第九十四話 暴走したアレクシア

 重傷を受け、命を落としたはずのアレクシアが、立ち上がっている。

 それも、痛みすら感じないのではないかと思うほどに。


「私が、この程度で、倒れるとでも?」


「そ、そんな……」


 ルチアは、愕然とする。

 確かに、固有技を発動して、アレクシアを倒したはずだ。

 命を奪った。 

 なのに、なぜ、アレクシアは、立っているのだろうか。

 しかも、固有技を「この程度」と見下されて。

 一体、アレクシアは、何をしたというのだろうか。

 ルチアは、見当もつかなかった。


「これでも、くらえ!!」


「ぐっ!!」


 アレクシアは、魔法・シャドウ・ショットを発動する。

 闇の弾は、ルチアに襲い掛かるが、ルチアは、抵抗することもできず、ダメージを受け、苦悶の表情を浮かべた。

 反応できないほどに早かったのだ。

 しかも、あの闇の弾から、まがまがしい力を感じた。

 まるで、妖魔のように思えてならなかったのだ。


「今から、私の本気を見せてやるぞ!!」


 アレクシアは、まがまがしい力を発動する。

 まがまがしい力は、瞬く間に、アレクシアを飲みこんだ。


「ふふふふ!!あははははっ!!」


 まがまがしい力は、増幅していく。

 だというのに、アレクシアは、高笑いするばかりだ。

 まるで、喜びをかみしめているかのようで。

 ルチアは、そんなアレクシアが、おぞましく感じた。

 反撃もできないほどに。

 まがまがしい力が収まると、アレクシアは、姿を現した。

 アレクシアの姿を目にしたルチアは、目を見開き、驚愕した。


「あ、あれは……」


 ルチアは、愕然としている。

 アレクシアの姿は、異質だったからだ。

 黒褐色の肌に、金髪。

 その姿は、まるで、妖魔であったが、それだけではない。

 目は蛇のように鋭く、爪は長い。

 肌は、鱗のようにも見える。

 獣のようにも思えたのだ。


「ふふふ、どうだ?絶望しているか?」


 アレクシアは、ルチアを見下す。

 ルチアの様子を目にして、勝ち誇っているかのようだ。

 ルチアは、絶望していると察したのだろう。


「私は、天才だからな。妖魔になることもできるのさ。まぁ、最終手段だったけれどね」


 アレクシア曰く、自分の力で妖魔になることもできるらしい。

 それにしても、他の妖魔とは違う。

 明らかに異質だ。

 彼女が、虹属性をその身に宿しているからなのか。

 それとも、何か別の力を取り込んでいるのか。

 ルチアには、見当もつかなかった。


「あとは、この聖剣さえ、手に入れれば……」


 アレクシアは、妖魔になっても、まだ、満足していない。

 確実に、ルチアを仕留める為に、手段を選ばないようだ。

 アレクシアは、聖剣に触れる。 

 聖剣で、ルチアを殺そうとしているのだろう。

 だが、聖剣から電撃が放たれる。

 まるで、妖魔になったアレクシアを拒絶しているかのようだ。


「ちっ。やはり、駄目か……。まぁいい……」


 聖剣に拒絶され、アレクシアは、苛立つ。

 わかってはいたようだ。

 聖剣は、妖魔と化した自分を拒絶するだろうと。

 おそらく、まがまがしい力に反応し、拒絶したのだ。

 だが、それでも、アレクシアは、良しと考えていた。


「貴様を倒すには、これだけで、十分だ」


「く……」


 アレクシアは、妖魔の力だけでも、十分にルチアを殺せると予想しているようだ。

 ルチアは、歯を食いしばる。

 遠くからでも、アレクシアの妖魔の力を感じるからだ。

 まがまがしく、圧倒的な力を。

 これでは、いくら、ウィザード・モードに切り替えて、戦っても、有利にはなれない。

 ルチアは、焦燥に駆られた。


「さあ、殺し合おうぞ!!」


 アレクシアは、魔法を発動する。

 風の魔法だ。

 それも、邪悪なオーラの刃だ。

 ルチアは、回避しようとするが、刃は、すぐさま、ルチアの足を斬りつけた。


「っ!!」


 ルチアは、苦悶の表情を浮かべるが、痛みに耐え、逃げる。

 それでも、刃は、ルチアを襲い、ルチアは、腕や肩に切り傷を負った。


――は、早い!?

 

 ルチアは、驚愕する。

 これほどまでに、早いとは思ってもみなかったのだ。

 妖魔であっても、一瞬のうちに、発動し、一瞬のうちに、切り刻むことは不可能であった。

 やはり、アレクシアは、今までの妖魔とは何かが違う。

 だが、ルチアには、アレクシアが何をしたのか、見当もつかなかった。


「逃がさんぞ!!」


 アレクシアは、炎の魔法を発動する。

 ルチアを焼き殺すつもりなのだろうか。

 ルチアは、これ以上、逃げる事はできないと判断し、アレクシアに立ち向かう為に、立ち止まった。


「これなら!!」


 ルチアは、舞を踊るかのように、薙ぎ払い、魔法・ブロッサム・スパイラルを発動する。

 だが、アレクシアは、続けざまに、水の魔法を発動したのだ。

 火の魔法と相性が悪いというのに。

 そのはずだったのだが、水の魔法は、火の魔法と混ざり合い、ルチアの魔法をかき消してしまった。

 ルチアは、火に焼かれ、水の渦に巻き込まれた。


「ぐああっ!!」


 肌を焼かれ、呼吸が一時的にできなくなったルチアは、傷を負う。

 倒れかけるが、歯を食いしばり、構えた。

 それでも、アレクシアは、不敵な笑みを浮かべるばかりだ。

 まるで、自分をあざ笑っているかのようだと、ルチアは、感じた。


――妖魔になっただけのに、どうして、これだけの威力が……。


 アレクシアは、妖魔に転じただけだ。

 だが、明らかに、異質だ。

 姿も、威力も、スピードも、何もかも。 

 ルチアは、アレクシアの方へと視線を向ける。

 何か、隠している気がして。

 その時だ。

 まがまがしい力が、アレクシアの周りに渦巻いているのを目にしたのは。


――まさか、わざと暴走させてるの?暴走を制御しているってこと?


 ルチアは、アレクシアの様子を目にして、察したのだ。

 アレクシアは、わざと力を暴走させているのだと。

 その上で、その暴走さえも、制御しているのではないかと。

 もし、それが、本当だったら、厄介だ。

 今のアレクシアは、今までの妖魔と比べて、格段に強い。


――こうなったら……。


 ルチアは、拳を握りしめる。

 強硬手段に出ようとしたのだ。

 もう一度、固有技を発動して、アレクシアを殺す事。

 もう、それしかなかった。

 ルチアは、思いっきり地面を蹴って、アレクシアに向かっていく。

 アレクシアは、光と闇の魔法を発動するが、ルチアは、抵抗せず、ただ、アレクシアに向かっていく。

 切り傷を負いながらも。


「はああっ!!」


 ルチアは、アレクシアに向かって、固有技・ローズクォーツ・ブルームを発動する。

 だが、アレクシアは、地の魔法を使って、ルチアの固有技をかき消してしまった。


「っ!!」


「無駄だ!!」


 ルチアは、驚愕して、目を見開く。

 まさか、固有技がいとも簡単に、防がれ、かき消されるとは、予想外だったのだろう。 

 アレクシアは、不敵な笑みを浮かべながら、華と雷の魔法をルチアに向けて放った。


「うあああああっ!!」


 華と雷の魔法は、ルチアを襲う。

 華に全身を切り刻まれ、雷は、ルチアの体に火傷を残す。

 ルチアは、吹き飛ばされ、地面にたたきつけられた。

 もう、重傷と言っても過言ではないほどの、傷を受けた。

 それでも、アレクシアは、容赦なく、ルチアの迫り、ルチアを見下ろした。


「それで、私を倒せるとでも?甘いのではないか?」


 アレクシアは、ルチアを見下す。

 固有技で、自分を倒せるはずがないと。

 ルチアの考えが甘いのだと。

 ルチアは、嫌と言うほど、思い知らされた。

 今の自分では、アレクシアには勝てないのだと。


「私は、この力を制御している。わざと暴走させてな。それにより、強大な力を手に入れることができるのだよ」


 やはり、ルチアの読み通り、アレクシアは、わざと暴走させ、その暴走さえも、制御していたようだ。

 だからこそ、異質な姿であり、異質な力を持っているのだろう。

 今までの魔法は、痛みを増幅させる力も備わっている。

 だからこそ、威力があったのだろう。


「そう言うわけだ。貴様は、私を騙した。その罪は、重い。楽に死ねると思うなよ!!」


 アレクシアは、形相の顔で、ルチアをにらみつける。

 その瞳は、憎悪を宿していた。

 騙された事を恨んでいるようだ。

 一撃で、ルチアを殺すつもりはないらしい。

 アレクシアは、火の魔法・ペイン・イグニスと水の魔法・ペイン・アクアを発動した。

 先ほど、アレクシアが、発動した魔法だ。

 火と水の魔法は、ルチアに襲い掛かった。


「うぐっ!!」


 火傷を負い、呼吸ができなくなり、弱まっていくルチア。

 それでも、アレクシアの猛攻は、止まらない。

 今度は、風の魔法・ペイン・ヴェントゥスと地の魔法・ペイン・テラを発動した。


「うあっ!!」


 風に刻まれ、岩に叩きのめされるルチア。

 だが、それでも、アレクシアは、攻撃をやめようとしなかった。


「ははは!!いいね!!いいね!!」


 アレクシアは、笑いを浮かべながら、ルチアに、華の魔法・ペイン・ブルームと雷の魔法・ペイン・ライトニングを発動する。

 ルチアは、もう、魔法を防ぐ力さえも、残っていない。

 直撃を受け、吹き飛ばされ、地面にたたきつけられてしまった。


「これで、終わりだ!!」


 アレクシアは、狂気の笑みを浮かべる。

 ルチアを徹底的に痛めつけたというのに、まだ、足りないと言っているかのようだ。

 アレクシアは、光の魔法・ペイン・レイディアントと闇の魔法・ペイン・ダークネスを発動する。

 光と闇は、ルチアを襲った。


「うあああああああああっ!!!」


 ルチアは、絶叫を上げ、そのまま、倒れ込む。

 もう、動くことすらできないほど、弱っていたのだ。

 そんな彼女に対して、アレクシアは、容赦なく、迫った。


「あっけない終わりだな。だが、それもいいか」


 ボロボロで、瀕死の状態のルチアを目にしたアレクシアは、確信を得る。

 もう、終わりだと。

 アレクシアは、短剣を手にし、振り上げた。


「死んでもらうぞ、ルチア」


 アレクシアは、今度こそ、ルチアを殺すつもりだ。

 だが、ルチアは、抵抗する気力さえ、失っている。

 それどころか、意識が遠のき始めたのだ。

 ルチアは、もう、何もかも、あきらめかけていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る