんということになるね?混乱しちゃったらごめん。少し話しすぎたね…」


「にい…さん…」


(やっぱり、いきなり言われたら混乱するし、ショックだよね…母親が再婚するなんて…)


「やたー!念願のお兄さんだぁ!!」


は?どしたのこの子。いきなり叫んで…

なんか、念願のお兄さんとか言ってたよね…

この子を今まで植物状態で、意識も無かったんだよね?二年も。この回復力は、どう考えてもおかしいでしょ!!


「紗夜ちゃんは、お兄ちゃんが欲しかったの?」


「うんそう。紗夜ね、兄さんとキスしたり一緒にお風呂はいったりエッチしたりするの。」


「それどこのエロ本!?なんで、そんな…」


「これが、紗夜の夢。バカにしちゃダメ!別に強制はしない。私が夜這いするかもだけど…まあでも、優しそうな兄さんでよかった。そんなにイケメンとかでは無いけど。」


「悪かったね!!イケメンじゃなくて…」


「ううん。全然、悪く無い。私、結構兄さんの顔好き。平凡だけど。それがまた、ラノベ主人公みたいで。」


「ラノベの影響か!紗夜ちゃんラノベ見たりするの?」


「描いてた。本も出した。」


「え?本当?凄いね、タイトル教えて!読みたいから!」


「…恥ずかしい。けど、いいよ。本の名前は、『僕たちの春』」


「はははは。面白いね紗夜ちゃん。僕春?好きなの?面白いよね?で、本当は、何書いてるの?」


「何が面白い?本当に私が書いてる。ペンネームだって、自分の名前からとったんだから。」


「確か、僕春の作者さんの名前は…桜 紗夜先生。

ん?さくらさや?さくら…さくらい…桜井紗夜!

えっ…じゃあ本当に紗夜ちゃんが?僕春の桜先生なの?」


「だから、ずっと言ってる。兄さんは耳が遠い?

それとも人間不信?それとも、単なるバカ?どちらにしても、末期だから病院行った方が…そう言えば、ここ病院だから丁度いい。見てもらった方がいいと思う。」


「僕は、どこも悪くありません!!と言うのは、さて置き、桜先生!!サインください!!」


「どうして?」


「いや、どうしてってファンだからでしょうが。それ以外に理由は、無いと思うんだけど?」


「サインなんか不必要。だって、今日から私たち兄妹。すなわち私は、兄さんの妹、所有物、性奴隷、肉便器。」


「おいおいおい!どーした、どんどん雲行きが怪しくなるどころか、竜巻引き起こってるじゃ無いか!妹だけど、別にそう言う関係になろうとは思わないから、安心して。手は出さない。」


「うぅっ…私、女として魅力…無い?」


紗夜は、うるうると目尻に涙を浮かべながら言って、突然服を脱ぎ始め、あっという間に生まれてきた姿へとなった。それに見とれて、止めることも出来なかった僕は、やはり変態なのだろうか?


「ちょっ…なんで裸に?早く服着てよ!」


「どお?私の体。おっぱいは小さいけど魅力的?ねえ。兄さんと見て。私の事。感想を言ってくれるまで服着ないから。」


何この、エロ同人誌。普通にコミケとかに売ってそうな内容なんだが…これが、現実に起こってると思うと、本当ゾッとしないよ。


「えっと……まあ…綺麗だよ。うん、魅力的だ。」


「ちゃんと見て。これから兄さんのものになる私の体。」


「はい!?だから何故に君は、兄になったとはいえ、そんなに迫ってくるの?」


「一目惚れ…したから。それじゃあ…ダメ?」


僕の理性が、どんどんと崩壊していく。むしろ今まで持ったのは奇跡とも言えるだろう。

何故なら、僕は童貞であり、女の裸など見たことなど無いのだ。それに、一目惚れだの好きだのという、告白をされたのも初めてなので、心臓の音が聞こえるのでは無いかというぐらいに、熱いビートを繰り返す。その時、病室のドアが開き、父入って来た。そして、僕はやっと正気に戻った。


「おーい。宏樹。そろそろ帰るか?あれ?紗夜ちゃん起きてないか!?」


「父さん!!あっ…ごめん連絡するのわす……」


父は、僕の言葉はなど全く聞かず、紗夜のもとへ猛ダッシュし、勢いそのままに抱きついた。


「おじさん…誰?兄さんのお父さん?と言うことは、私の新しいお父さん?」


「そうだよ。何があったかは、全くわからんが、とにかくよかったよ…でもなんで裸なんだ?」


「そうだよ。早く服を着なさい!」


「兄さん着せて?」


「しょうがないな。本当に…」


「お前らいつの間にそんなに仲良くなったんだ?

まぁ別にいいけど、仲がいいのはいいことだ!血が繋がっていないから結婚もできるしな。」


「はぁ?父さんまで?どうなってんの僕の新家庭!」


僕が声高々に叫ぶと、隣の病室から壁ドンが帰ってきた。壁ドンといっても、イケメン男子が女の子にしてキュンとなるやつではない、僕達(僕)がうるさいので、静かにしろと叩いたのだろう。

本当、ごめんなさい。


「そうだ!大事なこと言い忘れてた!」


「え?何?大事なことって?」


「父さん。単身赴任することになりました。なんで紗江子さんも来るそうなので、明日からは君達二人で家を守って貰うことになりました。」


「はぁ!?いやホント急!!今に始まったことじゃないけどさ……で、どのぐらい?一週間?一ヶ月?」


「……分からん。多分五年ぐらい?」


「嘘だろオイ!!なんでそんな大事なこと黙ってた?」


父さんのいい加減な態度に、僕の口調はどんどんあなくなっていく。

僕には、親戚がいないので本当に紗夜ちゃんと二人きりと言うことになる。

これはまずい本当に。僕も男だ。あんなに積極的に迫られたら……いやいやダメだ。紗夜ちゃんは妹。紗夜ちゃんは妹。


「しょうがないだろ。忘れてたんだから…」


「しょうがなくねーーー!!どーするの?僕たちだけで!!」


「お前も高校生だし。大丈夫だろ!仕送りはちゃんとするんで。長期連休には帰って来るし。てことでヨロでーす!てへぺろ」


「いや、可愛く無いから!僕たちもついていくよ。」


「えー?アメリカに?お前、英語めっちゃ苦手じゃん。」


「あ…無理だねそれは。」


何を隠そう、僕は英語のテストで赤点以外とったことがないほど、英語が苦手なのだ。他の教科はまあまあ大丈夫なのだが、どうしてか英語だけは出来ない。


「兄さん。私と二人じゃダメ…なの?」


紗夜ちゃんが、悲しげにこちらを見つめる。眼は若干涙目になっており、うるうると波打っている。


「そんな訳じゃ無いけどさ、俺ら二人じゃさ何か間違い起きるかもしれないしさ。」


「間違いって?」


「いや、なんでも…」


「宏樹。妊娠だけはさせるなよ。まだ」


父さんは、茶化すように言った。


「させないよ!てか、まだって何さ!」


「いやいや。結婚したらいくらでもさせろよ。早く孫の顔見させろ!やりまくれ!」


「あんたもう黙ってろ!!」


もう、今までの父に対する感謝とかそういうものが、全て吹き飛んだ。

本当に何を考えているか分からないよ。この親父。


「ところで、兄さん。ナースコールはしないの?」


「あぁ忘れてた。押すよ。」


そのあと、医師も来て診断したが、もう何も悪いところがないらしい。原因はわからないらしいが、奇跡的な事らしい。

紗夜ちゃんは、もう何も異常が無いらしいが、リハビリのため、その後一週間程入院することになった。二年間も寝ていたんだ。筋肉が戻るまで結構大変だろう。だが、治ったら僕と紗夜ちゃんの二人暮らしが始まってしまう。怖いと思いつつ、楽しみだと思う、僕であった。

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