第九十五話 二つの力が合わさって

 アレクシアは、ルチアに向けて、短剣を振りおろそうとしている。

 だが、ルチアは、呆然とアレクシアを見ているだけだ。

 もう、あきらめかけているのだろう。

 意識を保とうとする力さえも、なくなっているのだ。


「これで、終わりだよ、ルチア」


 アレクシアは、短剣を振り下ろす。

 短剣が、ルチアの心臓に迫っていた。

 だが、その時だ。

 闇の刃が、アレクシアに向かっていったのは。


「っ!!」


 アレクシアは、光の刃に気付き、とっさに、回避した。

 闇の刃を発動したのは、クロウだ。

 魔技・シャドウ・ブレイドを発動したのだろう。

 クロスも、後から、クロウの元へと駆け付ける。

 クロスとクロウが、ルチアの元へ来たのだ。


「ちっ。来たか」


「本当に、お前が、裏切っていたんだな、アレクシア」


 アレクシアは、苛立ちを隠せず、舌打ちをする。

 邪魔をされたと感じているのだろう。

 クロウは、アレクシアをにらむ。

 二人は、フォウから聞かされていた。

 フォウに力を送り込み、妖魔達にサナカとランディを操らせたのは、アレクシアだったと。

 クロスとクロウは、真実を受け入れられなかったが、アレクシアがルチアを殺そうとしたのを目にした時、確信した。

 アレクシアは、裏切り者なのだと。


「ルチア……」


 クロスは、瀕死の状態になったルチアを目にして、心が痛んだ。

 ここまで、傷つけられてしまったのだと。

 自分達が、守るべき相手だというのに。

 同時に、ルチアを傷つけたアレクシアに対して、怒りを覚えた。


「クロウ、ルチアの事を頼む」


「待て、危険だ。俺も……」


 クロスは、ルチアの事をクロウに頼む。

 クロス一人で、アレクシアに立ち向かおうとしているようだ。

 それは、あまりにも、危険すぎる。

 クロウは、わかっている為、反対した。


「いいから、行け!!」


 クロスは、声を荒げる。

 これには、クロウも、驚きを隠せなかった。

 始めて見たのだ。

 こんなクロスを。


「ルチアを助けるんだ。頼む」


「……わかった」


 クロスは、改めて、懇願する。

 クロウにルチアの事を託したのだ。

 クロウは、静かにうなずき、承諾した。

 本当は、承諾したくなかったのだが。

 クロス、クロウは、同時に、地面を蹴る。

 アレクシアは、ルチアを殺そうとせず、クロウに向けて、魔法を発動する。

 だが、クロスが、クロウの前に出て、クロウをかばった。

 傷を負いながらも。 

 その間に、クロウは、ルチアの元へと駆け寄り、クロスは、魔技・フォトン・ブレイドを発動する。

 アレクシアは、後退して、回避するが、クロスは、アレクシアの前に立ちはだかった。


「私を相手にするつもりか?」


「その通りだ」


 アレクシアは、クロスを見下すかのような表情を向ける。

 クロスが、自分に打ち勝つはずがないと思っているのだろう。

 だが、それでも、クロスは、一人で、戦うつもりだ。

 ルチアを守るために。


「ルチアは、殺させない!!」


 クロスは、構える。

 アレクシアは、不敵な笑みを浮かべながら、クロスに襲い掛かった。


「ルチア、しっかりしろ!!」


「クロウ……」


 クロウは、ルチアに呼びかける。

 だが、ルチアは、意識が朦朧とした状態だ。

 もう、命を失いかけているのではないかと思うほどに。

 体が、痙攣しているのだ。

 それほど、重傷を負っているのだと、クロウは、悟った。


「すまない。遅くなった。今、助けるからな」


 クロウは、ルチアに謝罪しながら、懐から、ある物を取り出す。

 ある物とは、水の入った小瓶だ。

 フォウから、授かったのだ。

 ルチアは、瀕死の状態かもしれない。

 ゆえに、一瞬で、傷を癒さなければならない。

 アレクシアは、ルチアを狙っているだろうから。

 ゆえに、フォウは、クロウに渡したのだ。

 その水を飲めば、一瞬で回復できる聖水を。

 それは、癒しの魔法が込められている貴重なアイテムだ。

 フォウでさえも、作りだすのが、難しいほどに。

 クロウは、その聖水を口に含み、ルチアに口移しする。

 すると、ルチアの傷は、一瞬のうちに、消え去った。

 重傷だったというのに。

 ルチアの傷が癒え、安堵するクロウ。

 だが、その時であった。

 

「ぐあああっ!!」


「っ!!」


 クロスの絶叫が聞こえる。

 クロウは、驚愕し、振り向いた。

 すると、クロスが、仰向けになって倒れていた。

 しかも、傷だらけで。


「私を殺せるはずがない。たかが、騎士の分際で」


「……それでも、俺達は、お前を倒す。お前を倒して、俺は、行くんだ!!ヴィオレットの所に!!」


「っ!!」


 アレクシアは、騎士のであるクロスでさえも、見下しているようだ。

 妖魔も倒せない騎士のことをあざ笑っているのだろう。

 だが、クロスは、激痛をこらえて立ち上がる。

 アレクシアを倒し、島を救うと誓って。

 そして、ヴィオレットの元へ行くために。

 クロスの言葉を聞いたルチアは、はっとする。

 クロスとクロウは、過去を思いだしたのだと。

 そして、なぜ、自分が、戦っているのか、理由を再認識した。

 島を救い、ヴィオレットに会いに行くためだと。


「あの女か。もう、無理だ。あいつは、死んでいるだろう」


「俺は、信じる。ヴィオレットに絶対に会えるって!!」


 アレクシアは、ヴィオレットは、もう、死んでいると告げる。 

 クロスを絶望に陥れる為に。

 それでも、クロスは、信じた。

 ヴィオレットは、生きていると。

 また、会えるのだと。

 クロスは、地面を蹴り、アレクシアに向かっていく。

 アレクシアと死闘を繰り広げた。


「ヴィオレット……」


 ルチアは、ヴィオレットの名を呟く。

 思いだしているのだ。

 ヴィオレットと共に過ごし、共に戦った時の事を。

 どれも、ルチアにとっては、大事な思い出なのだ。

 クロスとアレクシアの死闘を見ていたクロウは、ためらう。

 自分も戦うべきなのか。

 だが、ルチアの元を離れるわけにもいかない。

 クロウは、どうするべきなのか、悩んでいた。

 だが、クロスが、アレクシアの魔法を受け、吹き飛ばされる。

 その間に、アレクシアのルチアの元へと迫った。


「しまっ!!」


 アレクシアがルチアの元へと向かい、クロスは、焦燥に駆られる。

 アレクシアの後を追うクロスであったが、アレクシアのスピードに追いつけない。

 アレクシアは、ペイン・ブロッサムを発動するが、クロウが、ルチアの前に出て、ルチアをかばった。


「ぐっ!!」


 体を切り刻まれたクロウは、苦悶の表情を受ける。

 それでも、ルチアの前に立つばかりだ。

 アレクシアは、何度も、魔法を発動するが、クロウは、歯を食いしばり、耐え抜く。

 クロスが、アレクシアに斬りかかり、アレクシアは、回避する。

 満身創痍であっても、クロスとクロウは、ルチアを守るために、前に立った。


「俺達は、騎士だ!!何が何でも、ルチアを守る!!」


 クロウは、宣言する。

 騎士だからこそ、ルチアを守るのだと。

 そして、クロスとクロウは、アレクシアに向かっていき、死闘を始めた。

 クロスやクロウの言葉を聞いたルチアは、拳を握りしめる。

 もう一度、立ち上がろうと決意を固めて。


――そうだ。あきらめちゃ駄目だ。皆、まだ、戦ってる。クロスも、クロウも、ヴィクトルさん達も……。それに、ヴィオレットも……。


 戦っているのは、ルチアだけではない。

 クロスとクロウも、ヴィクトル達も、そして、ヴィオレットも戦っているのだ。

 自分だけ、あきらめてはいけない。

 ルチアは、立ち上がる。

 戦う為に。


――私は、勝たなきゃ。皆を守らなきゃ!!


 ルチアは、心に誓い、壁に立てかけてある聖剣へと向かっていく。

 暴走してしまうかもしれない。

 だが、恐れを抱いてはならない。

 アレクシアを倒すためには、聖剣の力が必要なのだから。


――絶対に、皆を救ってみせる!!


 ルチアは、聖剣に手を伸ばした。

 絶対に、救うと強い想いを抱いて。

 だが、クロスとクロウは、アレクシアに打ちのめされ、体中に傷を負い、血を流して、倒れていた。


「あっけなかった。いいだろう」


 アレクシアは、クロスとクロウに迫る。

 クロス達を殺すためにだ。

 アレクシアは、再度、短剣を振り上げた。


「まずは、貴様達から、殺してやるとしよう」


 アレクシアは、クロウに向かって、短剣を振り下ろす。

 心臓を突き刺すために。

 だが、その時だ。

 まばゆい光が、突如、発動された。


「なっ!!」


 アレクシアは、驚愕し、振り向く。

 聖剣が光を発動しているようだ。

 だが、それだけではない。

 ルチアが、聖剣と共鳴しているかのように、光を発動している。

 一体、何が起こったのか、アレクシアには、理解できなかった。


「なんだ?」


「光が……もしかして……」


 クロウは、何が起こったのか、見当もつかないようだ。

 だが、クロスは、暖かい光に振れ、悟ったようだ。

 この暖かい光は、ルチアが、発動しているのではないかと。

 光が止むとルチアは、アレクシアの前に姿を現した。


「なんだ、その姿は……。どうして、その聖剣を……」


 ルチアの姿を目にした時、アレクシアは、目を見開き、驚愕していた。

 ルチアの姿は、これまでとは、また、異なっているからだ。

 白のベアトップに、茶色のコルセット、ピンクのスカートを身に着けている。

 ベアトップの周りにはピンクのレースがあしらわれていた。

 ウィザード・モードと同じように見えるが、ブーツは、鎧ブーツとなっており、ブーツには、宝石が装飾されている。

 銀色の腕輪を身に着け、右の腕輪の周りにはレースがあしらわれていた。

 まるで、通常の姿とウィザード・モードの姿を組み合わせたかのようだ。

 こんな力を隠し持っていたとは、アレクシアは、知らなかったらしく、戸惑いを隠せなかった。


「……聖剣が、私を認めてくれたからだよ」


 ルチアは、アレクシアの問いに答える。

 聖剣がルチアの想いに応え、認めてくれたからこそ、この姿になれたのだと。


「覚悟しろ!!アレクシア!!」


 ルチアは、アレクシアに聖剣を向けた。

 今度こそ、アレクシアを倒すために。

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