第九十一話 野望を叶える為に
「君は、結界があの精霊石を核にして張られていたのではないという事は知っていたようだけど、なら、核は、どこにあると思う?」
「この魔方陣じゃないの?」
アレクシアは、ルチアに問いかける。
精霊石が核ではない事を、ルチアは、知っていると推測しながら。
もちろん、ルチアは、知っていた。
だが、核は、どこにあるのかまでは、不明だ。
魔方陣ではないかと、推測し、問いかけるが、アレクシアは、首を横に振った。
「違うよ。この魔方陣は、結界を発動する為の媒介みたいなものさ」
「じゃあ……核は……」
ここにある魔法陣は、あくまで、媒介となるものであって、核ではない。
とすれば、核はどこにあるのだろうか。
ルチアは、見当もつかなかった。
「この遺跡自体だよ」
アレクシアは、答える。
なんと、核は、この遺跡自体だというのだ。
ルチアも、予想もしていなかったようで、驚きを隠せなかった。
「この魔方陣に邪悪なオーラを流し込んでやったのさ」
「いつ?」
「君が、夢を見た時から」
この遺跡自体が、核だと知っているからこそ、媒介となっている魔法陣に邪悪なオーラを注いだと告げるアレクシア。
妖魔でもないのに、そのようなことができるのだろうか。
いや、アレクシアなら、できるかもしれない。
妖魔から、力を抽出させた可能性だってある。
ゆえに、ルチアは、どのようにして、妖魔の力を手に入れたのかは、聞かず、いつ、邪悪なオーラを注いだのか、尋ねた。
アレクシア曰く、ルチアが、あの夢を見たと聞かされた時カラダ。
ルチアが、ヴィオレットに魔剣で刺される夢を見たと。
「君が、ヴァルキュリアに変身して、ヴィオレットに刺されたという夢を見たと聞かされたとき、私は、察したんだよ。君は、もうすぐ、ヴァルキュリアに変身できるようになるって」
「だから、妖魔が、現れたんだね。結界が、破壊されかけてたから」
「そうだよ」
夢の事を聞かされたアレクシアは、察したのだ。
もうすぐ、ルチアが、再び、ヴァルキュリアに変身すると。
だからこそ、アレクシアは、動き始めた。
まずは、結界を破壊し始めた。
そのせいで、妖魔が、侵入したのだ。
「なぜ、私が、この事を知っているのかって、顔をしているね。フォウから、古文書を借りたからさ。あの人は、バカだね。何も知らないで、貸してくれるだから」
「フォウ様を侮辱するな!!」
ルチアは、ある疑問を抱いていた。
それは、アレクシアが、なぜ、結界について知っているかだ。
ルチアは、とある人物から聞いた。
だが、その者は、知っているのは、自分だけだと言っていた。
だからこそ、なぜ、アレクシアが知っているのか、見当もつかなかったのだ。
アレクシアは、ルチアの心情を察したようで、答える。
フォウから、古文書を借りたのだと。
アレクシアは、フォウを罵った。
バカだと。
自分の事を疑いもせず、古文書を貸したからであろう。
フォウを侮辱されたルチアは、怒りに駆られ、声を荒げた。
「これは、失礼」
アレクシアは、平然とした様子を見せる。
ルチアに睨まれても、ひるまないのだ。
それほど、余裕を見せているのであろう。
ルチアは、そんなアレクシアを目にして、腹立たしく思えてならなかった。
「私は、その古文書に書かれてある古代語を読み解き、知ったんだよ。遺跡の仕組みを理解したからこそ、結界は破壊できたのさ」
アレクシアは、古文書に記されていた古代語を読み解いてしまったようだ。
彼女なら、それは、簡単なことなのだろう。
古文書の内容を知り、遺跡の仕組みを知ったからこそ、アレクシアは、結界を破壊できたのだ。
フォウは、利用されていたにすぎなかった。
「……あの日、確かに、貴方は、遺跡にいた。でも、フォウ様も、一緒だったよね?」
「利用したのさ。フォウは、一人で遺跡に向かったと思わせて。そうすれば、君は来るだろう?」
「私をヴァルキュリアに変身させるために……」
「その通りさ」
ルチアは、ある事を思い出す。
それは、自分が、もう一度、ヴァルキュリアに変身した時の事だ。
あの時、遺跡にいたのは、アレクシアとフォウであった。
なぜ、アレクシアは、フォウを連れていったのだろうか。
もし、結界を破壊するところを見られる可能性だってあったはずなのに。
だが、アレクシアは、フォウが、見抜くとは、思っていなかったようだ。
それどころか、フォウを利用していたらしい。
フォウが、一人で、遺跡に向かったとなれば、誰もが、心配する。
ルチアの耳に入れば、ルチアは、遺跡に向かうだろうと、推測したようだ。
ルチアを遺跡に向かわせ、妖魔と遭遇させ、ヴァルキュリアに変身させるために。
「皆、騙されてたんだね……」
「そうだよ。大変だったよ、ルゥは、妖魔の真実を知りたいから、協力してくれと頼まれるし。正直、断りたかったけど、まぁ、真実を知ったところで、どうにもならないと思ったから、協力したよ」
ルチアは、島の民、全員が、アレクシアに騙されていたのだと、気付き、拳を握りしめた。
だが、アレクシアは、騙し続けるのは、大変だったと語る。
例えば、ルゥが、妖魔の真実を知りたいとせがんだ時だ。
あの時、アレクシアは、ルゥに協力していた。
妖魔の魂を吸い取る核を開発して、渡していたのだ。
妖魔の真実を知られては困ると思い、一度は、断ったのだが、どうしてもと、ルゥは、せがんだため、致し方なしに、開発したのだという。
と言っても、真実を知っても、何の変わりないと推測していたようだ。
たとえ、妖魔が、帝国兵のなれの果てであり、魂をとらわれていると知られたとしても。
「研究レポートをルゥに渡したのは?」
「解けるとは、思ってなかったからさ」
ルチアは、気になる事があり、アレクシアに問いかける。
それは、ヴァルキュリアに関する研究レポートだ。
アレクシアは、それを暗号化してルゥに渡していた。
万が一の為にと。
だが、それは、自分にとって不利になるのではないかと、ルチアは、推測したらしい。
もし、ヴァルキュリアの真実を知ったら、彼らは、自分をヴァルキュリアに変身させないようにするだろうと。
だが、アレクシアは、暗号をルゥが、解けるとは思っていなかったようだ。
ルゥさえも、見下されていたのだろう。
そう思うと、ルチアは、怒りが収まらず、アレクシアをにらみつけた。
「そう、睨まないでほしいね。私のおかげで、島を解放できたのだろう?」
「そうだけど……それも、利用したの?」
「そうだよ。君は、島々を解放すると思っていた。けど、十分に制圧できたし、君の魂をささげられるなら、致し方ないと思ったのさ」
アレクシアは、ルチアに睨まれながらも、平然とした様子を見せている。
しかも、島を解放できたのは、自分のおかげだと告げて。
その事を聞かされたルチアは、察した。
島を帝国から解放させたのも、何か、策があるからではないかと。
ルチアの魂と神の力を融合させるには、妖魔を倒してもらわなければならない。
だが、ルーニ島に出現する妖魔だけでは、足りない。
ゆえに、ルチアをルーニ島から逃がし、支配されている島を解放させたのだ。
妖魔達を倒させ、魂と神の力を融合させるために。
制圧していた島が、解放されるのは、アレクシアにとっても、惜しい事だ。
だが、魂をささげられるのであれば、多少の犠牲も致し方ないと考えていたのだろう。
何とも、身勝手な考えなのだろうか。
「ちなみに、島を制圧した理由は、負の感情を集めるためだよ。これも、魔神を復活させるために、重要なんだよ」
「そんな事の為に……皆を……」
アレクシアは、淡々と語る。
帝国が島を支配した理由は、負の感情を集めるためなのだと。
魔神を復活させるために。
そんな事の為に、島の民は、苦しめられていたのかと思うと、帝国兵は利用されていたのかと思うと、ルチアは、アレクシアを許せなかった。
「これも、魔神を復活させるためだよ、ルチア」
アレクシアは、堂々と告げる。
全ては、魔神を復活させるためなのだと。
アレクシアにとって、島の民や帝国兵、そして、自分は操り人形に過ぎなかったのだろう。
「魔神が復活すれば、私は、魔神の力を取り込める。そうすれば、世界は、私のものだ」
アレクシアは、狂気の笑みを浮かべて、天を仰ぐ。
魔神を復活させる理由は、魔神の力を取り込もうとしているようだ。
魔神さえも、操ろうとしているのだろうか。
その力で、世界を自分のものにしようとしている。
アレクシアは、明らかに、狂っていた。
「でも、残念だったね。私は、解放されたよ」
「そうだったね。大精霊も、復活してしまったし。まぁ、魔神が、復活すれば、殺せるけど」
狂気の笑みを浮かべるアレクシアであったが、ルチアは、アレクシアに語る。
もう、魔神を復活させることはできない。
なぜなら、ルチアの魂は、解放されたからだ。
それは、アレクシアも知らないかもしれない。
そう思っていたのだが、アレクシアは、知っているらしい。
大精霊も、復活してしまった事を嘆いた。
ルチアの魂を捧げる為とは言え。
それでも、魔神さえ復活してしまえば、大精霊を殺せると思っているのだろう。
「まだ、魔神を復活させるつもりでいるの?」
「そうだよ。君を殺して、魂を手に入れる。君の魂は、神の力と融合したままだからね」
アレクシアは、まだ、魔神を復活させようとしているらしい。
もう、手段は、ないというのに。
だが、アレクシアは、ルチアを殺してルチアの魂を手に入れるつもりのようだ。
確かに、魂は、解放された。
だが、ルチアの魂は、神の力と融合したままだ。
それゆえに、ルチアを殺そうとしているのだろう。
「まさか、フォウ様達が、操られていたのは……」
「私が、命じたのだよ。君は、どうするのかなって、思ったし。フォウは、私が直接、妖魔の力を送ったのさ。今頃、あの双子は、死んでるかもしれないね」
「……」
ルチアは、察した。
なぜ、フォウ達が、操られたのか。
それは、ルチアを殺すためだ。
島の民を操れば、ルチアは、彼らを傷つけることはできない。
ルチアが、死ぬのは時間の問題だろう。
そう思っていたのだが、ルチアは、来てしまったようだ。
だが、フォウは、自分が直接、妖魔の力を送りこんでいる為、フォウを解放することは、不可能だ。
ゆえに、クロスとクロウは、もう、死んでいるかもしれないと推測している。
ルチアは、拳を握りしめた。
許せないのだ。
身勝手な目的の為に、フォウ達を利用された事が。
クロスとクロウが、危険な目に合っているのが。
「ねぇ、ルチア、私の為に、死んでくれる?」
「断る!!」
アレクシアは、ルチアに懇願する。
魂を手に入れるために。
だが、ルチアは、拒絶した。
「私は、もう、お前の操り人形じゃない!!私は、ここを救う!!」
ルチアは、決意したのだ。
アレクシアの思い通りにはさせないと。
必ず、島を守ると。
「世界を救って、私は、生きる!!」
ルチアは、宣言し、構えた。
アレクシアを倒し、世界を救うと。
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