第九十六話 聖剣を手にして

 ルチアは、すぐさま、魔法・スピリチュアル・ヒールを発動する。

 それにより、クロス、クロウの傷が一気に癒えた。


「傷が……」


 クロスは、驚いているようだ。

 まさか、一瞬のうちに、傷が癒えるとは、思いもよらなかったのだろう。

 しかも、クロウの傷まで。

 それほど、ルチアの力が、増幅したという事なのだろう。


「ごめんね、ありがとう」


「ありがとう、ルチア」


 ルチアは、クロスとクロウの元に駆け寄り、謝罪する。

 自分のせいで、傷を負ってしまった事を責めているようだ。

 だが、お礼も述べたルチア。

 彼らのおかげで、ルチアは、もう一度、戦う決意を固めたからだ。

 島を救い、ヴィオレットに会うために。

 クロウは、ルチアにお礼を述べた。

 ルチアのおかげで、傷が癒えたのだ。

 自分達も、救われたと感じているのだろう。


「聖剣に、認められた?」


 アレクシアは声を震わせる。

 信じられないようだ。

 ルチアが、聖剣に認められ、さらに、通常のモードとウィザード・モードの両方の力を併せ持ったのだから。


「信じない。私は、信じないぞ!!」


 アレクシアは、声を荒げる。

 その時だ。 

 まがまがしい力が、アレクシアの体から、あふれ出したのは。

 おそらく、暴走を制御できなくなってしまったのだろう。

 取り乱したことにより。

 まがまがしい力が、押し寄せ、ルチア達は、思わず、腕でガードする。

 吹き飛ばされてしまうかと思うほどの力が押し寄せてきたからだ。


「ルチア、俺達が、あいつを引き付ける。だから、頼めるか?」


「で、でも……」


 クロスは、ルチアに託す。

 自分達が、アレクシアを引き付けている間に、倒してほしいと。

 だが、ルチアは、躊躇した。

 今のアレクシアは、危険すぎる。

 ルチアは、身を持って体験している。

 クロスとクロウも、重傷を負うほどだったのだ。

 だからこそ、ためらったのだろう。

 だが、クロウは、ルチアの心情を察したのか、ルチアの肩に優しく触れた。


「俺達は、騎士だ。騎士はヴァルキュリアを守るのが役目だ」


「クロウ……」


 クロウは、ルチアの心を落ち着かせるように語る。

 自分達は、騎士だ。

 だからこそ、ルチアを守るために、戦うのだと。


「それに、俺とクロスなら、問題ない。だから、心配するな」


「うん」


 クロウは、自分達を信じてほしいのだ。

 自分達なら、大丈夫だと。

 ルチアは、強くうなずいた。

 クロス達の決意を感じ取ったからであろう。

 ルチア達は、アレクシアの方へと体を向けて、構えた。


「行くぞ!!クロス!!」


「ああ!!」


 クロスとクロウは、地面を蹴る。

 アレクシアに向かっていくために。

 アレクシアは、暴走した状態で、闇の魔法・ペイン・ダークネスと光の魔法・ペイン・レイディアントを発動する。

 クロウは、固有技・ダークネス・ガードを発動し、二つの魔法を食い止める。

 防ぎきれず、傷を受けるクロウ。

 それでも、彼は、防御し続けた。

 その間に、クロスは、アレクシアの前に出て、固有技・レイディアント・ツインを発動し、双剣で、アレクシアを切り裂こうとした。

 だが、その時であった。


「うあああああっ!!」


「ちっ!!」


 アレクシアが、絶叫を上げる。

 しかも、まがまがしい力を発動した状態で。

 まがまがしい力はクロス達に襲い掛かり、クロス達は、危険を察知して、すぐさま、後退した。


――アレクシアの動きさえ止めれれば……。


 クロウは、アレクシアの動きを食い止めようとしているようだ。

 そうすれば、ルチアは、アレクシアを倒せるはず。

 クロスとクロウは、もう一度、地面を蹴り、アレクシアに向かっていく。

 アレクシアが、華の魔法・ペイン・ブルームと雷の魔法・ペイン・ライトニングを発動するが、クロスは、固有技・レイディアント・ウィング、クロウが、固有技・ダークネス・ウィングを発動して、剣を羽へと変えていく。

 クロスとクロウは、魔法を受け、傷つきながらも、いくつもの剣を飛ばす。

 剣は、アレクシアの体に、突き刺さり、アレクシアは、体勢を崩した。


「いけ!!ルチア!!」


 クロスは、叫び、ルチアは、跳躍した。


「やあああああっ!!!」


 ルチアは、聖剣を握りしめる

 すると、聖剣が、宝石の刃となり、さらに、ルチアを覆っていく。

 そのまま、アレクシアの元へと下降していくルチア。

 アレクシアは、宝石の刃となったルチアと聖剣に貫かれた。


「私の……野望が……潰えていく……」


 アレクシアは、手を伸ばしながら、仰向けになって倒れる。

 自分の野望が消えていくと嘆きながら。

 そして、アレクシアは、光の粒となって消滅した。

 地面に降り立つルチア。

 力を使った為か、体に影響が出たようだ。

 ルチアは、ふらつきかけるが、クロスとクロウが、ルチアを支えた。


「ルチア!!大丈夫か!!」


「うん。ありがとう……」


 ルチアの身を案じるクロウ。

 ルチアは、うなずき、体勢を立て直した。

 まだ、やるべきことが残っている。

 魔方陣を元に戻さなければならないのだ。

 ルチアは、どうやってやるのかは、わかっている。

 自分の力を、魔方陣に流し込めば、元に戻るはずだ。

 ルチアは、ゆっくりと、魔方陣の中心に歩み寄った。


「行くよ」


 ルチアは、目を閉じ、自分の力を、ヴァルキュリアの力を魔法陣に流し込む。

 すると、魔方陣は、輝きを取り戻し、結界が、張られた。



 結界は、瞬く間に、拡大していく。

 結界の中にいる妖魔達は、光の粒となって消滅した。

 ルチアの力が、取り込まれたため、妖魔を消滅させることができたようだ。

 妖魔達と死闘を繰り広げていたヴィクトル、フォルスは、安堵していた。

 傷だらけではあったが。


「妖魔達が……」


「成功したようですね」


「みたいだな……」


 ヴィクトルとフォルスは、ルチアが、結界を張ったのだと悟り、ルチアに感謝していた。



 ルゥ、ジェイクも、悟ったようだ。

 彼らも、傷を負っていたが、穏やかな表情を浮かべていた。


「やるじゃん、ルチアの奴っ」


「本当にね。良かった、良かった」


 ルゥも、ジェイクも、喜んでいるようだ。

 島が、救われたのだと。

 あきらめず、戦い抜いたかいが、あったと。

 心の底からそう思っていた。



 結界が、張られ、妖魔の気配はなくなった。

 遺跡の地下にいたルチア達は、その事を悟り、安堵していた。


「これで、ルーニ島は、救われたな」


「うん」


 クロウは、察した。

 これで、完全に、ルーニ島を救ったのだと。

 ルチアも、静かにうなずき、一筋の涙を流した。

 だが、まだ、やるべきことがある。

 それゆえに、ルチアは、すぐに、涙をぬぐった。


「あのね、私……」


「行きたいんだろ?帝国に」


「うん」


「俺も行きたい。ヴィオレットに会いたい」


 ルチアは、恐る恐る、クロスとクロウに懇願しようとする。

 実は、帝国に行きたがっているのだ。

 真実を知りたくて、そして、ヴィオレットに会いたくて。

 戦いの直後で、疲れているのに、申し訳ないと感じていたルチアであったが、クロスも、帝国に行きたいと望んでいたようだ。

 それゆえに、ルチアに確認するように問いかけたのだろう。

 クロスは、ヴィオレットに会いたがっていた。

 ヴィオレットは、クロスにとって、大事な人なのかもしれない。

 クロウが、ルチアの事を大事に思っているのと同じように。


「一緒に行こう、ルチア」


「うん」


 クロウも、ルチアに行こうと促す。

 一緒に行くつもりだ。

 ルチアは、うなずき、微笑んだ。


「そういうわけだから、ヴィクトルさん達に伝えておいてくれるか?じいちゃん」


「え?」


 クロスは、フォウに呼びかける。

 だが、ルチアは、まだ、知らない。

 フォウが、クロスとクロウの祖父である事を。

 それゆえに、ルチアは、誰のことを呼んでいるのか、わからず、振り向いた。

 背後には、フォウ、アストラル、ニーチェがいる。

 クロスは、気付いていたようだ。

 フォウ達が、地下に来ていたことを。


「よかろう、行ってくるとよい」


「ありがとう」

 

 フォウは、笑顔で、快く、引き受けてくれた。

 ヴィクトル達が、ここを訪れるはず。

 フォウは、ヴィクトル達に説明してくれるようだ。

 ルチア達は、帝国に行ったと。

 お礼を言うクロス。

 だが、ルチアは、未だに、状況を把握できなかった。


「あとで、説明する」


「う、うん」


 クロウが、ルチアに優しく告げる。

 自分達の事を後で説明すると。

 ルチアは、戸惑いながらも、うなずいた。



 ルチアは、クロス、クロウと共に、地下の最深部に向かった。

 変身を解除して、聖剣を背に背負って。

 そこに、空中帝国につながる扉があるようだ。


――もうすぐだ。もうすぐで、ヴィオレットに会える……。待っててね。ヴィオレット……。


 ルチアは、鼓動が高鳴った。

 もうすぐで、ヴィオレットに会える。

 だが、今から行くのは、敵国だ。

 危険な事はわかっている。

 それでも、潜入して、うまく、帝国兵を交わして、ヴィオレットに会うつもりだ。

 ヴィオレットも、連れて帰るために。

 ルチア達は、ついに、最深部にたどり着いた。


「ここから、先は帝国だよ」


「ああ」


 ルチアは、この先に帝国に行けると説明する。

 描かれた魔方陣の力で、行けるようだ。

 クロウは、静かにうなずくが、ルチアは、どこか、心配しているようだ。

 敵国に行くという事は、二人を危険に晒してしまう事。 

 それに、本当に、ヴィオレットに会えるかもどうかも、わからなくなり、急に、不安に駆られた。

 だが、クロスは、ルチアの肩に優しく触れた。


「大丈夫、覚悟はできてる」


「うん」


 クロスは、覚悟はできている。

 自分の身よりも、ヴィオレットの事を心配しているからだ。

 だからこそ、今すぐに、ヴィオレットに会いに行こうと決意したのだろう。

 ルチアは、うなずき、魔方陣の前に立つ。

 クロス、クロウも、魔方陣の前に立った。


「行こう」


 ルチアは、目を閉じる。

 クロスとクロウも、目を閉じて、集中した。

 すると、魔方陣が光り始め、ルチア達は、一瞬のうちに姿を消した。

 帝国に移動したのだろう。



 帝国にたどり着いたルチア達は、目を開ける。

 帝国の王宮の地下にいるはずだ。

 今は、どうなっているか、わからない。

 目を開けたルチア達。

 だが、帝国は、なぜか、静かだ。

 不気味なほどに。

 ルチア達は、恐る恐る扉を開け、先に進む。

 だが、帝国兵は、誰もいない。

 一体、どういう事なのだろうか。

 不安に駆られたルチアは、地下から地上へと出た。

 その時であった。


「え?」


 ルチアは、目を見開き、立ち止まる。

 クロスとクロウも、同様に。

 彼女達は、今、王宮中にいるのだ。

 広場にたどり着いていた。

 だが、広場は、多くの人や精霊が倒れていた。

 それも、血を流して。

 帝国の王宮は、死した者たちで、埋め尽くされていた。

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