第九十話 アレクシアの正体
「うそ、だよね?アレクシアさん……」
真実を聞かされたルチアは、恐る恐るアレクシアに問いかける。
信じられないのだ。
今まで、家族のように、共に過ごしてきたアレクシアが、敵であり、自分を殺そうとしているなどと。
「嘘ではないよ。私は、真実を語っているんだよ」
アレクシアは、平然とした様子で、答える。
自分は、嘘は言っていないと。
これは、全て真実なのだ。
つまり、アレクシアは、本当に、ルチア達の敵であり、島を支配していたということになる。
ルチアは、未だに信じられなかった。
「私は、帝国の研究者だった。私の本当の名は、アライア・クレパス。君は、子の名なら知っているだろう?」
「ヴァルキュリアの力を最大限に引き出す事に成功したあの研究者?」
「そう。これで、わかってもらえたかな?」
アレクシアは、淡々と、語った。
なんと、「アレクシア」は、偽名だったのだ。
本当の名は、「アライア・クレパス」と言うらしい。
ルチアも、その名は、聞いたことがあった。
かつて、ヴァルキュリアの力を最大限引き出す事に成功したという帝国の研究者の名だ。
会ったことはないが、精霊人であり、天才研究者であった事は、知っている。
アレクシアは、帝国の天才研究者だというのだ。
真実を語ったアレクシアは、再度、問いかける。
自分の事をわかってもらえただろうかと。
「だって、私達の事を……」
「あれは、私の監視下に置くためだ。君を、もう一度、ヴァルキュリアに変身させるために。時間は、かかったけどね」
それでも、ルチアは、信じる事ができなかった。
なぜなら、アレクシアは、自分達と共に過ごしてきたからだ。
家族として。
もし、本当に、敵であるならば、なぜ、殺さずに、自分の元に置いたのだろうか。
だからこそ、信じられなかった。
だが、アレクシアは、語る。
ルチア達を監視するためにだと。
アレクシアは、待っていたのだ。
二年前、記憶を失ったルチアは、ヴァルキュリアに変身する力を失ってしまった。
アレクシアは、ルチアが、ヴァルキュリアに変身できる時を、ずっと、待ちわびていたという。
二年もの間。
「な、何のために?」
ルチアは、声を震わせて、問いかける。
なぜ、自分が、ヴァルキュリアに変身するのを待っていたのだろうか。
ヴァルキュリアは、帝国にとっては、厄介な存在であり、殺さなければならないはずなのに。
ルチアは、アレクシアの意図が、未だに読めなかった。
「決まっているよ。魔神を復活させるため」
「魔神?エデニア諸島を滅ぼそうとしたあの神様を?」
「そうだよ」
アレクシアは、ルチアの問いに答えた。
魔神を復活させるためだというのだ。
それを聞いたルチアは、驚愕する。
ルチアは、魔神の事を知っていたのだ。
幼い頃、よく両親に聞かされていた。
魔神は、エデニア諸島を、世界を滅ぼそうとした神なのだと。
その神をアレクシアは、復活させようとしているのだ。
ルチアには、理解できなかった。
アレクシアが、何を考えているのかと。
「そのために、君が、もう一度、ヴァルキュリアに変身できる時を待った。そして、君が、変身できるようになった後、結界を破壊し、妖魔達を侵入させ、君達を島から、逃がしたんだよ」
「待って、なんで、そんな事、私をどうして、捕らえなかったの?」
ルチアの疑問など、お構いなしに、アレクシアは、説明を続ける。
なんと、結界を破壊し、妖魔を侵入させたのは、アレクシアだったのだ。
だが、ルチアには、どうしても、理解できない事があった。
なぜ、自分達を逃がしたのだろうか。
ヴァルキュリアである自分を逃がせば、帝国にとって不利になるはず。
妖魔を倒せるのは、ヴァルキュリアだけなのだから。
ゆえに、ルチアは、アレクシアに問いただした。
「簡単なことだよ。ヴァルキュリア生贄計画を完成させるために」
「え?」
アレクシア曰く、ルチアをわざと逃がした理由は、「ヴァルキュリア生贄計画」を完成させるためだというのだ。
ルチアは、驚愕する。
ヴァルキュリアを生贄にするとはいったいどういう事なのだろうか。
アレクシアは、一体、何を企んでいたのだろうか。
「君は、君達の魂で神様が復活することは知っているね?」
「う、うん、知ってるけど……。まさか、魔神を?」
アレクシアは、ルチアに問いかける。
神様が、どうやって、復活するのか。
確かに、ルチアは、知っていた。
何度も、聞かされたからだ。
まさか、復活させる神は、魔神だったのではないか。
自分達は、騙されたのではないかと、勘ぐるルチア。
アレクシアは、不敵な笑みを浮かべた。
「そうだよ、復活するのは、魔神だ」
「っ!!」
アレクシアは、堂々と答える。
魔神を復活させるために、ヴァルキュリア達に魂を捧げていたのだと。
ルチアは、絶句した。
まさか、島や帝国を守るために戦ってきたというのに、魔神復活の片棒を担がされていたのだとは、思いもよらなかったのであろう。
「魔神を復活させるには、ヴァルキュリアに変身できる少女達の魂が必要だった。しかも、神の力を融合させた魂がね。私は、研究したよ。どうすれば、融合させられるのかって」
アレクシアは、説明を続ける。
魔神を復活させるためには、強い力を宿した魂が必要だったのだ。
神の力を融合させるために。
そこで、アレクシアは、ヴァルキュリアに変身できる少女達の魂に目をつけた。
彼女達ならば、神の力を融合させることができるのではないかと。
だが、その魂をどうやって融合させるかだ。
宝石の中に神の力は宿っている。
取り出す事は、アレクシアさえも、不可能だったのだ。
ゆえに、アレクシアは、研究を始めた。
「研究の末、ある結論に至った。それは、その宝石の中に魂を吸い取らせることを考えたんだよ」
研究を続けた結果、アレクシアは、ある結論に至ったのだ。
それは、魂を宝石に吸い取らせることだ。
そうすれば、いずれは、魂は、神の力と融合する。
完全に融合を果たした時、魂をささげられるだろうと、アレクシアは、推測したのだ。
「じゃ、じゃあ、あの宝石のカケラは……」
「私が作ったんだよ、ルチア」
話を聞いていたルチアは、ある事を思い出す。
それは、宝石のカケラの事だ。
あの宝石のカケラが、ルチアの魂を吸い取っていた。
それを作ったのは、アレクシアだったのだ。
ルチアの問いに、アレクシアは、堂々と答えた。
「少女達の魂は、捧げられ、あと一人の魂で、魔神は復活する。そこまで、来ていたんだ。でも、それは、邪魔された。ヴィオレットにね」
「じゃあ、私がもし、魂を捧げていたら……」
「魔神は復活していた」
この計画は、何百年も前から続いていた。
アレクシアが作った宝石のカケラにより、少女達は、何も知らず、ヴァルキュリアの誇りだと思い込んで、魔神に魂を捧げてきたのだ。
彼女達の命を犠牲に、魔神は、あと、一人の魂を捧げる事で、復活を遂げようとしていた。
最後の一人は、ルチアだったのだ。
だが、復活はできなかった。
なぜなら、ヴィオレットが、魔剣でルチアを貫き、ルチアは、行方不明となったからだ。
帝国では、死んだことになっているようだが。
アレクシアは、その事を魔法により、伝えられたため、知っていた。
もし、ヴィオレットが、自分を刺さなければ、魔神は復活していた。
そう思うと、ルチアは、体が震えた。
何も知らずに、魂を捧げていたら、この島も、世界も、滅ぼされていたかもしれないのだから。
「もしかして、私の魂をもう一度捧げる為に、ここに来たの?」
「いいや、そうじゃない。私は、帝国の暗殺者に殺されかけたのさ」
「え?」
ルチアは、アレクシアに問いかける。
なぜ、ここに来たのかと。
もしかしたら、自分の魂を捧げるためなのかと。
だが、そうではないらしい。
なんと、アレクシアは、帝国の暗殺者に殺されかけたというのだ。
これには、さすがのルチアも、驚きを隠せなかった。
「彼は、真実を知ってね。深手を負った私は、このルーニ島に流れ着いた。しかも、偶然、君とあの双子が流れ着いた。戻れなくはなったけれど、ちょうどいいと思ったよ。君は、魂が解放されてしまったけれど、もう一度、ヴァルキュリアに変身させれば、計画が進められるって思ったからね」
暗殺者が、アレクシアを殺そうとしたのは、ヴァルキュリア生贄計画の真実を知ったからだとアレクシアは、説明する。
暗殺者に殺されかけ、深手を負ったアレクシアは、ルーニ島に流れ着いた。
偶然にも、ルチアとクロス、クロウも、島に流れ着いたのだ。
ルチアの魂は、一度、解放され、魔神は復活できないと悟ったアレクシア。
だが、もう一度、ルチアをヴァルキュリアに変身させることができれば、今度こそ、魔神を復活させられるかもしれない。
そう、推測したようだ。
ゆえに、アレクシアは、ルチア達の保護者代わりとなり、ルチア達を監視していた。
「何度も、変身させて、力を使えば、もう一度、魂をささげられる。だから、私は、君を逃がしたのさ。魂を捧げてもらう為に」
「まさか、結界が破壊されたのも……」
「私が、やったんだよ」
アレクシアは、魔神を復活させるために、ルチアを利用しようとしたのだ。
ルチアを、あえて、逃がし、何度も、ヴァルキュリアに変身させ、力を使わせるために。
そのために、一度、ルーニ島を支配することを決意した。
ここに来る妖魔達だけでは、足りないと悟って。
ルチアは、推測した。
結界が破壊したのは、アレクシアではないかと。
アレクシアは、答えた。
自分が、結界を破壊したのだと。
「この魔方陣を利用して?」
「そうさ。やっぱり、わかっていたんだね」
「思いだしたからね」
ルチアは、知っていた。
どうやって、結界が張られてあるのかを。
この魔方陣によるものだ。
ヴィクトル達も知っていたようで、それゆえに、ルチア達を遺跡に向かわせた。
アレクシアは、ルチアが、改めて、思い出したのだと、察する。
ルチアは、アレクシアをにらみつけた。
アレクシアの事を、敵だと認識するかのように。
「さて、続きを話そうか。私が、どうやって、結界を解いたのか」
アレクシアは、ルチアに語り始めた。
結界をどのように破壊したのかを。
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